モブ女子、おしおきされました!
いつも読んでいただき、感謝です。
登場!といいつつ、ボルケーノさんを今回出せなかった。すみません!
作者も予想外な、あの人のおしおきターンになってしまいました。
辺りに、大きな氷が衝突した衝撃音が響き渡る。
「・・・・・・・・???」
だが、それと同時に来るであろう自分の体への衝撃や痛みがないことに気づき、不思議に思いながら強く閉じていたまぶたをゆっくりと開けた。
「・・・・・・・・?!」
視界の中で、一番最初に飛び込んできたのは黒い色。
黒髪と、背中から足元までをおおう、大きな黒いマントが吹雪の風にたなびいている。
そのマントの隙間からは、同じように黒い鎧。
これはーーーーーーー私の、知ってる背中。
この後ろ姿を、私は何度も何度も見送ったのだ。
いつも、さよならに繋がる背中しか見たことがなかったけど、この背中を見間違えるはずがない。
「大丈夫か??」
「・・・・・・・」
振り返ったその人が、黒い瞳を真っ直ぐに向けてくる。
あぁ、なんでこの瞳を一瞬とはいえまがいものと間違えたりなんかしたんだろう。
『本物』はこんなにもーーーーーーー。
「・・・・・・ジーク、フリート様」
「無事で良かった。クローディア、レオナルド」
「だ、団長ッ!!」
私達に降り注いだ巨大なつららは、おそらくは団長の持つ剣によるものだろう。
団長の背丈と同じくらいはあるだろう、巨大な深い赤と黒の入り混じった柄と、刃の部分には炎が燃え盛っている大剣によって、その全てが真っ二つにされて私達の周りに倒されていた。
「だ、団長!!そのすっげぇーーかっこいい剣はどうしたんすかッ?!?!」
キラキラに光るレオの目が、団長の持つ炎の剣に釘付けだ。
うん、確かにものすごいカッコいい!!
RPGとかで、本当に最後の最後で出てくる伝説のなんちゃらとか、神々の宝もしてうんちゃら的な感じで手に入りそうな感じ。
そういえば、どうせならもう少し早めにくれよ!!といつも思ってたな。
「あぁ、ボルケーノ様に頂いたんだ」
「えぇーーーーーッ!!いいなぁ〜〜俺もそういうカッコいいのが欲しい!!」
「レオナルド。お前は剣よりも、己の体を鍛えることが先決だ」
「うぅぅ。分かってますけど、やっぱり羨ましい!!」
「・・・・・・・」
『本物』のジークフリート様の姿に、私はすぐに動けないでいた。
あぁ、『本物』はぜんぜん輝きが違う。
彼はそこにただいるだけで、私にとっては光になる。
「・・・・・クローディア?泣いてるのか?」
「!!??」
しまった!!
無意識に流れた!!
私が急いで目涙を両手でぬぐうと、その手がすぐに大きな手に捕まる。
「ボルケーノ様から聞いた。白の魔女の幻影と、戦っていたんだろう?」
「!!??」
「お前もレオナルドも、強い幻影に打ち勝ってここにいるんだ。怖い思いも、辛いこともあっただろう?」
ごめんなさい。
あなたの姿をした『モノ』を壊しました。
「よく頑張ったな」
「・・・・・・・」
「無事で、本当に良かった」
「・・・・・うぅっ!」
私の顔が涙でぐしゃぐしゃに歪み、その顔を団長の大きな両手が包み込む。
どうしてこの人は私の涙腺ばかり緩ませるのか。
「だが、ずいぶんと水くさいじゃないか。こんなに大変なところへ行くのに、俺に黙って2人で行くなんて」
「!!??」
ギューーーーーーーーッ!!!
「ボルケーノ殿から、2人のことを聞いた俺が、
どれたけ心配したか・・・・・分かってるのか??」
ギューーーーーーーーッッ!!!
「・・・・い、いひゃい!!いひゃいです!!!だんひょうッッ!!!」
ねぇ、乙女の皆さん。
普通ギューーーーって来たら、そのあとは団長に抱きしめられてるとでも思うでしょ??
思うよね??
えぇ、私も次に来るのは絶対にハグだと信じて疑ってなかったよ!!
だって、ここはときめきいっぱいの、甘い甘い乙女ゲームの世界ですよ??
ギューーーーーーーーッッ!!!
「い、いひゃ〜〜〜いっ!!!」
なのに、なのになんで私は、愛する人に両頬を思いっきり引っ張られているでしょうかッッ?!?!
いや、これ本気でガチで痛いです!!!
ちょっと、ジークフリート様!!!
ローズには、こんなこと絶対にしなかったじゃないですか!!
なんで私にはこんな仕様なんですかッ!!!
「だ、団長!!そんなに引っ張ったら、クロエのほっぺがちぎれちゃうよ!!」
「レオナルド、お前は騎士院に帰ったら、特別訓練をたっぷり用意してやるからな」
言葉と同時に、鋭い眼差しがレオを睨みつける。
「ひいぃぃっ!!!!」
普段から厳しい眼差しの団長の目は、今確実にMaxに怒っていた。
な、なんでそんなに怒ってるんですかッ!!?!
「ーーーーーーーいいか、クローディア。
これからは絶対に俺に黙って、勝手に危険なところに行くなよ??」
ギューーーーーーーーッッ!!!
「!!??」
はい、本日最後に最高に痛いのが来ましたぁぁぁーーーーーーッ!!
乙女の大事なモチ肌がぁぁぁーーーーー!!
「は、はひぃぃぃ〜〜〜ッッ!!!!」
はい、ごめんなさい!!
もう絶対あなたに黙っては行きませんッ!!
これが10代じゃなくて、元のアラサーの肌だったら、私のコラーゲン細胞はぶちぶちに切れてシミシワたるみへの道へと一気に真っ逆さまですよッ!!
一度切れたら再生しないんだからねッ!!!
「・・・・・ううぅっ、まだ痛いぃ〜〜」
おかしい、これなら偽物の方が優しかった。
私のほおは引っ張られすぎて、まだジンジンと強く痛む。
どれだけ自分の手で腫れ上がってるほおを包みこもうと、自分への回復機能が発動しないことが本気で恨めしい。
「あ、ほ、ほら!そういえば!!な、なんで団長ここにいるんすかッ??!!」
団長のお怒りモードMaxの空気に耐えきれなくなった、レオが空気を変えようと話題を振る。
いいぞ、レオ!!
良くやった!!
グッジョブだッ!!
「あぁ。俺は騎士院の執務室までで仕事をしていたんだが、ある声が聞こえてきたと思ったら、突然この場所に投げ出されたんだ」
「ある声っすか??」
「・・・・・・・」
誰だろう??
まさか、白い魔女だろうか??
いや、あの女なら団長を吹雪の中に放り出さずに、すぐに氷漬けにするべく幻影の魔法をかけるだろう。
「まさか、白い魔女っすか??」
やっぱりレオも同じことを思ったらしい。
「いや、白い魔女じゃない。俺をここに連れてきたのは・・・・赤い魔女だ」
「!!??」
しまったぁぁぁぁーーーーーー!!!!
あれか!!
あの時のフラグか!!!
やっぱり立っちゃってたのかぁぁぁっ!!!
「えぇーーー!?赤い魔女??なんで赤い魔女が??」
「・・・・・・・・」
「分からない。だが、そう名乗る者の声とともに俺はこの死の山に放り出されて、そこでボルケーノ様と会ったんだ」
「・・・・そうだ!!ボルケーノッ!!」
ほっぺがまだまだものすごく痛いけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないッ!!
「ジークフリート様!!ボルケーノはッ!!」
「ーーーーーーボルケーノ様は、あそこだ」
「!!??」
団長がスッと指をさしたその場所は、私達がいるところからは歩くとかなり遠くの雪山だったが、赤い光が見えてそれがボルケーノだとすぐにわかる。
「ボルケーノッ!!!」
赤い光から炎の塊がいくつも空に向かって放たれ、それが向かいにある青い光から出た氷山のように大きな氷の塊と激しく衝突し、相打ちとなった。
「・・・・・・あれは!!」
「あれは氷神のイヴァーナ様だ。ボルケーノ様はずっとあの方を傷つけないように戦っている」
「えっ!?」
「俺がこの地に着いた時に、まず視界に入ったのが、2人の激しい攻防戦だった」
団長の脳裏に、先ほど見ていた炎と氷の全面戦争の様子が思い出さられる。
さすがは神々の力の衝突。
ぶつかるたびに強い衝撃波が生まれ、そのたびに、空が赤々と燃えていたーーーーーーーー。
シリアスにラブを入れようと思っていたんですよ、最初は!
でも、途中からやつが勝手に怒り出したんだ!
クローディアの顔面皮膚よ!強くあれ!!




