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赤と白の紡ぐ糸 12

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


以前の設定を色々読み返しながら書いてはいますが、もし違っていたらお許しください。



そして、事件は起きてしまった。










その日ライラは魔法陣に違和感を感じて、朝から様子を見守っていたのだが今のところ何ら異常は見られない。


封印はきっちりと結ばれたままだし、ほんのわずかな綻びでもあれば魔力がそこから漏れ出てすぐさま異常に気がつくはず。


そもそも、魔法陣の封を開けられるのは赤い魔女としての魔力を持つ自分だけだ。


これは先代がその魔力と生命をかけて編み込んだ、封印式の中でも最高傑作。


魔力のパワーだけは桁違いなデスペラードといえども、繊細で複雑な魔法陣を何層にも重ねられて造られたこの鉄壁の網目からはそう簡単に逃れることはできない。





なのに、胸騒ぎがする。





村もかつての城跡も、この辺一帯の魔物もなりを潜めているのか平和そのもので薄気味悪いほどに静まり返っていた。







まるで、嵐の前の静けさのようなーーーーーーーー。












「!!??」




その時、ほんの一瞬の異変が起こった。



綻びというにはあまりにも些細な、満点の星空の中から一番光の小さき星を探すかのような、そんな普段なら見過ごしてもおかしくないぐらいの些細な異変。



それでも、なぜそのことにこれまで気づけずにいたのか。




「・・・・・・どういう、こと?なんでここから、ラスターの魔力が?」




一瞬の異変を感じた箇所にその美しい陶器のような真白の手をかざしてみれば、そこから感じたのは馴染みのある魔力。


いや、自分と彼とのモノが混ざった魔力がそこからわずかに感じられた。



ラスターがここへ来て何かしでかしたのか?



いや、この場所は自分に忠実な炎の戦士に守らせていたから、彼がそれをかいくぐって魔法陣にたどり着けるわけがない。







ならば、なぜーーーーーーーーーー?










『・・・・・・めろっ!!兄貴っ!!!』



「!!??」





その時、この場からは少し遠い地より『彼』の声がライラの脳裏に鳴り響く。


その声には強い焦りと戸惑いと、そして恐怖が込められていた。





「・・・・・・スターッ!!」







心臓が早鐘を打つ。




胸がざわめく。




早く、早く『彼』の元へ飛ばなくては!!




頭にはデスペラードの魔法陣がちらつく。




完璧な魔法陣に生じた、ほんの僅かな綻び。




明らかに違和感を感じてならない、『彼』の変化。




優しすぎて実の弟にですら手を上げたことがない『彼』が、村の男にその手を上げた。





一度も誰かに暴力を振るったことのない彼の拳は、そのたびに痛み赤みをおびていた。










そしてその『彼』の拳は今、血にまみれている。




「ラスター!!あなた、何をして・・・・・ッ!?」



「ま、魔女ッ!!貴様!!今までどこで何をしていたっ!!」




ラスターの拳は、目の前で地面に倒れて気絶している自分よりも体の大きな男を繰り返し殴った為に裂傷で皮膚のあちこちが擦りむけ、痛々しいほど赤く腫れ上がっていた。


アスター自身もラスターを止める際に無傷ではいられなかったようで、あちこちに大きめの傷ができており血が流れている。





「・・・・・・・してやるッ!!」



「あ、兄貴っ!!もう止めてくれっ!!」




悲鳴をあげるアスターが全力で『彼』を後ろから羽交い締めにし、その動きを必死に止めていた。


『彼』の褐色の肌には見覚えのある紋様が浮かび、その新緑を思わす瞳には穏やかな光ではなく、『憎しみ』の炎が揺れている。






そう、その紋様はーーーーーーーーー。







「・・・・・・・殺してやるっ!!!!」



「!!??」





その紋様は、デスペラードの全身に刻まれていたとされるもの。


ライラ自身も直接ではなく、知識としてでしかないがあの紋様を自分が間違えるはずはない。


気づけばラスターの足元からは黒い炎が湧き上がり、彼らを包み込んだ。




「な、なんだっ!?この炎はっ!?」



「ラスター!!!」




すぐさま2人の周りに赤き炎を燃え上がらせると、黒き炎ごと一気に包み込む。






「・・・・・・・なせっ!!」



「ぐあっ!!!」





黒い炎は瞬時に消えたもののラスターの表情から憎しみと怒りは消えず、自分の動きを止めていたアスターを睨みつけると強い力で殴り飛ばし、すでに血だらけで意識のないまま倒れている村の男へと再び襲いかかる。





「やめなさいっ!!!」



「!!??」




村の男がどうなろうとライラには関係ないが、ラスターの身に何が起こっているのかを見過ごすことはできない。


村の男とラスターの間に入り込んだライラはラスターの両手の手首を掴むと、そこから一気に自分の魔力を彼の中に注ぎ込む。





「・・・・・・うぐっ!!あぁッ!!!」




その魔力に反応し、ラスターはうめき声をあげながら全身に走る苦痛に顔面を強くゆがませた。



生半可な魔力では『アレ』の魔力に敵うわけがないと、手加減せずにありったけの魔力を一気に注ぎ込む。






「ぐあぁぁぁーーーーーーッ!!!」



「・・・・・・・ッ!!!」





ライラの強い魔力が2人の立つ大地から大きな風を巻き起こし、亀裂を入れながら砂と石が嵐とともに吹き飛んでいく。



そして次の瞬間、2人の周りには大きな炎が湧き上がり球体となって包み込んだ。










どういうこと?



どうして、どうしてラスターの身体にデスペラードの紋様と魔力がっ?!



いや、それよりもこんなにも強く彼にその魔力が宿っていることを、なぜこれまで自分には全く感知できなかったのかっ!!






胸騒ぎと違和感はずっと覚えていたのに。








なぜっ!!??












『それなら答えは簡単♫』



「!!??」





誰っ!?



頭に直接響いてきた『声』の持つあまりに禍々しい魔力の気配に、ライラの全身に寒気が走る。




『初めまして、かな?赤い魔女のライラ♫』



「・・・・・初めての相手なら、自分から名乗りをあげるのが、礼儀ではないかしらっ!?」





声の主をどれだけ探しても、その姿は見えない。


もっとよく探そうにも、少しでも魔力の矛先をずらせばデスペラードの魔力で今にも暴れだしそうになっているラスターを抑え続けることができない。




『あははっ!名前なら、僕はいつも黒い魔女って呼ばれてるよ♫』



「!!??」





黒い魔女、ですって?



あの、デスペラードを生み出した?




『それは前の黒い魔女♫僕が作ったわけじゃないけど、こんなに面白いオモチャを放っておくなんてもったいないじゃないか!』





ケラケラケラケラ。



ライラの気持ちを逆なでするような響きを含めて、声の主は笑い続ける。




「デス、ペラードを・・・・・蘇らせたいなら!あの魔法陣を、破壊すればいいじゃないっ!!」





それだけの魔力が声の主に在ることを、認めたくはないが嫌でも感じとってしまった。


なのに、実際に行われたのは針の穴のような小さい綻びのみ。




『だって、それじゃあまりにもつまらないじゃないか!どうせなら、手間暇かけて楽しまないと♫』



「くっ・・・・・あの、怪物も!!お前の仕業ってわけね!」




ライラの頭の中に、自分を捕らえ陵辱しようとその君の悪い舌と大きな手とで襲いかかってきた怪物の姿が蘇る。


どす黒い欲望に心を支配されたあの狂気の眼差しが、どれだけ忘れようとしても自分の中から消えない。




『あははっ!君へのプレゼントにしては、アレは陳腐な失敗作だったネ♫だから、今度は君のお気に入りにしたんだ〜』



「お気に、いりですって?」



『こいつの魔力を消すのはちょ〜〜っと工夫が必要だっけど、一度繋がってしまえばホ〜ラ簡単♫ただの人間がデスペラードの力を得られるなんて、すごいことじゃない?』



「・・・・・・・さないっ!あの人を、傷つけるやつは、僕が絶対に許さないっ!!」



「!!??」




怒りと憎しみで血走ったラスターの目からは、涙が溢れていた。


強く食いしばった口元からは、デスペラードの魔力でもって変形され鋭く尖らされた歯で切ってしまい血が流れている。




彼が今怒っているのは、自分の為ではない。




村人から忌み嫌われ、支配することで自身の力を誇示したいと貶めるような言動をされたライラの為。





本当の彼の心は、ずっと今も泣いているのだ。








『これは、彼が望んだんだよ♫』





ラスターの涙に目を奪われているライラの頭の中に、次々と黒い魔女の声が鳴り響く。





『彼は、願ったんだ』





『君を守る為の力が欲しいって』





『君を傷つけ、汚す輩から君を守る為の強い力が自分に欲しいって』





『そして、君を誰にも渡したくないとも願った』




『だから僕は、そのお願いを叶えてあげたんだよ?』




『君のことを村人が傷つけ、汚そうとするたびに彼の心は怒りと憎しみでいっぱいになっていった』




『そのたびにデスペラードの魔力が彼の中に流れていったけど、まさかただの人間がこれだけの闇の魔力を得てもまだ破裂しないでいるなんて、本当にすごいよね!』




「・・・・・・・・・」




『あははっ!さすがは君のお気に入りだ♫』




「黙りなさいっ!!!!」




『!?』







ゴオォォォーーーーーーーーッ!!!!








ライラの叫び声とともに、深紅に燃え盛る業火がラスターを一気に包み込む。


火が消えた時、そこには身体の紋様が消え意識を失ったラスターが現れそのままライラの元へとゆっくり倒れこんだ。


彼の腕を掴んでいたライラは手を離し、ラスターの身体を受け止めるとしっかりとその身を抱きしめる。





『お見事〜!でもこれはほんの一時しのぎ!また同じようなことがあれば、彼は本格的に目覚めてしまうかもしれないネ♫』




「・・・・・・いつまでも姿を現さないで声だけなんて、ずいぶんと小心者の魔女様なのね?」




未だ声のみで気配すらも上手く隠している黒い魔女に向けて、ライラが口元に怪しげな笑みを浮かべたままつぶやく。


もし目線で相手が殺せるのなら、もうすでに何度だって射殺しているだろうほどには強い怒りの感情でいっぱいだったが、どれだけ探してもその姿を捉えることができない。




『そう、僕は怖がりだから君の前になんて恐ろしくて出られないよ。でも、その代わり僕は優しいからヒントをあげる♫』




「ヒント、ですって?」




『とっても簡単!君に選べる道はこの2つ。1つは彼を殺してしまうこと♫』




「!!??」




『彼の身体が壊れれば、彼に宿した魔力もまた行き場を無くして霧散する。君がこれまで色んな男に散々やってきたことじゃないか♫ほぉら、とおぉ〜〜っても簡単でしょ?』






そうだ。



これまで自分を傷つけようとした男達はいつだって返り討ちにしたし、時には命を奪いかねない大怪我を負わせもした。



自分だけではなく、村の女に乱暴しようとした男達を怒りのままに炎で下半身が2度と使い物にならなくなるほど燃やしたこともあった。


女をモノのように扱う男に情けなど欠片も湧いてこず、命を奪わなかった自分を心から褒めてやりたいぐらいだった。






『もう1つはーーーーーーーーーだよ♫』



「!!??」




私の役割は、魔法陣を守りデスペラードを蘇らせないこと。



でも、今目の前にいるラスターの身体はデスペラードと繋がり、このままその魔力が彼の中でこもれば彼自身がそこに飲まれてしまう。




それだけではない。




デスペラードが蘇り、あの巨大な魔力が暴走してしまったら今度こそ世界の大半は滅びの道へ繋がってしまうだろう。




そう。



迷う必要などどこにもない。






『あははっ!どちらも簡単でショ?僕って、なんて優しいんだろう〜♫』




「・・・・・・・・・」








迷う必要など、どこにもないーーーーーーーー。




会話文だけ先に場面が降りてくる時に、とりあえず会話のやりとりばかり先に書いてしまいます。


それだけだと伝わりにくいこともあり、後から会話以外も足していくんですが表現力の乏しさを感じてしまう日々です。

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