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赤と白の紡ぐ糸 11

珍しく続けて降りてきたから、そのままアップします!


それでも亀の歩みなのは変わりませんが。


『あの日』以降、何かが『彼』の中に変化しているのを感じて胸がざわめいてしょうがなかった。






「クソ魔女が原因で、兄貴が危険な目にあったっていうのに、なんで俺がこいつにお礼を言わなきゃいけないんだっ!!」



「アスター、魔女様がいなければ僕はお前にこうして会えなかったんだから、ちゃんとお礼を言わなくてはダメだろう?それに、人に指を指してはいけないって何度言えば分かるんだい?」



「う、うるさいっ!!このバカ兄貴っ!!お前は血を分けた俺と、この化け物魔女とどっちの方が大切なんだっ!?」



「アスター、お前はまた何でそんなことばかり聞くんだ?そんなの・・・・両方に決まってるじゃないか」




「!!??」




怒りで顔を真っ赤にしてラスターに殴りかかるアスターと、そんな弟が何で怒っているのかも分かってないラスターの穏やかな笑顔の平和なやり取りがライラの前で先ほどから繰り返し行われている。




「・・・・・・まったく、おんなじような顔をして、何をバカなことをしているのかしら?」




騒がしく目障りこの上ないものの、先日ラスターから一瞬だけ感じた違和感の正体をつかむためには、側で彼の魔力を感じ続けなくてはならない。




あれ以来、全身が湧き出すような魔力の気配は一切感じない。


村も元の日々に戻り、変わらない日常を繰り返す平和そのものだ。





だが、何かがライラの心に警鐘を鳴らしている。





見逃してはいけない何かに蓋をされているようなーーーーーーーー。






「でも、ここからは何も感じないのよね」




魔法陣からは何の魔力も感じず、いたって正常な状態だった。


ラスターを見ていても変わったところは見受けられないし、ただの同じ顔した兄弟喧嘩?を繰り返し見させられるのにもすぐに飽きがきた。




「・・・・つまらないケンカなら、他所でやってちょうだいな」




「つ、つまらないとは何だっ!!だいたいお前が全ての元凶じゃないかっ!!」




ラスターの胸ぐらを掴んでいたアスターが、先ほどよりもさらに真っ赤な顔でライラに詰め寄っていく。




「フフ・・・・・確か、お前の命を私にくれるんじゃなかったかしらね?」



「う、うるさいっ!!あ、あれはただの気の迷いで、お前なんかにこの俺の命などくれてやるものかっ!!!」



「あら、残念♪お前が泣いて助けを請う姿は、けっこう・・・・・そそるものがあったというのに、ね?」




「!!??」



ライラの深紅に彩られた爪を持つ細く美しい指が、ゆっくりとアスターの顎のラインをなぞる。


その顔には先ほどまでの呆れた様子は消え、妖しげな雰囲気をわざと醸し出してその熱い眼差しをアスターへと注いだ。





そして、その様子を見ていたラスターの表情が一瞬にして固まる。





「な、なにを・・・・・!?」





ラスターに向けてあんなにも遠慮なく文句を叫び、手加減しているとはいえ感情のままに力と想いをぶつけていたはずのアスターは、その眼差しから目が離せない。



心臓が感じたことがないほどうるさく鳴り響き、顔の熱は今にも火を吹きそうだった。





やっぱりこの女は危険だっ!!





アスターの中で、女という生き物は理解ができない異質な存在に近かった。


母親以外の女性との関わりはあまりなく、村にいる同じ年頃の女性は感情がコロコロと変わり、何を考えているのかさっぱり分からない。




その中でも、一番異質で恐怖まで覚えるのが目の前の『赤い魔女』だ。


視界に入るだけで自分の心をざわつかせて、感情が揺すぶられる。


兄貴が無事に帰還し、その姿を見た時にはあんなにも心が喜びにわき、祈った覚えのない神にすら感謝したいと感じたぐらいなのに。


その兄の隣にこの女の姿を見つけた時、心が一気に熱い炎で埋め尽くされる。




赤い魔女は兄と親しげに視線を交わし、言葉はないのにその眼差しで何かを語り合っていた。





『何か』が事件の前と違う。






それを感じた時、自分の心はわけのわからない怒りに埋め尽くされたーーーーーーーー。














何が、違うというのかしら?






今目の前で自分が触れているアスターと、全く同じ顔をしたラスターと。



自分の魔力の痕跡があるか、ないかなのか。



こうしてアスターに指先を触れていても、何も心が動くことはない。



まぁ、こちらの一挙一足、一言一言に表情がめまぐるしく変わる様は見ているだけでもおかしくてつい笑いがこみあげてくるのだけれど。





あの、ラスターに触れた時のような魂の震えは何も起きない。



もっと触れたいと、この自分が自ら男の胸の中に入りその中で喜びや安堵を感じるなんて。





いや、これはきっとあのおぞましい怪物のせいだ。


あの怪物に汚されたこの身体の記憶を、アレよりは大丈夫だと思えるラスターで上書きしたいと思っただけ。






それだけ、だーーーーーーーー。








「・・・・・・・なれろッ!!!」



「!!??」





その時、一陣の強い風が一瞬吹き荒れ、ライラとアスターの身体を引き離す。




「あ、あに・・・・・き?」




風に巻かれたアスターはその場に仰向けに転倒し、見上げた先にいた兄の顔を見て思わず声をかける。



どんなに理不尽な理由やことでアスターとケンカになり一方的に怒られようとも、ラスターは困ったり戸惑ったりすることはあっても自分に対して怒りの感情を向けたことはなかった。


アスターが他人にたいして無礼な対応した時も怒った表情は浮かべているものの、それは自分への直接の怒りの感情ではない。




「ら、ラスター?あなた・・・・・・?」




それなのに、今ライラとアスターの目の前にいるラスターはアスターに初めて見るような怒りを向けていた。



その両手は強く握りこまれ、鋭く強い視線はアスターへとまっすぐ注がれている。





「あ、兄貴?ど、どうしたんだ?」



「・・・・・・・・・え?あ、あれ?」




だが、次の瞬間その表情はすぐさま穏やかできょとんとした、いつものラスターの顔で不思議そうに2人を見返す。




「どうしたんだい?2人して僕を見つめて。ひどい寝癖でもついてたかなぁ?」



「・・・・・・・・・」




うーーんと、首をかしげながら無造作に揺れていた髪の毛をさする姿は、見慣れた光景の1つだ。


普段から身なりにそんなに関心のないラスターは時々それはひどい寝癖のままでも外に出て、影でこっそり村人に笑われている姿に我慢できなくなったアスターがラスターを怒りながら引きずって家に連れ戻すことは割と頻繁に行われている。



別に誰も僕なんて気にはしてないよ〜と笑うラスターに、笑われるのはお前だけじゃない!!と本来の理由を告げず、毎回懲りずに連れ戻している姿に何度ため息をついて呆れたことか。




「あ、兄・・・・・・・・ッ!?」



「ーーーーーーーーッ」




さっきのは一体何なのか!?と詰め寄ろうとしたアスターに、強い視線でそれ以上は黙ってなさいとライラが無言で告げる。




彼には今の自覚がない。





それはきっとあの違和感と同じものに違いない。


だからこそ、その違和感のわけを慎重に確かめなくてはならない。









そしてその違和感は次第に頻繁に感じるようになり、ラスターらしからぬ言動が多くなっていく。







「い、いきなり・・・・・何しやがるっ!!」



「あ、あれ?」




普段なら、村の男にやっかみをかけられても殴られるままか、その体内でわずかに存在する赤い魔女の魔力でもってその場から消えることがほとんどなのに。



今その男はラスターによって勢いよく殴り飛ばされていた。



殴ったラスターの拳がじんじんと痛む。




「て、てめぇ!!ラスターの分際でっ!!」




まさか反撃が来るとは思ってなかった男は、怒りのままに同じかそれ以上の痛みを負わせようと拳を振り上げるが、その拳は彼には届かない。




「あ、あちっ!!あちぃぃッ!!お、俺の手が燃えてやがるッ!!」




突然火をふいた己の拳に恐れおののき、恐怖で混乱したまま男は一刻も早く火を消すために水辺へと駆け込んだ。



駆け込む頃には火は跡形もなく消え、火傷の跡がどこにもないことに安堵でしばらくはおとなしくしているだろう。




「うーーーん、これってもしかして、魔女様・・・・・・・かな?」





火は赤い魔女の魔力そのもの。




だが、辺りを見回してみても彼女の姿は見つけられない。




「ありがとうございま〜〜〜す!赤い魔女さま〜〜〜!!」




とりあえず助けられたお礼を言わねばと、空にむかって彼にしては大きな声で叫ぶとラスターは笑顔で目的の場所へと足を進めた。



「あれ?そういえば、何で僕の手こんなに痛いんだろう?さっき転んだ時にうっかりすりむいたかな?」



今日は、森で薪代わりとなる枝集めだ。




「まぁ、手が使えるなら問題ないよね♪」




「・・・・・・・・・・・」




そのラスターの後ろ姿を、彼からは死角となる場所から紅き炎の化身が一心に見つめている。



先ほど彼が殴り飛ばした男は、村でも有名ながたいがよく腕っ節が自慢の大男で自分の力に絶対の自信を持っていた。



その自分の力を赤い魔女である自分に向けて試し、服従させることが当面の目標だと偉そうに他の村人の前で語るものの、赤い魔女の住処には近寄りもしないその心は体よりはるかに小さい愚かな小心者。



今も、赤い魔女を力で押さえつけてそのプライドを粉々に砕き、肉体も心も支配してやると言葉だけは大層なことを言い放っていた。



それを他の村人の前で言い放つのは今回が初めてではなく、村人もだんだんそれが言葉だけなのだと心は半ば呆れた様子で見ている。



ラスターだとて先日までは悲しい顔をして彼を見ていたはずなのに、今回は様子が明らかにおかしかった。





いや、今回だけではない。





村人が赤い魔女を憎み嫌っていることなど、生まれた頃から当たり前であり十分に知っていたはずのラスターが、自分の話題で相手に感情のまま殴りかかったり、憎しみのような眼差しを向けることが多くなった。



だが彼はそれを無意識にやっているようで、事が起きてもそこに自覚はほとんどない。



前のように、彼が自分の魔力を使って姿を突然消すこともなくなった。







一体、彼に何が起きているというのかーーーーーーーー?









少しずつ、『それ』は彼の中に降り積もる。




普段怒らない人の方が、いざ怒らせた時に強いと聞きます。

怒りは普段から小出しにしないと、気がよどんでしまい、そのよどみに魔が入ることもたるからだとか。


私も溜め込みやすいので、気をつけたいと思いますって全然本編と関係ないですね。

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