モブ女子、お茶会プレリュード
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
貴族のお嬢を出すなら、前に出た3人娘もそのうちまた出したいなぁ〜と思ってます。
少し前なのに、なんだかずいぶん前のことのようです。
みなさん、こんにちは。
私クローディアはただいま、今世における夢のプレイス『RUKKA』にて執事の代名詞とも言えるヒデジイこと、ヒデジィート=セバスチャンに本日オススメの紅茶を入れてもらっています。
身につけている洋服はいつも着ている店の制服ではなく、アルフレドの様子がおかしいと見抜くとともに彼から事情を無理やり聞きだしたエリザベスが、それなら変なドレスでは行かせられない!と私物の中から選りすぐりの、ツヤを消したグリーン系ゴールドのドレスを用意してくれた。
アルフレドが用意した、ぱっと見とても派手な花柄のドレスは彼女によって全てが一目で即一蹴されてしまっている。
ハイセンスな彼女からすれば色やデザインが華やかなモノが決していいわけではなく、その人の持つカラーに合うかどうかが何よりも大事なのだと、それはそれは熱く語られた。
前回王妃様に貸して頂いたドレスは華やかで可愛らしい雰囲気だったのだが、今回はずいぶん大人っぽいモノを選んだ理由を聞いたら、要約するとTPOの違いらしい。
前回は大勢の貴族の娘達の中だったが、今回の相手はまさに女同士の一騎討ち。
しかも『オリビア・アシュ・リー・カメーリア』のことをエリザベスも知っていたようで、病弱な体からあまり社交会には出てこないらしいものの、そのどこか儚げさも感じる清楚で愛らしい美しさは割と有名だそうで、彼女と『可愛い』路線で勝負すること自体が愚か過ぎます!!と、断固言い切られてしまった。
「クロエ、あなたのいいところは個性が強く見た目に現れていないことですわ!だからこそ、着飾り方でいくらでもその印象を変えられましてよ!」
「・・・・・な、なるほど」
可もなく不可もないこんなモブ仕様の見た目も、使い方によって役に立つんですね!
エリザベスが選んでくれたドレスの色は一色だがアシンメトリーなドレープの為、光の加減で金の色が深くも明るくも見える、ゴージャスかつ神秘的であり上品な光沢を放っていた。
前から見るとそんなにひねった部分のない普通の形のドレスに見えがちだが、このドレスの美しさは大きく開けられた背中と腰の部分から大きくボリュームを持って裾が広がっていく後ろ姿にある。
この素晴らしいシルエットを作る為に一番重要な細い腰を作るコルセットはもう二度とつけたくない!とかなりごねたのだが、姿勢が全然違うこととコルセットをつけないとそもそもエリザベスの体型に合わせられたこのドレスを着るのにかなりの不備が生じるため、仕方なく着けるハメになってしまった。
簡単に言ってしまえば、ウエストの細さの違いです。
さらに言えば胸元はかなり余ってしまい、急きょメイドさんがその部分のお直しを何人もの手を使ってすぐさま行われた。
ごまかしの一切効かない、どれだけ目を反らしたくても目の前につきつけられてしまう悲しい体型の現実に何度涙が出そうになったことか!!
髪型もメイドさんにキレイにまとめて頂き、品のある大人っぽいアップスタイルになっています。
もういっそ、元婚約者のエリザベスが行ったらいいのに!と拷問のような防具のコルセットに悲鳴をあげながら提案してみたが、すでに一度婚約が破棄になった自分が行けばグラッツィア家に大きな泥を塗るハメになるとすぐさま拒否られてしまった。
いやいや、庶民が仮とはいえ王子の婚約者として貴族の姫に会う方がかなりの大問題だと思うんだけども。
この国の貴族様達の基準が、未だによく分かりません。
けれど、たとえ本来の主人公であるローズがこの場にいてもその部分は大して変わらないことを思い出し、最終的にそこは全面的に諦めた。
「ほら、よく鏡の中をご覧なさいクロエ。眠っていた原石が・・・・・今美しく、輝き出しましてよ?」
「!?」
自分では二度と再現できないだろう、素敵なドレスとヘアーアレンジ、そして大人っぽい深めのメイクのおかげで別人のような姿にして頂いたのだから、そんな激レア過ぎる時間をとことん楽しもうと思います!!
今回『RUKKA』の店の警護には、余計な誤解を招かないよう騎士院の中でも実力のある者を最少人数で配置している。
ジークフリート様による選出だが、その結果気づけば全員面白いぐらいゲームの登場人物で固められていた。
ゲーム経験の転生者ならかなりの衝撃を受けるに違いない、オープニングムービー並みのフルコース!
ジークフリート様を筆頭にグレイさん、そしてレオ。
もちろん、アルフレド付きの専属護衛役としてバーチさんもいるーーーーーーーはず、なのだが。
「・・・・・・・・・・遅いっ!!!!」
『RUKKA』のVIPルームに響き渡るのは、クローディアの声。
「本当に遅いね〜〜はい、クロエ♪もう一口、アーーーン?」
怒りに震える彼女の横で、『当店からのサービスです』とヒデジイが出してくれた小ぶりのショートケーキを子どものような満面の笑みで、レオが自分の分のケーキをフォークでもってクローディアの口元へと運んでいる。
「だから!そんなことされなくても自分で食べられるってばっ!」
エリザベス付きのメイドさん達のグッジョブな仕事っぷりのおかげだろう、普段よりは全然マシな姿になっている私を見てからレオは『スッゲーーー!!可愛いッ!!』といつもよりもさらにべったりとご機嫌なまま側を離れない。
普段人の容姿を褒めることが少ないグレイさんも、『ーーーーーーーーよく、似合っている』とボソッと呟いてくれた。
はい。
これからは、もっと真面目にオシャレやメイクを頑張ろう思います。
そんなグレイさんは、ただいま絶賛特別スイッチオン!の状態でヒデジイとともに紅茶へと愛をノンストップで語っています。
途中から専門用語や普段聞きなれない言葉があまりに多すぎて、とてもその会話にはついていけません。
そして、一番この姿を見せたかったジークフリート様と、本日の主役であるアルフレド・その側を片時も離れないバーチさんはこの場にはいない。
「・・・・・・・オリビア・アシュ・リー・カメーリアは、いつになったらここへ来るわけっ?!」
そう、彼らがここにいない理由はオリビア嬢のせいに他ならない。
アルカンダル王国の王都にあまり訪れたことがないらしい?彼女は『RUKKA』の店までの道案内と彼女自身の警護としてまさかのジークフリート様をわざわざ指名してきた。
さらに、道中で日差しにあてられて貧血を起こして倒れたとの連絡が入り、待たされ続けてついに怒りくるったアルフレドが直接断りにいってやる!と出て行ってから、もうどれだけの時間が過ぎたことか。
今日は別に真夏のような暑さでもない、とても過ごしやすい爽やかな気候だ。
肌に心地いい、気持ちのいい風も吹いている。
こんな日でも倒れることができるとは、どれだけ病弱なお嬢様ですか!!
「クロエったら、そんなに暗い顔してたらせっかくのおいしいケーキがまずくなっちゃうよ?」
「・・・・・・・わかってる」
私は、こんな風にただ待つことしかできないことが何より苦手なのだ。
こんな胸や腰を強く締め付けるコルセットをつけていなければ、ドレスやそこから覗く足を美しく魅せるために履いている華奢なデザインのハイヒールなんてものを履いていなければ。
今すぐ、あの人の元まで飛んで行けるのに。
「・・・・・・・・・ッ?!」
そんな私の目の前には、気がつくと一口大のプチシュークリームが。
「ほら、イライラした時には甘い物でしょ?」
「レオ」
「だから、アーーーーーーン?」
「!?」
彼の持つシュークリームには、いつの間に描いたのかチョコペンか何かでその裏側に当たる部分に顔が描いてあり、私の目の前に現れたス◯イリーがニンマリと笑っていた。
「何これ、可愛い♪」
可愛いと言いつつ、差し出されたシュークリームを遠慮なくパクリと一口で食べる。
そう、このシュークリームは確か『RUKKA』でも大人気のスイーツ!
薄く香ばしい生地の中にギッシリ詰まった、生クリームとカスタードクリームが合わさった濃厚な特製クリームが詰まっていて、小ぶりとはいえその食べた時の満足度は半端ない。
「おいしーーーーー!!!」
「でしょ?ヒデジイがこれもサービスだって、用意してくれたんだ!」
「ひ、ヒデジイッ!!!!」
「我が店に来て頂いたお嬢様方には、どんな時でも笑顔で楽しい時間を過ごして頂くことこそがわたくしどもの役割であり、何よりの喜びでございますからね」
まさに神対応なヒデジイの心遣いに感激の涙を浮かべるクローディアに優しげな表情でヒデジイが頭を下げ、紅茶のおかわりを何も言わなくともカップへとそそいでくれている。
「ありがとうございます!!本当においしいですっ!!!」
「うん!これ、すごくおいしいね!はい、クロエもう1個あげる!」
「・・・・・む、むぐっ!おいひい!」
「ーーーーーーーーこら、口にクリームがついてるぞ?」
もうこうなったら開き直ってしまえ!と、素晴らしいドレスを着ていることを半ば忘れて、口いっぱいにシュークリームを食欲の赴くまま頬張っていたまさにその時ーーーーーーーーー。
ようやく、待ち人が訪れた。
「く、クローディア?」
「!?」
「・・・・・・・・お、お、お前は!何て品のない姿を晒してるんだっ!!!」
そこには、ミニシュークリームを今まさに両手でそれぞれ掴みいくつかとっているクローディアと、右側からはそんな彼女にレオがフォークでさしたショートケーキを口元に持って行き、反対側ではクローディアのクリームまみれの口元を拭き取ろうとグレイが白い布を持った手を彼女の頬にくっつけている。
そんな彼らの後ろから、その少女はゆっくりとした足取りで彼女の前へと進みでた。
「お待たせして、申し訳ありませんでした」
「!?」
室内に、大きくはないのに澄んだ空気を思わすようなどこまでも透明感のある高めの声が響く。
どこもかしこも折れそうに華奢なその美少女はプラチナブロンドの柔らかそうな髪をなびかせ、シュークリームを頬張りすぎて両頬が膨らんだままのクローディアの前へと静かに現れた。
「お初にお目にかかれて、大変光栄でございます。わたくしはオリビア・アシュ・リー・カメーリアと申します。どうぞ、お見知りおきを」
そして、その美しい純白のドレスをつまんで横に広げると優雅に頭を下げる。
「・・・・・・・・・・ッ」
偶然か必然か。
ちょうど部屋の窓から差し込む西に傾く途中の太陽の光を受け、まるで彼女自身が発光しているかのようなその姿の仕草1つ1つに目を奪われながら、クローディアは口の中にあったシュークリームをようやく喉に飲み込む。
そんな彼女に向かって、何をしているのか!と今にもアルフレドが怒鳴りそうになるのを、その側で控えるバーチがその強い眼差しと短い言葉とで止めていた。
「ーーーーーーーー何をぼさっとしている、次はお前が名前を名乗る番だ」
「!?」
そんな中、すぐ側にいたグレイからボソッとその耳元で囁かれたことで、ようやくそのことにハッとしたクローディアが、慌てて席から立って頭を下げた。
「す、すみません!!わ、私はクローディア=シャーロットと申しますっ!!」
「・・・・・・・・危ないっ!」
あまりに慌てすぎて急に立ち上がって行った挨拶の後、不慣れなハイヒールにバランスを崩したクローディアがそのままつまずきそうになるのを、すぐさま察知した彼が素早く動く。
「大丈夫か?」
「は、はい。ありがとう、ございます」
即座に反応したジークフリートに腰を支えられたおかげで足をくじくこともなかったものの、しっかりと支えられたその力強い彼の温もりと挨拶もまともにできなかった恥ずかしさとで、彼女の頬がすぐさま赤く染まった。
「す、すみません!大丈夫です!」
その後、彼の顔もまともに見れぬままその腕の中から離れた彼女へと、微笑みを浮かべたままのオリビアがゆっくりと近づいていく。
「ご無事で何よりですわ、クローディア様」
「あ、あの」
その真っ白で小さなオリビアの手が、クローディアの生活の中で適度に日に焼けたオリビアのものよりも一回りかふた回りほど大きな手にそっと触れて握りしめた。
「これから・・・・よろしくお願いしますね?」
「!!??」
そこにクローディアが思っている以上に強い力が一気に加えられ、一瞬手の肉と骨に強い痛みが走る。
痛みに顔を歪ませたその時にはすでに彼女の姿はそこになく、ヒデジイに案内されながらテーブルの方へと向かっていた。
「お、おい、どうした?大丈夫か?!」
ようやくクローディアの元へと駆けつけたアルフレドが、彼女の考え込むような表情に気がついて話しかけてくる。
「・・・・・・・ごめん、大丈夫。でも、やっぱり彼女は、私の知ってる彼女とは少し違うみたい」
「どういうことだ?」
何をするにも人の顔色を伺いながら、自分の意見を言ったり前に出たりすることが大の苦手で、いつもローズの背中に隠れていたのはゲームの中のオリビア。
今の彼女は、見た目はゲームのキャラクターであっても『ここで』生きているのだ。
「・・・・・・いや、なんでもない。さ、私達も席につこう!ここの紅茶もお菓子も本当においしいんだから、びっくりするよ!」
「あ!おい!いきなり腕を引っ張るなっ!」
今回の主役を席へと連れて行くと、クローディア自身も先ほどまで座っていた椅子に座りなおす。
先ほどまで目前に置いてあった、ケーキやシュークリームの載っていたお皿はすでに片付けられており、口直しにとさっぱりとした味わいのアイスティーが用意されていた。
クローディアとオリビアのやり取りをじっと強い眼差しで見つめていたジークフリートは、一瞬だけ感じた強い殺気に思わず剣の柄にかけていた手を外し、クローディアの後ろの位置へと何も言わないまま静かに控える。
「!?」
そして彼の目配せに気づいたグレイが、何を言われずとも頷きオリビアの後ろへとついた。
こうして、予定からはだいぶ時間が遅れてのお茶会がようやくスタートした。
執事喫茶、一度でいいから体験してみたいです!
ヒデジイのことを書きながら、若い執事喫茶もいいけど『かっこいいナイスミドル』な執事喫茶とかも流行らないかなと密かにそして勝手に期待中です。




