モブ女子、もうその背中は見たくない
いつも暖かい心で読んでくださり、ありがとうございます!
クローディアにとって団長と2人きり、ではないけども、なかなか無い貴重な時間です
いよいよ、私の中での勝手な作戦名『イヴァーナ様ころんだ!』が、スタートした。
まず、ボルケーノが私の隠れ蓑となる炎の大きな壁をたくさん作り、それを消そうとしたイヴァーナ様に炎の球体をいくつも投げて気をそらす。
そのあとも投げ続け、イヴァーナの敵意は完全にボルケーノとその隣で山のように降り注ぐ氷山やつらら、氷の剣をなぎ倒すレオに向くように仕向ける。
なんともシンプルで簡単な作戦でありがたい!
とりあえず、ここまでは成功!
その隙に私と、いざという時に私を守る為という名目で一緒にいることとなった、マイダーリン・ジークフリート様!は、空を飛びながら炎の壁に隠れてこっそり近くに近づく。
なんてナイスでグッジョブな人選!!
ありがとうございます!赤い魔女様!!
【気をつけてね。あなたが見つかったら、この作戦は終わりよ♪】
そして、私の胸元で声が聞こえてくるのが、今回の作戦ナビゲーターの赤い魔女様。
プレッシャーがハンパありません!!
胃がキリキリマイを踊ってしまいます!
そして慎重に進みながら、だいぶイヴァーナ様に近づいては来た。
「・・・・・クローディア」
「は、はひぃ!?こ、コホン。な、なんですか?」
私の後ろに位置取り、背中を守ってくれていたジークフリート様がスッと耳元で話してくるもんだから、思わず大きな声を出しそうになるもすぐに小声に戻して話す。
「今回の件、お前はなぜ自分でやろうと思ったんだ?」
「!?」
「すまない、こんな時に。だが王都に戻れば、またお前と2人になることは難しいと思ってな」
「・・・・・じ、ジークフリート様ッ」
ギャァァァーーーーーー!!!
なんて、なんていい声でしゃべるんですか!!
ひっそりと話しかけるものだから、低音ボイスがくぐもって、余計に腰にクル!!
どうしよう、厳密には2人きりじゃないけどこのぴったりとくっついたままでの、その美ボイスは本当にやめてほしいッ!!!
世界の真ん中で、全力でこの気持ちを叫びたい!!!
って、そんなこと言ってる場合じゃないけど、私の心臓が素直に反応してしまうのは止められません!!
「クローディア??」
「・・・・・・え、えっと、ですね」
あれ?
なんだっけ??
あ、そうそう!この山に来た理由か!!
ジークフリート様の温もりと、何やらまっすぐな眼差しと、なんだか色々思考をとんでもなく邪魔されてばかりだが、ここはちゃんと応えなければ!!
しっかりしろ!クローディア!!
お前はやればできる子!!
そして、ここは現実!!
ゲームのように、一時停止したまま萌え場面で散々萌えまくって、1時間転げまわることはできない!
「・・・・・大切な人を、守るためです」
「!!??」
多分、顔はゆでダコみたいに真っ赤だろうから、振り返らずに声だけで応えた。
もちろん、大切なあなたを守る為以外に、私がこんな場所に来るわけないじゃないですか。
でも、全部をあなたに話すわけにはいかない。
これは私のエゴと意地みたいなものだから。
「大切な人の為に、自分ができることはやりたいと思いました」
「お前自身が・・・・危険な目にあってもか??」
それをあなたがいいますか??
大事なもののためなら、なにより真っ先に飛び込んでいくのはあなたの方なのに。
「・・・・・私は、守られているだけはもう嫌なんです」
「!!??」
今回のことも、あなたを頼れば喜んで引き受けて、私のことは安全な街に置いて、騎士院だけで解決したことだろう。
最初の頃にやってた乙女ゲームは、ヒロインはみんな安全な場所で、ヒーローの後ろで守られていた。
それがどれだけもどかしく、戦うヒロインが出てきてくれたことに喜んだことか!!
これで『私』も戦える!!と、喜び過ぎてヒーローよりも強くしてしまったことは、ちょっとやりすぎたが。
えぇ、後悔はしてません。
そう、森山雫の頃から、女の子と男の子の体格や力の差が出てくるのが悲しくて。
見えなくなるほど遠くに
ボールを投げれる強い肩♪
羨ましくて、男の子になりたかった♪
私の心のままのその歌を、何十回と口ずさんだことか!!!
あ!!すごいコレ、懐かしいッ!!
「守られて、庇われて・・・・その結果、大事な人が傷ついて失ってしまうのは、もう嫌なんです」
「ッ!?」
あなたに守られて、あなたを失う経験はもう十分しました!
いやもう、何十回、何百回って経験しすぎだろッ!!!
だから、今度は私の番。
きっとその為に私はこの世界に転生したんだと、私は勝手にそう思っている。
あなたを守って、生きる世界の為に何かをすることは前世からの私の願いであり、もはや人生を賭けた女の意地だ!!
「・・・・・クローディア!」
ギュッ!!
「!!??」
ドッキーーーーーーンッ!!!
な、なんと!!!
まさかの、ここにきてまさかの『後ろからギュッ』!?!?
ジークフリート様の、自分よりも一回りほど大きな体は私の体をすっぽり覆い隠す。
「あ、あの!?あれ、あの、へっ?!」
う、嬉しいですよ!!
メチャクチャ嬉しいですが!!
し、し、し、し、心臓がァァァーーーーーーーーーッ!!!
「・・・・・・・クローディア。お前の気持ちは、よくわかる」
「は、はひぃッ?!?!」
「・・・・・・・」
お、落ち着け、落ち着けクローディア!!
ドキドキときめきウルトラスーパーリミックスイベント☆に混乱してる場合じゃない!!
ジークフリート様はいたってシリアスモードだ!!
そうだ!!
呼吸、呼吸を整えて!!
ヒィー、ヒィー、フゥーー
ヒィー、ヒィー、フゥーー!
って、これ何かを生み出すやつだ。
でも、なんか落ち着いてきた!
行けるぞ!うん!
団長、クローディア=シャーロット、もう大丈夫です!!!
「・・・・・俺もそう思っている。目の前で自分ではない大事な者を失うのは、辛い」
「じ、ジークフリート様」
「だが、頼むから今回のような無茶だけはしないでくれ」
「!?」
ーーーーお願い、あなたは生きてーーーー
ジークフリートの脳裏に一瞬、記憶に強く残っている『あの人』の姿が映る。
ギュッ!!
その姿と、クローディアがなぜか重なって見えて、ジークフリートは抱きしめる力を強めた。
もう、あんな思いをするのはゴメンだ。
「じ、ジークフリード様??」
「・・・・・・」
【・・・・・お2人さん、そろそろイヴァーナ様が一旦魔力を充電する為に、攻撃の手を休めるから、今がチャンスよ♪】
「「!!??」」
ジークフリート様に抱きしめられている、そんな夢のような時間は、あっという間に終わりを告げた。
そう、今自分たちは戦いの場にいるのだ。
しっかりしろ!!クローディア!!
そうだ!!
私は後ろにいるこの人を、守る為にここに来たんだから!!
「ジークフリード様、心配してくださってありがとうございます」
「・・・・クローディア」
自分の体を包み込んでくれていた腕を解くと、その人にまっすぐ向き合った。
「約束します、自分から無茶はしません」
でも、とっさに無意識に無茶をしてしまったらごめんなさい。
心の中だけで、先に謝っておきます。
たぶん、いざとなったらしてしまうだろうから。
「それじゃ、行ってきますね!」
「・・・・・あぁ」
これからが勝負!!という時なのに、私の顔には笑顔が自然と溢れていた。
ジークフリード様が生きてここにいてくれるだけで、私にはそれが何よりも強い心の支えとなる。
危険な死地に向かうあなたを見送る側ではなく、あなたに見送られる側になれるなんて、望みを叶えてくれて本当にありがとうございます!
「赤い魔女さん、私はイヴァーナ様に触れるだけでいいんですよね??」
【えぇ♪ただ、もしかしたらあなたの体に痛みや負荷があるかもしれないわ】
「・・・・・分かりました。それを覚悟していきます」
それを先に聞いておいて良かった。
なんにも心の準備がなく、強い痛みや何かを感じるほうがきっとキツい。
【あと、いい雰囲気をじゃましてごめんなさいね♪】
「ぶふぉっ!!い、いきなりなんですか!!」
あ、危ない、危ない。うっかり大きな声が出そうになってしまった。
『!』びっくりマークこと、エクスクラメーションマークはついておりますが、一応小声でお送りしております。
【彼なんでしょう?あなたがこの地に来た理由は?】
「・・・・やっぱり、すぐにばれますか」
なんだか、赤い魔女さんの声が嬉しそうな気がする。
まぁ、隠してるつもりも全くないのだけど。
【えぇ。そして、彼は気づいてないのね】
「はい」
それはもう、見事に。
「でも、それでいいと思ってます」
【どうして??】
「彼を本当に幸せにするのは、私じゃないからです」
だって『彼』を本当に幸せにするのは『彼女』だ。
私は『彼女』が彼の前に現れるまでの間、『彼』の死のフラグを折るのが役割。
それが、モブとして生まれ変わった私の使命だ。
そのことへの気持ちの整理がつくまでにまだ相当時間はかかりそうだが、ありがたいことにまだ時間はある。
【・・・・・・そう】
最後に少し悲しげな響きを残しながら、赤い魔女はこの話題を終わらせた。
そして、目の前には青い光に包まれた、全く濁りのない純粋な氷でできている、世界的な美術品のように美しい姿をした、イヴァーナがいる。
魔力を回復する為に、氷でできた長い睫毛を伏せて、空中にて止まっていた。
【今よ!!クローディア!!】
「・・・・・・ッ!!!!」
赤い魔女の声とともに、意を決してイヴァーナの体に夢中でぶつかって、その体を全身で抱きしめる。
『!!??』
イヴァーナも敵の襲撃にすぐさま気づき、自分の体にいる存在を足元から氷漬けにし始めた。
「・・・・うぅぅッ!!!あぁぁっ!!!」
ボルケーノの加護のおかげで、こんなに寒く吹雪吹き荒ぶ気候の中でもなんともなかったのに、イヴァーナの強力な魔力の前にはその効果は発揮しなかった。
足元から何十、何百という針に刺されているかのような強烈な痛みとともに、自分の身体が凍っていく。
あまりの寒さと痛みに、全身が悲鳴をあげて止まらない。
「クローディアッ!!!!」
「クロエッ!!!!」
『主よッ!!!!』
みんなの声が、どんどん遠くに感じていく。
強すぎる痛みに、何度も意識ごともっていかれそうになっていくのを、必死に繋ぎ止めるがこれもいつまで保つか!!
そして、ついにクローディアの身体が頭の先まで氷漬けに埋まったーーーーーーー。
せっかくの貴重な時間なので、団長との時間を少しは甘いものにと思ったんですが、今の段階では難しかった!
ごめんね、クローディア。もう少し後にはぜひともラブラブを!




