赤と白の紡ぐ糸 17
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
ようやく続きをアップできました。
同じ漫画の同じページの同じシーンで、なぜか何度読んでも涙が溢れる箇所があります。心に響く作品は本当に尊いですね。
シャインとナハトが森のトンネルを抜けた先には木々や草木は一切なくなり、時折置かれた燭台の明かり以外は光のささない暗い岩の通路に出た。
『ナハト、ぼくこわいよ』
ナハトと手を繋いで歩くシャインの身体は震えている。
さっきまで汗ばむほどだったのに、この洞窟の中は肌寒くナハトの腕や足は鳥肌がたっていた。
『大丈夫・・・・もうすぐだから』
ナハトは、普段と同じように暑くても寒くても何ら様子に変わりはない。
岩でゴツゴツした足元は暗がりなこともあり、何度もシャインはつまずきそうになるのだがナハトは全く動じておらず、途中の分かれ道すら迷うことなく突き進む。
『な、ナハト!まって!』
『早く行かなきゃ、間に合わない』
『ナハト!いたいッ!』
明らかに普段のナハトと様子が違うとシャインが立ち止まろうとするものの、それすらも待てないと強引に手を引かれていく。
ナハトは、ただひたすら前だけを見ておりシャインに対して振り向こうともしていなかった。
『ナハト!ぼく、いやだ!ここ、あたまがいたいッ!いやだ!いきたくない!』
『・・・・・・・』
奥へと進めば進むほどシャインの寒気は強くなり頭がガンガンと痛みを感じ、気づけばシャインは涙を流しながらなんとか足を止めようとするが、それでもナハトは止まらず引きずるような形でシャインを連れて行く。
『ナハトッ!!!』
『・・・・・着いた』
『え?』
暗いトンネルを抜けた先には、天井の高い空間もある程度開けた洞窟の広間に出た。
『あそこ・・・・あそこに、赤い石がある』
『!?』
そこには暗い洞窟の中では眩しく感じるほど多くの火が灯された燭台があちこちに置かれ、その中心には古くあちこちにヒビが入った厳かな祭壇があり、地面には模様のように描かれた大きな魔方陣がしかれている。
その祭壇の真ん中に置かれた石の台の上に、ナハトが見つけたものよりずっと大きな『赤い石』が光っていた。
『あかい、いし』
『そうだよ。大きくてキレイでしょう?アレなら、シャインのママもきっと喜んでくれる』
確かにその石は炎の灯りに照らされて、キラキラと輝いている。
キレイだとも思うのだが、それを取りに行こうと思っても足が震えて動けない。
『・・・・どうしたの?』
『な、ナハト。アレ、かみさまのだよ。とったらダメ』
ただの石なのに、怖いのだ。
虫だって動物だって、時には魔物の子どもだって怖がらずに持ち前の好奇心から進んで係わろうとするナハトが、目の前の生き物ですらないその石がとても怖かった。
『違う、アレは君の石だ。君にしか取れない』
『い、いたいッ!!』
ナハトの手がさらに強く、爪が皮膚に食い込むほどにシャインの腕を掴む。
『・・・・・いや、その前に最後の仕上げが終わってなかった』
『しあげ?』
『いつもの、おまじない』
『!?』
ようやくナハトが腕を離し、シャインの額に両手でそっと手の平を当てる。
出会った頃からナハトがしてくれている、元気になる『おまじない』。
おまじないをされると、ジワリとおでこが熱くなり先ほどの頭の痛みも消えた。
『ナハト、ありがと。ポカポカ・・・・ッ!?』
いつもなら、体がしばらくの間温かくなり眠りにつく前のような心地いい感覚に包まれて終わるのだが、今日は全然違った。
熱が出た時のように、体が顔がーーーー熱い。
『な、ナハト?』
『最後のおまじないが終わった。ぼくの役割はこれでおしまい』
『え?』
あまり表情を変えることのないナハトが小さく笑う。
『さぁ、あとは石を取るだけ』
『ナハト・・・・ッ!?』
どんッ!!と、そんなに強くたたかれてはいないはずなのに、シャインの身体は石に向かって足を止めずまるで突き動かされるように前へと進まされる。
頭の痛みは無くなったものの身体の熱は高まり続け、早い動悸が大きな音となってシャインの耳に響く。
こわい、こわいよ!
ママ、パパ、にいに、たすけて!!
そして、シャインの手が祭壇に飾られた赤い石に触れたと同時に、シャインの手に吸い付くようにしてその石が台座から離れる。
『!!??』
その瞬間、祭壇の前にある地面の魔方陣の文字が紅く輝き光が溢れたーーーーーーーー。
『シャインッ!!!』
紅い光が溢れる洞窟の空間に、1人の青年が飛び出してくる。
銀色に光る白髪に褐色の肌をした青年の身体のあちこちには真新しい傷があり、真紅の血が滴り落ちていた。
『に、にいに?』
『シャイン!!大丈夫かっ!?』
頭の先から全身汗を出しながら、今にも倒れそうなほど意識の朦朧としたシャインをアスターがすぐさま駆け寄り力強くその小さな身体を抱きしめる。
『すごい熱じゃないか!!なんでこんなことに!?』
『にいに・・・・ッ!?』
アスターに抱きしめられ、心底ホッとしたシャインがアスターの背を自分からも抱きしめようとするが両手で掴んだ赤い石からどうしても手が離れない。
『ナハトッ!!お前、なんでこんな危険な場所にシャインを連れてきたんだッ!!』
『・・・・・・思ったより、早かったね』
実は、仕事を早々にサボったアスターがシャインの所へ飛んで戻って際に2人の様子がいつもと違うことに気がつき、こっそり後をついてきたのだが途中何度もモンスターが出てきて足止めを食らっていたのだ。
『シャイン、もう大丈夫だからな!すぐに兄貴達のところへ連れて行ってやるからッ!』
シャインの身体の熱さは尋常ではない。
すぐにも兄貴、というよりもシャインの母親である魔女の元へ連れていかなければならない。
シャインの身体は、普通の人間とは違うのだから。
滅多に風邪をひくなど体調を壊すことはなかったが、引いた際はかなりの高熱が続いて寿命が縮むような思いを何度も味わった。
今のシャインの身体は、その時よりもさらに熱い。
『にいに・・・・こわいッ』
『シャイン?』
シャインの全身が震えている。
寒いのかと、より身体をしっかり抱きしめてやるがその震えはおさまらない。
『にいに・・・・たすけてッ!!』
『!!??』
涙を流しながらアスターの顔を見上げたシャインの瞳から紅い光が溢れる。
幼い頃、女手1つで苦労をし何より自分を真っ先に犠牲にしながら俺たち兄弟を育てる母親に聞いたことがあった。
『何でそんな大変な思いをしてまで、おれ達を育てるのか?』と。
ご飯が少ない時も、体の小さな俺たちを何より優先し自分はお腹がいっぱいだからとその痩せこけた体に無理をさせていった。
そんな時、母親はいつだって同じ答えを繰り返す。
『あなた達をーーーーーから』
その言葉の意味を、俺はずっと分からなかった。
『いつか、あなたにも分かる日が来るわ。自分よりも、大切な存在ができたその時に』
母親も兄貴も大事な家族だ。
けれど、それ以外の人間で同じように大事だと思える人間なんてどこにもいなかった。
一生、一人で生きてやる。
別に一人でいることを寂しいとか感じたことはなかったし、村で好きな女は一度もできなかった。
女は怖い。
あの魔女のように、女は男を狂わせる。
魔女のせいで別人のように変わった男達を、変わっていく兄を見て心底恐ろしいと思った。
自分が変わっていく、嫌でも変えられてしまう。
だからこそ自分が好きな女性ができて、そこから家族を持つことなど想像もできなかった。
そんな時、まさかのあの魔女が兄貴との間にできた子どもを産んだ。
あの日、生まれた赤ん坊をこの手に抱いた時、感じたことがない心の奥深くが動いたのを感じたんだ。
その瞳と目があった時。
純粋で無邪気な笑顔を向けられた時。
その小さな手に、指に自身の指をギュッと握られた時。
自分に身体を預け、安らかな寝顔を見せてくれた時。
他にも数えればキリがないほど、その小さな命は俺に喜びと幸せを与えてくれた。
ただ、そこにいるだけで。
生きて、笑っていてくれるだけで。
どんなに辛い時も、大変な時も光を与えてくれた。
俺自身の子どもじゃない。
でも、兄貴を通して血が繋がったその命を、双子だから当然かもしれないが自分と似た面差しを持つその命を、俺は側で共に生きて見守ることが出来ることに初めて魔女に感謝の気持ちさえ感じていた。
言葉では上手く表現できない。
今なら、母親があの時話してくれていた言葉の意味が少しだけ分かるような気がするんだ。
『いやっ!!にいにッ!!』
『・・・・シャイン』
シャインの顔が泣きすぎて、涙でぐしゃぐしゃになっている。
せっかくの可愛い顔が台無しだ。
何をそんなに泣いてるんだ?
あれ?
おかしいな。
お前の涙を拭いてやりたいのに、腕が動かない。
もう一度抱きしめて、お前の温もりを感じたいのに指があがらないんだ。
血に溢れたアスターの身体には、シャインの全身から突然現れた鋭い刃を持つ赤い塊が何十・何百と現れその身体を突き刺していた。
『にいにッ!!!』
いいんだ、シャイン。
もう泣かなくていい。
俺は、お前になら何をされたってお前を絶対に嫌いになることなんてないんだから。
『あなた達をーーーーーから』
そうだな、母さん。
今なら母さんが何であんなにも自分のことを差し置いて、俺達を生かそうとしてくれていたのかよく分かるよ。
理由なんてない。
ただ、そこで生きていてくれているだけでいい。
自分よりも何よりも、愛してるから。
中々更新出来ず、申し訳ないです。
少しでも読んでくださる方がいるというのは、本当に励みになるものですね。
改めて読んでもらえる場所があることに感謝します。




