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モブ女子、優しい時間

今回も読んで頂き、感謝です!!


ゲーム曲はなんであんなに名曲ばかりなんでしょうか。聞いてるだけで何年もやっていないゲームの中の光景が一気に浮かび上がって、すでに手元にないゲームをやりたくて仕方がありません。

3日目の地獄の猛特訓がようやく終わり、全身で呼吸をしながら休んでいたクローディアの元に、ジークフリートは水と一緒にある防具を彼女の元に持ってきていた。



「ありがとうございます!あれ?ジークフリート様、これは?」



受け取った水を一気に飲み干しながら、クローディアは彼の手の中にある防具に目を寄せた。



「これは・・・・・・俺がこの騎士院に来て少しした頃に、当時の団長から頂いたものだ。成長とともに腕も太くなり途中からはずっと使えずにいたのだが、これならいざという時にお前の盾代わりになる」



「!?」



それは、肘から手首までの腕を守る為の手甲だった。



「この手甲の下には、この布をつけるといい。これがあるとなしでは腕にかかる衝撃が随分と違う」


「は、はい!でもいいんですか?そんな大事なものを?」



サポーター代わりの紺色の布をつけた上から、随分と使い込まれた感の漂う蒼銀色の手甲が、ジークフリートの手によってクローディアの両の手へと丁寧につけられる。



「・・・・・・ッ!」



ジークフリートに至近距離で近づかれ、クローディアの手首や肘に触れていることに『防具を装備してもらっている』だけなのに、クローディアの心臓は大きく高鳴った。



前世の記憶を取り戻し、出会ったこの世界で画面の中ではなく地に足をつけながら生身の肉体を持って『生きている』彼と再開したばかりの頃は、遠くからほんの少しでも彼の姿を見ているだけで心が躍ったというのに。




今ではこんなに側で彼の声を聞き、温もりを感じられるーーーーーーーー。





クローディアは、胸の奥から湧き出る喜びと幸福に目眩を起こしそうになりながらも、今の彼の姿をしっかり目に焼けつけていこうと大きく鳴り響く心臓をなんとかなだめながら彼を一心に見つめ続けた。







手甲の片方は魔封じの腕輪が手首にはめられている為、少しずらしてその上からつけた。


元々サイズ的には少し大きめなので、それでも余裕があるくらいだ。


金属の防具ならそれなりに重いのかと思えば、その強度に反してとても軽い。



「よし。特殊な金属で出来ているから、女のお前でも負担は少ないだろう。これぐらいしか俺にはお前の為にしてあげられることはないからな。お前さえ良ければ受け取ってくれ」


「い、いや、そんな!ジークフリート様は生きいてくれるだけで私には十分・・・・・・じゃなくて、有り難く使わさせて頂きます!!」



何せ、この防具には自分の全く知らない若き日のまだ青いジークフリート様の汗やら色んなものが染み込んでいるのだ!



それを妄想するだけで、白飯三杯は軽く下らないではないかっ!!




「・・・・・喜んで貰えたならいいんだが」



「あ!いや、その、そういえば、ジークフリート様じゃない団長もいたんですね!」



「お前は、何を当たり前の事を言ってるんだ?」


「そ、そうなんですけど」



私の中で、この世界においての『騎士団長』はジークフリート様しかイメージがない。


某テニスの部長様が卒業してもみんなからは変わらず『部長』みたいな、いやジークフリート様にだって騎士見習いの時期はあったんだろうけど、ゲームでも最初から最後まで団長は団長だったせいか、いまいちピンとこない。



別のゲームの世界観ならいくらでも思いつくんですけどね!



「あ!ちなみに、この防具をくれた前の団長さんはどんな人だったんですか?」


「ラインハルト=リベルタ殿のことか?そうだな・・・・・あの人はよく分からない人だったな」



「?」



「ラインハルト団長は、まぁよく言えばとても気さくでおおらかな人だったんだが。とにかく書類仕事が大の苦手で、山の様に書類を溜めてはルイーズ=デービット副団長にそれを全部押し付けてはよく逃げまわっていた」




ジークフリートの脳裏にまだ自分やほぼ同期で騎士院に入っていたグレイが一人前の騎士になり、当時騎士院の中でも中堅の中では実力もリーダーとしても頭角を現し始めていた青年の頃の思い出が鮮明に映し出される。



それはまだ、ジークフリートが今のレオナルドと同じぐらいの年齢だった。



ほぼ毎日というぐらいラインハルト団長は騎士院からというより、ルイーズ副団長から逃げ回り、彼を探して捕獲するのがジークフリートとグレイの日課の一部でもあった。


その大柄で強靭な肉体を持つラインハルト団長はその足も速く、普通に追いかけていてはまず捕まらない。


その為、彼の逃げるルートを彼の思考を先読みしながらグレイと挟み討ちになるよう綿密な作戦を立て、圧倒的な力を持ち一対一ではまず勝ち目のないラインハルト団長の死角から2人の息の合った隙のない流れるような攻撃で迎え撃たなくてはならず、その辺のモンスターが雑魚に感じるほどその強さは圧倒的なものだった。


捕まえた後は、縄でぐるぐる巻きに椅子に縛り付けられたラインハルト団長とともに、なぜかジークフリートとグレイも書類の手伝いをとばっちり?でさせられ、気づけばほとんどの種類を代筆できるぐらいには事務的能力も鍛えられてしまっていた。



今から考えたら、自分達2人を鍛える為の作戦では?とも思わないでもないが、あれは本当に書類仕事が嫌で逃げていたのだろうと思う。



そうなるべく図ったのは、ルイーズ副団長の方だろう。



ルイーズ副団長はいつも彼の自由奔放さに頭を抱え、その後処理を山のように押し付けられてはその都度ラインハルト団長に頭の血管が切れそうなほどの気迫で説教を繰り返すものの、団長は全く懲りない様子で当たり前のように毎日逃げ出していた。



だが一度戦場に立てば彼以上に心強い存在はなく、ラインハルト団長が敵陣の中に一度立てばすぐさま100・200ものモンスターの亡骸の山が築かれるのだと、その強さは人智を超えた計り知れないものだった。


そんな彼はその強いカリスマ性と細かいことは全く気にしない大きな器とで、騎士達からも絶大な憧れと信頼を勝ち得ており、彼に足りない部分は武よりも智に長けた参謀のような役割のルイーズ副団長が常に側にいて彼を補う。




炎の獅子のたてがみのように燃え盛る紅い髪と瞳をした雄々しいラインハルト団長。


そして、傍に立つのは彼を鎮める水のように澄んだ長い髪と涼しげな青い瞳を持った、ルイーズ副団長。




あれだけ毎日のように叱りつけていても、戦場におけるラインハルト団長へと信頼は絶大で、ラインハルト団長がどこまでも自由に彼らしく動けるよう公私に渡ってどんな時も彼を全力でサポートしているのがルイーズ副団長だった。



途中からはジークフリートとグレイも強制的に常に彼のペースに巻き込まれていたが、それすらも心地よいと思えるようなそんな竜巻のような勢いと太陽のような熱い存在感のある男。




「・・・・・・・ラインハルト団長は、団長としても1人の騎士としても今だ俺にとっては超えられない大きな壁であり、先を導いてくれる光のような人だ」



「すごい人、だったんですね」



ラインハルト団長の話をしている時、ジークフリート様の顔はいつもの大人びた厳しさを感じるものではなく、どこか目がキラキラと輝き、今よりもひと回り小さく真面目でしっかりした雰囲気はそのままの少し幼い彼が重なって見えたような気がした。



これが乙女ゲームの歴史を変えちゃう系や時を翔ける系の内容だったら、そんな過去も覗き見てあわよくば当時のジークフリート様とのイベントも会って恋愛イベントが起こったりしちゃうのかな〜〜〜♪と、ついついふと浮かんだ妄想に頬がニンマリと緩んでしまう。



クローディアと(肉体的に)同じ年のジークフリート様とが出会っていたら、果たしてどんな感じになっただろうか?



ジークフリート様とグレイさんに大きな影響を与えた、ラインハルト団長とルイーズ副団長のことも確かにものすごく気になるのだが思考がどうしてもジークフリート様中心に考えてしまうのはどうか許してほしい。



「あれ?でも、今その2人は・・・・・・ッ!」



今の騎士院にその2人の影がどこにもないことを思い出し、ジークフリートの普段はなかなか見せないどこか傷ついたようなその淋しげな表情から察したクローディアは、慌てて口元を手で塞ぎながら彼に頭を下げた。




「・・・・・・ごめんなさい」



「お前が謝ることじゃない。騎士であれば、それは誰もがあり得ることだ」



ポンポンと、ジークフリートの大きな手が俯いたクローディア頭に乗せられ優しく撫でる。



「あの2人を知る騎士達も当時から比べたらだいぶ減って、彼らを知らない騎士やその見習いのもの達が増えていくのが最初は不思議で、寂しさを覚えたものだが・・・・・・あの2人がこの騎士院に残してくれたものは果てしなく大きい。きっとそれは、年月がどれだけ経とうとも変わらずにそこにあり続けるんだと俺はそう思ってる。いや、それこそが残された俺たちの役目かもしれないな」



「・・・・・ジークフリート様」



「すまない、少し話しすぎた。明日の出発までに体も休めたいだろうから、お前はもうそろそろ家に帰ってゆっくりするといい」



「あっ、待ってください!!」




その場を立ち上がり、クローディアから離れていこうとするジークフリートの腕を慌てて掴む。


旅に出る前に、彼には絶対に渡しておかなくてはならないものがあるのだ。




「こ、これをっ!!」



「これは・・・・・鏡か?」



クローディアがポケットから出したその『月の水鏡』を受け取るの、不思議そうに眺めている。



「ウンディーネ様から頂きました!月の出ている夜なら、私が持ってる同じ『月の水鏡』同士で姿を映しながら会話ができるものだと。私は、あなたにそれを持っていて欲しいんです!も、もし迷惑なら、持っていてくださるだけで構いません!」



「何を言っている?こんな大切なものを迷惑など、あるはずがないじゃないか」



彼女の身を案じている者は、自分以外にもたくさんいる。



そらこそこの鏡を通して彼女の無事を確かめられることが知られれば、毎晩のように見に来るかもしれない。



それでも、そんな大事なものを彼女は自分へと託してくれた。



選んでくれた。



それが、嬉しくないわけがない。





「・・・・・・クローディア」



「!?」



ジークフリートは、『月の水鏡』を持つ手とは逆の手で彼女腕を自分の方に引っ張りあげると、その体を両の腕の中に包み込んだ。




「あっあの!?あれ、あの、えっ?!ひぇっ・・・・・・・ほあぁぁぁぁぁっ!?」




突然の異常事態にクローディアの思考は大混乱を極め、顔はリンゴのように真っ赤で今にも鼻血を噴きそうなほどに興奮している。


いくらレオに飛びかかれ慣れてようと、彼とジークフリート様とでは彼女の心臓にかかる負担があまりに違いすぎる。



だが、そんな彼女の様子をを気にすることなく、ジークフリートは旅の前に彼女へと伝えると決めていたあることを口に出し始めた。



「旅から無事に帰ってきたら、お前に話したいことがあるんだ」



「!?」



「だから、全部終わったら・・・・・ここに帰ってこい」




本当は誰よりも側で、自分のこの手で守ってやりたい。


けれど、各地に飛んでいる騎士院の偵察隊員からの情報で他国から戦の気配があることや王国の近くに上級レベルの魔物が徘徊し始めているという大事な時期の今、この国を守るために自分は自分にしかできない役割を全うしなくてはいけない。



それこそラインハルト団長とルイーズ副団長の分まで、この国を守ることこそがあの2人への恩返しにも繋がると思っている。



だが、全てが終わったその時には団長としてではなく、1人の男としての役割も果たしたい。






知らぬ間にずっと影から守ってもらってばかりだった分、これからは自分が彼女を守っていけるようにーーーーーーーーー。









ジークフリートからの言葉に頭が真っ白になったクローディアは、あまりのことに言葉を発することもできず一度小さく頷くとそのまま体を茹でダコのように真っ赤にしながら目を回して、ついには彼の腕の中でそのまま気絶してしまった。






この時、お互いにその心にある想いを打ち明けず、秘めたままでいたことを後から後悔するのだがそんなことを今の彼らが知る由もない。

もしかして、彼らが本当に2人きりのシーンを書いたのは久しぶりじゃないか?と、一応恋愛の物語でもあるのに首をかしげてしまいました。


でも主人公がヒーロー相手には滅法弱いヘタレなんで、まともにラブシーンできるのはいつの日やらですね。

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