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赤と白の紡ぐ糸 15

今回も少し間が空いてしまいました。


読んでいただいた方、本当に感謝しかありません。


少し短いかもしれませんが、よろしくお願いします!

お腹の子どもはすくすく育ち、自分がこれまで憎み恨んでいた『男』の性別として無事に生まれた。


けれど、あんなにも強く心を占めていた暗い感情は彼のこの世に出てきての泣き声を聞いた瞬間にその全てが消え去ってしまった。




彼の小さすぎるその手を握りしめた時。


温かいぬくもりと、心臓の音を聞いた時。


初めて彼の笑顔を向けられた時、私の心はこれまで感じたことがない想いに溢れた。



「ライラ様、よくがんばられましたね」


「・・・・アプリコット」



アプリコットは汗だらけのライラの額に、そっと布で触れその汗を拭き取る。



「ですが、大変なのはこれからですぞ?」


「え?」


「まぁ、お一人ではないようですから大丈夫ですかな」


「!?」



アプリコットが顔を向けた先には、白き髪と褐色の肌をしとてもよく似た面差しをした男性が2人。



「ラスターに、アスターまで!」


「魔女様!大丈夫ですか!?」


「・・・・・・・ッ!!」



ラスターは心配げな顔で直ぐにライラの元へ駆けつけると、ライラとライラが抱く赤ん坊を涙ぐみながらもその体を気遣いつつ嬉しそうに触れ、アスターは唇を強く噛み締めながらライラから顔を背けてその場から動かない。



「仕方がないのう」


「アプリコット?」



アスターの姿に笑いながらため息をついたアプリコットが、ライラかは赤ん坊を抱き上げるとアスターの元への向かっていく。



「ほれ、お前さんと血の繋がった新しい家族じゃぞ?」


「なっ!?」



そして、アスターの目の前に生まれたばかりで布でしっかりと包まれた赤ん坊を無理やりその腕に抱かせた。



「!!??」



赤ん坊はアスターの目が合うと、にこっと笑う。


赤ん坊の髪はライラと同じ赤い色。


けれど、肌の色はラスターとアスターと同じ褐色。


そして、その瞳は兄弟と同じ深緑だった。



「どうじゃ、可愛いじゃろう〜〜?」


「か、か、か、可愛くない、こともない!!」



顔を真っ赤にしたアスターがその顔を赤ん坊から思いっきりそらすが、その腕は赤ん坊を落とさぬようしっかりと支えている。



「素直じゃないのう〜〜」



この日から赤ん坊の面倒は実の両親となるライラとラスターよりも、このアスターが誰よりも率先して行ったのはあえて言わなくてもだれもが分かるだろう。











「魔女様」


「アスターったらいつまで抱いてるつもりなのかしら!!ってなによ、ラスター?」


ひとしきり感動に泣いていたラスターの目の周りは真っ赤になって腫れており、涙は未だに出続けている。



「本当に、ありがとうございます!」


「ちょっと、勘違いしないでちょうだい?私はあなたの為にあの子を産んだわけじゃ」


「いいえ。もう何度もお礼は伝えましたが、あなたと出会った時この瞳に光を取り戻してくれたこと、この瞳で自分やアスターと血の繋がる子どもの家族の姿が見れたこと、こんな奇跡を与えてくれたあなたに俺はどれだけの感謝をすれば伝えられるんでしょうか」


「・・・・・残念だったわね。その奇跡の子どもが私のような魔女の血を引く子どもで」


「!?」



涙を止めどなく流し続けるラスターの顔を見ていられず、ライラは顔を背けながら答えた。



「残念なんてっ!!」


「アプリコットの言う通り、大変なのはこれからよ。あの子はこの魔女の血を引く者。普通の人生はまず送れないわ」


「!?」



生まれてすぐに、ライラの魔力の大半を使って強い封印をかけた。


赤ん坊の中で眠る魔力は、身体は幼くてもライラに匹敵するいやもしかしたらそれ以上という、とても恐ろしいモノを持っている。


その魔力が感情のままに暴走しないよう、常にライラの魔力を送り続けて封印が強固なモノとなるように特別な魔法陣を何層も重ねて呪をかけた。


それでも油断はできない。



「安心してちょうだい。あの子は私とアプリコットで、この森の奥でひっそりと育てるわ」


「魔女様!?」



出産後、傷口は魔法で塞いで回復しているとはいえ、長時間のお産による激しい体力消耗の為にフラフラした体をおしてベットから降りようとしたライラの腕をラスターがつかむ。



「待ってください!!なんで、なんで一緒に生きちゃだめなんですか!?」


「それがすぐに分からないなんてどこまでバカなの?あなたはただの人間、私は魔女よ?そもそも住む世界が違うのに必要以上に関わりすぎたわ」



赤ん坊の笑顔を見て感じた。


もしこの子やラスターに何かがあった時、自分の心は信じられないほどに粉々になってしまうだろう。


それぐらい、自分にとって大切なものなんだとあの瞬間。


赤ん坊と目が合い、泣きながら自分の元へ駆けつけたラスターと目と合ったときに分かってしまった。



「あなたの血を引いた子どもなら、別に私じゃなくて他の人間の女といくらでも作れるし産んでくれ・・・・・・」


「魔女様のバカっ!!!」


「ちょっ、あなた誰に向かっ・・・・っ!?」



腕を掴んでいたラスターが力を込めて自分の方へとライラを引き寄せ、抱きしめながら彼女の唇に自分の唇を重ねる。


熱い口付け。


その腕をすぐに振りほどこうとしても、信じられないほどに強くライラが振りほどけない。



「なっ!?あの魔女め、兄貴に何をっ!!」


「無粋な真似はいかんよ。我々は赤ん坊を向こうで休ませてやらねばな」



2人の姿を見たアスターの頭に一気に血が登るが、腕の中に生まれたばかりの赤ん坊がいる為動くに動けず、そのまま笑顔のアプリコットに老婆とはとたも思えない力に押されながら別室へと移動する。




「・・・・・たとえこの先、僕があなたの側を離れても僕は他の女性は愛せません」


「ラスター?」



長い口付けの後でようやく互いの唇を離した時、ラスターの涙は止まっていた。



「僕のこの瞳はあなたによって光を与えられ、初めて見たものは美しいあなただった」



闇から光が差し込み、その光の先でたどり着いた女神。



「あの瞬間からずっと、僕の生命と魂はあなたのものだ」


「あんなの、ただの気まぐれよ!」


「それでも、そのおかげで僕はもう一度この美しい世界を見ることができた。僕はそれが何より幸せだった。もしも神様がいるなら、たとえこの命が今すぐに終わっても最後に世界が見たいと願っていたその望みを、あなたが叶えてくれた」



沈みゆく夕陽。


雨上がりの後に雲間から差し込む、太陽のシャワーと七色の虹。


自然が作った何色にも彩られた森の木々達。


自分らしくそれぞれが美しく咲き誇る花々。


闇夜に輝く降るような星々。




他にも数えきれないほどの世界の姿を見ることができたが、ラスターが一番忘れられない光景は目の前にいる女神が自分の前に現れたあの瞬間。


赤い髪に紅い瞳、白磁の肌に引き立てられた血のように深い真紅の唇。



「けど、今はもし命の最後にこの瞳で見るならばあなたがいいんです」


「!!??」



愛してる。


あなたを誰よりも愛してる。



声には出てないのに、その想いと言葉がライラの頭と心に流れ込む。



「これは僕のわがままであり、お願いです。どうかあなた達の側にいさせてください」


「・・・・・この間みたいな、危険な目に合うかもしれないわよ?」



あのまま、黒い魔女がおとなしくしてるわけがない。


きっとそう遠くない時に、また何かを自分に仕掛けてくる筈だ。



「構いません。僕にとって大切なのは、あなただ。もし、この世界とあなたが天秤にかけられても僕はあなたを迷わず選ぶ」


「!?」



それはあまりにも危険な思考だ。


今は封印されてるとはいえ、アレと意識が繋がったラスターがもし自分と世界を天秤にかけられて脅された時、その選択が世界崩壊の始まりに繋がってしまうかもしれない。


それなのに。



「・・・・・どこまであなたは、バカなの」


「!?」



今度は、ライラからその手をラスターの首へと回して口づける。


嬉しい、と思ってしまう自分がいた。


そう考える自分を恐ろしいと感じつつ、もし自分も世界とこの男と赤ん坊のどちらかを選ばなくてはいけなくなった時、以前のように世界をすぐに選べなくなっているとわかっているから。



「私は、あなたと世界が天秤にかけられたら遠慮なく世界を選ぶわよ」


「そうしてください。この美しい世界は僕みたいなちっぽけな存在と天秤にかけるまでもないぐらい、何より尊く大切なものです」


「・・・・・・っ!!」



優しい笑顔を浮かべてそう告げるラスターを見た瞬間、ライラの心臓が潰れそうなほどに苦しくなる。


それが強がりでもなんでもなく、嘘偽りない彼の本心だと嫌になるぐらい分かってしまうから。



そしてその選択を迫られる事態になる可能性が決してゼロでないからこそ、ライラはラスターの身体をより強く抱きしめる。




愛してる。


誰よりも愛してる。




それはラスターだけでなく、ライラも同じ気持ちだった。



あなたとともに、生きていきたい。









願っていたのはそれだけなのに、その願いは聞き届けられはしなかった。


ラスターとライラの息子である、シャインが生まれてから数年後。


グランシュバルツ王国の末裔だと語る男達が祖国を復興する為、他国を襲撃する手段として以前から考えていた『デスペラード』を蘇らせ兵器として扱うことを本気で決め動き出したのだ。


あなたがいれば、他には何もいらない!


そう思える相手と出会えることは本当に幸せなことです。私はまだそんな相手と出会えていないですが、もしかしたら気づいていないだけで恋愛だけでなく大切な存在は側に在るのに、私がそこに気づけていないだけなのかもしれません。


当たり前の中に、宝物は眠ってたりしますよね。


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