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赤と白の紡ぐ糸 18

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


今回も少し間が空いてのアップとなりました。


夜中に一気に書き上げたので、抜けてる部分があったら申し訳ないです。


シャインが生まれてからもずっと黒い魔女の気配を辿り村の外を駆け回っているが、辿り着くのは黒い魔女の息がかかった小物ばかり。


もしくは、封印石にその魔力が閉じ込められ森の奥深くでその土地を腐食し闇に染めていた。


その1つ1つを破壊し黒い魔女への手がかりを探すが、まるで雲をつかむようにそれは掴んでは消える。


その気配はしっかりと残しながら、その尻尾さえも掴ませない。




そんなことがもう何年も続いていた。




『もう、ここも外れじゃない!』




本日訪れたのは、古びた遺跡。


普段より一際強く感じた黒い魔女の魔力を追ってたどり着いてみれば、そこには厄介な魔法陣を重ねてかけられた呪いがあった。



『またずいぶん、嫌味なくらいご丁寧な呪いだこと。1日がかりになるわね』



その辺の魔法使いならば、一つ一つ解いていては一生かかっても解けないような質の悪い

最悪の代物だ。



『・・・・スルーブス・カイト・ホーリー』



指を魔法陣に向けると、解除の呪文をゆっくり唱え始める。





黒い魔女がなぜ分かりやすく己の気配を残した呪いの産物や、魔物達をライラに分かりやすく伝えてくることの狙いが何なのかはまだ分からないが、少しでも今の平安が守れるのならどんなに面倒くさい事でも意の進まぬことだってする。



『ママ!』


『魔女様ッ!』



愛しいと、生まれて初めて感じた存在。


ただ側にいるだけでこんなに心が安らぐだなんて。


貴方達と出会い、そして守る為に私はこの赤い魔女となる運命に導かれたのだ。



『赤い魔女!!』


『!?』






この声はーーーーーーーー。






『アスター?なぜ、こんなところで彼の声が?』


『こんなところで何をしてる!?早く村に戻れッ!!』


『!!??』



目の前にいたのは、アスターの形をした紅蓮の炎。


炎はそれだけを告げると、風とともにすぐさまその形をかき消した。




『あ、アスター?』





嫌な、予感がした。





『シャイン!!ラスター!!』



なぜ気づかなかったのか。


今朝までは正常だったはずの2人の魔力が、今では『何か』が混ざって異質なモノになっている。


それはどちらも感じたことがないほど強く、禍々しい闇の魔力。


いや、それとよく似た弱い魔力ならばずっと感じてきた。



『まさか、デスペラードが・・・・ッ!?』



ライラが叫んだと同時に、村の方角で大きな爆発が次々と起きる。



『そんな、なぜ封印がッ!?』



ライラが地を大きく蹴り、空を飛ぶ。


封印が施された魔法陣に意識を向ければ、そこにはエスベラードと黒い魔女の魔力と気配とともにライラの血の気配が。



『シャインッ!!』



そこで起こったことが、残された魔力を通じてライラに流れ込んでくる。


ナハトにより、本当に少しずつシャインを通して解かれていたエスベラードの封印。


ライラが気づかないよう、その解除は針の穴を通すかのような本当に僅かな隙間を縫い長い時間をかけながら行われていた。



そして、村の外に有り余るほどの黒い魔女の気配を残してライラの意識が少しでもそちらへ向くように仕向けた。



『・・・・・・ッ!!』



前の自分であれば、こんな異変を決して見逃すはずがなかったのに。



『シャインッ!!』



ナハトとシャインの手によって彼自身の封印とエスベラードの封印は解かれ、彼の中で赤い魔女から引き継いだ膨大な魔力が暴れ狂い、その場に駆けつけたアスターがシャインの手によって血塗れになっている。



その姿を見たシャインがあまりのショックで心を壊し始め、暴れくるった魔力だけが周囲を破壊する渦となり魔力に触れた彼の肉体をも変質させ始めていた。


元凶となったナハトは、すでにシャインの魔力に巻き込まれてその命を落としている。



『ダメよシャインッ!!人間に戻れなくなるわッ!!』



伝わるはずがないことはわかっていても、声を荒げて叫ばずにはいられない。



息子は泣いていた。



化け物のような身体になりながらも、その声を咆哮のように空に鳴り響かせて。


大好きな人の命を目の前で、自らのせいで奪ってしまった事実に耐えられず。




当たり前だ。


彼は生まれてから、まだほんの数年しか生きていない。




そう、ほんの数年しか。



なぜ自分達を放っておいてくれないのか、ただ静かに日々を過ごしたいだけなのに。



特別なことがなくてもいい。


贅沢がしたいわけじゃない。



毎日目が覚めて起きて大切な人に挨拶をして、ともに自分達が畑で耕し森から分けてもらった作物を食べて自分達の仕事や役割を果たす。


夜はともに1日を無事に過ごせたことを喜び感謝しながら、星を見上げて眠りにつく。


ラスターとシャインから教えてもらった、穏やかで幸せな時間。



『これは・・・・ラスターッ!!』



村に近い場所で、また大きな爆発が起こる。



その場所では、遺跡から周囲を破壊しながら村の奥へとやってきた異形の姿をしたシャインに恐れをなした村人が次々と石や槍を投げ傷つけている様子を、太い木の丸太に括られたラスターが見つめていた。


ラスターの目には、それは異形のモノではなく愛しいシャインの姿をしている。


その息子に、たくさんの村人が命を傷つけ奪わんと攻撃をしかけていた。



『やめろっ!やめてくれっ!!シャイン!!シャインを殺さないでくれっ!!』



声を枯らしながら必死でラスターが村人へと叫ぶが、恐慌状態に陥った村人達の悲鳴にラスターの声はかき消されて届かない。



『殺せっ!!化け物を殺せっ!!』


『こっちへ来るな化け物め!!』


『死ね!!死んでしまえっ!!』


『ぐぁぁ・・・・・ぁぁッ!!』


『やめろっ!!シャインーーーーーー!!』





その時、ラスターの頭の中にあの声が鳴り響く。




『愛しい息子を助ける力が欲しいか?ならば、我が力を貸してやろう』





『ーーーーーーーーッ!!』




息子を助ける為、伸ばされたその手を再び取ることに何の迷いはなかった。














『・・・・・サァ、宴ノ時間ダ』




全てを無に帰すかのような大きな爆発の後、ラスターがいたところには彼の姿はどこにもなく、そこには屈強な赤い肉体に黒い鎧を纏った『デスペラード』が立っていた。


周囲に何十人といたはずの村人達は今の爆発によって焼き焦げ、骨すらも残っていない。



『ソウダッタ。約束ダケハ、果タサネバナ』



デスペラードは異形の姿となり今も苦しむシャインへと手を向けて伸ばすと、赤く透明な球体を作りそれでシャインを包みこむ。


何の抵抗もできずに球体に包まれたシャインごと、その球体に向けて今度は開いた手の平を握ると球体ごとシャインの体が縮み、そしてデスペラードの体の中へと吸収された。



『喜ブガイイ!コレデお前ハ、我トトモニ永遠ノ時ヲ生キルノダ!!』


『・・・・・デスペラードっ!!』



爆炎の前に現れた炎の化身に、エスベラードはより笑みを深くする。



『オ前ノ魔力、知ッテイルゾ』



長いこと眠りにつき、まだ記憶が朧げだがこの魔力だけは忘れない。



『目覚メタラ、真っ先ニ殺スト決メテイタ魔力ダッ!!』


『!!??』



デスペラードの手に、自身の魔力で作られた尋常でないほどいやデスペラード自身よりも大きな黒い斧が現れそれを軽々と扱うとライラに向かって振り上げる。


それを素早く避けるが、斧が落とされた地面に爆発が起こりその爆風にライラが巻かれ視界が煙で埋まった。



『・・・・・・ッ!!』



その爆風の中でもデスペラードは激しく斧を振り回し、ライラへと襲いかかる。


ライラも炎で応戦するが全力が出しきれない。


目の前にいるのは世界を破壊へと導く『デスペラード』。


けれどその肉体はラスターであり、その中にはシャインの命があるのだ。


デスペラードを殺すことは、2人の命を自らの手にかけることとなる。



『ドウシタ?ソンナ小手先バカリの攻撃デハ、我ハ倒センゾ?』


『!?』



2人を傷つけるのを恐れて、ライラはデスペラードからの攻撃を防ぐ為の魔法と動きを止めたり足止めをするような魔法ばかりで、強い攻撃の呪文を使えずにいた。


目覚めたばかりで本来の実力の半分以下になっているとはいえ、手加減して勝てる相手ではないことも防戦だけでは限界があることも承知の上だ。


それでも、なんとか2人を救う道を選びたかった。



『そんな道、どこにもないって君も分かってるくせに』


『お前は・・・・・・ッ!!』



軽やかに宙を舞いながら、黒い魔女がデスペラードの図上へと向かう。


デスペラードにその姿は見えていないのか、その斧はライラへと向かって勢いよく振り下ろされた。



『くっ!!』




その斧を、炎でできた大盾でなんとか受け止める。


だがデスペラードの巨大なパワーに押されて、足元の地面がめり込み地割れを起こして沈んでいく。



『殺しちゃえばいいじゃない?簡単でショ?それが、君の役目だったよね?』



高笑いをしながら、黒い魔女の姿がライラの周りで消えては別の場所で現れを繰り返す。



『たかが人間の命だよ?何をためらってるの?』


『うるさいっ!!!』



そうよ。


それが本来私に、赤い魔女に課せられた役割の一つ。


もしデスペラードの封印が解かれた時は、命を捨ててもデスペラードを滅ぼすこと。



命を捨てて世界を守ること。



たとえ、どんなことがあろうとも。



『まさか、人間に情が湧いて殺せない?比べる必要もないくらい、簡単なことじゃないか!こんな殺してもすぐたくさん生まれてくる人間なんかの為に、世界を危険にさらす気かい?』


『黙れっ!!!』



強烈な炎を黒い魔女に向かって放つが、その姿は陽炎のように消えまた別のところで何ら変わらない姿でもって現れる。



『仕方がないなぁ〜。殺しやすいように、少しだけ協力してあげるよ』


『な、何を・・・・・ッ!?』



黒い魔女の両手から無数の黒い光の球が現れ、その球が6本もの長い槍の形を取るとデスペラードの背中に背後から一気に突き刺さる。



『グオォォォーーーーーー!!!』



大きな咆哮を上げて、デスペラードが膝をついた。



『ラスター!!シャインッ!!』



デスペラードへ思わず駆け寄ろうとしたライラを、デスペラードの手が目の前に突き出され、その動きを瞬時に判断止める。



『来ちゃ・・・・だめだ』


『ラスター!!』


『わぉっ!まだ残ってたなんて、ビックリっ!!』



その声は、間違いなくラスターのもの。



『殺・・・・して、お・・・・がいッ』


『!?』



デスペラードの身体の中でわずかに己の意識を残していたラスターは、必死にデスペラードの意識と戦いながら背中の槍を抜くと自らの太ももへ刺し、動きを止める。




『私は、あなたと世界が天秤にかけられたら遠慮なく世界を選ぶわよ』


『そうしてください。この美しい世界は僕みたいなちっぽけな存在と天秤にかけるまでもないぐらい、何より尊く大切なものです』




「・・・・・・っ!!」



わかっている。


それが彼と交わした、約束だ。


この美しい世界を愛し、慈しんでいたラスター。


どんな景色だろうと、涙を流して自らの目に映し出せることに喜び感動しその命ある限り、世界を光とともに見続けることを誰よりも神に感謝していた。




『また、この青を・・・・・雲の白を、世界の色をこの目で見ることができるなんて』




彼が愛した世界は今、彼の手によって破壊され美しかった森に囲まれた村の姿は跡形もない。


あちこちで森が燃え、爆発はあちこちで起こりまた一つ大切な命が消えていく。


彼の愛した、世界が消えていく。



『・・・・・ラスター』


『ヤメ、ロ!!人間ゴトキが、我ヲ抑エルナドッ!!』






『けど、今はもし命の最後にこの瞳で見るならばあなたがいいんです』






『あなたの願い、叶えるわ』



溢れる涙を拭うこともないまま、ライラは地を蹴ると両手に魔力を込めていく。



『・・・・・愛してる』


『何ッーーーーーーーーァァッ!!!』



炎の剣を出したライラがまっすぐエスベラードの胸にその剣を突き刺し、そこに今ある全ての魔力を込めて一気に叩き込む。


あまりに巨大な魔力の影響で、数十メートル先まで地面が次々と割れて沈んでいく。



『は、ハナせ!!放セッ!!』


『ダメよ。彼との約束だもの。最後にあなたの瞳に映るのは、私だけ』



炎の剣を通して内側から破壊するとともに、エスベラードの体を魔法の呪印の鎖で巻きつけ縛り上げる。




最後まで、共にいるわ。


たとえ、爆発に巻き込まれて死んでも構わない。




その覚悟で、より深く炎の剣を突き刺していく。




『ぐあぁぁぁーーーーーーーーーッ!!』


『ラスター、シャインッ』


『あり・・・・・がとう』


『!!??』



だが、最後の爆発が起こるその寸前にデスペラードの手がライラの体を強い力で突き飛ばす。



その時、爆風に巻き込まれ意識を失う寸前のライラの目に最後に映ったのはラスターの深緑の双眸。













魔女様。


僕にとって大切なのは、あなただ。


もし、この世界とあなたが天秤にかけられても僕はあなたを迷わず選ぶ。



僕のこの瞳はあなたによって光を与えられ、初めて見たものは美しいあなただった。



あの瞬間からずっと、僕の生命と魂はあなたのものだ。




『さよ・・・・なら、ライ・・・・ラ』




目から光を失ってから、彼の瞳が一番最初に映したのはどこまでも鮮やかな『紅』。


そして、彼が最後に映したのもまた世界中のどんな色彩よりも美しく、何より愛しい『紅』だった。



今回の場面、何度も映像ではイメージできてたのに中々書かずにいたのは、書ききるのに相当なパワーが必要だったからなんだなと、書き終わって感じました。


今回も書くことができたのは読んでくださる方がいるからです。

本当に、ありがとうございます!

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