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赤と白の紡ぐ糸 14

いつも読んで頂き、ありがとうございます!


少し間が空いてしまいましたが、無事にアップできました!細かく区切ってあるから多く感じるけども、文章的にはもしかしたら他の過去編とそんなに大したことないのかなと思いますが、まだもう少し続きそうです。




それからしばらくは、平穏な毎日が続いた。






何の変化もない、あのラスターが村の男を殴り飛ばしたことなど皆なかったかのように文句をぶつけ、それを見たアスターが怒り出す。


ライラとラスターも、身体を繋げたのはただの一度きりだけであれ以降は手すら触れ合うことすらしていない。



時々、目線が長いこと交わるだけ。


彼の海の凪のような暖かな陽だまりのような眼差しの中に自分が映ると、不思議とその目から目線が離せなくなる。


あとは、たまに海の夕陽や山からの朝日などを一緒に見にいくだけだ。



同じ景色を見てただ黙ってそばにいると、彼の目からは雫がこぼれる。



その雫が朝陽や夕陽光に照らされて、なぜかとても美しいと感じたのはなぜなのか。



その意味が分からずともそんな穏やかな日々が続けば十分だと、そう感じていたのにその異変は突然やってきた。






「・・・・・・わ、私が、妊娠ですって?」





それは、最近体調の悪さからゆっくりと寝てばかりいたライラに、ラスターが一度でいいから医者に診てもらって欲しいと散々頭を下げて下げて下げすぎて、その姿に情けない!!とアスターから散々怒られ呆れられしまいには殴られ、あまりのしつこさとなぜこんな時ばかり発揮されるその岩よりも硬い頑固さに、呆れ果てることにも疲れ先に折れたのがライラといった矢先の出来事だった。


魔法でいくら回復させようと、気持ち悪さは変わらず体のだるさも一向に取れない。


人間などと身体を繋げたせいだとその選択に対して早くも深い後悔をして日々イライラを募らせていたある時、答えは唐突にライラの目の前へと示された。




「そうじゃのう、それは間違いないわい」



「!!??」




男の医者は死んでもごめんだと、隣の隣街のさらに奥にある森の中に住む年老いた女の医者に診てもらったところ、笑顔でそんなとんでもないことをあっさりと告げてくる。


薬草に詳しいからと薬を作っていたその女は、ある時怪しげな薬を使う魔女だと男達から罪を着せられ逃げているところを助けてやった縁があった。




ニコニコとよく笑うが、他の感情をあまり見せない。


弱そうに見えて意外と内は強い女だ。




自分を襲おうとした男達に怯えるどころか、逃げるふりをしながらタイミングを見計らって、笑顔で命を奪うことはなくとも全身がしばらく痺れるどころではない、かなり危険な毒の薬を躊躇なくぶちまけた強者である。





なんということだ。


まさか、魔女である私が人との間に子を成すなど。



歴代の魔女の中にも、そんな魔女は1人としていなかったに違いない。


人と身体を繋げるだけでも魔力が衰えるというのに、もしまかりなりにも腹の子どもに魔女の巨大な魔力が引き継がれてしまったら、感情の抑えが効かない幼き子どもは大きな爆弾を常に内側に抱えて過ごすことになってしまう。


魔力が暴走すれは、その子ども自身だって周りの命だって保証はない。






いいえ、コレはこの世に生まれてきてはいけないーーーーーーーー。








「生まれてきてはならぬ命など、この世には1つとしてありませんぞ?」



「!!??」





ニッコリと、普段であれば腹に何モツも抱えていそうな癖の強い老婆ーーーーーーアプリコットは静かに告げた。




「どんなに複雑な環境、軋轢な状況の中で授かろうと命は命。意味のない、生まれた時から罪のある命などこの世には何一つとしてありはしません」



「・・・・・・・」





アプリコットは、自分は母が母の父によって無理に身体を繋げた末に生まれた命なのだと、ある時笑いながら話してくれた。


母は罪の意識から自分を生むまいと、何度も腹を傷つけ怪しげな薬も飲んで己の命も危機に晒したのだと。


それでも自分はこの世にずぶとくも生まれてきて、たとえ母が己を心から愛せなくともこの世に生を受けて五体満足に生まれて来れてことが本当に良かったと。




そう思えるまでに時間はかかった。



己の母は、自分を見るたびに罪の意識にさい悩まれ精神をおかしくしていき、ついには神に許しを請いながら自ら命を絶った。


祖父であり父であった男は自分を所有物こように扱い、果ては金の為に奴隷商人へと売り飛ばしたという。




奴隷だった時代のことを、彼女はあまり詳しくは語らない。


ただ、そこから逃げられたのは奇跡としかいいようがないと笑いながら遠い目をする彼女を見て、深くは聞けなかった。


確かに偶然が重なった末のことなのかもしれないが、その環境で決して諦めることも絶望しきることもなく、どんなに地獄のような場所だとて自分の魂と信念を強く持ちながら生き抜いた、彼女の強き心があればこそだ。






もちろん、全てを恨んだ日々も憎しみに心が染まった時も短くはない期間あったという。



それでも、今は命を懸けて産んでくれた母とそれまでのことに感謝の気持ちしかないのだと。


そこへ辿り着くまで、一体どれだけの葛藤と苦しみが彼女を襲ったというのか。




「ライラ様、この音を感じますかな?」



「え?」




アプリコットがライラの手の平を腹に当て、その上から自分の手をそっと重ねる。


数多くのシワが刻まれたその手は、とても暖かかった。






トクン





トクン





トクン






それは、本当にあまりにわずかな音であり感覚だった。




「あなた様のお子は、ここで懸命に生きております。命が生まれて来るということは、その母体もですが子どもも誕生に向けて日々必死なのです。たとえそれが母体に望まれていなくとも、ここに命が宿ったということは決して当たり前ではない、それだけで素晴らしいことなのですじゃ」




「・・・・・・・・ッ!」




しわくちゃな老婆の顔が、まるで同い年くらいの美しい女性の姿でライラの目に映る。


アプリコットがその昔、己の腹に命を宿した時その経緯が決して喜べるものではなかったとはいえ、それでも心に温かい感情が生まれた。




『生きる理由』がその子どもになった。




母として生きる、それが自分の命の使い方なのだと。



だが、その命は腹の外へと誕生することなく天へと還っていってしまった。




「母体となる母親がその変化に大きな不安を感じるように、子どももまた新しい世界へ飛び出すことに不安なのです。我が子は私に似ずあまりに繊細な為、外に出る前に臆病風に吹かれて天へと帰ってゆきました」




子どもの肉体は母体より誕生し、その魂は天から降りてくるという。



その母体を選ぶのは誰でもない、その子ども自身なのだと。





「この命は、あなた様を母にと選んだのです。あなたとともに生きたいと」



「・・・・・・・・・」




アプリコットは普段とは別人のような優しい母親の笑顔になると、腹に手を当てたまま動かないライラへと気持ちがおさまるからと暖かいハーブティーを入れに側を離れる。




己の腹に、その後命が再び宿ることはなかった。



それでも今は少しも悲しくはない。



我が子の肉体はなくとも、魂を近くに感じるから。




命は廻る。



たとえ今生で会えなくとも、繋がる縁があるのならばもう一度どこかで巡り会うこともできるだろう。










その後ーーーーーーーー。





アプリコットの住む小屋の窓から茜色の光が差し込む頃になってもまだなお、ライラは己の腹に手を当てたままその場から動かない。


アプリコットが入れてくれたハーブティーにも口をつけるこもなく、ライラはただただ己の腹に宿る命の鼓動に向き合っていた。



日々、大きく確かなものなっていく命の音と、確かにそこに存在しているんだという意思と魔力とともに感じる魂からの波動。



命は女から生まれてくる。


けれど、女1人では命は生まれない。






「ま、魔女様ッ!か、身体は大丈夫でした・・・・・・・っ!?」



「!?」




満天の星空が天をおおう真夜中、アプリコットの家からの帰り道で雨など振った形跡がどこにもない中で、顔中を汗でびっしょり濡らしたアスターがそれはそれは盛大にライラの前ですっ転んだ。




「・・・・・・・あなたは毎回、どうしてそんな何もないところで転ぶのかしら?」



「す、すみません!魔女様のことばかり考えてたら、ついつい足元が見えなくなってしまって!」




「!?」




自分はアプリコットの場所を彼に告げた覚えはない。


以前のような、彼の中にある自分の魔力が彼をどこかへ飛ばすようなことも最近は起こっていない。



ならば、ここへ来るために彼が出来たことといえばーーーーーーーーーー。





「あなたは、いつもいつも土ボコリまみれね」



「へっ?」



「・・・・・・本当に、バカね」



「!?」




出会った当初から、目の前の男はあちこちですっ転んで全身を土ボコリにまみれ、あちこちに傷をこさえていた。


今もどこでどれだけすっ転んでいたのか、目に見えるだけでも両手がすぐに埋まるくらいの傷跡一つ一つに向けて、ライラはラスターの側で膝をつくとその陶器のように真白の手を伸ばしてそっと優しく触れていく。





「ま、魔女・・・・・・さま?」




普段とは様子の違うライラに何があったのかを問いかけたい一方で、これまで見たこともないほど穏やかにそしてより美しく艶やかに笑うライラから一瞬も目が離せないラスターは、思わず言葉を飲み込む。



ライラは最後に両手でラスターの顔を包み込むと、擦りむけて赤く腫れたラスターの額へと紅き唇を静かに寄せた。



家族は、本当にありがたいものですね。


そのことに中々気づかず、気づいてもすぐに当たり前になってしまって感謝が薄れてしまうことが多いので余計に意識していないとですね。

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