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モブ女子、誰のせい?

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


時間があまりない時に限って小説を書くスピードが上がり、たくさんある時に限ってちっとも指が動かないんですよね。



RPGのゲームをやっている時、よく街中のフィールドの中で『こんなところまで入ってきちゃいけないよ!』といったことをモブキャラに注意されることがある。



でも、別に実際に中へ入ったからって誰かに咎められるわけでも、強制退出されるわけでもない。


しかもその中に、実は貴重な宝物が宝箱や人様の家の中のタンスやツボの中に入っていたりする。


現実で言えば泥棒確実なその行為をしても、勇者を罰するような役人も警備員もどこにもいない。



よって、それをするかしないかはプレイヤーの意志のみとなっている。



よくお金は戦闘中に得たものだけ!で盗みに当たる行為はしないなどと、縛りをつけてのプレイもあったりするが私はもっぱら何も気にせず『ガンガン行こうぜ!!』派だった。



使えるものは何でも使うし、取れるものは全部取る!


その為の寄り道はいくらでもしたし、寄り道しすぎて『寄り道キング』の称号も公式で頂いたことや、モンスターを狩りすぎて主人公こそが魔王では?と疑問を感じたり寄り道に疲れて本編を進めずに非クリアなまま終わったゲームまであったりした。


さて、なんでこんな話をし始めたかと言えば、ここアルカンダル王国にもゲーム内の時から立ち入り禁止区域というものがあちこちにある。



ここ、騎士院の中でも実際の真剣での打ち合いもある騎士の訓練場はゲーム内でもフィールドで存在し、モブキャラとの会話の中で攻略相手の情報を集めることができたが本来一般人は入室禁止だ。



ゲーム内では聖なる印を持つ主人公ならばと許されていたが、訓練場の中では今まさに訓練中のモブキャラに話しかけると、気をつけないとケガしますよ!的に注意が促されていた気がする。



他のゲームだと会話の後に恐らくその剣がかすったのか?ズバッと何かが斬れたようなアクションの音響の後でHPヒットポイントが本当にダメージを受けて減っているリアルなものもあった。


すぐに魔法か道具で回復すればいいし、細かくリアルなイベントだなとその時は大して気にもならなかったが、それはゲームだったからなのだということを、私はこの時まですっかり忘れていた。




「だ、大丈夫?!」


「・・・・クロエか?わりぃな、お前に手間かけさせちまって」




クローディアが現在、騎士院の訓練場内にてその腕に手を触れて他者自動回復機能を発揮させているのは、レオよりも少し年上の騎士である『エドガー』。


明るく陽気、その上お調子者な女好きで、美人に滅法弱く今現在はイザベルとオリビアに夢中だ。


そして、今さっきもオリビアから訓練中の中を見てみたいと涙目でお願いされて少しだけならと一緒に中へと入り、彼女の前でいいところを見せたいエドガーが彼女に夢中で、近くで訓練していた他の騎士たちの斬り合いにオリビアが巻き込まれそうになったところを庇っての現在の負傷である。


たまたま、ランチをいつもより早めに送り届けた後で騎士院の広間に皆が訓練から戻るまでイザベルといた所、2人が訓練場に向かうのが見えた為こっそり様子を見ていたのだ。


何せ、ちょうどお城からの呼び出しでジークフリート様もグレイさんも留守にしており、お昼過ぎあたりまでは戻らないというから騎士やその見習い達の緊張感がいつもより伸びやかなのが感じる。


訓練場は外と中にあり、エドガーが案内したのは内にある訓練場。



藁と木で作られたモノを敵とみなして、斬りかかる者や木製の日本で言う木刀で仲間と練習をしあう者、模擬剣と呼ばれる騎士や見習い達に向けて大量に生産してある攻撃力は低いものの刃のついた真剣にての訓練に励む者など、そこには熱い空気が漂っていた。


ちなみに、レオは外の訓練場にいるらしく探してみたもののその場にはいない。


目の前で負傷したエドガーに気がつき、クローディアがすぐさま駆けつけて今の流れとなっている。





エドガーに庇われたオリビアは本音かどうか怪しい所だが、『わたくしのせいで、ごめんなさい!』と涙を今にもこぼしそうな悲しみの表情で俯いていた。



「いやいや、オリビア様のせいじゃないッスよ!俺がうっかりドジっちまったせいで!」



そんなオリビアに、エドガーは真っ赤な顔で照れながら頭をかいている。



「何やってんだよ、エドガー!」


「危ねぇだろ!!気をつけろっ!!」


「わりぃわりぃ!!クロエのおかげでもうケガも治ったから、俺はもう大丈夫なんで安心してくださいオリビア様!!」



回復魔法が任意ではないものの、一応使えることは騎士院の人達には悩んだ末にカミングアウトしていた。


万能ではないとだけかなり念を押してはあるものの、そうすればジークフリート様だけでなく他の誰かが訓練中に負傷しても役に立てると思ったし、町のあちこちでフラグ折りの為に魔法を散々放ちまくり『魔法使い』の職業を思う存分アピールしてしまった身としては隠す方がおかしいというもの。


これまで散々隠していたことを打ち明けた時に、どんな反応が返ってくるかと一時期は真剣に悩んでいたクローディアだったが、騎士達のほとんどがやっぱりな〜〜とそれはもうとてもあっさりと受け入れた。



けれど、普通の回復魔法とは違って必要時すぐに発動するかといえば分からず時間差で来た時もあったが、今回はすぐに反応してくれたおかげでエドガーの腕の切り傷は跡も残らずキレイに回復できた。



「ありがとなクロエ!!」


「気をつけなよ、エドガー。今はジークフリート様達がいないんだし」


「大丈夫だって!帰ってくるのはもう少し後のはずだから」


「・・・・・・・俺が、どうしたって?」




「「 !!?? 」」




エドガーとほぼ同時に慌てて振り向いた先には、訓練場の入り口に腕を組んだジークフリート様と大きなため息をついているグレイさんがいた。



「だ、団長!?お、お帰りは確か、ひ、昼過ぎでは・・・・?」


「思っていたよりも、早めに終わったんだ。それよりも、これはどういうことだ?」


「!?」



これ、とジークフリートが指さした先にはクローディアがエドガーの手に触れている、つまりケガをして彼女がそれを回復したということ。



「あ、い、いやこれは、その、つまりですね・・・・・っ!!」


「ジークフリート様!」


「!?」



その時、エドガーとジークフリートの間に祈るようにして手を胸の前に組みながら入ったのはオリビアだった。



「どうか、エドガー様を責めないでくださいませ・・・・・全部わたくしのせいなのです」


「!?」



ジークフリート様を見上げながら、上目遣いで例のキラキラした眼差しを一心に向けている。


そんな彼女に、エドガーや訓練場にいた何人かの男達は顔を赤くしながら『可愛い』とボソッと呟いていた。



まぁ、確かに可愛いですよ。



こんな美少女が泣きそうになりながらじっと見上げてくるなんて、その辺にいる普通の男ならそれがたとえ計算の上のものだとしても可愛いと感じるんじゃないだろうか?



ならばジークフリート様はどうなんだろう?



先ほどから無言のままでそんな彼女を見つめている。


相手がローズでない限り、簡単にジークフリート様の心が動かされるとは思わないが。




「・・・・・・オリビア様」


「は、はい!」



いつもよりもさらに低音ボイスで呼びかけられ、オリビアの頬が赤く染まる。



おいおい、君はアルフレド王子狙いじゃなかったのかい?


君はあれかい?逆ハーレムエンドでも目指してるのとか?


あれは難易度が高いだけあって、達成感は確かに凄まじい!





「・・・・・・我が騎士院の者が御身を危険な目にあわせたこと、まずそのご無礼と配慮のなさをお許し頂きたい」



ジークフリート様が、深々とオリビアに向かって頭をゆっくりと下げる。



「だ、団長!悪いのは俺です!団長が謝る必要は!!」


「エドガーー!!ここは生身の剣が飛び交う危険な場、一般の民の入室は緊急の際もしくは俺かグレイの許可がなければ固く禁ずると前々から言っていたはずだ!!」



いつにない、ジークフリート様の訓練場内に大きく響き渡る声に、訓練中の騎士達全員の動きが一斉に止まる。



「す、すんませんでしたっ!!!!」



エドガー自身は青ざめた顔で、すぐさま地面に頭をこすりつけ謝罪の声をあげるが、『それを言うのはオリビア様にだ!』とさらに怒られ、オリビアに向かって同じように深く頭を下げて謝った。



「エドガー様、わたくしが無理を言ったのが悪いのです。どうぞ、顔をあげてください」



オリビアは涙目のまま、エドガーの手を両手で包み込むようにして触れながらニッコリと微笑む。



「お、オリビア様っ!!」



やはりというか、オリビアの笑顔にエドガーだけでなくその後ろの何人かの男達もその目を分かりやすくハートにしていた。



「エドガーー!!お前は今日から1週間、特別強化訓練だ!!グレイに担当させるから、今すぐ開始してこいっ!!」


「と、特別強化訓練っ!?」


「・・・・・なんだ、何か不満でも?」


「い、いいえ!!今すぐ行ってきまーーーーーすっ!!!」



青ざめるどころか、ほぼ泣きそうな顔でエドガーがもうダッシュで訓練場から飛び出していく。


その彼を、ジークフリート様に向けて一度だけ頷いたグレイさんが静かに跡を追いかけて行った。



『特別強化訓練』とは、確か少し前にレオが受けていたものだ。


内容は受ける個人の苦手分野と体力を徹底的にわ鍛えるメニューだそうで、とにかくその練習量が半端なく体力には自信がある方のレオが悲鳴をあげていたほど。


その詳しい内容は、思い出したくないから話すのも嫌だと、さっきのエドガーと同じように顔色を真っ青にしたレオは最後まで教えてはくれなかった。


エドガーがいなくなってしばらくの間は、緊張感が訓練場を占め静寂の中にあったが、『何をぼさっとしている!各自訓練を続けろ!!』というジークフリート様の訓練場に大きく響き渡る声によって、すぐさまその場にいた全員がそれまでやっていた訓練を再び開始する。



「・・・・・・・オリビア様」


「は、はい」



そして、ジークフリート様はもう一度オリビアに向かって真剣な眼差しのまま向き直る。


今度は膝を床につけ、彼女と目線の高さを同じにしながら。


彼女がジークフリート様に向けるそれは、他の男達と違って熱がこもっていた。



「先ほどエドガーには申し上げましたが、ここは国と民を守るべき我らが騎士が己の力を高める為に鍛錬を行う場です」


「はい。みなさまとても頑張っていらして、オリビア心から感動いたしました!」


「ありがとうございます。それをご理解頂けたなら、どうかこの騎士院へあなた様が足を運ぶことは金輪際ご遠慮願いたい」


「!?」



ジークフリート様からの言葉に、オリビアの顔が一気に強張る。


私ですら、ジークフリート様が彼女に向かってここまで言うとは思いもせず驚きが隠せない。



「今回は、エドガー自身の不注意さや甘さが大きな原因で負傷も彼自身のみであり、クローディアのおかげで大事にも至りませんでした。ですが、ここは生身の剣がぶつかりあう武道の心得があっても危険極まりない場。もし万が一負傷しても騎士院のものであればそれも覚悟の上ですが、あなたのような貴族の方はそうではない」



アルカンダル王国は魔法使いが多くいる国だが全ての民が魔法を扱えるわけではなく、街の外に当たり前にいるモンスターとの遭遇だって町の一般人なら出会うことはあっても、自らが暮らすご立派な建て物の中から早々出てくることがない貴族のお嬢様ならば、この平和なアルカンダル国において戦の場など本や噂話など知識の中でしか知りえないだろう。


前世で一般人だった私ですら、ニュースで戦や殺人事件のニュースが流れても、どこか他人事でいつも流していた。


もしかしたら、刑事もののドラマを見るような感覚と一緒だったのかもしれない。


それぐらい日常が色々な人々のおかげで守られ、平和の中で生きられていた証でもあるのだが。



「それにもし今回負傷したのがエドガーではなくあなた様だった場合、この事態を招いたエドガーは責任を取らされて未来永劫騎士への道は断たれます。下手をすれば、彼の家にもその責任の一端が行くかもしれません」



「そ、そんなことはわたくしがさせませんわ!」



いつもの潤んだ瞳も影を潜め、オリビアの顔に珍しく汗が出てきている。




「・・・・・・・ありがとうございます。ですが、失礼を承知で申しあげさせてもらえば、あなた様は貴族の生まれというだけで大きな力は持っていない。実際に力を持つのはあなた様のお父上や、その上層部にあたる貴族の方々です。どれだけあなたが罪に問わない、と声を高らかに申しつたえようと、あなた様の身に傷がつけばそれだけでは済ませられないのが事実なのです」



「こ、この人は?この人は自由に出入りしてるわ!」



キッ!!とオリビア目に鋭さが加わり、その握りしめていた手は静かに震えていた。


その厳しい眼差しの矛先は、もちろんクローディアだ。



「彼女は我らの為に仕事をしてくれているだけで、本来ならこの訓練場には入りません。それに、彼女はいざとなれば戦いの場でも力を貸せる実力があることを我々も認めているし、信頼している」


「わ、わたくしだって!」



戦えるわ!とオリビアが腰につけられた装飾の中から、煌びやかな宝石のついた美しい短剣をその手に取る。



「そんな震えている手では、何も斬れない」


「・・・・・・あ!」



トン、と軽くジークフリート様がオリビアの折れそうに細い手首を上から叩けば、あっさり過ぎるほど簡単にその手から短剣がカチャンと音を立てて滑り落ちた。


「おかえりください、オリビア様。あなたが在るべき相応わしい場所へ」



「・・・・・・・・ッ!」



それは案に『ここではない』とはっき立たられたのだ。


私だってこの魔力が無ければ、彼女と同じことを言われていたかもしれない。


しばらく無言のまま床を見つめていたオリビアだったが、溢れおちるようにそのも桃色の可憐な唇からは言葉が出る。



「・・・・・・せいよ」


「!?」



「オリビア様?」



「全部、あんたのせいよっ!!!!」







それは、本当に一瞬だった。







悪鬼のごとく普段の愛らしさをかなぐり捨てて、床に落ちた短刀を素早く拾い上げたオリビアがその手をクローディアに向けて振り下ろす。


それがもし別のところへのものならば、彼女の反応も違ったかもしれない。


それでも狙われたのはやはり彼女であり、その事実は覆らない。



そして、クローディアに向かって振り上げられた美しき短刀は黒い海へと吸い込まれる。


細腕の少女の手から出された刃であるはずなのに、その黒い海は強固な守りで固められているはずなのに。


その短刀は海に沈むとともに全身が黒いマダラのまじった深紅に染まり、その刀剣が一気に長剣のモノへと変化した。




「・・・・・・・クロー、ディア。無事か?」


「ジーク、フリート様?」




クローディアの目の前には、両手を広げたジークフリートが立ち尽くしている。


その顔には痛みから眉間にシワがよっているものの、クローディアを見下ろす眼差しは優しい。






ーーーーーーーーカラン






先ほどまで長剣の姿をしていたものが短剣へと姿を戻し、床へと転がる。


それと同時にジークフリートの体が前方に倒れ込み、クローディアがその体を必死に支えた。



「い、嫌・・・・うそ、嘘ですよね?じ、ジークフリート?」


「すまない。お前の服が・・・・・汚れて、しまった」



「!?」



ジークフリートを抱えたクローディアの腹の部分に冷たいものが滲み、その背に回した手には紅い液体が皮膚を深紅へと染めていく。




「い、嫌だ、いや、やめて、そんな、い、い・・・・・・・いやぁぁぁーーーーーーーーーッ!!!!!」





クローディアの絶叫が、騎士院に響き渡った。


いざという時に、どれだけ自分の体が動けるのか?


昔の体の動きのつもりでいると、よく体を物にぶつけて転びそうになります。


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