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赤い魔女の戦い

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

モブ女子の続きです。


長い過去からようやく現代へ。




黒い魔女により記憶の奥深くに眠らせていた愛おしく悲しい悪夢から覚めてからも、ライラの涙はあの時と同じように流れっぱなしで止まらない。



「あぁっ・・・・あぁぁっ!!」



膝を地面につき頭を抱え、嗚咽のような声で何度も泣き叫ぶ。



『アハハッ!思い出した?愛しい君の家族をその手で殺した感触をっ!!命がその腕の中で、目の前で失われていくその絶望をっ!!』


「!!??」



赤い炎の剣をライラの手によってその胸に突き刺されたラスターは、その刃が決して肉体から抜けないよう自らその柄に震える手に力を入れ、より深く体の奥へと抉った。


そして、ラスターの体はライラの腕の中で燃え尽き骨すら跡形も残らず、最後は彼の髪色と同じ灰となって息子であるシャインとともにその尊い命は消えた。


あの時に見た、彼のまっすぐな瞳が放つ陽だまりのような眼差しを忘れたことなど一度もない。


その後、デスペラードの魔力の痕跡を少しも残さない為に、残ったライラの魔力でデスペラードの魔力によって命を落とした村人達の遺体ごと全て焼き払った村を離れ、自分の炎と同じ火の魔力を強く宿した火山の奥深くに身を隠した。



あの時の、焼かれた村の炎の景色が目に焼き付いて離れない。


共に過ごした時間が、場所が激しい炎に巻かれて燃えていく。



その身に溢れてやまない悲しみと後悔と絶望と、どこに向けて良いか分からない怒りと憎しみに支配されて、何度感情のままに魔力を爆発させても彼らを忘れることなど一瞬だってなかった。




「あぁっ、あぁぁーーーーーーーっ!!」



『アハハッ!感謝して欲しいな。君の大好きな人達の夢をご丁寧に見せてあげただけじゃなく、こうして肉体を持ってもう一度出会える事が出来たんだからね!ほら、懐かし過ぎて泣けてきちゃうだろっ!?』



腹を抱えて笑いながら、黒い魔女が姿を消してはライラの周りをくるくる回転して現れ、最後には死人と化したラスターとシャインの側へと舞い降りる。



『君たちも嬉しいよね〜〜?また、大好きなママに会えて♪』



「ら・・・・イラ?」


「マ・・・・ま?」



光を失った虚ろな死人の目が、ライラへとゆっくりと向かう。



「ラス、ター・・・・・しゃ、イン?」




何度その姿を夢に見た事だろう。




もう一度、生きた貴方達に会いたい。


この手で力強く抱きしめたい。


一度でいい、その声がもう一度直に聞きたかった。



忘れたい。


忘れたくない。



けれど、時間とともに嫌でも思い出は薄れ忘れていく。



その姿を。


声を。


温もりを。


喜びと、悲しみを。




忘れたく、ないのにーーーーーーー。





「ゆる・・・・してっ」


「!!??」



ラスターとシャインに向けて炎を放ち、2人の動きを炎の輪で封じると地面を蹴って飛び上がる。


ライラが向かうのは、もちろんーーーーーー黒い魔女。



「お前だけは許さないっ!!」


『その顔、最高にいいネ!』



ライラは両手からいくつもの大きな火の玉を出すと、素早く黒い魔女の周りに飛ばしてその身を囲む。


だが全ての火の玉は避けられ、地面へとそのまま落ちては大きな爆発を起こす。


さらには鞭のように変形させた炎を黒い魔女へと放つが、掴んだその次の瞬間にはその姿はその場から消えていた。



『君もこりないな〜こんなのボクには無駄だって』


「無駄かどうかはーーーーーーーーッ!?」



続けて炎の攻撃をしようとしていたライラの手が、いきなりいくつもの強い力によって塞がれる。



「赤イ・・・・ま、ジョ?」


「ゆ、ユ、許サナイっ」


「あつ・・・・イッ!!か、か、身体が、焼け・・・・ル!!」



「あ、貴方達はッ!?」



『ざーーんねん!僕と戦うなら、まずは君の事をこんなにも歓迎してくれてる人達をおとなしくさせてからにしてよね?君なら、ものすごーーく簡単でショ?』



「放してっ!!」



次から次へと、大地から蘇ったかつてピエトロの街で生きて過ごしていた、見覚えのある何十人もの男女がゾンビとなって蘇り、ライラへと襲いかかってはその動きを封じてくる。


そして、封じるだけではなく黒い魔女に変化させられた本来であれば届くはずのない鋭い爪や歯はライラの肉を裂き、全身のありとあらゆる場所から血が流れた。



「ーーーーーーーーッ!!」




黒い魔女の言う通りだ。


ただの死人ならば、先ほどのゾンビ達と同様にすぐ様燃やせばそれで済む。


魔力を大量に使うかもしれないが、簡単だ。




「在るべき場所に、還りなさいっ!!」





ゴオオオオォォーーーーーーーーッ!!




ライラの身体に触れた全ての死体が、大きな炎に巻かれて燃え上がる。



「イヤァァーーーーーーーーッ!!」


「こ、この悪魔メェェーーーーーッ!!」


「!?」



耳を塞ぎたくなるほどの、断末魔とともに。




「ま、数がいてもザコはザコか。やっぱりキミ達じゃないとね?」


「!!??」



影のように揺らめく黒い腕がライラの足元から勢いよく伸びてきてその動きを止めると、ライラの両手がそれぞれ彼らの腕にしっかりと掴まれる。



「ラスター!シャインッ!?」



簡単だ。


なのにーーーーーこの手をすぐに振り払えない。




「ころ・・・・シテ」


「ま、マ・・・・あ、ついッ」


「!?」



掴まれた腕から感じる、生きていない冷たい体温。


それなのに、耳元に聞こえて来るのは懐かしく愛おしい響き。


心臓がおかしくなりそうなほど強く鳴り響き、呼吸が浅くなる。




私は、また殺すの?


この手で愛おしい人達を?




『どうせなら、今度は君が家族に殺されてみる?』




「ま・・・・マッ」


「ライ・・・・ら、ころ・・・・し、て」



腕を掴んでいたラスターが、ライラの後ろから身体を羽交い締めにして押さえつけ、その前から黒い魔女よりナイフを持たされたシャインがライラの元へと歩いてくる。



足元は今も無数の黒い手が掴んで離さない。



その力は、ただの人間とはとても思えないほど増しておりライラがどれだけ力を込めても振り払えなかった。


炎で焼くにしても、先ほどのように少しでも加減をしていては黒い魔女から炎に対する耐性を受けているこの2人には効かないだろう。



殺すつもりで、全力で放たなければ。




「シャイン、やめてッ!!」


「ママ・・・・ずっと・・・・いっしょ」



シャインの腐っているその目からは、無いはずの涙がこぼれていた。


ライラの魔女としての血を受け継いだが為に、黒い魔女に利用され自らの魔力の暴走の末にデスペラードに吸収され、ラスターとともにライラの炎で死んだ愛しい息子。


生まれてきたその瞬間から、その命がそこに居るだけで奇跡だった。





もっと一緒にいたかった。


もっとあなたを抱きしめて、笑顔が見たかった。


友達が欲しいあなたに、普通の人間ではないからと人里からは距離を置かせてしまった。


もっと自由に、もっとたくさんこの世界で生きさせてあげられなくて、本当にごめんなさい。




「お・・・・ねが、イ。ころ・・・・シテ」


「!!??」



すぐ真後ろからは、同じく本来なら流れるはずのない涙を流したラスターが懇願するように、必死で声を発し続けていた。





分かってる、分かってるわ。


やるべきことはーーーーーーーーー。




「・・・・シャインッ」


「やめろっ!!!」


「!!??」



今まさに、ライラが生み出した最強の炎で焼き殺そうとしたシャインの胸には、その背後から銀の光を放った剣が深々と突き刺さっていた。



「ま・・・・マッ」


「シャインッ!!!」



次の瞬間、シャインの身体は砂と化して崩れ去る。


その剣の先端には、退魔の剣たる証の紋章が赤く光っていた。



「これ以上お前に、子殺しも身内殺しもさせるわけにはいかない。その役割は、俺が引き受けるっ!!」


「!?」




なぜ、その気配に気づかなかったのか。



突然その場に現れたその男は驚きに声を失ったライラの背後へとすぐさま回ると、ラスターの身体を何の躊躇もなくその手に握った退魔の剣で大きく斬りつけた。



「許せっ」


「あり・・・・・がと、う」



ラスターの身体も、すぐさま砂と化してその場からあっという間にその姿を無くしてしまう。


残されたライラは、呆然とその男の姿を見つめるばかり。



一体、何が目の前で起こったというのか。



『ひどいな〜このボクが、せっかくライラの為に用意してあげた人形達をこんなにも簡単に壊しちゃうなんて!』



拗ねた様子を見せるものの、特に怒ってる様子も見られない黒い魔女は新たな来訪者に向けて最後はむしろ喜びの笑みを浮かべた。


その男の姿を見たライラの顔色が、先ほど以上に変化したからだ。



「なぜ・・・・ここに?」


「嫌な、胸騒ぎがしたから」



本当は、彼女から他国へ食料を買いに昨日からお使いを頼まれてこの場所にはいないはずだった。


だが、どうにも嫌な予感が止まらず道を急いで引き返してきた。



「いつから、知って?」


「ララ・・・・すまん。ずいぶん前からだ」


「ジュードッ!」



ライラ、ララが愛した2人目の男は苦笑いを浮かべると、ライラと黒い魔女の間に退魔の剣を構えて立つ。



『なるほどネ。その退魔の剣で、この街を襲わせていたゾンビ達も退けてここまできたわけか。ただの人間にしてはいい方なんじゃない?』



「この国から、今すぐ出て行けっ!!」



ジュードは退魔の剣を振り上げると、真っ直ぐに黒い魔女へと向かっていく。



「いけないっ!ジュードっ!!」



すぐさま、ライラも地を蹴って2人の元へと飛び上がる。



『ハハッ!!脆い人間風情が、ボクに何ができる?君はボクの人形と遊んでいたらいいさ!』



「!?」



黒い魔女が指を鳴らすと、地面からは黒い鎧をまとった兵士が3人現れ、漆黒の色をした腰の剣を抜くと一斉にジュードへと襲いかかる。



「ジュードっ!!」


『よそ見してていいのかナ?』


「ッ!?」



気づけば至近距離へと移動していた黒い魔女が、手の中から無数のいや何十という黒い槍を出現させるとそれを四方八方からライラへと一斉に投げつける。



「フレア・エクスプロージョンッ!!」



その槍を素早く炎の海で燃やすと、今度はライラから攻撃の魔法を繰り出した。



「出でよ、我が僕よッ!!」



ライラの声とともに、6体の炎の女戦士が現れる。



『わぁ〜お!中々、強そうだネ!』



「行けっ!!」


「はっ!!」



ライラの声とともに、6体の炎の戦士は次々と黒い魔女へと襲いかかった。


だが、互いの攻撃はどちらも相手を傷つけることはなく形を崩してはすぐさま元の形へと戻っていく。



『アハハッ!!これじゃ、いつまでたっても終わらないネ?しかも、君はその場で何してるの?モタモタしてたら、君の大事な人がボクの人形に殺されちゃうヨっ?』


「ッ!?」



ちらっと横目で素早くジュードの方へと視線を送れば、3対1という数的にはとても不利な状況とはいえジュードは剣一つで互角にやり合っていた。


だが、それも体力が減っていけばいつまでも互角でいられるわけがない。


早く、早くこれを終わらせなければ。




ライラは先ほど黒い魔女へ向けて放ちそして地面へと落下した炎の玉の位置が『正しいこと』を確認すると、そこに向けて足元から残ってる魔力を惜しまず全力で送り込む。


そして口元では、とても小さな声で古代の呪文を呟き始めた。



『これは、何の呪文?・・・・・まさかっ!?』



ライラのしようとしている事に気がついた黒い魔女は、ジュードを襲っていた黒い騎士共々急いで無防備に地面へとたちつくすライラへと攻撃を変更する。


だが、その行く手を炎の女戦士がことごとく封じておりその刃は彼女に少しも届かない。



「気づくのが少し遅かったわねっ!これであなたも死ねない体とはおさらばよっ!フレイム・イグニス・マレディツオーネッ!!」



『や、やめろっ!!』



「ララ!!一体、何をっ!?」



炎の玉が一斉に光り出し、その玉同士を円で繋いだ巨大な赤き光を放つ魔法陣が地面に現れる。



「我が魂に繋げ!!お前の命は、我が命とともにっ!!」


『!!??』



赤き魔法陣の光が空に向かって強い光を放ち、黒い魔女とライラの身体が赤い光で包まれる。



「ら、ララッ!!」



魔法陣が描かれた地面が地震を起こしながら大きく割れ、中心から吹き荒れた強い風にジュードは退魔の剣ごと吹き飛ばされた。



それは古代呪文の中でも、禁忌とされたモノ。


魂と魂を結びつけ、互いの命の終焉が交わるものとする恐ろしき呪いの魔法。



「これで、さよならよ黒い魔女っ!私と一緒に、地獄へ落ちなさいっ!!」



『なるほどネ、さすがは君だ。まさか、ボクと一緒に死ぬつもりカイ?』


「仕方がないじゃない。あなたが本体をどうしたって出さないから、こうするしかなかったのよ。でも、これならあなたがどこへ逃げようが同じだわ」


『・・・・・・』




これなら、愛おしいこの世界も家族も守れる。




『お母さんっ!』


『ララっ!』



ライラの脳裏に浮かぶのは、ジュードと今はこの場にいない愛する娘・クローディアの姿。


明るく少しおっちょこちょいで、でもいつだって一生懸命な自慢な娘。





ごめんなさい。


でも、今度こそ貴方達を守るから。




『魔女様っ!』


『ママっ!!』




ごめんなさい。


今、貴方達の側に行くわ。




「・・・・・ッ!!」





ライラは腰に身につけていた短剣を力強く握りしめると、自らに突き刺す為に自身の胸に向かって振り上げたーーーーーーーー。


本来はもう少しライラさんが痛々しく傷つく描写があるはずでしたが、過去編からすでに傷ついてボロボロな彼女にそこまで書けませんでした。


戦いの描写を書くのはとても難しいです。

普段ゲームで散々戦いの場を見ているはずなんですがけどね。

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