モブ女子、仲間の登場!?
今回も読んでいただき、本当にありがとうございます!
もうすぐ200回という、最初からは考えられないところにたどり着きます!皆さんのおかげです!
アルフレドとバーチさんに彼の自室へと連れて行かれたクローディアは、扉が閉まるなりその内容を問いただした。
「・・・・・で、どういうこと?」
わざわざ部屋を変えてまで、仕切り直したのだ。
「あぁ。バーチ、あれをここへ」
「かしこまりました!」
アルフレドからの命を受け、バーチさんは一枚の封筒をその手に持ってきた。
それは、赤い薔薇をモチーフにした華やかな封筒。
「これは?」
「さる貴族の令嬢がしたためられました、アルフレド様宛のお手紙でございます」
「!?」
クローディアの前で膝を折ったバーチが、その封筒を目の前に差し出す。
「その手紙に覚えはないか?」
「覚えって言われても・・・・・中を見てもいいの?」
「あぁ、構わない」
アルフレドはその手紙に対して、分かりやすく嫌そうな顔をして目線を逸らした。
なんだろう?
そんなに嫌な相手からの手紙なのだろうか?
それとも、それだけ彼にとって嫌な内容が書いてあるとか?
注意深くその封筒を見ていく。
別になんてことはない、ただそのデザインは割と凝ってはいるものの普通の封筒だ。
赤い薔薇に深い緑の葉っぱが描かれたその封筒によく似たものが、そういえば色違いで何種類かゲーム『リベラトゥール』にもあったなと思い出す。
主人公『ローズ』は攻略相手である男性達にデートのお誘いなどの内容で手紙を送ることができ、各キャラクターの好みに合った手紙を送ると好感度が上がりやすくなるというものだった。
最初は手持ちのお金も少ない為に手紙も頻繁には送れず、安くて誰に送ってもほんの少しだが好感度が上がるピンクの薔薇のレターセットでターゲットに手紙を送る。
途中から町で購入が可能になる各キャラクターに送れる特別なものは、ピンクより結構お高めだった。
アルフレドは、この手紙と同じ華やかな赤い薔薇。
レオは、明るく可愛い雰囲気があるオレンジ色の薔薇。
ルークは高級感があり品も感じられる、紫色の薔薇。
そして、私が途中から買いまくって使いまくっていたレターセットは、もちろんジークフリート様用の清らかな美しい青い薔薇のレターセット!
最初の方はイベントでの好感度もあまり上がらない為、コツコツとだが確実に好感度が上げられるこのアイテムにはずいぶんとお世話になりました!
「うーーーーーん、中の手紙の内容もわりと普通だと思うけど?」
白い便箋の縁に封筒と同じ赤い薔薇がデザインされており、そこには女性らしいキレイな字でアルフレドへ食事のお誘いの文が綴られている。
それにしても、ゲームの中で出てきたアイテムとここまでよく似たものがあるとは。
さすがはリアルリベラトゥール世界だ。
「・・・・それ一枚ならな」
「へ?」
「バーチ!!全部ここに持ってこい!」
「はっ!!」
「!?」
すぐさまバーチさんが部屋の奥に入っていき戻ってきた際には、その腕いっぱいに赤い薔薇の封筒が山のように抱えられていた。
その、色鮮やかな色彩からまるでバーチさんが何十・何百という薔薇の花を抱えているかのようで、思わずクローディアもその目を瞠った。
「御前を失礼します」
バーチはクローディアの足元へ、ドサッという音がしそうなほど大量の手紙をゆっくりその足元へと下ろす。
「な、何これっ!?」
「これは全部、お前の持つその手紙と同じ書き手からのものだ」
「!?」
私が一生のうちで書く手紙の量の一体何倍になるだろうか?
いや、ゲーム内ならばトータルでたぶん何百回にもなったジークフリート様への手紙をリアルにしたら、こんな感じかもしれない。
「・・・・・・ッ!」
そうだ!
町には様々なデザインのレターセットが売られている中で、わざわざこのデザイン限定でこの量を送るなんて普通じゃない。
しかも、色違いで売られている中でアルフレド様宛に彼限定で好感度の上がるアイテムであるこれをあえてチョイスしているのだ。
ゲームの中にある特別な設定のアイテムを知っている。
そんなことが、出来るのはーーーーーーー。
「こ、これ!!まさかローズからっ?!」
ついに、その時が来てしまったというのか!!
心臓が大きく鳴り始めながら手紙を持つ手が震え、一気にその顔が青ざめさせたクローディアにそばにいたアルフレドは大きなため息をつく。
「お前の目は節穴か?そこにローズなんて名はどこにも書いてないぞ?」
「え?」
もう一度、息を飲みながら封筒の裏側をゆっくり確認してみると、そこにあった名は。
『オリビア・アシュ・リー・カメーリア』
「!?」
「・・・・・・知っているのか?」
クローディアがその名を目にした途端全身に走った衝撃で硬直し、その表情を固まらせたことに気がついたアルフレドが彼女の顔を覗き込む。
知っているも何も、その名はいくらスキップ機能で飛ばそうと繰り返し何回も強制的に視界に入ってきて、私の記憶に強く刻み込まれた存在。
「そのご婦人からは、手紙だけでなく贈り物も山のように送られてきているのですよ。全部、アルフレド様の好みにはあってあるんですが、いささかこれも量が多すぎまして」
「・・・・・・ッ!!」
彼にしては珍しくため息をついているバーチの目線を追いかければ、そこにはアルフレドに送られたのだろうプレゼントの山がタワーのようにできあがっていた。
先ほどまで、よくぞこれだけの量のものを裏に隠していたものだ。
手紙と共に、ゲームの中ではプレゼントを攻略相手に送ることが出来る。
手紙よりも好感度の上昇率が高いものの、相手の嫌いなものを間違って贈ってしまった場合、せっかく上げた好感度がかなり下がってしまうリスクもあるため、知識のない頃は中々手が出せなかった。
だが、ネット等で好みの把握ができた場合は確実に好感度を上げられるものとして、これほど確実な方法はない。
確かに私も相当な数をジークフリート様にプレゼントした。
贈るたびにあのイケボイスが『ありがとう』と囁くのが堪らなくて、他のときめきセリフボイスと一緒に録音して後から何度も耳元で繰り返し聞いては鼻血を吹きそうになってたっけ。
毎日、どれだけ仕事で疲れようとも睡眠時間をけずりながら行うゲームと、そのゲーム後でジークフリート様のイケボイスを聞きながら眠りにつくのが私の何よりも癒しであり、至福の時間だった。
そうか!!
現実でもこの手は使えたのか!
それなら、ジークフリート様専用のアイテムと思われる物をお小遣いで買いまくってーーーーーーー。
「おい!青くなったと思ったら今度は真っ赤な顔で興奮して、いったい何を考えてる?鼻の穴が膨らんでるぞ!」
「!?」
「で、殿下!女性にそのような言い方は!」
しまった。
ついつい、昔のゲーム脳が一気に蘇ってきていろいろなものが溢れそうになってしまった。
恥ずかしい顔をバッチリと2人に目撃されたクローディアは、真っ赤な顔のまま慌てて手の平で鼻と口元を覆う。
この場にジークフリート様がいなかったことを、心から神様に感謝したい。
「ふん!こいつがこういう顔をしている時に考えていることは、どうせあの男のことだろうが!!それより、お前はこの女のことを知っているのか?知らないのか?」
その顔を、先ほどよりもさらに不機嫌に歪めながらアルフレドはクローディアにつめよる。
「あ、ごめん!えっと・・・・・オリビアさんだよね?」
「そうだ!俺が何度断りの手紙を送ろうとも、毎日のように手紙とプレゼントを送り続けてくる、話の通じない迷惑な女のことだっ!!」
「す、すみません」
「なんでお前が謝るんだ?」
「い、いや・・・・・なんとなく?」
そうか。
ゲームでは何気なくやり続けていたあの行動は、リアルではこんなに嫌がられてしまうのか。
確かに好物だからって同じものばっかり贈られてくるのは嫌だよね。
散々自分がやっていた行動なだけに、自分の胸が逆に痛む。
「そ、その人のこと、直接は知らないけど・・・・・・名前ぐらいなら一応知ってるかな」
『オリビア・アシュ・リー・カメーリア』
もうみなさんも気づかれているかもしれませんが、彼女はゲームの中で共通ルートに現れるキャラクターです。
貴族の爵位の中では一番下位にあたる男爵の家系に生まれ、内気で自分の意思を言葉にするのがとても苦手な彼女はいつも顔を伏せながら、物陰に隠れているような繊細な少女だった。
アルフレド王子に密かに憧れていた彼女は、家の為に父親が決めてきた婚約に否やを強く言えず、無理やり意地悪な婚約者に乱暴されそうになるところをローズに助けられたことによって彼女と親しくなり、貴族の中では初めての味方になる。
アルフレド王子に対しては、その顔を遠くから見るのも恥ずかしがっていた彼女のことを考えると、これらの行動はまったくの別人のようにしか思えないが。
「そのオリビアに俺には婚約者がいるからときちんと断ったんだが、ならその相手に会わせろと言って聞かなくてな」
「!?」
気づけば、扉の前にいた私に向かって両手を壁ドンしながら近距離にいるアルフレドが、私を真剣な顔で見つめている。
「・・・・・・そ、それって、エリザベスのことだよね?」
「あいつとはもう婚約は解消したし、貴族達にもそのことは知らせてある」
「こ、婚約者になることは、しっかり断りましたけど?」
彼のあまりにまっすぐな視線に、息を飲みながらバーチがさんに助けを求めてみるが、基本的にはアルフレドが優先順位第1位な彼は静かにその側で控えているだけだ。
「心配するな、今回はフリで構わない」
「ふ、フリ?」
私が顔を青くして戸惑う姿に機嫌を直したアルフレドが小さく笑いを零す。
「そうだ、どこぞの貴族の女で俺の婚約者のフリだ。ちなみに、お前を守る為に常に側で付き従う騎士の役割はジークフリートなんだが・・・・・どうする?」
「!?」
ニヤリと、彼にしては悪そうな顔で笑うが、クローディアの頭の中はそれどころではない。
アルフレドの婚約者になることはお断りだ。
それは今も全く変わらないが、一時的な婚約者のフリでしかもあのジークフリート様が側に付き従うお嬢様役っ!?
なんておいしい!!
いやいや、それよりも気にすべきはオリビアでしょ!?
彼女のアルフレドへの行動は、ゲームのプレイヤーがするものに近い。
いや、ゲームをやったことがなければ、こんなに偏ったアプローチをするわけもないだろう。
そう、オリビアは私と『同じ』可能性がある。
それを確かめる為に、会うだけなんだから!
騎士とお嬢様かぁ・・・・・うん、いい。
「俺からの依頼を引き受ける、ということでよさそうだな?」
「・・・・・・・はっ!!い、いやまだ私何も返事してないよね?」
「フン!!その顔を見れば、言われなくともわかる!!」
「へ?顔っ!?」
ペタペタと急いで顔中に両手で触れてみるが、鏡がない今自分がどんな顔をしていたのかクローディアには全く分からない。
そんな彼女に、再びアルフレドの眉間のシワは深く刻まれる。
「とりあえず!ドレスや諸々の必要な物は俺の方で用意するから、明日ランディ王子を見送った後に俺の部屋にジークフリートと一緒に来いっ!」
「ちょ、ちょっとアルフレド!?」
「話はそれだけだ!」
「!?」
クローディアを一瞬だけしっかりその腕で抱きしめると、アルフレドはそのまま彼女を扉から部屋の外へと出して勢いよく扉を閉めた。
「・・・・・アルフレド様」
「バーチ、お前の言いたいことは分かってる。だが、あの男のことで顔色が変わるあいつを見ていたら、抑えきれなかった」
拳を強く握りしめながら、アルフレドは胸の中に沸き起こった炎をなんとか鎮めようといささか乱暴な様子で部屋の奥へと進む。
まともに話すのは久しぶりだと言うのに、彼女にあの男の影がちらついて心が勝手に乱れて仕方がない。
「バーチ!!今日の剣の訓練は、いつもの倍にしておいてくれ!!」
「御意」
「それと、その大量の手紙とプレゼントの山は奥の倉庫にでもつっこんでおけ!俺は少しだけ休む!」
「かしこまりました」
そのまま、アルフレドは寝室に入るとその扉を閉めてベットへと仰向けに倒れこんだ。
まだその手のひらには、彼女を抱きしめた時に感じた暖かさが残っている。
その手を天井に向けて伸ばしながら、アルフレドはようやく柔らかな顔で微笑んだ。
プレゼントを続けて同じものをあげると好感度が下がってしまうゲームがあって、確かにそうだよなと妙に納得してました。
でも別のものを間に挟むとまたオッケーになってしまうんですよね




