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モブ女子、犯人はあなただ!

今回も読んで頂き、ありがとうございます!


ある名探偵がいる町は、危険区域として他の町の住人から恐れられているという情報に思わず吹きました。確かに毎日事件が起こる町は普通に考えて怖いですよね。

エリスさんに風の神殿やトルナード様の事を聞いてみたところ、風の神殿は確かにこの谷にあるものの、その入り口は村人でもほとんどが知らされていないらしい。


トルナード様のことも伝説として村人に代々語り継がれてはいるものの、その姿を見た者は代々の村長ですら難しいとのことだった。



「あ!でも、うちのおじいちゃんなら、もしかしたら詳しいことが分かるかもしれないわ」


「ほ、本当ですかっ!?」



何でも、エリスさんのおじいさんは若い頃に一時期村長代理を務めていたことがあるらしく、風の神殿にも何度か行ったことがあるのだと家族にだけそっと教えてくれていたらしい。




「それで、そのおじいさんは今どこに!?」




やった!


まさかのハプニングから、イベント発生!




「そうね。たぶん、この時間ならいつものバーで飲んでると思うわ。ただ・・・・」


「バーですね!分かりました!ありがとうございます!!」



やっとこさ手に入った手がかりに興奮した様子のクローディアは、すぐさまバーがある宿屋の向う側へと走っていく。



「有力な情報、感謝するでござる!!」


「あっ!ちょ、ちょっと待ってったら!」



エリスの言葉を最後まで聞くことなく、紅丸も頭を下げたと同時に脱兎の如くクローディアの後を追いかけていく。



「最近のおじいちゃんは耳が遠いのと少しボケてきちゃってるから、まともに話が出来るか分からないんだけど大丈夫かしら?」



しかも、お酒が入るとそのままバーで酔い潰れて朝まで眠ってしまっていることも多い為、まともに話せるのは一日の中でもごくわずかなのだけれど。



「まぁ、何とかなるわよね!きっと♪」



少しだけ不安に陰りを見せたエリスだったが、すぐに気持ちを切り替えると自宅へと笑顔で足を向けた。



だが、その不安は見事に的中してしまう。









「・・・・・・・・あの、あなたがエリスのおじいさんですか?」



宿屋の向かい側にある小さなバーは薄明かりの中でL字のカウンター席と、2、3のテーブル席がある小さなお店だった。


お客もバーで飲んでいる老人と、テーブル席には旅人らしい鎧を着た男と村人らしき中年の男性が2・3人ほど。


店長であるマスターはゲームでよく見かけた蝶ネクタイにベストを着込んだちょび髭の男性で、その姿には思わず笑いをこぼしてしまった。



その中で『おじいさん』として見えるのは、カウンターで飲んでいた、この目の前にいる白髪と豊かな白い鼻の下とあごのひげを蓄えた男だけだ。



ちなみに、てっぺんには眩しいほどの光を発する見事なハゲ頭!



坊主にするには頭の形が何よりも大事だと聞いたことがあるが、この老人は仙人のような風貌でおでこからてっぺんが少し面長の頭をしている。


その顔は手にしているお酒のせいか、だいぶ赤くなっていた。



「ひっく!なんじゃ〜〜?この店は新しく女の店員を雇ったんかぁ?それにしては、ちと色気が足りんのう・・・・・?」


「ひいっ!?」



突然、クローディアのお尻にさわさわと感触が走り、全身に悪寒が走る。



「き、貴様っ!!クローディア殿に狼藉を働く気でござるかっ!?」


「おぉ〜!小ぶりじゃが、よく締まっておって、弾力のあるいいケツじゃ!ひっく!」


「い、いきなり何すんだ、このスケベじじぃっ!!!」



顔を真っ赤にしたクローディアのストレートパンチと、紅丸の鋭い鉄爪攻撃がほぼ同時に老人へと向かうが、その攻撃はどちらも届かず空をかすめていく。



「!?」


「あ、あれ?」


「ひっく!なんじゃ、危ないのぅ〜。せっかくの上手い酒が、こぼれるところだったわい♪」



つい先ほどまで目の前にいたはずの老人は、気づけばクローディア達の後ろ側で変わらずニヤニヤと締まりのない顔のまま変わらず酒をちびちびと啜っている。



「い、いつのまに?」


「・・・・・・・・」


「のう、マスターや?どうせ店で雇うなら、もう少し、こう肉付きの良い子が、わしはいいのう〜♪」


「ちょっとクラヴィスさん、この子はただのお客さんですよ!」



マスターの言葉も『クラヴィス』と呼ばれた老人には届いておらず、両手でグラマーな女性のボディラインを描きながら楽しそうに酒を飲み続けていた。



「あ、あの!それよりも、あなたがエリスのおじいさんですかっ!」



ジークフリート様ですら触れられた事のない場所を撫でられ頭にきてはいるものの、貴重な情報収集源の為と怒りを押し殺してもう一度声をかける。



今度は、先ほどよりも声を張って。



「ひっく・・・・なんじゃあ嬢ちゃん、わしと一緒に飲みたいのかの?」


「違います!あなたが!エリスの!おじいさんかって!聞いてるんですっ!!!」



今度はさらに老人に近寄り、その耳元で腹の底から声を張り上げる。



「ひっく・・・・・・う〜〜ん、いい尻じゃが、ボリュームがたりないのぉ〜?」



「!?!?!?!?」



なでなでなでなで、と再びスカート越しにお尻を撫でられクローディアの全身に鳥肌か立ち、その顔は真っ青から憤怒の色へと変化する。



「く、く、クソジジイっ!!!!滅多刺しにしてやるっ!!!!」



涙組みながら鬼のような形相になったクローディアが水龍の剣を老人に向けて勢いよく振り上げたが、その刃がクラヴィスに落とされることはない。



なぜか?



「お嬢ちゃん、止めておいた方がいいぜ?その爺さんには俺らも散々聞いたが、ずっとのらりくらりと何1つまともに答えやしねぇ!」



「!?」



ちょうどそのタイミングに、乱入者が来たからである。



「あ、あんた達は・・・・・・ッ!?」



薄汚れた鎧の一部を身につけ剣や斧をその手に持った、ガタイのいい男が数人バーの入り口を塞ぐようにして立っていた。


どの男もいかつい、『荒くれ』という言葉がぴったりな容姿で下卑た笑みを浮かべている。



「それ以上我が主に近づけば、そなたらを斬るでござる!!」



男達とクローディアの間には、すでに鉄爪を構えて鋭い眼差しで相手を睨みつけている紅丸が戦闘態勢を取っていた。



あれ?


爪攻撃も『斬る』んだろうか?




「おいおい、ガキと嬢ちゃんが随分危なっかしいものを持ってるじゃねぇーーか!!」


「へっへっ!そんなもん振り回してたら、ケガしちまいますぜぇ!」



男達の中でも小柄な男が、笑いながら紅丸へと近づいてくる。



「貴様、拙者とクローディア殿を愚弄するでござるかっ!!」


「!?」



だが、すぐさま両の鉄爪で素早く斬りかかった紅丸の攻撃によって、その男の腹の辺りと腕の袖が切り刻まれた。



「ひ、ひいっ!?」


「次は手加減しないでござるっ!!」


「・・・・・おいおい、ずいぶんと穏やかじゃねぇなぁ?俺らとあんた達はその爺さんに用があるっていう、同志みたいなもんじゃないのかい?」



背の低い男は、もしかしたらこの男達の中では弱い方なのかもしれない。


他の男達は紅丸の動きに何ら動揺することはなく、むしろ口笛を吹いたりなどしてより楽しそうに笑いあっていた。



「あ、あいつらは山賊のスコーピオン!!に、逃げるべ!」


「ま、巻き込まれてケガすんのはごめんだぁ!!」



荒くれ達の姿に、顔を真っ青にしたテーブルで飲んでいた村人1と2の男が慌ててその場を逃げていく。



「ど、どうか命だけはご勘弁を〜〜!!」



バーのマスターも銀のトレイで頭を防御しながら、カウンターの中で身を屈めて怯えていた。


そういえば、ゲームの中でも盾の装備品で『シルバーのトレイ』があって女性用では結構な守備力があった気がする。



「おや?嬢ちゃん達は逃げないのかぃ?」


「わ、私達はこの人に用がある・・・・・・えぇッ!?」



ちらっと横目で目線を向けた先には、こんな騒ぎの中だというのにとうとう酔い潰れて寝てしまった老人が大きないびきをかいていた。



「嘘でしょ・・・・?」




この様子ではしばらく起きないだろう。


頭から水でもかけたら目覚めるだろうか?




「マスター!お水をいっぱい頂けますか?」


「へっ!?み、み、水!?ど、どうぞっ!!」



震えながらではあったが、どうにかマスターはコップに溢れんばかりの水を入れてクローディアへと差し出す。



「ありがとうございます!」



さて、これを頭からかけるか。


顔に直接かけるか。



「・・・・・・・おい、てめぇ」



いや、それとも頬や首にここままグラスをつけてもかなりヒヤッとして起きるかもしれない。



「この俺様を、無視するんじゃねぇぇぇーーーーーーこのクソアマがぁっ!!!」



「!?」



別に無視したわけではなくて優先順位の問題なのだが、顔を怒りで歪めた山賊の男は手に持った斧を大きくクローディアに向かって振り上げる。



だが、その斧は彼女へ振り下ろされることはなく同じ金属の武器によってその勢いを止められた。



「これ以上は、進ませぬでござる!!」


「て、てめぇ!!」



斧は、紅丸の鉄爪によってギリギリと音を立てながらしっかり抑えられている。



「く、くそっ!!お前ら、やっちまえっ!!」


「おおぅっ!!!!!」


「!?」



ボスらしき男の周りにいた数人の荒くれ共が、野太い声を上げながら武器を振り上げ一斉に襲いかかってきた。



「ひいぃぃぃッ!!!!!」



バーのマスターは、恐怖にとうとうカウンターの隅に縮こまって身を隠す。



こんな時、魔法が使えれば一網打尽に黒焦げにしてやるのに!!




「・・・・・・ッ!?」




迫り来る男達の姿に水龍の剣に手をかけ、翼竜の魔法を発動させる言葉を叫ぼうとしたクローディアの横を風のような速さで何かが移動していった。



「へ?」



その人の身につけていた鎧は全身が黒色。


そしてその上から羽織られたマントも漆黒で、クローディアの視界を一気に闇に染めた。




ま、まさかーーーーーーージークフリート様っ!?




黒い鎧に黒いマントをなびかせたその男は腰から銀色に光る長剣を抜き取ると、ならず者達のボスらしき男以外をその一太刀で一斉にバーの壁へと吹き飛ばす。


その太刀筋も彼にとてもよく似ていたが、すぐに男が彼ではないことがその燃えるような紅い髪で気づいた。




「・・・・・・・おいおい、女子ども相手にずいぶん物騒だな。どうせ喧嘩をおっぱじめるなら、この俺とやりあっちゃくんねぇかっ?剣が錆び付いて仕方がないもんでねぇ!」



「な、なんだ貴様はっ!?」


「俺か?別にあんたに名乗るほどでもないさ!それより・・・・・せっかくの機会だ。楽しい喧嘩にしようじゃねぇか!」


「!?」



炎のような髪と同じ紅い瞳は、これから始まる戦いへの喜びにきらめいている。


だがその瞳孔は開き、あまりに鋭い眼光にクローディアの背筋に悪寒が一瞬走った。




「ふ、ふざけんじゃねぇ!!くそっ!!覚えてろよ!!」



先ほどの一太刀で目の前の男の力量が只者ではないと踏んだのか、荒くれのボスは捨て台詞を残して一目散に逃げていく。



「ま、待ってくださいよ副頭〜〜!!」



その後を、壁に打ち付けられていた部下達が慌てて追いかけていった。



「あ!おーーい!!喧嘩しないのかぁ〜〜?なんだ、せっかく久しぶりに暴れると思ったんだがなぁ」



構えた剣を腰に収めた男は、心底がっかりしたようにため息を吐く。



「わりぃな、勝手に乱入しちまって!あんたらケガはなかったか?」



さっきまでの鋭さや燃え盛る炎を思わす熱さは消え、男はくしゃっと子どものように無邪気な笑顔を浮かべた。



「!?」



正面から見た男の顔は額から鼻を通り頰まで達するほどの刀傷があるものの、精悍な顔つきをしており、その無精髭さえもワイルドさと色気を醸し出していて『彼らしさ』を引き立たせている。


レオナルドのように明るい笑顔を浮かべているものの、これまで培ってきた人生が顔に現れているのかそこには大人の余裕のようなものまで感じてしまい、少年と大人が同居しているかのようなアンバランスさがまた絶妙な味わいを生み出していた。



そして何より、その声が素晴らしいっ!!



低音の腰にくるボイスは、歴代の乙女ゲームで何万という乙女の心を虜にしたあのスーパーベテラン声優を思わせる。



何を言いたいのかと言えば、とにかくかっこいい!!!


これに尽きる!!



しかも、ゲームの攻略者達に匹敵するほどの大人イケメン!!



前世において、芸能人で好きな人をなんとかあげるとするならば若手俳優よりも、アラフォー世代の色気があり深みのある大人イケメン俳優の方が好きだったクローディアとしては、かなり心を揺さぶられるくらいのスーパープレミアム激レアキャラクター!!



ガチャで言えば、まさにSSRランク!!!




さてみなさま、覚えておられるでしょうか?



乙女ゲームにおいて、群を抜いたイケメンは新たな攻略相手か敵かでしかないと!!


下手したらその他大勢は同じ顔をしてるくらい、その扱いには大差があると!!



そして、今回のターゲットはどんな存在にも変化できる(無機物にもなれるかは不明)らしい、万物の力を持ちしゼウス神のような神・トルナード様!!



しかーーーーも、神々はこぞって皆が人外の美形!!



ならばこのクローディア、もう迷いません!!





犯人は、この中にいるっ!!!




「あなたが風の神・トルナード様ですねっ!!!!」



「・・・・・・・・え?」



びしぃっ!!と、男への振り向きざま逆転◯判の決めポーズよろしく、人差し指をまっすぐに男へと向けたクローディアは不敵などや顔で目の前の相手を見つめる。




き、決まったーーーーーーー!





静まり返った空間には、ただ1人その中で未だに深い眠りについているクラヴィスの大きないびきだけが響いていた。



名探偵系のアニメだと、犯人をストーリーの中での推理よりも起用されている声優さんで、こんな大物が声を当てているなら犯人じゃね?という、なんとも失礼な推理をしている事がありました。


いや、やっぱりスーパー声優は声の気配も特別なんですよね。モブに埋もれられないというか。

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