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モブ女子、旅の同行者

今回も読んで頂き、ありがとうございます!


中学の時、部活で体力作りの為と毎日当たり前のように走り込んでましたが、何であんなにも走れたのか今では不思議でなりません。


今はこんなにすぐ息がきれてしまうのに、と。

クローディアが向かった先は、皆もうすでにお分かりだろうが剣での戦いを誰よりも知る騎士院だ。


そこで、剣の扱い方とあわよくば旅の同行をお願い出来たらとある人の執務室を訪ねたわけだがーーーーーーーーー。






「・・・・・・・・レオ、ちょっとどころかかなり痛いんだけど?」


「嫌だ!!クロエが俺を連れて行ってくれる!って言うまで、絶対絶対離さないッ!!」



騎士院到着とともに、突風のような勢いでどこからか飛んできたレオナルドに文字通り飛びつかれ、その引き締まった筋肉によりただいま絶賛全力で抱き潰されそうになっている。



まだ何も言ってないのに、時々ものすごい感の鋭さを発揮するこの普段は明るく爽やかな青年は、クローディアが新たな旅に出ることにすぐさま気がつき、その同行を自分にしてくれなきゃ嫌だっ!!と、駄々を起こした子どものように泣きわめいていた。


その様子に、執務室で仕事をしていた彼の上司にあたる2人の男は大きなため息をついている。


本当は、己の欲にどこまでも正直になるのであれば同行をお願いしたかったのは今クローディアを抱きしめるレオの体越しにその姿が見えるジークフリート様だったのだが。



全身全霊でその好意を剥き出しにしてくれているレオの姿に、体はみしみしと痛いが心はやっぱり嬉しかった。



いつだってレオは、まっすぐにその愛情を与えてくれる。


彼がそこまで思ってくれるようなことを自分が彼に与えられいるとは到底思えないし、それはむしろ彼の心に支えになったローズではないのだろうか?


それを彼に言うと、『ローズは大切な人だけど、クロエとは全然違う!』と未だに怒られてしまうのだけれど。



「・・・・・・・・レオ」



「嫌だっ!!」



「まだ何も言ってないよ?」



「今回は絶対絶対ついていくっ!!俺がクロエを守るっ!!」



「!?」



全く、街に出れば今やジークフリート様やグレイさんに次ぐ人気者で女性からの支持も高い男が、何でこんな自分のことなんかでその真顔でいれば端正な顔をこんなにも涙や鼻水でぐしゃぐしゃにしているのか。


離れたところにいるジークフリートと目が合うとクローディアは小さく頷き、彼もそれに応えて頷いた。



「・・・・・・レオ、ありがとう」


「!?」



嗚咽を繰り返しながら、未だその両の瞳から洪水のような涙を流すレオに声をかけると、ビクッとその体を反応させた彼の腕が少し緩んだ隙にその彼と比べれば細めの腕で彼の体を抱きしめ返す。



「今回はレオが一緒に来てもらってもいいかな?」



「・・・・・・え?い、いいの?」



絶対!とは言いつつ、了承をされるとは思ってなかったに違いない。


その瞳は疑いの眼差しで揺れていた。



「俺のこと、置いていかない?」



「!?」



レオのこの子犬のような瞳に、実はクローディアは結構弱かったりする。


前世の妹と欲しいものが被ってしまった際、ジャンケンに勝ったにも関わらず目の前で泣き止まない彼女の姿に負けて、譲ってしまったことがそれはもう多々多々あった。



今思えば自分よりもはるかに賢い妹のこと。



もしかしたら、それを分かってた上で泣いていたのかもしれないが。


当時の自分は彼女の泣きが嘘か本当かの区別が分からないほどには、とても単純である意味素直で鈍感な部分があったのだ。



そんなわけで、いざという時に『泣く女』はずるいと前世から散々思ってきたわけだが、『泣く男』だって同じくらいずるいと思うのだ。


いや、これは厳密には個々のキャラによるとは思うが。



「もう、こんなに涙で顔中ビショビショにして!」


「・・・・・・・・・」



レオの涙を、クロエは自分の服の袖でこすり過ぎない程度に荒く拭う。


だが、拭けばふくほどまた新たに大粒の涙が溢れてきてキリがない。



「・・・・・・・・ほん、とう?」



ようやく、絞り出すようにしてレオが言葉を発する。



「もちろん!」



「今度は・・・・・黙っていなくならない?」



「う、うん!!いや、いつも確かに言ってなかったことはごめんなさい」



同じようなことをエリザベスからもお叱りを受けたなと彼女の大変可愛らしい拗ねたような姿とともに思い出し、クローディアの口元には思わず苦笑がこぼれた。


前世では、友達どころか親にもろくに自分のことは連絡せず話さなかった為、母親からは定期的に向こうからよく連絡が来ていた。




元気でやってるの?


ご飯食べてるの?


ちゃんと寝れてるの?





もはや、生死確認のような感じだろうか。


女の生活にしては潤いが足りない気がしたが、そこまで不摂生な生活はしてなかったつもりだ。


ただ、ゲームを始めると寝食がどうでもよくなるほど没頭して、仕事中に突然襲われる睡魔からの急襲にその都度後悔するのだがやっぱりやめられない。




おっと、話がだいぶそれてしまった。


なんだっけ?




そうそう、連絡についてだ。


たとえ一年に1回しか会えなくともあの世界では携帯電話があり、どれだけ遠く離れていても声や文章・はてはスタンプですぐさま連絡ができた為、友達がどこに行こうが住まいが変わろうが、寂しさは確かにあるものの飛行機で行ける距離なら大して気にもならなかったのが本音でもある。



いざとなれば、いつだって会える。



そんな保証はどこにもないのだが、平和で便利な世界に慣れすぎた心はそれが当たり前の思考になっていた。





だが、この世界には携帯電話どころか普通の電話だってない。


手紙で連絡は取れるものの、それだって配達途中に事故が起これば必ずしも相手に届くものではない。



『旅に出る』ことは、前世では無事に帰ってくることは一部の国へと旅行を除けば、何の不安もそこには抱かず『思いっきり楽しんできてね!』『お土産よろしくね〜』と軽い気持ちで送り出すことがほとんどだった。



けれどこの世界では国を離れて旅に出ればモンスターや野盗に襲われる危険も高まり、向こうの世界ではほとんど感じていなかった命の危険にも脅かされる。



「レオ、また一緒に旅しよう!」


「・・・・・・・・・・」


「レオ?」



ようやく涙は止まったものの、きょとんとした顔のままで瞬きもろくにしないレオの顔の前で手の平を何度か振ってみる。



「レーーーーオーーーー??」



それでもポカンとしているので、次はそのほっぺたを試した両方から軽く引っ張ってみた。



「・・・・・・った」



「え?」



「やったぁぁぁーーーーーーーー!!!!」



「うおぉっ!?!」



せっかくおさまった涙をまた流しながら、レオナルドはそのままクローディアへと全力で再び飛びつき、女の口から出てはならない低い呻き声が飛び出した彼女と共に床へと吹っ飛びながら倒れこむ。



「ちょ、ちょっとレオ!!危ないじゃないのっ!!」



危うく頭を打ちそうになったが、そんな声は全く今の彼には届いていない。



「やった!やった!やったぁぁぁーーーーーーーー!!!」



「!?」



その大興奮して喜んでいる姿に、見えるはずのない大きなしっぽがものすごい勢いで左右にブンブン揺れているような幻覚が見えてしまった。


大好きな散歩にしばらく行けなかったわんちゃんが『散歩に行く?』と飼い主さんに言われて、猛烈に喜んで飼い主さんに飛びつきその顔を舐めまくっていた動画が頭をよぎる。


私の首元でグリグリとその顔をこすりつけて喜びを表現しだしたレオが、どうしても大きな犬に見えてしまっていけない。



その可愛さに、思う存分かまってやりたくなってしまう。



こういう部分がルークによく言われる『甘い』部分なのかもしれないが。








「・・・・・・レオナルド!」


「は、はいっ!!」




レオの大興奮がだいぶおさまってきた頃、執務室内には低く重みのある声が響き渡る。


レオもその声にすぐさま反応すると、クローディアの側から勢いよく立ち上がって彼の前に姿勢よく立つ。



「今回はお前1人だ。俺たちの分まで彼女を守るんだ。気を引き締めていけ!」



「わ、分かりました!!」



ジークフリートのまっすぐで力ある瞳がレオを射抜く。



「グレイ!」



「ーーーーーーーーーわかってる。出発まで、十分に鍛えあげる」



「・・・・・・・頼んだぞ」



全てを語らなくともジークフリートの真意を理解したグレイは、まだクローディアの側にいたい!と駄々をこねて嫌がるレオナルドを無視しながら、訓練場へと文字どおり首根っこをつかみながら引きずって行った。






そして執務室には、ジークフリートとクローディアだけがその場に残される。


開け放たれた窓から入り込む風が、2人の間をそっと通り過ぎた。



「・・・・・・・・・・・」


「あ、あの!」



じっ、と無言のままジークフリートから一心に見つめられ、クローディアの顔が耳まで一気に赤くなる。


見つめることは得意でもその逆には滅法弱い彼女は、早々に降参してその目を横にふっと逸らした。


このまま見ていたら、眼差しだけでうっかり妊娠でもしてしまいそうなぐらい、クローディアにとって彼の熱い眼差しは強烈すぎる。



「・・・・・・・・クローディア」


「は、はいぃ!!」



気がつけば、かなり近いところまで移動してきていたジークフリートは、彼女の手を取るとあるものを両手で握らせた。



「あ、あの・・・・・こ、これは?」


「安心しろ。基本から全部、この俺がみっちりとつきっきりで叩き込んでやるからな」


「へ?」



彼と目が合ってときめきに顔を赤くしていたクローディアは、彼に剣の扱い方を頼みに来たことをすぐに後悔することになる。


彼に握らされたのは、騎士たちが訓練で扱う木刀だったーーーーーーーーー。









「・・・・・・・わきが空いているっ!!踏み込みが甘い!!真剣勝負の中で、相手から目をそらしたら死ぬぞ!!」



「は、はいっ!!!」



「手先だけで何とかしようとするな!!それだと手首を痛める!剣は手先ではなく、全身を使って心で振り下ろすんだ!!」



「はいっ!!」



「腰が引けてるぞっ!!もう一度、素振り100回!!」



「またっ!?は、はいっ!!!!」




それから、戦士としてはレベル1であり初心者であるクローディアが何とか剣がまともに扱えるようにと、旅に出るまでの3日間地獄の猛特訓が行われた。

ふとこの章を書きながら、学生時ほ普段は温厚な先生が顧問の野球部の部活の時間だけは鬼のように怖かったのを思い出しました。


そんな先生にそれをなぜなのか?と怖いぐらい素直に質問していたかつての自分に、今は恥ずかしいかぎりです。

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