モブ女子、夢の終わりに。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
今回でイヴァーナ様のお話に区切りがつきます。
ここまで書かせていただき、本当にありがたいです!!
「・・・・うぅ、うぅぅ!!!」
イヴァーナの過去の映像が頭の中から無くなっても、私はその場で泣き崩れてしばらくその涙は止まらなかった。
『なぜ、お前が泣く??失ったものは、お前には全く関係のないものだ』
目の前のイヴァーナは、先ほどまでの人間の少女の姿ではなく、元の美しい氷の体に戻っていた。
「それでも、涙が止まらないんれす!グスッ!」
『そうか・・・・しかし、不思議だ。お前がここに来てから、心が嘘のように穏やかになっていく。あんなにも私は、激しい感情に支配されていたのに』
自分を見失うぐらいの、暗い気持ちが渦巻いていたのに。
それが今は波の無くなった海のように、とても静かだ。
「しょ、しょれは!」
回復機能が!と言おうとするが、大量の涙とはなみずとでぐしゃぐしゃになった私の声は声にならない。
『お、お前・・・・・その顔っ!』
そして、私のぐしゃぐしゃの顔を見た神様が、なんと全身を震わせながらーーーーーーー笑った。
しかもお腹を抱えながら、笑っている。
いくら神様でも、一応乙女の顔なのにひどい!!
さっきまでの、どシリアスな雰囲気はどこにいったんですかっ!!
「ひ、ひどいぃ〜〜うぅぅ!!グスッ!!」
だが、涙と鼻水はやっぱり止まらない。
『その顔!!あいつにそっくりだぞっ!!』
しばらく、神様のお笑いタイムは終わらなかった。
『す、すまない!アハハハッ!ずいぶんと久しぶりに懐かしいものを見て、ついな』
涙を流しながら笑うイヴァーナ様を見て、私は少し疑問に感じた。
これだけ感情溢れる人が、なぜ外の世界にいる時にはあんなにも感情ないように見えたのかと。
『お前が疑問に思ってることなら、簡単だ』
「え??」
ようやく、笑いが収まったイヴァーナ様は私の方へとまっすぐ向き直る。
『さっきお前が見た過去で、私は悲しみに暴走しそこら一帯を無に帰した。暴走は止まらず、そのまま力のかぎり辺り一面にエネルギーを爆発させてたんだが、そこにあいつが来たんだ』
「あいつ??」
『あぁ、白い魔女だ』
「!!??」
『魔女はこの私に、取引をしようと投げかけてきた』
「と、取引??」
悲しい感情がエネルギーとなって、辺り一面をおおっている。
大きな爆発によって焼かれた辺り一面には、草花1つ生えていない。
絶望だけが、その地を支配していた。
『なんて、心地いいのかしら♪』
その地に、白銀の髪と白いローブに包まれた、美しい女が佇む。
その女は、周りの景色にうっとりとしなが、暴走したエネルギーが吹雪の竜巻となって吹き荒れる、その中心地に歩いていく。
『ようやく見つけたわ、イヴァーナ様♪』
『だ、れ・・・・だ??』
ゴオォォォーーーーーー!!!
吹雪の勢いが、声とともに強くなる。
『さすがはイヴァーナ様!強力な魔力ですわね』
『お前は・・・・白い魔女!!何をしに来た!!!』
『まぁ、怖い声♪私は同じ氷系の魔法を扱う大先輩のあなたを、助けにきたのに』
『何ッ!?』
白い魔女が私に向かって手を向けると、目の前にはあの人が映った。
『イヴァーナ!!』
『ジャックッ!!!!』
なぜッ!?!?
お前は私の腕の中で息絶えたはずじゃッ!!
だが、そのジャックの姿はすぐに消えてしまう。
『これは・・・・・幻??』
『えぇ、そうですわ♪もし、あなた様が私に協力してくれるなら、甘くてステキな夢を見せましょう』
『夢・・・・・』
『イヴァーナ!愛してる!!』
『お母さん!!』
『ジャック・・・・エレナ』
2人を失い、心が壊れかけていた私にとって白い魔女のその言葉は、甘い誘惑だった。
まぼろしでもいい。
私はもう一度2人に会いたい!!
『そして私は、愛する人の幻を夢で見る代わりに、私の体と魔力を好きに使っていいという条件で、白い魔女と契約を交わした』
「ひどい・・・・・ッ!!!」
大事な人を失ったばかりの人に、その誘惑は酷すぎる。
もし目の前で団長を失った後に同じことを言われたら、私もイヴァーナ様と同じことを迷わず選択するだろう。
『まぁ、その契約も、お前がここに来て白い魔女の幻を消したことで解けてしまったがな』
「えっ!?」
果たして、それは正しいことだったんだろうか??
もし、もう会えない人との時間を終わりにされてしまったとしたらーーーーーーーー。
『・・・・・人の子よ。もう、いいのだ』
「イヴァーナ様」
『私は長い夢をずっと見ていた。懐かしく、愛おしく、優しい夢を』
『一生、一緒に幸せになろうな!!』
イヴァーナの氷の瞳から、涙が溢れて・・・そしてすぐに消え去る。
『この思い出があれば、私はこれからも生きていける。いつかは来る別れが早くなっただけだ。そのことを受け入れることに、時間がかかってしまったが』
「・・・・・イヴァーナ様」
イヴァーナ様が大好きで、追いかけて追いかけて、追いかけ続けたジャック。
イヴァーナ様の幸せの為に、家族を作ろうと温かい気持ちを送り続けたジャック。
最後まで、彼はイヴァーナ様のことだけを考えてた。
イヴァーナの家族を守れなかったと。
記憶を見せてもらって過去を見たからって、私はジャックではない。
ジャックの気持ちの全てが分かるわけではない。
でも、それでもーーーーーーーー。
「イヴァーナ様っ!!」
『どうした??人の子よ。なんだ、また泣いてるのか??お前はあいつみたいに泣き虫だな』
「ジャックさんは、ジャックさんは絶対またあなたに会いに来ます!!」
『・・・・・はぁ??突然、何を』
「ジャックさんは、あなたを愛して愛して、愛しぬきました!そんな人が、あなたをこのまま1人になんてするわけありませんっ!』
涙が次から次へと溢れてくる。
ただ見ているだけでも、ジャックがどれほどイヴァーナ様を愛したのか感じてしまった。
その気持ちを思うだけで、涙は止まらない。
『バカなことを・・・・ジャックはもう死んだ』
「ジャックさんは、生まれ変わって来ます!!」
『!!??』
「あなたにもう一度会うために、絶対に生まれ変わって来ますから!!」
『・・・・・人の子よ、へたな慰めならいらぬ』
「慰めじゃない!だって、だって私も生まれ変わってきたから!愛する人に会うために、前世の記憶まで持って会いに来たから!!」
『・・・・・まさか』
私の言葉に驚いた様子のイヴァーナ様が、私の頭にその氷でできて美しい手で触れる。
すると、私の記憶とイヴァーナ様の記憶が共有され、私の雫としての人生とクローディアとしての人生が映像となって現れる。
半分以上は消し去りたい黒歴史だったが、イヴァーナ様はそんなことは気にしてなかったようだった。
『まさか・・・・こんなことが』
「私のことは信じられなくてもいい、でもジャックさんのことは信じてあげてください。彼のあなたに対する愛情と、執着心は私と同じかそれ以上だから、絶対に大丈夫です!」
『フフ・・・・確かに、あいつはしぶとかった』
『神様ーーーーー!!!俺はあんたが好きだーーー!!大好きだーーーーーー!!』
5年間ーーーーーージャックを避け続けた私を、あいつは決して諦めなかった。
『・・・・・そうだな。次は、私の番だ』
「イヴァーナ様!」
『あいつがもう一度私の前に現れるのを、気長に待ってみるとしようか』
もしその時に私のことを忘れていたら、もう一度出会うところから始めればいい。
『ねぇ!神様!!この間、別の村に僕1人でお使いに行ったんだ!』
『・・・・・それはよかったな』
私がお前の分まで、記憶を覚えておくから。
「ジャックさんが忘れるわけないですよ!
他のことを全部忘れても、きっとあなたのことだけは思い出します!!」
『・・・・・そうだな』
イヴァーナは、久しぶりに優しく柔らかな笑顔を見せて笑った。
【イヴァーナ様、しばらくお休みになるなら、力をお貸しますよ】
『その声は・・・・・赤い魔女か?』
「あ、赤い魔女さん!?もしかして、ずっと聞いてたんですかッ?!」
胸元の赤い石は、淡い光を放っている。
【もちろんよ〜〜♪イヴァーナ様、悲しみを無理に抑えたり、忘れたりすることはありません。今はただ、ゆっくり休んでください】
『・・・・・ありがとう、頼む』
【わかりました。この赤い石に封じさせて頂きますね。心が落ち着いたら、いつでも目覚められますから】
『分かった』
「えっ?!赤い石に封じるって、まさかこれにっ!?この中に入っちゃうのっ?!」
どれだけすごい力を秘めた石になってしまうのか!?
ただの恋のお守りだったのに!!
【そしたら、クローディアちゃんも向こうの世界に帰るから、いったん眠らせるわね】
「えっ!?ちょ、ちょっと赤い魔女さん、魔女さん、待っ・・・・・・ッ!!」
バタンッ!!
クローディアは突然、逆らえない睡魔に襲われて、そのまま黒い床に倒れこんだ。
倒れた後は、静かな寝息を立てている。
【さっ、次はイヴァーナ様ですが、よろしいですか??】
『・・・・・あぁ』
【イヴァーナ様。黒い魔女は、あいつは私が絶対に倒します】
赤い魔女の、これまでにない、強く真剣な声音が響き渡る。
『!!!!』
そしてイヴァーナの顔が、一瞬にして厳しいものへと変化した。
その名前を聞くだけで、殺意が抑えきれなくなりそうだ。
【私の、命にかけて】
『・・・・・・・』
だが、おそらく同じ気持ちを抱えいるだろう、その覚悟が赤い魔女から感じられ、その思いは彼女へと託すことにした。
『あぁ・・・・ありがとう』
静かに目を閉じたイヴァーナの姿が、霧のようにぼやけたかと思うと、そのまま空気にとけるようにして消えてなくなっていく。
その顔は、とても穏やかなものだった。
※※※※※※※※※※
今日も、その街には雪が降る。
ここは、死の山近くにある鉱山で栄えた街、『アルガニア』。
ここは一年の半分以上が雪の降る街だ。
その街で、1人の少年が中心にある広場にてはしゃいでいた。
「お母さん!見てみて!!雪だよ!雪!!」
「本当にあんたは変な子ね。ここでは毎日が雪でしょ??」
「うん!でも僕雪が大好きなんだ!!」
「まったく・・・もう行くわよ、ジャン!!」
「はーーーい!」
なんでかな?
昔から僕は雪も氷も、この街では当たり前にあるそれがとても好きなんだ。
特に、街の真ん中にある、氷でできた女神像は僕の1番のお気に入り。
何度見たって、そのキレイさにいくらでもみとれてしまう。
「ジャーーン!!またこの子は女神像を見て!!置いていきますよ!!」
「ごめん!今行く!!」
氷の女神様、明日も会いに行くから少しだけ待っててね!
明日は僕の大好きなお菓子をお土産に持って行くから、そこで見せてあげる!
必ず会いに行くから、絶対に待っててね!!
本編、番外編かどちらかで、運命の再会ができたらと思ってます。
基本はハッピーエンド推奨なので♪
そして、ようやく現実世界に帰還ですね!




