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モブ女子、後悔の後に

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


まだまだ色んな意味で強くはなりきれない主人公ですが、少しずつでも変われたらと思いますのでよろしくお願いします!

騎士院を飛び出したクローディアは全身がジークフリートの血で汚れたまま、ある場所へと走りながら向かっていた。






途中ですれ違った町の人達がその姿に驚きや心配の声をかけるが、そこに振り返る余裕は今の彼女にはない。


ただひたすらに、そこを目指して駆けていく。



その場所は、以前より彼女が1人になりたい時に訪れていたところ。


町の人々からは大事な式典などの時以外は立ち入り禁止になっている、女神が舞い降りる神聖な場所となっているナーサディア神殿のすぐ目の前にある原っぱであった。


ここならば、誰かに邪魔されることはなく思いっきり1人の時間を過ごせる。


立ち入り禁止はもちろん一町民に過ぎないクローディアにも当てはまるのだが、ゲームで散々訪れていたことのある馴染みのある場所なだけにその概念が薄く度々訪れてしまっていた。


今はただ、1人きりで気がすむまで泣きたかったのだ。



「・・・・・・・ッ!」



だが、原っぱで膝を抱えて涙を静かに流す彼女の前には炎の化身が現れる。




『我が主よ。そなたの危険な時に現れることができず、面目なかった』



「・・・・・・・ボルケーノ!」



普段の自信に溢れた堂々とした態度はどこかへ行き、今の彼はどこか情けなそうに頭をクローディアへ向けて下げていた。


そんな彼の姿に、クローディアも慌ててその場から立ち上がって向き直る。



『珍しくあのウンディーネに呼ばれていたのだが、戻ろうとした際に何かに阻まれて』



「ボルケーノは何も悪くない!あなたや魔法の力があるからと、油断して何の危機感も持ってなかった私が全部悪いのっ!!」



『!?』



そう、ボルケーノやイヴァーナ様に出会う前の自分は確かに他者自動回復機能はあったにせよ、ジークフリート様の周りに存在するありとあらゆる死亡フラグという名の危険に対応するため、もっと色んな方向にアンテナを張って危険を察知していたはずなのだ。


新しく出会う人にもそこからのフラグはないか、いつフラグの前兆が起こっても対応できるようもっとピリピリさせながら過ごしていたはずなのに。



「魔法があるから、強い力が自分にはあるかって心のどこかで安心してる部分があった。何かあっても対応ができるって奢ってた。傷ついても、すぐに回復できるから大丈夫って甘く見てたっ!」



ジークフリート様が刺された時、流れ出るその血を自分の目と体が感じた時。



今にも心臓が引き裂かれそうなほどに怖かった。



ジークフリート様は確かに強い。


剣技だけなら、いや魔法が扱える者にだってその素早さと鍛え上げられた強靭な肉体とでちょっとやそっとではやられはしない。


でも、それでも彼が何十個という死亡フラグを立ててあっという間に死んでいく姿があることを自分は嫌というほど知っていたのに!



『ジークフリートのことは、我が主のせいではない。神であれ人であれ、起こる負の出来事の全てを回避できるわけではないぞ?』



「わかってる!わかってるけど・・・・・・それでも、私があの場所に長居しなければ今回のことは防げた!」



『主よ、それは結果論に過ぎない』




あの時、すぐに騎士院を出ていれば!!




『主があの場にいたからこそ、エドガーという青年の体も未来も守れたのだ』




彼女があの場で傷を回復しなければ、もしかしたらオリビアを危険な目に遭わせた責任を彼は負わされたかもしれない。


それがなくても、負傷が元で腕のケガの具合によっては2度と剣が振れなかった可能性だってあったのだ。



選択肢を選べるのは、その時々の本当に一瞬だけ。



だが、その先の未来を誰も完全に分かってから選ぶことなどできはしない。



「それでも、考えることがやめられない!私が側にいることで彼が危険な目に遭うのは、やっぱり耐えられないって!!」



『・・・・・・それでも、ジークフリートは主の側にいることを望むと思うぞ?』



「!?」



顔中涙でグシャグシャにしたクローディアの頭の上に、ボルケーノの炎でできた大きな手が優しく触れる。



『主よ、起きた出来事に対してできなかったことを悔いるのではなくて、そこから逃げずに向き合い、努力した己こそを認めて褒めてはみないか?』



「え?」



『結果的にジークフリートは主のおかげで大事に至らず、連れて行かれた魔法院にて今静かに眠りについている』



「!?」



『起きる事象の全てを良きこととして捉えるかどうかは本人次第で、その事象自体にそれを望むのは強欲というもの。我が主の周りで起きることは、全てこれからの主にとって何らかの必要性があって起きているのだ。それはしばしば、負の現象として現れることもよくある』



「・・・・・・・・・」



ボルケーノの言っていることは、頭では理解できたもののその全てを理解できたかといえば嘘で、心のどこかで己を責める気持ちはまだ大きく存在していた。



『主を含め人はみな弱い。だが、弱いからこそ力を合わせることが人間にはできるし、奇跡をも起こせるのではないか?』



「!?」



そんなクローディアに、かつて投げかけられたアイシスの言葉が蘇る。




『そう、あなたがすべき事はやってしまったことを後悔するんじゃなくて、変わる為の努力をみんなで一緒にやることよ。もっとみんなを信じて、頼ってあげて。あなたが周りを助けたいように、みんなもあなたを助けたいの』




そうだ、以前にも同じようなことを言われていたはずなのに。


あの時アイシスさんに言ってもらった言葉の全ての意味を、私はまだまだ本当に理解して お腹に落とせてはいなかったのだ。



起きる現象は止められない。



それは、たくさんの人達があらゆる選択肢を選んだ末の出来事だから。



変えられるのは、そこからの未来と自分だけ。



今回のことがが私の危機能力のなさや、魔法の力への奢りならばこれからはそこを変えていけばいいのだ。



魔法だけでなく、いざという時にジークフリート様やレオほどではなくとも自分と目の前の人を守れる力を得ること。


ルークのように、環境や人の相手の気持ちを予測して先を考えながら動くこと。


アルフレドが今まさに挑戦しているように、他の人を信じその力を必要な時に借りられる力を持つこと。



「・・・・・・・ありがとう、ボルケーノ」



私はまだまだあまりに弱く、これから学ばなければいけないことは山ほどある。


でも、それは同時に今よりも変われる可能性がまだまだあることと同じだ。



失敗はとても苦しく、どこまでも悲しい。



起きた出来事全てに感謝の気持ちが持てるほど、自分の心は大きくないし歳だけ重ねていても心は全然子どもだ。


オリビアと仲良くなり彼女のことを知ることが目的の1つであったはずなのに、苦手だからと彼女と関わることから逃げていた。


本当に彼女のことを思うならば、訓練場に行くことすらも全力で止めねば行けなかったのだ。


それを自分を責めるフリをして、実は直接的な原因となってしまった『剣を向けた彼女』を心の中で責めていた。



『うむ。我が主はやはり、笑顔の方がいい』



「ハハッ・・・・・まだ涙はすぐに止まりそうにないけどね」



泣きながら笑うクローディアに、ボルケーノもいつも通りの自信に満ちた笑顔を向ける。


そして一瞬何かに気づいたように空を見上げると、その笑みを深くしながらクローディアの耳へとあることを告げた。




『ならば、もっと流させてしまうかもしれんな』



「へ?」



『今、無事にジークフリートの目が覚めたぞ』



「!?」



途端、クローディアの足が崩れ落ち両手でその顔を覆った彼女は大きな声を上げながら泣いた。



傷が塞がったとはいえ、彼の意識が無事に戻るまではとても心の底から安心ができなかったのだ。



その緊張感が一気に崩れ去り、『良かった』と何度も繰り返し叫びながら泣きじゃくる。



そんな彼女に対し、ボルケーノは気がすむまで泣かせてやる為に静かに見守っていた。










その後、クローディアの涙がようやく落ち着くとボルケーノは大きなため息をついた。



『・・・・・・全く、その紅き姿ではジークフリートに会いに行けぬな』



「え?」



未だに彼の血に塗れたその全身に苦笑したボルケーノがクローディアの両肩にそれぞれ手を置くと、彼女の地面に古代文字で描かれた魔法陣が浮かび上がりそこから大きな炎が頭上に向かって勢い燃え上がる。



「!?」



熱さは特に感じなかったものの、その炎によって服についていたジークフリートの血が煙を上げてどんどん浄化されていくのが目で見えた。


炎が消えた時には、新品同様の制服になっていて血のシミだけでなく仕事中についた汚れの後などもきれいさっぱり無くなっている。


アリ◯ールや、ア◯ックもビックリ!な白さ&キレイさだ。




『これでよい。早く、ジークフリートにそなたの無事な姿を見せてやれ』




「うん、本当にありがとう!ボルケーノ!!」



今の炎のおかげで目尻に残っていた涙も蒸発してしまったようで、クローディアは輝くばかりの満面の笑顔でボルケーノに向け改めて頭を下げてお礼を告げた。



「・・・・・・・・・ッ!」



そのまま、魔法院に向かって走っていこうと体の向きを変えたクローディアの前を1人の少女が通り過ぎていく。


桃色の髪に、大きな栗色の瞳をした白地に濃いピンクの花柄の刺繍が入ったワンピースを着たその少女はクローディアに一度だけ目線を向けると、一度だけわずかに微笑みナーサディア神殿の中へと1人入って行った。




「・・・・・い、今のは」




この自分が見間違えるはずがない。



前世からずっと、ジークフリート様を想う同じ年月の間、彼女のことを考えなかった日はなかったのだ。



その姿を片時も忘れたことなんて、クローディアとして生きてからもなかった。



たとえ、この世界でその姿を一度として見たことがなかったとしても!



「お願い、待って!!ローズっ!!!」



『あ、主よ・・・・ッ!!』



ローズを追いかけ、全速力でナーサディア神殿へと向かうクローディアに何か胸騒ぎがして彼女を止めようと動いたボルケーノを、透明な壁がそこから先へと進むことを阻む。




『くっ!!またこの結界かっ!!』




先ほど、クローディアの元へと還るのを阻んだものと同じ魔の壁がボルケーノがどれだけ炎を繰り出してもびくともせずにその侵入を強固なまでに拒んでいた。



『・・・・・ボルケーノ!その結界はアイシスが言うにはアナスタシアの手によるもの。何重にも複雑に編み込まれた繊細なその術は、あなたのような力任せの荒い魔法では到底解けません!』


『何っ!?』



そんなボルケーノの脳裏には、先ほどまで一緒にいたウンディーネの声が大きく響く。



『ならば、どうすればいいのだっ!!』



『ボルケーノ様!』



『おお!アイシスか!!』



『アナスタシアは相手を傷つけることを何より嫌い、その強力な魔力を全て守ることや相手の動きを阻む魔法に費やしていました!その為、結界などの魔法で彼女に敵うものはほとんどおりません!同じ魔力を有するルークでも解けるかどうか!』



『あいわかった!!ルーク=サクリファイスだなっ!!』



その後も彼の脳裏には必死な様子のアイシスと、呆れたような大きなため息をつくウンディーネの声が響いたが、それらはすでにボルケーノの耳には届かず彼はすぐさまルークの元へと飛ぶ為に彼の気配を探す。



『よし、おった!!主よ、すぐにこの結界を解いて側に行くゆえ無茶をしてくれるなよっ!!』




彼の魔力の波動を掴むと、ボルケーノは両腕に思いきり力を込めて魔力を高め、瞬時にルークのいる場所へと空間を飛んだ。




1日の中でも、本当にたくさんの選択を私達は一瞬で選んで行動してるんですよね。それこそ、靴を左右のどちらからはくかとか、なんのご飯を食べようかとか、帰り道はどのルートから帰ろうかとか。


そして、ようやくまともに現れました、ゲームにおける本来の主人公です。

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