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赤と白の紡ぐ糸 7

今回も読んで頂き、ありがとうございます!


遅くなりましたが、ようやく続きがアップされました!


憧れと自分らしさは、実は真逆の位置にいるらしいですね


俺にとって兄貴は、生まれる前から一緒にいた『もう1人の自分』だった。




素直じゃない俺と、素直で優しい兄貴。




短気ですぐに怒り出す俺と、穏やかでいつでも笑ってる兄貴。




同じ母さんの腹から、同じ時に生まれたはずなのに、俺達の心は全然別のものだった。






あの時、兄貴がその目から光を失った時も。




俺はただ、怖くて動けずにいた。




でも、兄貴は迷わず飛び出し、その目から血をたくさん流している時ですら自分のことではなくて、兄貴のことでショックを受けて泣く俺を大丈夫だからと慰めていた。





その日、俺は決めたんだ。




兄貴は俺が守るって。





もし何か兄貴の身に危険が起こった時は、どんなことがあろうとも俺が盾になるって。






そしてある時、そんな兄貴の瞳に光が戻った。




魔女の力によって。



魔女を忌み嫌う街の男達とグルになる気は全くなかったが、あの女を見ると心の中がぐちゃぐちゃにかき乱され苛々してならない。



余裕ぶって見下して、俺達を上から見ているのが分かるから。


侮蔑の意を込めた、虫けらを見るようなあの憎悪に溢れた鋭い眼差し。



そんな魔女を屈服させ、支配される屈辱から出る苦痛でその美しい顔を歪ませたいと他の男達は下卑た考えを持った者もいたようだが、自分はそれとは違った。




あの魔女がいるから、男達の心は乱れて狂っているのではないかと思った。



人間とは思えない妖しげな美しさを持ったあの魔女に魅せられて、正常な精神が持てずに歪ませられているのではないかと。



いつか、心優しい兄ですらもその魔の持つ魅力に囚われるのではないかと危惧していたおり、俺自身が赤い魔女の呪いと言われていた『紅の呪い』にかかった。




母さんの命を奪ったものと同じ、治療薬を得られなければ短期間でその命を確実に奪う恐ろしい病。



兄貴は目が見えないくせに、治療薬となる『カナリエ』を探してくると看病の合間に毎日家を出るようになった。






見つかるわけがない。






母さんの時には、2人してあんなにも必死になって探したのに一輪だって見つからなかったのだ。





『大丈夫だよ、アスター。神様がきっとお前を助けてくれる』






何が神様だ。






どれだけ祈ったところで、神は母さんを助けてくれなかったじゃないか。



あんなにも毎日神に祈り感謝し、真面目に働いて俺達をその身を顧みずに育ててくれた母さんを、何の慈悲も見せずに見捨てたじゃないか!




俺は、神様なんか信じない!




死ぬことなんか、怖くない!





けど、ただ1つ怖いのは俺が死んだ後に残される兄貴のこと。


目が見えず、何にもないところでもすっ転ぶようなドジで、要領も悪いから街のガラの悪い連中にも上手く取り入ることもできなくて。



殴られてケガばかりなのに、怒ったり反撃することもしない、バカでお人好しな兄貴。



自分の方が大変なのに、いつだって弟の俺が心配だと気にかけ、どんな時も笑顔でいるところが母さんにそっくりな兄貴。




そんな兄貴が、ある日突然『カナリエ』を見つけた!と大声で家に帰ってきた。





バカな兄貴。





目が見えないのに、どうしてそれが『カナリエ』だなんてお前にわかるんだよ。




どうせ、似たような姿形をしたその辺に咲いてる雑草か薬草の1つなんだろう?




それでもきっと、ドジな兄貴はあちこちで転んで全身砂と泥まみれで、ケガも多少しながら一生懸命探してくれたんだろう?







もう、十分だよ。






兄貴はこんな街にいちゃいけないんだ。



もっと平和で穏やかな小さい村で、心優しい人達と平和に暮らしたっていいんだ。





『アスター!もう大丈夫だよ!』



『!?』





その瞬間、兄貴が俺を『見て』いた。


その瞳がまっすぐに俺を見つめていた。




『あに・・・・き?』



『うん、そうだよ!僕にはお前の顔がちゃんと見えてる。すごいな。もうしっかり大人の男の顔をしているじゃないか!』




兄貴は、予想通り砂と誇りと泥まみれで、あちこちに擦り傷をこさえながら、それでも心から嬉しそうに眩しい笑顔を俺に見せた。





その時俺は、生まれて初めて『神』とやらに感謝した。




『紅の呪い』が治った時、俺自身よりも兄貴の方が泣いて喜んだ。






これからは俺が兄貴を守る。







そう誓いを立てていたはずなのに、またしても俺は兄貴に守られた。


そんな兄貴を暗闇から救ったのは、あの魔女だった。





兄貴は、その目に映る景色とそこに在って溢れてやまない様々な色とりどりの世界に感動していた。



俺には当たり前にそこにいつも在るはずの何の変化もない青い空を眺め、たまにその形が変わるだけの白い雲を眺めていた時もあれば。


森の中で咲く花々に魅せられ、鮮やかな色合いは危険と隣り合わせなことが分からない兄貴はもう少しで毒花の栄養分になるような危険な時もあった。





そう。





兄貴に、心からの笑顔を与えたのはあの魔女だった。




『アスター!!お前にも見せたかったよ!!』





眩しいほどの笑顔を向けた兄貴を、俺はこれからも一番近くでずっと見ていたかった。









けれどーーーーーーーーー。







「・・・・・・・・ぐあぁっ!!」





アスターの口からから、呻き声が漏れる。




「お、オマエが、らスターか?」



「はぁ、はぁ!そ、そうだ!お・・・・僕が!僕がラスターだっ!!」




アスターの身体をつかんだその鋭い爪が彼の肉に食い込み、その皮膚からは紅き血が滴り落ちる。



突然、目の前に現れたそのモンスターは『ラスター』を探していた。



こんな化け物を、『ラスター』に会わせるわけにはいかない。



とっさに彼のフリをしたアスターの身体をものすごい速さと、あり得ないほど強力な力でつかんだ化け物は、彼がどれだけ攻撃を繰り出しても軽々と避け彼の身体に爪をつき立て、何度もその肉を引き裂いた。




「・・・・ァァーーーーーーーッ!!!!」





これまでに味わったことのない痛みがアスターを襲う。





「お、おマエが死ネバ・・・・あ、アノ女は俺ノモノだ!!!」




「!?」




人間のものとは違う、鋭い切っ先をもった歯の隙間から、よだれがぼたぼたと地面へと滴り落ちていく。


その顔は恍惚に歪み、必死に痛みを耐えるアスターの血がついた自身の指を長い舌でゆっくりと舐めとった。




「お、オデの、俺ノ物だ!オ、オデの物っ!!」



「・・・・・・ゾ、ラ?」




見た目は全くの別物だが、その化け物の声は街で聞いたことのある男のモノによく似ていた。




やはりあの女は、魔女は魔性の女だった。




あの女のせいで街の男達の心は狂わせられ、ついには化け物へと変貌してしまった。



あの女のせいで、兄貴はその命を狙われたのだ。






あの女の、せいでーーーーーーーーーー。






「ら、ラ、らスターー!!し・・・・・ネっ!!」



「!?!?」





全身に突き刺さる痛みと、流れ落ちていく血液の為にアスターの意識が遠のきそうになる。






あぁ、これでようやく俺は、兄貴を守ることができたんだ。




兄貴の目はもう光に溢れている。




途中どれだけ転ぼうと、兄貴の足は新しい場所へすすんで前に進むだろう。





頼むよ。




頼むから、兄貴は幸せになってくれ。




これまで色んなことを我慢してきた分、これからはどうか好きなように生きてくれ。







「あ・・・・・・・・にき」



「アスターーッ!!??」



「!?!?」





あぁ、神はなんて残酷なんだ。



化け物に全身をその爪で切り刻まれ骨を折られ、血を流して動けずにいる俺の前に、『もう1人の俺』が現れた。




なんで、こんな時ばかりお前はすぐに駆けつけるんだよ。



いつもはどれだけ探したって、俺には追いつけないところに行っているくせに。



あの魔女でないと、見つけられないところに1人で勝手に行ってしまっているくせに。




どうしてこんな時ばかり。




お前はここへ来てしまうんだ?





「ら、ら、らスターが、フタリ?」



「・・・・・・がう、お・・・・・俺が、ラスターだっ!!」






頼むから、今すぐここから逃げてくれっ!!



魔女の力だろうと、この際何でもいい!!





逃げろっ!!!





ここからすぐに逃げて、生きてくれっ!!





『アスター!もう大丈夫だよ!』




「!?!?」





アスターの耳に、子どもの頃のラスターの声が鳴り響く。




「アスター、怖かったろう?もう大丈夫だよ」



「あ・・・・・・・にき?」




いつも通りの穏やかな笑顔のラスターの姿を最後に、血塗れのアスターの身体はその場から一瞬にして消えた。



その場に残されたのは普段は決して見せない表情をしたラスターと、長い舌で舌舐めずりしながらラスターへと向き合った化け物だけ。






いや、片方は化け物と化したものの同じ女へと熱い想いを募らせた男達だけであった。




プライベートが充実するのはすごく嬉しいんですが、そうすると小説の続きを中々書けず、日々時間が足りない!と思ってしまうこの頃です!

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