モブ女子、恋をすること
今回も読んでくださり、本当にありがとうございます!
三次元の人間の男性だけでなく、心をときめかせるのが恋なのならどれだけ二次元の漫画やゲームのキャラクターに恋をしてきたのか分からないですね
『恋』とは、一体何なのかしら?
どうしてわたくしは、その人にだけこの心臓が大きく高鳴るのか。
その存在を感じた瞬間から全身が脈打ち、顔が熱くなる。
その金の瞳からーーーーーー目が離せない。
こんな自分がいることを、この人に出会うまでわたくしは何も知らなかった。
「ーーーーーー大丈夫か?」
「は、はいっ!」
ラファエル王子を探しに王宮を急ぎ足で駆けてきたわたくしは、足を踏み外して転びそうになったところをある男性に助けられた。
それが、今わたくしの目の前にいるこの方、騎士院で副団長を務める『グレイ=コンソラータ』様。
彼の手がわたくしの体に触れている。
そのことだけで、わたくしの心はどうしようもなく乱れてしまう。
「ーーーーーーそれならばいいが。君はうちの団長を知らないか?城にいると聞いたんだが」
「い、いえ・・・・今いる居場所は存じあげませんわ」
「ーーーーーーそうか」
それならば失礼する、と頭を下げてその人はわたくしの側から離れていった。
彼の背中が小さくなっていくのを、見えなくなるまでわたくしの目がそこから動かせない。
どうしてこんなにも、彼にだけわたくしはこんなにも全身全霊で意識を傾けてしまうのか。
たった一瞬の逢瀬だというのに、なぜこんなにもわたくしの心は喜びに溢れてしまうのかしら。
『恋』とは、なぜこんなにもーーーーーー。
「ラファエル様っ!」
「!?」
ようやくラファエル王子を見つけた時、彼は泣いていた。
側にいたジークフリートにグレイ様が探していたことを伝えと、分かりましたという了承とともに、近くにいた兵士に言伝を頼んでそのままその場で控えている。
そんな彼に頭を下げ、ラファエル王子がいるという部屋の奥へと進んだ。
ここは、彼の部屋。
その奥のベットではなく、彼の服が収めてあるクローゼットの中で彼は泣いていた。
「ラファエル様!」
「あ・・・・・え、エリザベス様っ!?ぼ、僕はあなたになんてことを!」
彼は怯えていた。
そんな彼をそっとその腕に抱きしめる。
彼の姿がなぜか幼い頃の自分に重なり、思わずそうせずにはいられなかった。
「どうか、泣かないでくださいラファエル王子。わたくしはあなたに慕われている知って、とても嬉しかった」
「!?」
純粋で心の美しいラファエル王子が、こんな自分をまっすぐに想い慕ってくれるなんて。
でもきっと、それは彼の身近にいたのがわたくしだったからなのかもしれない。
彼の世界は開かれたばかり。
これからもっともっと素敵な殿方になっていく中で、光り輝く彼に視線を奪われる女性は後を絶たないだろう。
その時にはきっと、わたくしのことなど彼の中では良き思い出の1ページに過ぎないものになってしまうに違いない。
わたくし自身ですら、想うことにも想われることにもまだまだ分からないことが多すぎる。
「え、エリザベス様!!」
「はい」
その細身の体を抱きしめていた腕を解かれ、彼のまっすぐな瞳がわたくしの目を撃ち抜く。
「ぼ、僕!すぐに立派な大人になります!だから、まだ今の僕だけを見て決めないでください!」
「ラファエル様?」
涙を流しながら、彼は熱い眼差しでわたくしの心を縛る。
「あなたを慕っていることを、どうか許して下さい!!」
「!?」
それは、わたくしの心のようだった。
あの方の目にわたくしはまだ映らない。
それは、わたくしがあの方にとって子どもだからというわけではなく、ただあの方には想う方がいるからなのだけれど。
それでも今のわたくしではなく、これからもっと素敵な女性になっていくわたくしこそを見て欲しいと願う。
今はただ、想うことを許して欲しいと。
「・・・・・許すも何も、ラファエル様の気持ちはあなた様自身のものですわ」
「エリザベス様!」
「!?」
ニッコリと微笑みを浮かべたわたくしを、涙を拭ったラファエル王子が今度は自分から抱きしめる。
「ありがとうございます!ぼく、あなたが好きです!今も、これからもずっとあなたが好きだから。だから、あなたに認めてもらえるような大人の男性に絶対なります!!」
「・・・・・・ッ」
ラファエル王子が爽やかな笑顔をわたくしに向けた。
その時ーーーーー同時に窓から太陽の光が彼を照らし、その姿が一瞬だけ大人びた彼を移す。
ドクンッ!!
全身が心臓になったかのように、大きく跳ね上がる。
まるで、あの方を前にした時と同じかそれ以上に。
「失礼します。ラファエル王子、ベンジャミン殿が王子に会いたいと謁見室にて待っているとのことです」
「ベンジャミン先生が!?分かりました!すぐ行きます!エリザベス様、御前を失礼しますね!」
「・・・・・・・は、はい」
急きょ、兵士から耳打ちされたジークフリートがラファエル王子へと言づけ、それを聞いた王子が急いでエリザベスに声をかけてから慌ただしくその場を離れていく。
ジークフリートもエリザベスに頭を下げてから、彼の後ろを早足で追いかけていった。
「・・・・・・・・・」
そんな彼の後姿から、目が離せない。
顔は熱く、心臓はずっと早鐘をうっている。
おかしいですわ。
わたくしがこんな風に心を乱されるのは、あの方だけでしたのに。
なぜこんなにも、わたくしは彼の笑顔が頭から離れないのでしょう?
「あ!エリザベス!やっと見つけた!!」
そんなわたくしを、遠くから走ってきたクロエが近くに駆け寄ってきてこの体を抱きしめる。
「エリザベス、どうしたの?何かあった?」
「・・・・・・・え?」
「なんだかすごく、可愛い顔してるよ?」
「!?」
クローディアの目に映るエリザベスは、真っ赤な表情でどこか恥ずかしさに顔を歪めながら、いつもの凛とした表情がどこにもない普通の少女の姿だった。
『恋』とはいったい、何なのかしら?
恋をしたいからするのではなく、したくなくてもいきなりやってくるのが恋なのかもしれないですが。
その人のことで頭がいっぱいになる恋という感情は、未だにとても不思議なものです。




