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モブ女子、うららかな日差しの中で

今回も読んで頂き、ありがとうございます!


これを書いているときは真夏ですので、朝起きると全身汗びっしょりで起きます。

ゲームの世界ではどれだけ走っても息一つ切らさないキャラクターを少し羨ましいと感じてしまう今日この頃です。


魔法院のベットの上でクローディアが目を覚ました時、目の前に居たのは優しい微笑みを浮かべたイザベルだった。



「心配したのよ?」



何で自分がこの場所にいるのかを認識出来ずきょとんのしていたクローディアを、力いっぱい抱きしめる。



「・・・・・ご、ごめんなさい」


「あなたがどこかで泣いてるんじゃないかと思って、あっちこっち探したんだから!」


「!?」



イザベルから伝わるその暖かい気持ちに、目頭が熱くなる。



「ありがとう」


「あなたが泣きたい時はいつだってこの胸を貸してあげるから、遠慮なく飛び込んでいらっしゃい!」


「・・・・・・・ははっ!すごく嬉しいけど、イザベルファンに殺されそう」



この豊かで柔らかい胸に向かって飛び込みたいと本気で夢見ている男が、この国には大勢いるのだ。



「バカね。ファンと友達は別格でしょ!」


「うん・・・・・本当に、ありがとう」



自分からも強く抱きしめ返しながら、クローディアは側にいてくれる人がいることの有り難さにイザベルの肩口に顔をうずめながら静かに涙を流す。



前世でも友達はいたが、お互いゲームや芸能人などの好きな話をしたり、カラオケや買い物など楽しい時間を一緒に過ごすことは多かったが、お互いの心が本気でキツイ時に側に居られることは少なかった。


大人になってからは会える機会も減り、たまに会う時には近況を報告してるうちに時が流れていく。



結婚して子どもがいる友達との話題はだいたい旦那さんと子どものことが自然と多くなり、最後は『私』がどんな人と結婚するか楽しみね!という流れがほとんどだった。


残念ながらその未来をこの目で見ることも旦那さんや子どもの話題で私の方から話題に出すこともなく、『私』の人生は終わってしまったのだが。



「私は先に帰るけど、ララさんには私から話しておくからクロエはもう少し休んでからお店に戻ってきなさいよ?」



「うん!分かった!」



ベットの上で座ったまま、店に戻るイザベルを手を振りながら見送る。


この世界には携帯どころか電話もメールもラインもネットもどこにいてもすぐに連絡が取れるツールは何もないのに、向こうの世界よりも人の温もりが近くに感じられる気がした。



「そういえば、ジークフリート様も魔法院に運ばれたんだよね?」



本当はベットの上でおとなしくしてることが前提の『もう少し休んで』なのだろうが、やっぱり元気な姿をこの目でちゃんと見届けるまでは落ち着かない。



「よし!こっそりちょっとだけ見に行こう!」



無事に息をしてるところを一目見るだけだ。


それならすぐに帰れるだろう。




ベットを降りたクローディアは、近くを歩いていた若い魔導師にジークフリートの居場所を聞き、その部屋へと連れて行ってもらう。


クローディアのことはルークから聞かされているのか、初対面のはずが『あなたがあのっ!!』とよくわからない羨望の眼差しを受けてしまった。


正確にその羨望の眼差しを向けているのは、クローディアの中にいる神々達。


知識の中でしか知らない彼らがどんな姿でその魔法がどんなものなのかを、ジークフリートの部屋へと向かう途中ずっと質問攻めで最終的にかなりぐったりした様子でたどり着くこととなった。



「先ほど魔法でお休みなられましたので、中ではお静かに願います」


「わ、分かりました!ありがとうございます!」



ジークフリートのいる部屋の前に佇んでいたのは、頭の良さそうな女魔導師。


とても仕事が出来そうな、現代ならキャリアウーマンみたいにクールな雰囲気の女性だった。


ケガが治癒しているとはいえ、血液がかなり外に流れており前世の世界のような輸血がないこの世界では魔法治癒のあと魔導師が調合した細胞を活性化させる薬を飲むこともある。


その後体内では普段の何倍もの速さで細胞が動くため、その疲労を少しでも減らすために絶対安静が必要らしい。


ジークフリート様はすぐにでも騎士院へと走って戻りかねない勢いだった為、強制的に眠りの魔法がかけられたそうだ。




「・・・・・・・・・・よしっ!」



何回か深呼吸を繰り返した後、意を決したクローディアが扉の中へと足を踏み入れる。


くれぐれも静かに!と言われているため抜き足差し足、忍び足でゆっくりとその足を進めた。




(ジークフリート様は・・・・・・・いた!)



部屋の一番奥にあるベットの上にて、その姿を見つけ顔が喜びに綻ぶ。




(静かに・・・・・・・静かに)




一歩一歩、音を立てないよう慎重に近づいていき、ようやく彼の顔が見える位置までやってきた。



「!?」



今その瞳は閉じられ、唇からは規則正しい呼吸が繰り返されている。


普段のキリッとした表情は薄れ、その安らかな寝顔は普段よりもどこか幼く見えた。




(か、かわいいっ!!!)




男性にこの表現は褒め言葉にならないのかもしれないが、それしか思いつく言葉がない。


思わず感情の衝動のままに叫びそうになった口元を慌てて両手で塞ぐ。


久々に噴水のような鼻血が出そうな予兆を感じるほど、その衝撃は大きかった。



(も、もう少しだけ近くで見てみたい!)



遠目からでもかなりの大ダメージを食らったが、この貴重な絵をこの目と脳裏に焼き付けておかねばならない使命がクローディアの中だけにはある。


自称ジークフリート様ファンクラブ会長として、このスーパー激レアの瞬間を見逃すことは決してしてはいけないのだ。



ジークフリートの眠るベットの横には椅子が置いてあったため、その場所へと声を殺しながら腰をかけた。




(あぁ!!やっぱり可愛い〜〜!!!)




今ここにデジカメか、携帯があれば何百枚だって撮ってるのにッ!!



口元を両手で必死で押さえながら、クローディアはジークフリートへとその顔を少しだけ近づけ、手の片方を彼の心臓の上にそっと置いた。




(・・・・・・・・・生きてる)




呼吸に合わせて上下する肺の下でゆったりとした鼓動を感じ、クローディアは安堵ととともに大きく息をはく。




(もう、生きていてくれるだけでいい)




ジークフリートを見つめながら、彼女の脳裏には1人の少女の姿が浮かんだ。




『これでもう、悪いことできないね?』


『・・・・・・ドロボウ猫さん?』




彼女の言う『ドロボウ』が差す盗んだものとは、彼らのことなのだろう。


本来ならゲームの主人公であるローズのポジションに近いところに、ただのモブキャラが居座っているのだ。



彼女が彼らと起こすべく、数々の大事なイベントに似たものも先に起こしてしまっている。



それに付随して彼らから得るだろう信頼度や友好度、そしてそこから高まっていく恋愛への道にとって今の自分は邪魔者でしかない。


本来ならば彼らとローズとデートのサポートをすることが、クローディアに元々課せられたキャラクターの役割だ。


毎回のように違う男性もデートでレストランへとやってくる彼女に何ら悪い印象も抱かず、彼らの情報を彼女に伝えるサポートキャラ。




ローズがとうとう目の前に現れたからには、そこへと戻る覚悟を本気でしなくてはならない。




(大丈夫。辛いのはきっと、最初だけだ)




彼が自分の目の前でその命が危なくなった際、生きていてくれるだけでどれだけ幸せかが痛いほど感じた。



今だって、彼の心臓の音を聞いてるだけでも涙が出そうなくらいに嬉しい。



(その時が来たらちゃんと元に戻るから、今だけはどうか許して・・・・・・ローズ)




未だに自身の手首からどれだけ引っ張ってもびくともしない『魔封じの腕輪』を見つめながら、それを自分にはめた少女へと思いを告げた。



それから、ジークフリートの胸元から手を離すとクローディアは椅子から少し腰を浮かし、彼の顔近くへとゆっくりとその距離を縮めていく。



(あぁ・・・・・・やっぱり大好きだなぁ。どうかもう少しだけ、あなたの側にいさせてくださいね)



そして、眠る彼の頬にそっとその唇を少しだけ触れさせると、自分の頬をわずかに赤らめながらもう一度椅子に腰掛け嬉しそうに微笑みながら彼を静かに見つめ続ける。




窓から差し込む太陽の日差しがとても気持ちよく、半分だけ開けられた窓からは心地よい風が入り込んでは2人の側を優しく通り過ぎて行ったーーーーーーーー。














それから少し後。



ジークフリートがようやく目を覚ますと、自分が寝ているすぐ側に彼女の姿があることに気がつき、眠りがまだ残っていたその目と意識は一瞬にして覚醒する。



「クロー・・・・・・・ッ!!!」



だが、彼女がそこで眠っているのが分かり、起こさないよう叫びかけた口元を慌てて塞いだ。


多分、少しだけ側にいるつもりがこの暖かい日差しの風にそのまま眠気に誘われてしまったのだろう。



「!?」



そんな彼女の頬に涙が一雫流れていくのが見え、そっと手を頬に添えてその雫を優しく拭った。



「何を思って・・・・・・泣いているんだ?」



彼女が自分の目の前でその命に危険が及んだのが分かった時、考えるよりも先にこの体が動いていた。


そこに後悔は全くないし、守れたことを心から良かったと思っている。




けれど、あの時。





『い、嫌・・・・うそ、嘘ですよね?じ、ジークフリート様?』



刺された俺を見たお前の引きつった顔が、意識を失う寸前に耳元で響いた叫び声がまだ頭を離れない。




『い、嫌だ、いや、やめて、そんな、い、い・・・・・・・いやぁぁぁーーーーーーーーーッ!!!!!』




お前をもう悲しませくはないと思いながら、俺はいつもお前に涙を流せてばかりだな。


笑っていて欲しいと思いながら、彼女が泣くのは他の男ではなく自分の為であって欲しいとどこかで考えている自分が確かにいる。



「勝手だな」



「ジーク、フリート、さ・・・・・ま」



「!?」



起きたのかと緊張で全身に力が入るが、彼女の瞳は閉じたまま。


声を出したのもそれきりで、再び規則正しい寝息を立てている。



「・・・・・!?」



その瞳から再び雫が頬へと流れていくのが見え、ジークフリートの心が動いた。




「・・・・・・・・もう、泣くな」




その涙を唇ですくうと、そのまま彼女の唇へと触れる。







その場には小鳥のさえずりと、風が揺らす青々と茂った木々の葉がさざめく音だけが響いていたーーーーーーーー。


そろそろ起きているときにラブシーンをと思うんですが、彼女の気持ち的にまだ先になりそうですね。

早くハッピーエンドを書いてしまいたい!という気持ちと、すぐに終わってほしくない気持ちに分かれます。

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