紅き涙
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
過去編からここへの流れは決まっていましたが、ようやく書けました。
なぜ、神はその瞬間を許してくれなかったのか。
「ぐあぁぁっ!!!」
「ジュードっ!?」
今まさに、ライラの胸に刃が突き刺さろうとした瞬間ーーーーーーーー耳に響いた悲鳴に戸惑い振り返ってしまった、ほんの一瞬の迷いのせいで私はその機会を逃してしまった。
次の瞬間には、ライラの頭と胴体をのぞく全ての場所に何十本もの細長く黒い針が空から勢いよく突き刺さる。
「ーーーーーーーーアァァッ!!」
「残念だったネ、ライラ。安心しなよ。君の望んだ通り、君が死んだらボクも一緒に仲良く死んでしまうから、君の命は取らないヨ?」
ケラケラと笑った黒い魔女がライラの側まで来ると、血に濡れる前から深い紅色をしたライラの髪を乱暴に引き上げ倒れそうになっていた身体を無理に立ち上がらせると、無理やりその顔を自分へと向けさせる。
『また変な呪文を唱えられても困るから、喉を切って声を出せないようにしないとネ?』
「や、やめろぉっ!!」
先ほど黒い魔女に指示を受け、黒い鎧の兵士の剣で両足を突き刺され身動きを封じられたジュードが声を枯らしながら何度も大声で叫ぶ。
「うるさいな。せっかくの楽しいところを邪魔しないでくれる?」
「!?」
「ジュードッ!!」
笑顔だが、瞳孔が開ききった眼差しで見つめるとジュードの側にいた兵士がジュードに向かって新たな剣を突き刺そうと振り上げた。
「い、いやぁぁぁーーーーーーっ!!!」
「いや、それよりもっといい方法があった!」
「ッ!?」
あと数センチほどで串刺しになっていたジュードへの剣が、直前でその動きを一斉に止める。
「最初からそうしていれば良かったヨ!アハハッ!!君共々この地は美しい景色にしてあげる。君は永遠に死ぬことも許されず、絶望の中でずっと生きられるんだ!」
「な、なにを・・・・・ッ!?」
ライラの髪の毛から手を離した黒い魔女は、先ほどシャインが持っていた剣を自らの手で腕の内側につけると、一気にそこを斬りつけ引き抜く。
腕ならは赤ではなく黒い血が大量に溢れて地面に落ちると、いつのまにか暗い雲に覆われていた空からは大量の雨が降り出した。
雨が黒い魔女の血に触れると、灰色の煙となってあたりを立ち込めていく。
「こ、これはッ!?」
煙に触れたライラの身体が足元から徐々に感覚がなくなり、石へと変化していた。
ライラだけではなく目の前にいたはずのジュードの全身も全てに石化しており、町の奥からは何十何百という悲鳴が上がり始める。
「・・・・・なんて、ことをっ」
灰色の煙はさらに大きく膨れ上がりながら街全体、いや国全体へと広がり始めていた。
ライラの体も半分以上がすでに石と化している。
『アハハッ!!なんていい響きなんだろう!
!逃げきれない恐怖に怯える声は、いつ聞いてもボクの心を震わせるっ』
ふわりと空へ飛び上がった黒い魔女は、煙から逃げ惑う人々を見て腹を抱えて悦んでいた。
『ライラ、君も見てみるかいっ!?っていっても、もう喉元まで石化してるから答えられないだろうけどね!いいでショ?特別に君だけはゆっくり石化させてあげてるんだ!最後の瞬間まで、この絶望を見せてあげるヨッ!』
「!?」
黒い魔女の言葉とともに、王国のあちこちの様子がライラの頭の中へと一斉に流れ込んで来る。
町の中で泣き叫ぶ子どもを宥め庇いながら、共に石化していく母と幼い子ども。
家の中に逃げ込もうと必死で煙から距離を離したというのに、家の中から溢れる煙に襲われる若き青年。
その彼が見た最後の景色は、家の中ですでに石化していた家族の姿だった。
民を守ろうと剣を構えるが、何もできずに自身も石化していく無力さへの悔しさに涙していく騎士院や王国の兵士達。
互いに庇いあい抱き合う形で石化した第二王子と貴族の娘に、2人を守ろうとして煙を消そうと向かっていったメイド達。
自身の保身の為に逃げるのではなく、最後まで民の為に奮闘しながら煙に巻かれ石化した王に妃達。
国に暮らし、生きる全ての人の生命が黒い魔女の手によってその命を奪われていた。
ごめんなさい。
私はまた、何も守れなかった。
「・・・・・・ッ!!!」
『アハハッ!いい顔♪』
ライラの目から溢れ流れる涙に血が滲み、赤い涙となって地面に落ちる。
赤い魔女はその涙を指で触れると、血にまみれた自身の指をさらに真っ赤な舌でペロリと舐めた。
『そうそう、言い忘れてた。君のもう1人の子どものお陰で、ボクの願いが叶いそんなんだ!君には感謝しなきゃネ!って、もうボクの声も聞こえないか』
振り向いた黒い魔女の目の前には、全身が石化した赤い魔女ーーーーーーーーライラの美しい石像が佇んでいる。
『バイバイ、ライラ♪』
その石像をうっとりと見つめると、黒い魔女は空間へ溶けるように静かに消えた。
次第に雨は止み、一国に絶望の嵐を巻き起こした煙も消え失せる。
辺りは恐ろしいほどの静寂に包まれ、活気溢れる人々の笑いに溢れていた城下町には悲しみと恐怖に支配された表情の石像で溢れかえっていたーーーーーーーー。
最初は灰色の雨にしようとしたら、すでにそのネタは大人気ゲームで使われておりました。
あのゲーム。本来敵はモンスターなはずなのに、守るべき人の負の部分も大いにさらけ出しており私的にはとても好きでした。画面の向こうで、なんで村人を攻撃できないのかと悔しがりましたが。




