モブ女子、本当に大事なモノ
今回も無事にアップができました。
読んで頂き、ありがとうございます!
新キャラは最初お互いにぎこちない感じが続いてある時から急に伸びやかに動き出すんですが、その時にはだいたい終わりの方でそれがとてももどかしいです。
月の光が普段よりも明るいその日の夜、俺は初めて彼女から預かった『月の水鏡』を使うことができた。
「・・・・・・クローディア、元気そうで何よりだ」
「は、はい!ジークフリート様も元気そうで良かったです!」
鏡越しに映る、彼女のいつもと変わりのない姿にホッとする。
後ろに民家が見えるという事は、野宿ではなく無事に村についたということだろう。
「何か、変わったことはないか?道中でケガはしていないか?いや、それよりもごはんはちゃんと・・・・・・・なんだ?急に笑い出して」
「す、すみません!なんだか、まるでグレイさんのようなことを言うものだから、おかしくて」
まるで『騎士院のお母さん』のような口ぶり
だと、口元を手で押さえつつもクローディアの笑いが大きくなる。
「こ、これは・・・・!あいつが何度もお前のことを聞いてくるから、つい移ってしまってだな!」
何かと言えばクローディアのことを嫌味のように、それもぼそっとこれは独り言だと言いながらもわざわざ聞こえるように話してくるのだ。
昨晩はジークフリートの仕事が遅くまでかかりすぎて、気づけば彼女との連絡が全く取れなかったことをチクチクねちねちとこれでもかと突っついてくる。
俺よりもはるかに細かいことに気がつく男だったが、前からこんな性格だっただろうか?
俺自身だって彼女のことを忘れているわけではないのが、一度仕事に集中すると中々他のことにまで気を回らない。
「中々連絡が取れなくて、すまなかったな」
「い、いえ!ジークフリート様は本当に多忙ですから、むしろ私なんかの為に貴重な時間を割いて頂いて申し訳ないです!今日も疲れているだろうし、すぐに休んで下さい!」
「あぁ・・・・・・有難う」
彼女と出逢う前、いい歳なのだからと大臣や有力貴族から自分の娘や知人の娘を伴侶にてと紹介されたことが何度もあった。
どの娘も美しく、おとなしそうな女性も気の強そうな女性もいたが、皆俺からの連絡がほとんどないことにある者は悲しみ、ある者はバカにされたと腹を立てて俺の側からすぐに離れていく。
バカにしたつもりもないがしろにした覚えもないのだが、仕事や戦となると彼女達のことが頭から離れてそちらへと没頭してしまうのだ。
女性の気持ちが分かっていない、とグレイ辺りにはよく呆れられながら言われたが、未だによく分からないのが本音だ。
「わ、私はほら、ジークフリート様の元気な姿が見れただけでいやむしろ声が聞けただけで、どんなスーパーな栄養ドリンクよりもエリ○サーよりも、世界樹の雫よりも元気になれますからっ!!」
「!?」
鏡の向こうでは、両腕を曲げて握り拳を両方に作りながら真っ赤な顔のまま満面の笑みを浮かべ、次第にこんなに元気ですからと勢いよく回り始め、はりきりすぎたのか高速回転のごとく回りすぎて終いには目を回している彼女がいる。
途中、言葉の意味がよく分からなかったが、彼女の元気?そうな姿を見れただけで確かに自分も体が少し軽くなったように感じた。
「お前も疲れているだろうから、早く休んだ方がいい」
「は、はいぃぃ〜〜あぁ〜〜世界がぐるぐるしてる〜〜」
「・・・・・体に、気をつけてな」
「は、はいっ!!ジークフリート様もお体に気をつけて〜〜〜おっとぉっ!」
「!?」
最後の言葉と同時に、鏡の向こうに映る彼女がなんとか視点をジークフリートへと向けながらもやはり体を大きくふらつかせ、バランスを崩して地面に倒れそうになるその体を横から支える誰かの腕が見えた。
そして、本当に一瞬だけ垣間見たその人間の姿は、紅いーーーーー燃えるような髪に漆黒の鎧。
その姿が見知った相手のように感じてしまい、ジークフリートは思わず息を飲んだ。
改めてその姿を確認しようにも、鏡にはすでにジークフリートしか映されていない。
「・・・・・・疲れているな」
きっと久々に夢で見たばかりだから、その印象が強すぎたのだ。
今の自分は、紅い髪ならば全員が彼の面影をダブらせてしまうに違いない。
新しい旅の仲間ができたのかもしれないし、明日はもう少し彼女から色々聞いてみよう。
ジークフリートは『月の水鏡』を引き出しへとしまうと、明日へと残しておいた仕事へと手をつけ始める。
明日の夜、少しでも彼女との時間がゆっくり取れるようにとーーーーーーー。
クローディアの腕を支えたその男は、そのまま彼女の足を持ち上げて勢いよく抱きかかえた。
「えっ!?ちょっと!ルイーズさんっ!?」
いきなりのお姫様だっこに、クローディアも頭がパニックだ。
「ハハッ!いや、この方が早いだろう?」
「早いって・・・・ちゃ、ちゃんと自分で歩けますからっ!」
子どもじゃないんだからっ!!と降りようとすると、視界が急にぐるりと大きく回った。
「うっ!!」
「ほら、まだ調子悪そうじゃねぇか!こういう時はおとなしく甘えとけ」
「・・・・す、すみません。いや、それよりレオと紅丸は?!確か、ルイーズさんと一緒てしたよね?」
いたたまれないのは変わらずだが、確かにまだ三半規管は狂ったままなのでおとなしくすることに決めた。
視界が多少ぼやけているおかげで、この近距離イケメンの暴力も緩和できているようだし。
暴れて無理に降りようとしても、がっちりと抱え込まれたこの力強い腕の中から逃れるのは容易ではなさそうなのが一般人の自分でもわかる。
それよりも、2人には一応ルイーズさんが変な行動をしないかの見張りをと思って一緒にさせたはずなのだが。
周りを見てもその気配すらない。
「レオナルドなら、俺との腕相撲勝負で大負けしたのがよほど悔しかったらしくて今部屋で筋トレ中だ!あと紅丸のやつは何か突然立ったまま寝だしたんで、一応ベットの中に運んでおいたぜ?」
「・・・・・・・・・・は?」
そういえば、ルイーズの逞しい肉体を見たレオがキラキラした目で見てたっけ?
部屋から何か唸り声と叫び声と何かの衝撃音がすると思ったら、そんな戦いを永遠と繰り広げていたのか。
疲れを取るためにとった宿にて、何をしてるんだお前たちはっ!!
「・・・・・・・・・ッ!?」
いや、待てよ。
これ腐女子的には美味しいネタなのか?
その場合、どっちがどっちだ?
いやいや、これ以上友人で腐の妄想をするのはさすがにヤバイ。
特に例のイベントでガチでお尻の危機を迎えていた彼にとっては笑えないどころか、本気で怯えてたし。
ごめん、ここで止めときます。
そして紅丸よ。
そうだったね、クロワッサリーは夜行性ではなかったね。
そうか、前世でよく癒しを求めて眺めていたあのインコの寝ている画像や動画のごとく、突然眠りに落ちたのか。
どこか遠い目をしていたクローディアの両目が、次の瞬間ある画像を思い出して恍惚としたものへと変わる。
「・・・・・・・・」
あれ、メチャクチャ可愛いんだよね。
特に布やタオルに包まれてたり、ご主人の手のひらの中や、ラーメンの湯切りをする網の中とか、トイレットペーパーの芯の中で寝てるやつまであって。
とにかく狭いところや温かい環境の中だと、静かに寝落ちしちゃうそれはもう可愛いインコ達。
うん。
凄くそれを見たかった!
その瞬間をぜひともこの目で収めたかった!!
よし、今度宿を取る時は絶対に紅丸は同じ部屋にしよう。
そんでもって、思う存分その羽も触らしてもらおうっ!!
待っててね、もふもふの羽毛っ!!
今度こそ遠慮なく撫でくりまわして触り倒して、存分に味わい倒してやるっ!!!
そしてその可愛らしい寝姿を愛でまくってやるっ!!!
いや、待てよ。
今は擬人化中だから、これはただの少年の寝姿になるのか?
「・・・・・・・・・・・」
それはそれで萌えるからいいか。
元々別にそこまで強い年下少年への萌えはなかったはずだが、擬人化というプラスαの少年という自分でもよく分からない萌えは感じている。
そういえば前世で死ぬ前にジークフリート様の次に、といっても比べるにはその差はかなりの幅があるものの獣人ブームは一般的なその世界では大きな波が来ていて、自分もその波に少しだけ乗ってみてたっけ。
いや、これジークフリート様がその属性プラスαしたら最高最強じゃない?
もしプラスαするなら、ぜひとも狼属性でお願いします!!
犬なら絶対シベリアンハスキーーー!!!
いやこれ、間違いなく萌えすぎて鼻血吹きますからぁぁぁーーーーーー!!!
「!?!?」
その時、ようやく我を忘れて自分の世界に大興奮しながらこもっていた自分が、どこにいたのかを思い出す。
目の前にある眩しいイケメンが、鳩が豆鉄砲を食らったような顔でこっちをじっと見ていたからだ。
あ、この言葉久々に使ったかも。
ちなみに、実際に鳩に豆鉄砲を食らわせたことはないですよ?
「・・・・・・あ、あの、何か?」
ヤバイ。
つい周りが見えなくなって色々妄想が暴走していたが、その時の自分の顔を鏡を見てないから分からないもののかなり恥ずかしいものに違いないことだけはわかり、今更ながらに羞恥で顔を赤くする。
「・・・・・・・・お前、すっげーおもしろいやつだなっ!!」
「え?」
次の瞬間、ルイーズは村の住人から苦情が来るのではないかと思うくらい、腹から大きな笑い声をあげてその美声を響かせた。
「ちょ、ちょっとルイーズさんっ!笑い過ぎですって!もう寝てる人もいますからっ!」
「いや、だってお前!男に抱えられながら、あんな変な顔ばっかりする女なんて、俺初めて見たぜっ!!」
「・・・・・・・ッ!?」
すみませんね!
変な顔ばっかりする女で!
悪いけど、こちとら周りが美形だらけのおかげでわりかし耐性がついてるんですよっ!!
「そ、そろそろ降ろしてくださいっ!!もう1人で歩けますからっ!!」
「ハハッ!!あ、あぁ!わりぃ・・・・・あっはっはっはっ!!!」
あまりに笑われるものだから、さすがにいたたまれなくて無理やりその腕から地面へと降りる。
それでも、しばらくルイーズの笑いは止まらなかった。
そんなに変な顔を至近距離で晒したのかと、余計に恥ずかしさが増していくがもはや手遅れでしかない。
「いやぁ〜〜、あんたみたいな変な女もいるんだな!!」
「ちょっと!いい笑顔ではっきり言いすぎじゃないですかっ!?変な自覚はありますけどね!」
笑い過ぎて目尻に涙を滲ませながら、村の女性辺りなら心臓を大きく鳴らしてときめきそうな極上の笑顔で、何てことを乙女(一応ね)に言いやがるんだこの男は!
「・・・・・・さっきみたいな嬢ちゃんの姿も、鏡の男は知ってるのか?」
「!?」
ついさっきまで大笑いしていたはずの男は、急に真面目な雰囲気で振り返る。
「嬢ちゃんの、大事なやつなんだろ?」
「そう・・・・・です、けど」
まっすぐなルイーズの目線が、クローディアを射抜く。
その表情は、さっきまでとは全然違う雰囲気を醸し出していた。
太陽のような笑顔が今では満天の星空に浮かぶ月のように、そこに確かに光はあるもののどこか淡いどこか切なさを感じるものへと変わっている。
「本当に大事なものは目には見えない。いざって時に、後悔のないようにな?」
「・・・・・・・・ルイーズ、さん?」
その言葉とともに一陣の強い風が2人の間を駆け抜け、クローディアは無意識に目を瞑ってすぐにその瞳を開いて彼へと向きなおるが、その時には月のような彼はどこにもいなくなり元の太陽の笑顔をしたルイーズが立っていた。
「明日からは神探しか!!いやぁ〜〜楽しみだなっ!!」
「!?」
相変わらずの剛力で遠慮なく背中をバンバン叩いてくるルイーズに文句を言いつつ宿へと一緒に歩きながら、クローディアは頭の中で彼の言葉を繰り返しいたが、この時にはまだその言葉の意味をよく理解はしていなかった。
『本当に大事なものは目には見えない。いざって時に、後悔のないようにな?』
大事なものは、ジークフリート様だ。
最初からそれは少しも揺らぐことすらしない。
なのに、なぜこんなにも彼の言葉が心に残るのか。
その言葉の意味を彼女が心の底から感じるのは、もう少し後のこと。
彼女の知らぬところで事態は動き、歯車は回り続ける。
次の日、騎士院には1人の少女がジークフリートの元を訪れ、その日を境に彼はアルカンダル王国から忽然と姿を消した。
ジークフリートから仕事を言い渡されようやく戻ってきたグレイが彼の執務室で見つけたのは、叩き落とされたかのように鏡の面が粉々になって床に落ちている割れた『月の水鏡』だけだったーーーーーーーー。
いよいよヒーローがヒロイン?と化してしまいました。
攫われたピ◯チを助けに行くマ◯オ!
いや、本当によく攫われるお姫様ですけど実は凄く逞しそうな気がします。




