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赤と白の紡ぐ糸3

引き続き、読んでいただきありがとうございます!


少し短いかな?と思いつつ、キリがいいのでアップしました。


『彼』の気配を感じると同時に、いつものようなあちこちの床で激しくすっ転んだことで起こる石壁が崩れ落ちる物音ではなく、感情がこもった怒鳴り声がその場に大きく響き渡った。



「ここにいるんだろ赤い魔女っ!!!今すぐ出てこいっ!!!」



「・・・・・・・誰?」




白髪と褐色の肌に、深い緑の瞳。



だが、『彼』とは違いその肉体の奥底から感じる魔力は激しい炎のように大きく波打っていた。



「あなた、まさか」



「とぼけるのもいい加減にしろっ!!兄貴をどこへやったっ!?お前なんかに関わったせいで兄貴が!!!」



「・・・・・弟の、アスター?」



「魔女の分際で俺の名前を気安く呼ぶなっ!!」



「!?」



顔を怒りの感情で歪ませながら、ラスターそっくりの顔をした彼の双子の弟『アスター』は近くに転がっていた大きめの岩をライラに向かって何度も投げつける。



だが、その岩はライラの元へと届く前に全て彼女が生み出した炎に包まれ粉々の炭に変化し地面へと落ちた。



「くそっ!!!この、化け物めっ!!!」



「フフ・・・・その化け物のおかげで命を永らえたのは、どこの誰かしらね?」



「くっ!!!俺は、たとえあのまま死んだってそんなことはごめんだ!!それなのに、よりにもよってお前なんかの力を借りるなんてっ!!!」



アスターは懐から短めのナイフを取り出すと、勢いよく赤い魔女へ襲いかかるがそのナイフは空間を切るばかり。


赤い魔女は、どれだけ斬りかかれても一瞬にしてその姿をアスターから離れたところへと余裕の表情をしたまま軽々と移動してしまう。



「母さんは!お前のことを悪くないと、庇ったせいで男達に傷つけられ、そのケガの後すぐに『紅の呪い』にかかって死んだっ!!今回の『夜光草』も、お前の力を借りたことがバレて、兄貴は街の男達から、裏切り者のレッテルを貼られて、気絶するまで殴られた末にその姿を消したっ!!お前のせいで!!お前のせいで俺の家族がっ!!くそっ!!全部、全部お前のせいだっ!!!」



「・・・・・・・ッ!?」




気づけば、アスターの目からは涙が溢れていた。



『夜光草』だけなら奇跡的に偶然見つかったとしても、彼の失われていた視力が突然回復した理由から自分との関わりへとすぐに繋がったのだろう。



『夜光草』を得られず、彼らの母親のように助からず死んだ者は『ピエトラ』に何人もいる。



憎むべき魔女の力を借りてまで、その『夜光草』を見事に手に入れたラスターをその悔しさ悲しみ故に、憎しみの対象とする者もいるだろう。



病気の肉親や愛する人の為に、恐ろしい『赤い魔女』の元へ訪れる勇気もなかった己のことは省みることはなく、人間は羨望と嫉妬から簡単にその心に憎しみの炎を燃やす。



「・・・・・・ラスターが、いなくなったのね?」



「!?」



ついにはその両手を炎の戦士達によって押さえられ、動きを封じられたアスターの眼前にライラは静かに立つ。



「素直に・・・・・大事な兄を助けて下さいと、私にお願いをしてみたらどうかしら?あなたの大事なお兄さんは、あなたの為に何の遠慮もなくその頭をそれは何度も下げたわよ?」



ライラは赤き色をした爪も持つ指をゆっくりとアスターの耳の下から顎の下に滑らせ、心地いいまでに激しい殺気を向けてくるその緑の双眸へと妖しい笑みを浮かべながら覗き込む。



「ふ、ふざけるなっ!!誰が貴様のような化け物に頭を下げるものかっ!!」



「・・・・・なら、さっさとここから出て行きなさいな?キャンキャンキャンキャン、何の用もないのにうるさく騒がれるのは迷惑だわ」



「!?」



別にラスターがどこでのたり死のうと、街の男達に殴られた末に傷だらけになろうと知ったことではない。



人は必ず死ぬ。



それがただ、早いか遅いかだけのことだ。




「・・・・・・・ッ」




『女』でありさらには『化け物』でもある魔女に頭を下げることなど、自分からしたら何とつまらないプライドだが、それが許さないのだろう。


血が出るほど強く噛み締められた唇と、握り締められた手をさらに力強く握りこんで、彼がそのプライドと必死に戦っているのが分かった。




「!?」




だが、その時グランシュバルツ大国跡地に突然起こってはならない地ひびきが起こる。



「こ、これはっ!?」



急ぎ目を閉じ魔力を集中させると、城の地下深くにある魔法陣の元へとその意識を向ける。



その魔法陣に封じられているのは、この地を滅ぼした『デスペラード』。



その封印は『赤い魔女』である自分の魔力と意思でもって解除しない限り、決して解けることはない。



それなのに、今その魔法陣は何かの魔力に反応してその力を大きく歪ませている。




「・・・・・・・・・まさかっ!?」




真っ先に思いついたのは、自分が魔力を使っ

てその瞳を治癒したラスターだ。



彼の体に送り込んだのは微量の魔力だが、それでも確かにそれは『赤い魔女』の魔力。



本来、他者の魔力が回復の為に注ぎ込まれようと自身の魔力の質が大きく変わることはない。



だが、もし彼がごく稀に存在する、自らの魔力に入り込んだ他者の魔力に同調し、自身の魔力すらも変化することができる特異体質の人間であったならーーーーーーーーー。




「!?」




ライラは次の瞬間、本当に僅かな可能性かもしれないが一番最悪な事態を防ぐため、その空間からある場所へ向かって跳んだ。




「ま、待て・・・・・・赤い魔女っ!!くそっ!!兄貴を、兄貴を見殺しにしたら、俺がお前を、たとえ死んでも殺してやるからなぁぁぁーーーーーーっ!!!」



目の前からいきなり消えた赤い魔女に向けて、出来うる限りの大声でもってアスターは叫ぶものの、その声は静まり返った空間に響くばかりで返事は何も返ってこない。




「うぅ・・・・・・兄貴を、助けてくれ」




その後、今にも消え入りそうな本当に小さな声が青年の声から漏れたが、その言葉を向けられた彼女はすでに遠い地の元に移動していた。





実は母親が一卵性の双子なんですが、幼い頃からお互いの子どもたちはなぜか絶対に母親を間違えることはなかったんですよね。


周囲からはよく間違わられて、いとこなのに隠し子疑惑まで出てました(笑)

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