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赤と白の紡ぐ糸4

今回も読んでいただき、感謝です!


中学校の授業で一番好きだったのが美術です。

課題の絵を早々に終わらせた後は、いつもスケッチブックの一番後ろのページに自分が書きたい絵を絵の具で自由に描いて楽しんでいました。


『色』は本当に素晴らしいです!


『彼』の魔力は自分の魔力とブレンドされていて変化しているとはいっても、どちらもライラには覚えがあるもの。



その2つに向けて精神を研ぎ澄ませれば、すぐにも見つけることができた。



「いたっ!!」



空間の先に目的の気配を捉え、そこに向かってさらに勢いをつけて跳ぶ。


そこはライラが予想だにしてなかった、まさかの大海原のど真ん中。


浜辺近くならまだしも、なぜこんな岸から遠く離れた海の中心に『彼』がいるというのか?



「ラスター!!どこにいるのっ?!いるならすぐに返事をしなさいっ!!!」



魔力の気配からこの辺にいるのは確かなのだが、どこを見ても青々としていて目印の白髪だけを頼りに声をはりあげ目をこらす。



「まさか・・・・もう海に沈んでしまったのかしら?人間は肺呼吸しかできないから、海の中では5分ともたないはずだけど」



もし彼の生死のせいで『デスペラード』の封印に多少だろうと綻びが生じては堪らない。


あれは自分よりも魔力の強い先代が、その命をもってやっと封じた最強クラスのパワーを有する厄介極まりない魔物なのだ。



できることならば、このまま永遠の眠りについていて貰わなければ。




「ラスター!!死んだなら死んだと言いなさいっ!!」



「・・・・・さ、さすがにそれは無茶過ぎやしませんか?魔女様」



「!?」




大きな水しぶきの音とともに聞こえてきた『彼』の声のする方向へ慌てて顔を向けてみれば、そこには海から頭だけをなんとか出し海上に浮かぶ大きめの木片に両腕でしっかりとしがみついているラスターがいた。



「ラスター!?あなた、こんなところで何をしているのっ!!」



美しい彼女の足の先を守る、真紅のハイヒールの靴でもって彼の頭をぎゅうぎゅうと空に浮かびながら強めに踏みつける。



「い、痛いです・・・・いや、街の男達に殴られ続けてたら意識が朦朧となったんで、せめて死ぬ前に見たことがなかった海を見たかったなぁ〜〜とか思ってたんですけど、気がついたらこの海の上に放り出されてて」



意識を失うと同時に突然海のど真ん中の空間に移動し、泳げない彼は溺れそうになった際に慌てて近くに見えた大きな木片にしがみついて今に至るという。



「・・・・・あなたって、相当運がいいのかしら?」



「あ、あの!せめて、ぼくの頭を踏みつけるのだけでもやめませんか?も、もう、手に力が入らなくて、お、溺れそうですっ!」



「・・・・・・・・」



会話の途中も空間でまるでそこに椅子があるかのように優雅なポーズを取ったライラは、その艶かしく美しい長い足を交差させるようにして組み、ぎゅうぎゅうと変わらず片方の足先でラスターを足蹴にしていた。



ラスターが無事なことを確認すると同時に、『デスペラード』の封印へと意識を飛ばせばすでに地ひびきは治まっており、元の静寂な空間に戻っている。



それは本当に小さな変化だったかもしれない。



それでも何事もなくすんだことに安堵していたのだが、目の前の傷だらけのくせになぜか嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべているラスターの顔を見ていると不思議と苛立ちが募った。



「溺れそうなくせに、なんでそんなに笑顔なのかしらね?この顔は。もしかして、痛いのが好きなのかしら?」


「ち、違います!だ、だって、本物の海が見れたんですよっ!!」



「!?」



自分の頭を踏み向けていたライラの足首をつかんだラスターは、眩しいほどの満面な笑顔を彼女に向ける。



「海の青は、空の青とは全然違うんですっ!!こんなどこまでも様々な青に溢れた世界を、ぼくは生まれて初めて目にしましたっ!!それに、さっき少しだけ中に頭だけを潜らせたら、海の中の世界はほんっとうにキレイで美しかった!!」



すでにラスターは頭上から海水でびしょ濡れであったが、その顔は瞳からさらに溢れ出る水で濡れていく。



「色とりどりの花のように、美しい魚達の群れがたくさん見えました!海の青は、奥に向かうほどその青さを増していて、どこを見ても同じ色は存在してないんですっ!!それにどれだけ目を凝らしても海の底が見えなくて、水の中から水面を見上げれば、太陽の光が差し込んで、自分の吐き出す泡すらも美しいんですっ!!」



目が溶けてしまうんじゃないかと感じるほどその涙は止まることを忘れて彼の頬を流れ落ち、彼が感動してやまない海の一部へと消えていった。



『赤い魔女』たる自分が操るのは燃え盛る炎。



同じ自然の産物であるがその炎と対である水の世界を涙ながらに褒め讃えられ、なぜかさらにライラの胸には苛立ちが増していく。



「・・・・・・なら、思う存分その世界を直に味わってくればいいんじゃないかしら?」



「え?」



ニッコリと赤い唇を笑みの形に変えるとライラは自分の足をつかんでいたラスターの腕を蹴飛ばして外させ、指を弾いて音を鳴らしラスターが捕まっていた木片に火をつけた。




「あ・・・・・・熱っ!?」




さすがのラスターも炎に驚いて木片に捕まっていた反対側の手をうっかり離してしまい、その体は海の中へと勢いよく落ちる。


両手両足をばたつかせてなんとか泳ごうとはしているが、全身に力が入っているせいで上手く浮かぶことができず彼の体はどんどん深くへと沈んでいく。




「た、助け・・・・・・・っ!?」



さらには水を飲み込んでしまい、口の中の空気が全て外に出てしまった為に呼吸もままならず、再び意識を失いかけたその時ーーーーーーーー彼の視界は水の中にいるはずなのに、赤の世界に埋め尽くされた。





「!?!?」





ラスターの両の頬に、柔らかな温もりが包み込むようにしてそっと触れる。



だが、その感触よりも彼の心は目の前にある、どこまでも深く底の見えない薔薇のように鮮やかでもあり、燃える炎のように熱く気高さを感じる彼女の紅い瞳の美しさに、その心の全てを一瞬にして奪われ囚われた。



そうだ。



闇の世界だったこの瞳に光が戻った時、真っ先に自分の中へと飛び込んできたのがこの色だった。



肌の色以外の全身がその赤色に支配されている外見だけではなく、激しさを心の内に秘めたその存在そのものが燃え盛る炎の化身のような人。


暗闇の中にいた時から、この炎だけは眩しい光となって自分の見えぬ両目にも映っていた。



きっと、これから先にどれだけ素晴らしい景色を見ても、自分にとって一番美しいのはーーーーーーーー。




「どうせ感動して泣くのなら、こっちの景色にしなさいな」



「・・・・・・・あ、あれ?」



ついさっきまで海の中にいたというのに、気がつけば両足は海の水面を遠くに感じる断崖の岩場の上にあった。



あんなにも息苦しかった体には、心地いい風がその横を爽やかに通り過ぎていく。



青々と澄み切っていた空は茜色に染まり、頭上の空高くにあった太陽は海と空の境目である地平線に向けて、今まさにゆっくりと時間をかけて沈もうとしていた。




「!?!?」




そして、先ほどまで『青』に支配されていた世界は、一気に『赤』へとぬり変えられていく。




「・・・・・・・・あっ!!」



光の塊である太陽を中心にどこまでも深い赤と朱、そして紅が混じり合い絶妙な色合いをお互いに主張しながら、ただそこで静かに広がっていた。



思わず言葉を失ったラスターの瞳から、再び涙が溢れ始める。



瞬きをする一瞬の時間すらも惜しい気がして、止まらぬ涙を拭うこともできないまま、彼は目の前で徐々に変化していく『赤の世界』に対し微動だにできずにいつまでもその場に立ち尽くしていた。




もう二度と、この瞳に色は見えないのだと諦めていたはずなのに。



世界には、こんなにも心を動かしてやまない色鮮やかな素晴らしい景色があったことを、見て感じて知る機会を自分はこれから生きていく中で、一生涯得るはずなどなかった。



それでも。



それでも、命があって大切な家族である弟と2人で日々生きていけるだけでも、自分はとても幸せだと思っていたはずなのに。




「・・・・・・とう」



「何?」



「ありがとう・・・・・・ございます」



「!?」




どうして街の人達は、この人を化け物なんて呼ぶのだろう?



どうしてこの人を、傷つけ、殺そうだなんて思えるのだろう?



こんなにも美しい景色の中で、その中でも一番光り輝いているのはこの人だ。



暗闇でも光の中でも、ぼくの世界で一番輝いているのはこの人だけ。



こんなにも素晴らしい世界をぼくに見せてくれた心優しい彼女を、なぜみんなはあんなにも怯えて恐れているのだろう?





「フフ・・・・・海よりも、こちらの方がずっとキレイでしょう?」




夕陽によって染め上げられた朱色の光景をバックに、自慢気な様子で彼女が嬉しそうに笑う。




「はい。とても、キレイです」




『それ』は、何よりも美しい。




「そうでしょう?ここは、私の一番のお気に入りですもの♪」



「・・・・・・・・・」





夕陽が地平線へと深く沈み始めると、『赤い世界』は次第に闇夜へと変化していき、空には満天の星が輝き始める。



気の遠くなるほどの年月の中で作られた、人の力では決して作り出すことができない絶対の美の景色を前に柔らかく微笑むライラの横顔を、ラスターは彼女がその眼差しに気づくまでずっと無言のまま見つめ続けていた。





何であんなにも自然の美は、圧倒的で心をどこまでもうつんでしょうか。


特に夕陽は見ているだけなのに切なくなって思わず泣きたくなります。

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