モブ女子、水面下での戦い
今回も読んで頂き、ありがとうございます!
初めて飲み会に行った時はあまりに緊張して、質問の仕方が固すぎてお見合いか?とつっこまれた記憶があります。
その後、女同士の飲みに心から安らぎました。
お茶会のテーブルの席は、最初アルフレドの隣が婚約者(仮)になっているクローディアであり、アルフレドを挟んだ反対側がオリビアだったのだが、オリビアから『アルフレド様がお選びになった、クローディア様とぜひ女同士で色々お話をさせてくれませんか?』との申し出があり、アルフレドとクローディアの間にオリビアが座るという席順にすぐさま変わった。
だが、女同士で話したいと言っていた割に、実際の彼女はアルフレドにばかり話しかけている。
これはあれだ。
分かりやすいぐらいの、一応人数合わせで参加したことのある合コンとかでよく見られた、好きな男性を他の女性と会話できないよう隣の席をキープするあの感じだろう。
適当に座ろうとしたら、その近くにいたイケメンの隣を他に渡さないようにするために、女性陣があの手この手でそこをゲットしようと静かなバトルが繰り広げられていたことを思い出す。
それを経験してからは色々面倒臭かったのと、早く帰ってゲームがしたかった私はすぐ帰れるようイスの端っこに参加することにして終わり次第とっとと帰った。
今思えば、せっかく数少ない出会いをこんな自分にも提供してくれたのだから、もっと自分からも積極的に関わって楽しめば良かったと後悔の気持ちがあったりなかっかり。
残念ながら、あの時の私にとってジークフリート様以上に心をときめかせてくれる三次元の男性とは出会えなかったのだから仕方がない、と自分磨きもしなかった自分に大いに問題があったことを棚に置きつつ納得させてみる。
「まぁ、ではアルフレド様はマーサ様をお助けする為、ご自身の危険を顧みずに旅に出たのですね。すごいですわ!」
「あ、いやだから、その旅の中で俺はクローディアに何度も助けられてだな!」
「・・・・・わたくしオリビアも、こんな非力とはいえ、あなた様のお力になりたかった」
「!?」
あらら。
オリビアさんの涙ぐんだ上目遣いからのキラキラ攻撃に、アルフレドもどうしていいか分からなくなっている。
助けてくれ!と汗をかきながら、こちらへ必死のアピールをしてくるが、さっきから私が何かを言おうとするとーーーーーーー。
「あの、オリビアさ・・・・・・ッ!?」
「まぁクローディア様、どうなさいましたの?!」
一応今の状況を説明させて頂くと、テーブルにひかれた床まで着くほどの長さを持ち、上等で上品な深紅のテーブルクロスの下では、ただいまオリビア様のハイヒールの先がクローディアの足の甲をギリギリと踏みつけている真っ最中。
少し前にお城で開かれた舞踏会の際に何十人もの女性に踏まれた経験はあるものの、1人からピンポイントで力を込められて踏まれるというのもやはりかなり痛い。
「どうぞご気分が悪いようならば、わたくしのことは気にせず休んでいて下さいませ!」
「・・・・・ありがとう、ございます」
自分の足がまさにその原因を作っているというのにも関わらず、さも心から心配しているような顔で気遣われ、だんだん面倒くさくなってきたクローディアは笑顔で返事をしつつしばらく黙っていることに決めて、目の前のおいしいデザートと紅茶に集中することにした。
見た目はフランス人形のように大変可愛らしいのだし、適当に流しておいたらそれで良いのでは?と、目線でアルフレドに伝えるが眉間のシワは深いまま、何とか王子スマイルで対応している。
時々こちらに向けられる鋭い目線には怒りが溢れており、オリビアがこの場にいなければすぐさまクローディアに向かって怒鳴りつけていることだろう。
うーーーーーん、確かに見た目はあの画面の中でどこまでも控えめな薄幸の美少女として男性人気もそこそこあったオリビアそのもの。
だが、いざ話してみたら全くの別人では?と思えるくらいに印象が違う。
おいおい。
これのどこが、さっきまで貧血で倒れていたらしい『か弱いお嬢様』だって?
「アルフレド様、それにしても・・・・・なぜエリザベス様ではなく、クローディア様をお選びになりましたの?」
「「 !!?? 」」
おや?先ほどまでずっとアルフレドのことを何かとすごいですわ!そんなこと、オリビア初めて聞きました!と誉めちぎっていた彼女から、とうとう本日メインの話題へと触れてきた。
『RUKKA』のデザートを頬張り心ゆくまで堪能して一口一口その感動に悦っては我に返り、を繰り返していたクローディアにもようやく緊張が走る。
貴族の娘の割には積極的だなと思うと次の瞬間には控えめな態度を取り、始終キラキラさせた目でずっと自分を上目遣いで見つめてくるオリビアにタジタジだったアルフレドも、ようやく真剣な表情で彼女を見つめ返した。
「・・・・・・俺は、彼女のことも含めて国の民のことを庶民だ何だと、見下しバカにし続けていた。民だけじゃなく、己を守ってくれているはずの城の兵士達も信じようとせず、1人で生きているような気になってやりたい放題ひどいことをしていた」
「ーーーーーー殿下」
アルフレドの言葉に、すぐさま反応したバーチさんが静かに首を振る。
あなたのせいではなく、それは自分のせいだと。
そのバーチと目を合わせてやはり首を横に振ってから、今度はオリビアさんを通り越してクローディアの方へとアルフレドがまっすぐに強い目線を向けた。
「それが、どれだけ愚かなことであり周りのせいではなく俺自身に原因があったこと、人を知り信じることの大切さをこの俺に伝えてくれたのが、クローディアだったからだ」
「・・・・・・・・アルフレド」
私は、大したことはしていない。
彼を実際に長いこと想い守ってきたのはジークフリート様を始めとしたお城の兵士達やメイド達と、彼の父であるアレキサンダー国王だ。
そして、側には居なくとも彼を想い続けたバーチさん達の力に他ならない。
「いや、私はっ」
「・・・・・・・・」
「!?」
だが、それを言葉に出して言おうとしたクローディアに無言でその肩に手を乗せ、ゆっくり首を横に振ったジークフリート様によってそれは喉の奥に飲み込まれることとなる。
「そう、だったのですか。本当に素晴らしい方ですのね、クローディア様は」
「ッ!?」
その時、蕾が花開くようなそれはそれは可愛らしい笑顔をオリビアから向けられるとともに、ギリッ!と殊更強く足が踏まれクローディアは唇を噛み締めた。
「・・・・・本来なら、私がそれをするはずだったのに」
「!?」
ボソッと消え入るように呟かれたその言葉にハッとして、思わずオリビアの方へと向き直る。
だが、もうその時にはオリビアはアルフレド側へと体の向きを変え、クローディアには完全に背を向けていた。
同時に踏みつけられていた足もようやく外された為、とりあえずほっと息をはく。
「アルフレド様は家柄や見た目で人を判断しない素敵な殿方と知り、わたくしの心は増す増す震えてしまいます。きっと、アレキサンダー国王以上に素晴らしい王になられますわね」
「い、いや、まぁ、それが目標ではあるが」
「もちろん、アルフレド様ならば必ずなれますわ!」
「!?」
ギュッ!と、オリビアの両手がアルフレドの手を強く握りしめた。
「・・・・・あっ!も、申し訳ございません!わたくしったら、な、なんてはしたない真似を!」
そして、すぐさま慌ててその手を離すと、顔どころか耳まで真っ赤にしながら、恥ずかしそうにアルフレドからぱっと顔をそらす。
「わ、わたくし、そろそろお暇いたしますわ・・・・・・あっ」
「!?」
そのまま慌てて立ち上がったオリビアは、あっ!と天井を見上げると同時に例の貧血を起こし、床に倒れそうになるのをすぐ後ろにいたグレイがすぐさま支える。
「ーーーーーーー大丈夫か?」
「・・・・も、申し訳、ございません」
1人で立てそうにない様子から、グレイが彼女を抱き上げてオリビアが今夜泊まるという王都の高級宿まで運ぶことになった。
宿には彼女が屋敷から連れてきた使用人がいるから、その後は大丈夫らしい。
「オリビア嬢にケガ1つないよう、よろしく頼む」
「ーーーーーーかしこまりました」
グレイの腕の中でどうやら気を失ったらしい彼女のことを頼むと、アルフレドから声をかけられると静かに彼に向かって頭を下げたグレイはジークフリートとクローディアにも目を合わせてゆっくりと頷いてから『RUKKA』の店を出ていった。
オリビア達の姿が見えなくなると、大きなため息をついてから予想通り彼の怒鳴り声が部屋の中に響き渡る。
「クローディア!!なぜお前はここのデザートを食べるばかりで、この俺を助けようともしないんだっ!!」
「・・・・・い、いや、助けようとはしましたけどね」
いやいや、あのキツイハイヒール攻撃に笑顔で耐えた私をどうか褒めて欲しい。
「美少女から想われて迫られただけなんだから、別にいいんじゃない?危害を加えてくるわけでもないんだし」
とばっちりで危害を加えられたのは、むしろ私の方だ。
これなら別に、私が苦しいコルセットに縛られながら無理してここにいることもなかったのではないか?
「いや、お前がいてくれなければ・・・・危なかった」
「はぁ?どういうこと?」
眉間にシワを寄せたアルフレドが、殊更に大きなため息をつく。
「あの女の側にいると、目がチカチカして頭がぼおーーっとしてくる。特にあの目で見られると、何か心がざわついて仕方がない!」
「???」
それは、彼女がただ単に可愛いからでは?
心が乱されているのなら、それは彼女の魅力によるものではないのだろうか?
「クロエーーーーーーっ!!!」
「!?」
頭を傾げるクローディアの後ろから、レオが力いっぱい抱きついてきた。
ただでさえコルセットで苦しいのに!と文句を言おうと振り向いた先にいたレオはなぜか涙目で何やらとても苦しそう。
「ど、どうしたの?」
「あぁーーーーーやっぱりクロエの側だと落ち着く。さっきまで、なんか呼吸が苦しくてさ。心臓がいつもより早く動いて、すごく辛かったんだ!」
「???」
つまり、オリビアの可愛さにドキドキしすぎて苦しかったってこと?
確かに人間離れした妖精のように可愛らしい容貌だったが、この世界にはマーサ様を筆頭に女の自分が見惚れてしまうほどの美形がエリザベスやイザベルなど、案外?ゴロゴロしているではないか。
しかも、それを普段から見慣れているアルフレドがここまで反応するとはこれいかに?
あれか?
フルコースばっかり食べて胃が荒れてるところに、また違う国の最高級フルコース食べて気持ち悪くなったとか?
そんな時には、確かに素朴で身近にある胃に優しい『お茶漬け』がホッとしますよね。
私も大好きです!お茶漬け!
特に梅干しや細かく切ったシソの葉をいれた、さっぱりしたやつが。
「・・・・・・いや、たぶんお前が考えているようなことではない」
「え?」
あのジークフリート様までもが神妙な顔つきで何かを考えこんでいる様子に、クローディアの心もよく分からないざわつきに心が襲われる。
一体、彼女はこの男達に何をしたというのだろう?
ちなみに、部屋の中に控えていたヒデジイを始めとした執事風な店員の方達には特に変わった様子は見られず、本来ならゲームの攻略相手である3人にだけ特別な反応が出ているらしい。
これは、どういうことなのだろうか?
ほぼ美形しかいないゲームの世界では、どの主人公も美的感覚が麻痺して心臓がどんどん強くたくましくなっていくんじゃないか?と、ふと思う時がありました。
だってあんなイケメンに普段から優しくされてるわけじゃないですか。どんだけ鉄の心臓をしてるか、よっぽどの鈍さがないともたないと思うんですよね。
はい、ようはそんな世界が羨ましいだけです。




