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モブ女子、黒と赤の世界

今回も読んで頂き、感謝です!


ゲームをあまりやらない友人がこの話を読んでくれたのですが、楽しそうなのはわかるけどやっぱりよく分からないとの感想でした。本当にゲームの話ばっかり入れてるせいですね(笑)





そこは、天も地も闇だった。






黒曜石を溶かしたかのようなどこまでも深い黒の世界に、闇を怖がるわけでもなく爽やかな風の吹く草原を歩いているかのように、一人の少女が軽やかな足取りでその中を歩いていく。


踊るかのようにスキップしながら、その口元からは楽しそうな鼻歌が溢れていた。



「!?」




そんな少女の足元から、黒い手が伸びる。



「こんにちは♪』



手だけが闇の中から出てくるこの心臓が大きくなりそうなその状況にも関わらず、少女はその手に何の躊躇いもなく自分の手を添えて握り返すと、ニコッと笑顔を向けた。



「あなたのご主人様は、どこにいるか知ってる?」



『・・・・・・・・・』




少女の問いに、闇の手はある一点を指差す。



「あっちね!ありがとう♪」



ぱあっと、顔を輝かせた少女は闇の手をもう一度握りしめるとその『一点』に向かって歩きを進めた。


一点といっても何か目印があるわけではなく、見渡す限り黒い世界は同じ闇の色で埋め尽くされている。



だが、少女は何の迷いもなくある一点に向かってまっすぐ歩いていった。




「ねぇねぇ、起きているなら少しだけ私とお話ししない?」



『・・・・・・・何?』




闇の中からは同じ闇の化身がむくりとその身体を起こす。


その漆黒の瞳は、声をかけた少女を非難するかのように強い眼差しで睨みつけるが少女は気にせずニコニコと笑顔のまま。



「私ね、どうしても欲しいものがあるの♪」



『・・・・・・・・・』



「泥棒猫さんに盗られたモノを、取り返しに行きたいんだけどいいかな?」



『・・・・・・・好きにしたら?』



「そうしたいけど、私一人じゃ少し難しくて」




しゅん、と悲しそうな顔の少女はその長い睫毛を伏せた。


その少女に向かって闇の化身の口元が左右に伸び、薄気味悪い笑みが浮かぶ。




『君が、ボクの望みの為に協力してくれるというのなら・・・・・力を貸してあげる』



「本当!?もちろん!私でできることなら、協力するよ!」



『・・・・・・・約束、だよ?』



最後まで口元だけの笑みを浮かべた闇の化身は、それだけを呟くようにこぼしてから再び地面の中へと、海に潜るかのように身体が静かに沈んでいった。














戦士・ルイーズさんがなぜか同行を押し切る形で加わった頃、バーには新しい客が来訪していた。




一応全力でお断りしたのだが、どうやらこの人はあまり人の話を聞いてくれないタイプのようで、そんな遠慮はしなくていい!だの雇うお金はいらないからそこは気にするな!だの、全く違うところから返信が来てこちらの意図を全然汲んではくれない。


こんなに分かりやすく『NO!!!』の意思表示をしているのに、なぜそんなにも強気でいられるのか。



確かに強い戦士が仲間になってくれるのはありがたいが、こんな得体の知れない爆弾のような人は御免こうむりたいのが本音だ。



イケメンならば、どんな悪党ですらも受け入れ包み込む恋愛ゲームのヒロインは器がとてもでかいに違いない。




「もう!おじいちゃんってば、やっぱりいつもみたいに酔い潰れてる!」


「エリスさん!?」



その時バーの扉から姿を現したのは、酔い潰れてる老人の孫であった。


エリスは可愛らしく頬を膨らませて中へと入ってくると、クローディアに『うちの祖父がすみません』と丁寧に頭を下げてから、ようやく立ち上がることができたマスターのいるカウンターへと向かう。



「マスター!いつものちょうだい!」


「は、はいっ!」


「???」



バンっ!とマスターが奥からテーブルへ出してきたのは、真っ赤な液体の入った瓶とこれまた真っ赤な液体入りのグラス。


その瓶には、何やら見覚えのある赤くて細いある植物の絵が見えた。


エリスはその液体を何の躊躇もなく、全部赤い液体入りグラスにドバドバと注ぎ込む。



「え、エリスさん!それはちょっと入れすぎでは!?い、いくら迎え酒とはいえ!」


「いいのよ、マスター!これくらい強烈な方がおじいちゃんには効くんだから!」



「・・・・・・迎え酒?」




あの色からして、もしかしてあの飲み物は前世のある国でとても有名だった『ブラッディ・マリー(血まみれのメアリー)』だろうか?


何世紀のことだかは忘れたが、ある国の女王だったメアリーという名の女性が何百人と虐殺をしたことから『血まみれメアリー』と恐れられ、その見た目が真っ赤なことからあるカクテルにその名がつけられたという。



もしかしたら『ブラッディ・ジェ◯ソン』や『ブラッディ・ジ◯ック』なんてカクテルもどこかに存在していたんだろうか?


そんな物騒極まりない由来のブラッディメアリーは、トマトジュースをメインした爽やかなに飲み味のカクテルで、健康に良さそうという理由から付き合いで飲みに行く際は毎回のように選んで飲んでいた時期があった。



結局飲みやすさでどんどん飲んでしまい、本当に健康に良かったのかは未だによく分からない。




確か一度家でも作ってみたことがあって、トマトジュースとウォッカの他に塩や胡椒、そして今目の前で空になっている瓶とよく似た液体のタバスコなどを入れていたように思う。



だが、その分量はどんなに記憶が曖昧でも『少々』だったはずだ!


材料のレシピにタバスコ×1本なんて、罰ゲーム以外に使われるのなんか見たことも聞いたこともない!



「よしっ!できたわっ!」



そんなスペシャル特製ドリンクををマドラー?でしっかりかき混ぜると、イキイキした表情のエリスは赤い顔でいびきをかいたまま寝ている老人の口元にグラスを持って行き、『ほら、おじいちゃんの大好きなお酒よ!』なんて悪魔の囁きをその耳に落としている。


『お酒』というワードにのみ反応した老人は、それがどんな飲み物なのかも確認しないまま虚ろな目でそれをガブガブとされるがままに飲み込んだ。



「ぜ、全部、飲んだ・・・・・ッ!」



側で見守るクローディアの方がゴクリと唾を飲み込み、真剣にその後の成り行きを見守る。


そんな私の後ろではラインハルトさんと紅丸が恐らくはお互いの武器について情報交換?をしているが、今気になるのはそっちよりもダントツでこっちだ。


ちなみにブラッディメアリーの見た目が真紅のせいで、飲みながらも口の端からお酒が横に溢れてしまい見た目は吐血した後のよう。





そして、その数秒後。







「ハンギャァァァーーーーーーーーーッ!!!」




「!!??」




老人の口から、炎が吹いた。



よくあるもののたとえじゃなくて、本当に口から炎が火炎放射器のごとく連続で発射されている!


それを予測済みのエリスは、シルバーのトレイをしっかり盾代わりにして炎から自分の身を守っていた。



「うちのおじいちゃん、結構強い魔法使いだったの♪」



「!?」




魔法使いって、火を口から噴くんですか?



それはどちらかといえば『旅芸人』ではないだろうか?



職業でいえば『遊び人』?


それとも『踊り子』?


『魔物使い』も確か炎を吐き出したはずだ。



いやいや、そもそも普通は火なんて滅多に吹かないから、良い子のみんなは適量を守って香辛料は使いましょう!!



その後もしばらく炎を吐き続けた老人がなんとか正気を取り戻すと、明日自分の家に来るようにとだけクローディア達へとフラフラになりながらも一言告げ、エリスに支えられながらなんとか自分の足で自宅へと帰って行った。



クローディアにそれを告げる際、ちゃっかりお尻を撫でてきたのでクローディアのアッパーが飛んだがやはりその拳も空をきった。




これはもう、アレだ!


彼は酔拳の使い手なのかもしれない!




かの有名な仙人も、桃を食べて酔っ払いながらの酔拳で戦っていたではないか!






やっと手がかりにありつけそうなのは嬉しいが、これちゃんと明日も記憶が残ってるんだろうか?



一抹の不安を残しながら、クローディアは宿を取って待っててくれているレオの元へと3人で向かう。






店の外に出た時には、それはもう見事な満天の星空が眼前に広がっていた。




ブラッディメアリー、お酒があまり得意でない自分も飲みやすくてよく飲んでいましたが、友人からはそれならむしろトマトジュースを買って飲んだら?とぼそっとつぶやかれ、確かに!とカンのトマトジュースを箱買いしたことがありました。

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