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オマケ外伝、学園モブ女子8

いつも読んで頂き、ありがとうございます!


今回で外伝は終わり、本編に戻ります




放課後、今度こそ自分のボディーガードとして契約をさせようとクローディアに向き合おうとするが、なぜかこれまで近寄っても来なかったクラスメイト達に囲まれ、なんとかその中から這い出た時にはすでに彼女はそこにいなかった。



「く、くそっ!!どこに行ったんだっ!?」



気づけば、彼女と親しいエリザベスも彼女とよく一緒にいるらしいレオナルドという男の姿も見えない。



「・・・・・・おそらく、生徒会室かと」



「!?」



そんなアルフレドの耳元へと、現在ボディガードを務めるバーチが囁く。



「生徒会室だと?」



現・生徒会は会長のジークフリート=ウルンリヒと副会長のグレイ=コンソラータの2名。


少し前までは他にも会計・会計監査・書記など数名の生徒会役員がいたのだが、なぜか次々に生徒会役員を狙って起こった事故の為、会長であるジークフリートが生徒達の安全性の為に辞めさせたのだ。


副会長のグレイだけは何を言われようと頑として辞めなかった為、生徒会は2人体制で全ての業務を行っている。



だが、本来ならば数名の役員で手分けして行う数々の業務を2人でこなさなくてはならない為、その仕事量はかなりのものだった。


それを知っていたクローディアは、ジークフリートのボディーガードについたその時から姿を隠しつつ密かにその仕事を手伝っていたのだが、当たり前であるもここそれが2人にやはりバレて陰で仕事をするくらいなら堂々と手伝ってくれた方がいいと、今では役員の一員のような扱いを受けている。



まぁ、最初はやはり反対を受けていたのだが、どれだけ反対をされてもこっそりとあらゆる手を駆使しながら手伝ってしまう為、最終的にジークフリートが折れたのだが。



そんな彼女が、生徒会の手伝いに最適な人材がいる!と連れてきたのが、同じクラスのエリザベスこと、エリザベート・サラ・デ・グラッツィア。


彼女は勉学も大変優秀で教師からの信頼も厚く、どんな仕事を任せても迅速にそして丁寧にこなしてしまう有能な生徒で、すぐに生徒会役員には無くてはならない人材になってしまった。


さらには、クローディアがいるなら自分も行く!!と押しかけ女房のように生徒会室に入り浸るようになったレオナルド=ラティートと、うちの生徒ではないらしいがどうやら海外からの帰国子女?らしく校長からは許可が降りているらしい紅丸という名の謎の少年。


レオナルドは力持ちで足も速い為、出来上がった書類を職員室へ運んだり、各クラスに配布したりなどの役割を担っている。


書類は任せても一向に進まないどころか放っておくと紙飛行機にして遊んでしまう為、それ以外ではクローディアの背中にくっついて寝ていることが多い。



紅丸という少年は、潜入が得意?らしく不正をしている生徒の情報収集や、いじめなどに繋がりそうな生徒同士のトラブルの早期発見に勤めてくれている。




そして、時々生徒会室に入ってくるのがルーク=サクリファイス。


彼はいつでもニコニコと変わらない笑顔を振りまきながら生徒会室へ読んでもいないのにフラッと来るとクローディアの耳元に何かを囁き、そして2人して何処かへ消えてしまうことが多々あり、ジークフリートは2人が付き合っているのかと勘ぐればそれは絶対に違う!!と残った生徒会役員全員に全否定されることが繰り返されていた。



彼女が誰の為に生徒会の仕事を手伝っているのか、それを知らないのはおそらく全校生徒の中でもたった1人だけだろう。







いや、もう1人いた。



本日も窓から燃えるような夕日が覗き、吹奏楽部の演奏とスポーツクラブの生徒達の声が鳴り響くそんな生徒会室に、そのもう1人の生徒が強い勢いで扉を開けて入ってくる。



「クローディア=シャーロットはいるかっ!!!」



「!?!?」



「・・・・・・アルフレド、扉は静かに開けて下さいませんこと?わたくしが手掛けた書類に、不備などできたらどうしてくれますの?」



生徒会室に入ってきたのは、書類製作の為にパソコンを高速で打つ手を少しも休めず声をかけるエリザベスの形式上では許嫁であるアルフレド。



「フン!そんなもの俺には関係ないなっ!用があるのはお前だ、クローディア=シャーロット!!」




ドンッ!!




という音で分かるように、この男はまたしても壁どんならぬ今度は壁肘ドン?で、距離を詰めつつ上から見下ろしてくる。


ちなみに、クローディアの背中にはすでに寝息を立てながらその重みで肩こりを毎日ひどくさせてくるレオがくっついているのだが、彼の目線に彼は入っていないらしい。


せっかく体は10代なのに、肩付近だけはすでに40いや50肩に悲鳴をあげるのも諦めて日々血流を悪くしていく一方だ。




「・・・・・・な、何の用ですか?」




ジークフリート様からの真っ直ぐな視線が居た堪れない!



彼はエリザベスの許嫁なんです!!



私は全く関係ない、無実のその他大勢の人間ですからね!!




そう!


許嫁の友人Aです!



本来ここで始まるのは、『こいつは俺の許嫁だ!!』と普段はケンカしつつも許嫁を解消しない、意地っ張りカップルなはずなんです!



「クロエ・・・・・・言っておきますけど、許嫁を解消しないのは大人の事情があるからで、わたくしは解消を強く希望してましてよ?」



「へっ?」




それはそれは冷静な様子で、ナチュラルに心を読んできたエリザベスに大きく心臓が跳ねる。




あれ?


もしかして、うっかり声に出てたんだろうか?




「わたくし、これからは家の為ではなく愛の為に生きると決めましたから」



「・・・・・・なら、その愛をもっと分かりやすく表現してもいいんじゃない?」



「!?!?」




彼女がその愛を表現する相手は、すでにアルフレドの為に新しく紅茶を入れようと奥にあるキッチンスペースへと移動している為、彼女の微かに赤く染まった頬には気づいていない。



彼の関心はどこまでも目の前の紅茶を美味しく、素晴らしい香りを引き立たせながらカップへと入れる為だけにその全神経が向いている。



生まれて初めての淡い恋にどこまでも初心な反応を見せる普段の気高い凜としたエリザベスの、大変可愛らしい姿を想いを寄せる相手にはほとんど見せられていないのが何とももどかしい。




「ーーーーーーーおい」



「グレイさん、以外と向けられる好意に鈍そうだしもっと積極的にアピールしないと、伝わらないんじゃないかな?」



「せ、積極的にだなんて!そ、そんな淑女にあるまじき・・・・・・・・は、はしたない!!」




はしたない!と言いながら、多分少女漫画的なシーンをイメージしたのだろう、その顔は熟れた林檎の様に真っ赤に染まりパソコンの画面は途中から文字化けが止まらない。




「おい!!貴様この俺を無視するなっ!!」



「うぐっ!?」



そう、エリザベスとのやり取りはアルフレドに壁肘ドン!されながら行なわれており、本来ならば主人公ポジの少女がときめいてドキドキしている場面なのだが、全く気にせずそのまま会話を続けていたら眉間に深いシワを刻んだアルフレドの反対がわの手に顎くい!ならぬ、容赦のない頬ムギュッ!!で修正不可能なほどの不細工顔へと一気に変えられる。





すいませーーーん!


ここだけモザイクでお願いしまーーーす!!





「な、なにふんのっ!!」



「この俺が、わざわざ、お前のような庶民に会いに来てやってるんだぞ!!」



「ぷはっ!別に私はそんなこと頼んでませんっ!!」



「ッ!?」




加減もなしに無理やり顔面を歪められながら上向かされ至近距離にアルフレドの顔が近づくが、生憎ジークフリート様以外のイケメンには耐性がついている為、冷静に彼の顔との物理的な距離を開けるためアルフレドの顎に向けて掌底を打った。



耐性がなければ、顔面偏差値が天才級のこの環境になどい続けることはまずできない。



それを毎回、攻略相手×3人〜10数人?の対象と会うたびに初恋のごとく心からときめいている真ヒロイン達の方が凄いのだ。



心臓の心拍数は決まってるらしいから、そんなに毎日がドキドキしてたら、私の寿命がどんどん短くなってしまうではないか!!



寿命が縮んでもいいから側にいたくて、心臓が勝手に高鳴るのはこの世界においてただ1人だけだ。




「俺はお前にボディーガ・・・・ッ!?」



「そ、そういえばっ!!アルフレド君は英語にドイツ語にイタリア語にフランス語もペラペラペーラだったよね!!英語もいや日本語もろくに話せない庶民の私とは大違い!!すごーーーい!!かっこいいーーーーッ!!」



「そ、そうだが?」



「・・・・・・クロエ、棒読みですわ」



明らかに違和感を感じる賞賛だったが、アルフレドはまんざらでもない様子で顔は仏頂面のままだが陰で尻尾を振っていそうな感じである。



「そ、それなら、こんな書類の和訳なんて、お茶の子さいさいかもしれないけど、よろしくね!」



「お、お茶の子?」



「しまった!もうこれは古いのか!こ、こほんっ!!い、いや、とにかく、天才級の優秀でブリリアントなアルフレド君には至極簡単なことだろうから、ぜひ!!」



無理やりアルフレドに渡したのは、少し前に我が校から何人かが交換留学で世界に行き、その時にお世話になった海外の生徒からお礼状が来ているのだが、それを学園の生徒へ紹介しても良いとのことで原文と訳された日本語と両方で乗せたプリントを全校生徒へと配布する為の原文コピーだった。



「ふ、フンッ!!こんなもの、5分で終わらせてやるっ!」



「・・・・・・え、本当にやるの?」



なんで俺がそんなことしなくちゃいけないんだ!!とかなんとか叫びながら、目の前でプリントを破るなり丸めて放り投げられるとばかり思っていたのだが、アルフレドはプリントを受け取ると空いていた席に座って真面目に文章を訳し始めている。



「さ、さすがにちょろ過ぎないか?」



もっとツンツンしててもいいんですよ?と思うものの、ボディーガードの件をジークフリート様にばれなければもう何でもいいか!とクローディア自身も気持ちを切り替える。



ちなみに、アルフレドにクローディアがプリントを渡そうとした際に、アルフレドには一斉に7人〜8人ほどの逆らうには怖すぎる目線があちこちから向かってきており、正直に言えば彼はそこにビビって引き受けたのが本当だったりするのだが、そんなことを彼女は知らない。



それが誰からの視線なのかは、ご想像にお任せしよう。



「おい、終わったぞ?」



「え!?もうっ!?」



「フンッ!こんなもの、5分で終わらせてやると言ったじゃないか!」



「いや、まさか本当にこんなに早く終わるとは」




蜂蜜色の眩い髪をかきあげながら、アルフレドは鼻高々に書類をクローディアへと渡す。



「あら、わたくしならそんな書類は3分で終わりましてよ?」



「!?」



「こ〜〜んな些細なことで天狗になるなんて、おめでたい頭で羨ましい限りですわ。じゃ、次はこれをお願いしますわね?」




どさっと、さっきの3倍か5倍はありそうな量の書類をアルフレドの手にそれは艶やかな笑顔で渡すと、エリザベスは再びパソコンの前へと静かに戻る。




「・・・・・・く、くそっ!!」



エリザベスからの一言で再び顔を真っ赤にしながら眉間にシワを寄せたアルフレドは、側にあった電卓を乱暴に取ると勢いよく近くの席に座ってその指をひたすらに動かす。



2人は入学以来、いつもテストではお互いベスト3入りの天才同士。


学業でもスポーツでもさらには家柄に、付け加えてその容姿までもがトップクラスの文字通りの誰が見ても惚れ惚れするほどの美男美女だ。




「どうだっ!!これで文句はないだろうっ!!」



「え?!あの量の計算がもう終わったの!?」



「・・・・・・・・残念ながら、こことこことがケアレスミスですわ。こんな簡単な計算もできないなんて、名門と言われたオーギュスト家の名が泣きますわね?」



「く、くそっ!!貸せ!!俺じゃなく、この電卓が間違えたんだっ!!」



「・・・・・・・いやいや。その電卓をうってるのは君の指ですよ、アルフレド君」




そんな2人は本来許嫁同士で、その2人が同じ空間にいるのだからもう少し艶っぽい雰囲気か、もしくは青春の甘酸っぱい感じがあっても良いような気がするのだが。



「副会長を務めるグレイ先輩や生徒会長のジークフリート先輩ならばこんな簡単な計算ミスなどしないで、全て完璧にこなしつつあなたの3倍のスピードでやっていましたわよ?」



「な、何っ!?ならば俺も同じスピードで、いやそれ以上の速さでやってやるっ!そして生徒会長がこの学園の王ならば、次期王にふさわしいはこの俺だっ!!」



「あ〜〜〜〜ら、それは残念でしたわね!生徒会長は家柄や学力で決まるものではありません!必要なのは、他生徒からの深く熱い信頼と人間的魅力に他なりませんわ!!副・・・・・現生徒会長のジークフリート様は全校生徒の9割9分、他1分の欠席者を除いた全員の満場一致の会長就任!あなたにこの偉大なる記録が塗り替えられましてっ?!」



「ーーーーーーーくっ!!!!」



「・・・・・・・・」



言い争いながらも数々の書類を神的速さでこなしていく許嫁2人を、思わず手を止め思考を止めてクローディアは見入ってしまった。


唇を噛み締めるアルフレドに、今にもその華奢な指を口に添えながら高笑いが聞こえて来そうなエリザベスのやり取りに、なんだかんだいって仲いいじゃん!と思ってしまう。


口に出すとある人には怒鳴られ、もう片方には本気で叱られるのは目に見えている為思うだけに留めておく。



「ーーーーーーークロエ、お前の周りには優秀で面白い人材がたくさんいるな」



「!?」



呆気に取られていたクローディアの前には、ちょうど出来立てホヤホヤの特性紅茶が入れられたティーカップが静かに置かれる。


雰囲気のあるこのアンティーク食器は、お茶を毎回頼まれなくても自ら用意してくれるこの人物の私物だ。



何〇万円するのかどうしても教えて貰えず、すでに何10回と飲んでいるのに実は今でも内心心臓をドキドキさせながら毎回飲んでいたりする。



「紅茶ありがとうございます!はい!本当にすごい人達ばかりでびっくりです!あ、今日の紅茶は何ですか?すごくいい香りですね♪」



「ーーーーーーーー今日の紅茶はセイロンだ」



口元だけ僅かに笑みを作った紅茶を愛して止まない副会長のグレイは、未だに言い争そいを続けながらも器用に仕事をこなしていく2人の元へと、入れたての紅茶をトレイに乗せて運んでいく。


グレイ先輩が側に来た途端、婚約者に向かってそれまでは毅然と振舞っていた若き貴婦人は何とも可愛らしい少女へと転身しその陶器のように白い肌を紅く染め上げ、その気持ちが泉のように溢れてやまない眼差しには熱がこもった。




グレイ先輩から受け取った紅茶のカップを、宝物であるかのように愛しそうに。



それでいて優雅で無駄のない繊細な仕草でもって両手で持ち、まるで愛する者への口づけかのようにその薔薇色の唇をそっとカップの淵へとつけてると、一口一口ゆっくりと紅茶の味を味わっている。




「・・・・・・・・ッ」




その一連の動きが海外映画のワンシーンのようでそれは美しく、ただの生徒会室での何でもない動作が、夕日に照らされてどうしたらあんなに美しく可憐な仕草が無意識で出来るのかと眺めて見惚れてはため息をついていた。




エリザベスは美しい。




その隣で全く引けを取らない美しさのアルフレドをはじめとして、この部屋には見目麗しくその心根もまっすぐ清らかで何をさせても常人のはるか上をいく優秀な生徒達ばかりがこの部屋にはゴロゴロ転がっている。



「ん・・・・・・何これ?すっげーーーいい匂い♪」



紅茶とともに出されたお菓子の匂いにつられてクローディアの背中で爆睡していた青年の目もパッチリと覚め、お菓子の匂いの元へと向かって飛び出していく。



「グレイ先輩!!俺もおかし欲しいっス!!」



「ーーーーーーーーーお前はまず手を洗ってからだ」



「えぇ〜〜〜!?!?」



「・・・・・・・うまいな、これ」



レオがアワアワしている間にも、普段は最高級なお菓子しか口にしていないはずのアルフレドが何を思ったのか、グレイ先輩の作った手作りクッキーにこっそり手を伸ばしていた。



ちなみに手はすでに洗ってあるらしい。



ぼそっと素直な感想を呟いたアルフレドはそのまま無言で2枚・3枚とクッキーをその口へと放り込む。



「あっ!ちょっ!ちょっとっ!!それ全部食べ・・・・・・俺も今すぐ洗ってくるっっ!!」



「うん、うまい!」



「!?!?!?!?」




遠慮など欠片もなくその手を伸ばし続けるアルフレドに、危機を感じたレオナルドは涙目のまま『お母さん』の言いつけ通り、きちんと手を洗う為にと水道へと全速力で駆けていった。



その側では、おそらくエリザベスと紅茶の話題で盛り上がっているだろうグレイ先輩が見える。



「クロエッ!頼まれてた資料持ってきたわよっ!」



「!?」




その時ーーーーーーー。




がらっ!!と勢いよく生徒会室の扉が開き、扉から現れたのは華やかな女性らしい艶のある美しさを誇る、我がアルカンダル学園に咲くもう1つの大輪の花。




「イザベルっ!」




イザベル=スカーレット。



学園の規定よりも短めになっているスカートから覗く美脚に、ブレザーは脱ぎ中のシャツもボタンがいくつか外され、その柔らかそうで弾力もありそうな制服から弾けんばかりの胸元からは素晴らしい光景の谷間が覗き、その全身から溢れる色気はかすかに鼻をくすぐる甘い香りとともに彼女の近くを通りすぎた男子生徒の心と脳を、通り過ぎるその一瞬の流し目1つでぐちゃにぐちゃに搔き回し痺れさせていく。



「ちょっと待ってよベル!!資料を全部持ってるのは僕なんだから、そんなに早く走れないよ!」



彼女の後ろからは、タワーのように積まれた数々の資料を抱えながら汗びっしょりな様子で、どこか地味な印象だが知的で優しそうな眼差しの青年が慌てて生徒会室へと入ってきた。



彼は彼女の幼馴染であり、現在彼女の大本命!である彼氏のヨハン=アリソン。



見た目は地味で存在感も薄い彼だが、頭の良さではエリザベスやアルフレドと同レベルであり、町の大地主であるライアット=アリソンの正当な後継者と言われている四男だ。



「あら!ちょっとこれ、いい匂いじゃない!私達も頂いていいかしら?」



「ーーーーーーーあぁ。手を洗ってきたらな」



「もう!相変わらずあなたはオカン要素全開ね!そんなんじゃ、いつまでたっても『良いお母さん』のままよ?」



「ーーーーーーーーー」



「あ!ほら!ヨハン!手を洗って私達も食べちゃいましょ!あのぼうや達が夢中で食べてるから、早くしないと全部無くなっちゃうわ!」



「あれ?ベルってば、夏に向けてダイエットするんじゃなかったの?」



「・・・・・・・・す、するわよ。明日からね!」




ドタバタしながら、イザベルとヨハンも手を洗って戻ってくるとグレイ先輩が焼いたクッキーへと手を伸ばし、そのあまりのおいしさに頬が蕩けそうなほどの満面の笑みを浮かべている。


紅茶へのこだわりは特にない2人の為にグレイ先輩は温かい紅茶ではなく、氷を入れさっぱりさせたアイスティーにしてその喉が潤うようさりげなく気遣っていたが、さらにそんな事は気にしないでバクバクと勢いよく食べ続けてるレオナルドには、1リットルサイズのミネラルウォーターの大きなペットボトルを無言で渡していた。




ついには紅茶を出すことも辞めたらしい。




まぁ、何回か自慢のティーカップもうっかり割ってしまったしね。




「・・・・・・・・・ッ」




これまでジークフリートとグレイの2人だけしかおらずどちらも積極的に話すタイプではない為、静寂に包まれていた生徒会室のあちこちでは今色んな笑い声が溢れ、眩しい笑顔はキラキラと輝いている。



夕日の射すオレンジの世界の中で、クローディアの耳にはみんなの笑い声が膜を張ったかのように少し遠くで響いているような気がしした。







あれ?






ふと、なぜか急にここに自分がいるのは1人だけ浮いているような違和感を覚えた。






おかしいな?






この眩しい光景を、自分は中心ではなく遠い外側から見ていたはずだった。






そう。







ここにいるのは




本当は自分ではなくてーーーーーーーーーー。







「・・・・・・・クローディア」



「!?」



「どうした?」




書類を手に持ったまま、席に座った姿勢で微動だにせずにいたクローディアの視界に影がかかった。



「顔色が悪いな。ちゃんと寝ているのか?」



「!?」



その人の右手がクローディアの額に当てられ、その暖かい温度に自分の体が冷たくなっていたことを知る。



いや、寝ていないのはむしろこの手の持ち主の方だ。



勉学にも生徒会の仕事にも、彼が主将を務める剣道部の練習にも、彼は自分を決して甘やかすことはなくたゆまぬ努力を日々一心に続けている。



「・・・・・・・ははっ、寝てますよ。むしろ、寝ないでもっと勉強しないとダメなくらいです」




勉強は苦手だ。



特に暗記系は、どれだけ努力しても中々頭の中にとどまってはくれない。



この信じられない才能と美貌を持つ天才達の中で、唯一凡人な自分。



生徒会の仕事もクローディアが手伝えるのは微々たるもので、その大半は途中から力を貸してくれているエリザベスやレオナルド、紅丸、それにイザベルやヨハン、そしてたまにしか手伝わないもののその力は絶大過ぎるルーク。



「すみません。もっと、力になれればいいんですけどね」



思わず涙が出そうになるのをぐっと堪えて、無理やり笑顔を作って乾いた笑いを浮かべる。




「・・・・・・・・自分が無力だと知る事は、決して悪いことではない」



「!?」




クローディアの額に手を当てていたジークフリートは、その手を彼女の瞳にまで下ろしその視界をそっと塞ぐ。



「自分が無力だからこそ、人の力を借りられる。人の力を借りられることが有難いと思える。自分ではない他の人と一緒にいられることを、心から幸せに感じられる。何を落ち込むことがある?ここにいる皆は、お前が繋いだ大事なえにしだ」




「ーーーーーーーッ」




「本当に強いのは能力がある者じゃない。その能力のある者達の力を・・・・・必要な時に借りられる者だ」



「!?」




ジークフリートが彼女の顔から手をどけると、クローディアの両目からは滝のような涙が溢れていた。






「あぁぁぁーーーーーーーっ!!!ジークフリート先輩がクロエのこと泣かしてるっ!!!」




「フフ・・・・・僕以外のせいで君が泣くのは、少し面白くないかなぁ〜〜?」




「クロエったら!そんなに泣いたら、目が腫れ上がって明日大変なことになりますわよ!早くこの濡れたタオルで冷やしなさいな!」




「な、何を泣いてるんだ貴様は!!そ、そんなに泣くほど食べられないのが悔しかったのか?さすがに庶民は食い意地が違うな!フンッ!こ、この最後の一枚はお前にくれてやってもいいぞ?」




「あらあら、なぁ〜に?泣くならこの自慢の胸で受け止めてあげるから、遠慮なく飛び込んでらっしゃいな♪」



「クローディア殿!ま、まさかどこかケガでも負われたのですかっ!?」



「ーーーーーーーーーーとびきりの紅茶を入れてやるから、もう泣くな」



「・・・・・・・お前がこれまでしてきてくれたことはどんなことであれ、無駄なことは何1つだってない。もっと胸を張れ。他の人間と比べて落ち込むな。お前はここで生きている。それこそが、何よりお前が頑張り続けている何よりの証だ」



「!?」





一人一人の優しい笑顔が現れては、光の中に消えていく。



クローディアの視界は紅い夕日から白くまばゆい光に埋め尽くされていき、あんなにもはっきり見えていた皆の姿が今はなぜかよく見えない。





あぁ、なんで自分はずっと気づかなかったんだろう。






ありがとう。






こんなーーーーーの世界でまで私を励ましてくれて。





うん、もう少し頑張ってみるよ。


















涙は流れたまま笑顔になったクローディアの視界は光で全てが覆われ、その世界から全ての音が消えた。




「・・・・・・・・・ん」




重い瞼をゆっくりと開けたクローディアの視界に飛び込んできたのは、降り注ぐ太陽と青々と茂った樹々の葉。




「クロエっ!!!気がついたっ!?」



「!?」



クローディアの至近距離には、大きな瞳をキラキラさせながらその爽やかな顔をくしゃっと満面な笑みで覗き込む見知った青年の姿が。


彼の着ている服はあの制服ではなく、軽装ながらも鎧でありその腰にささっているのは竹刀でも木刀でもなく美しい鋼の剣。






起き上がって周りを見てみれば、そこはーーーーーーーーーー。















こんなに長いこと書かせて頂き、本当にありがとうございます!!


これからもよろしくお願いします!!


また外伝は別の機会に書かせて頂きます♪


本当は終わりは全然違うものだったんですが、なぜか急に展開が変わってしまった。


どちらが良かったのかはまだ分からないですが、また300回記念には何か別の外伝を書けたらと思います!

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