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モブ女子、続・2人の王子

今回も読んでいただき、感謝です!


本心がありのままぶつけられる相手がいるといのは、男女に関係なく幸せなことだと思います。

ルークと離れると、ラファエル王子が私の手を引きさらに奥へ奥へと走っていく。



先ほどの部屋で、どこからか大きな魔力を持つものが近づいているのが分かった。


この神殿は何やら全体に大きな結界が張ってあってボルケーノ達が一緒に入れず、『魔封じの腕輪』の為に強い魔法も唱えることができない。



そんな中であんな強い魔力のモンスターとの戦いは、容易ではないことぐらい予想がつくが自分があの場にいても足手まといになるだけなのもよく分かっている。


今はとにかくランディ王子を早く救出して、ルークと合流し彼を安全な城の中へと送り届けることが何よりも先決だ。



幸い、先ほどから現れるモンスターは低レベルの者が多く、魔法剣の魔法の発動だけで逃げたり倒せるものが殆どで、苦戦を強いられずにランディ王子がいるという部屋までようやくたどり着く。


鍵はかかっていたが、ルークから渡されていた魔法のかかった特別な鍵をポケットから取り出し鍵穴へ差し込むと、魔法が発動して先端が鍵穴にあったものへと勝手に形状を変え扉は何の苦もなく開いた。



それはまさに!


『ふくろ』に1つ持っていれば、鍵のかかった特別な扉でも開けられる、RPG御用達であり有名な名物でもある『魔法の鍵』そのもの。



味方だから心強いものの、あの男に不可能はあるんだろうか?



「よし!空いた!ランディ王子っ!!」



見張りのモンスターも早々に倒した私達は、勢いよく部屋の中へと入っていく。



「・・・・・お、お前はッ!?」



中にはさらに鉄格子で出入り口を塞がれた部屋があり、その中で小さく座り込むランディ王子が床に小さく座り込んでいて、私たちの突然の登場にとてもびっくりしていた。


顔や身体に少し擦り傷のあとは見えるものの大きなケガはなさそうで、安心からほっと息を吐く。


鉄格子の鍵を魔法の鍵で開けて中に入ると、念のために嫌がる彼の身体を構わずあちこち触ってその無事を確かめた。



指先が触れた傷はすでに回復を始めている。




「元気そうで、本当によかった!!」


「お、遅いぞ!!お前が来るのが遅いからーーーーー!?」


「・・・・・・・」



顔を真っ赤にしてクローディアに向けて怒っていたランディ王子の顔が、ある一点で止まりその顔をすぐさま横に反らせた。


彼の目線の先にいたのは、ラファエル王子。




そうだった。


忘れてたけど、2人はケンカの真っ最中だったっけ。



しかも、ランディ王子はラファエル王子からその時に頬をたたかれている。


ラファエル王子も気まずそうに顔をうつむかせていた。



「・・・・・ふ、ふん!まさか、お前も来るとはな!」


「ら、ランディ王子!ぼ、ぼくっ!」


「こんなところに、王子であるお前が何しに来たんだ!?大好きなママのところにさっさと帰って、おっぱいでも飲んでいつものように甘えてきたらどーーだ?」


「!?」




ランディ王子の眉間にシワが寄り、その顔が妬みと憎しみから歪んだ笑みを浮かばせる。



「ランディ王子!!ラファエル王子はあなたを助ける為にっ!!」


「・・・・・いいんです、クローディアさん。少しだけ、彼と2人で話をさせてくれませんか?」


「!?」



ラファエル王子が私の腕をぎゅっとつかんで、先ほどまでの申し訳なさそうな顔ではなく輝く笑顔で伝えてきた。


空から舞い降りた美しい天使がその瞳をキラキラさせながら、上目遣いでこちらをじっと見てくるその姿にうっかりめまいを起こす。



彼は、以前に思っていたような繊細で弱々しい少年ではない。



「わ、分かりました!」



それに2人のケンカに他者が入り込むことではないなと、その笑顔から感じた私がランディ王子のそばから離れて2人を見守ろうと扉の前まで移動すると、ラファエル王子の目線がまっすぐにランディ王子へと向かう。



「な、何だ!?お前のその目はっ!!」


「・・・・・君の言う通りにできるなら、ぼくは今すぐに城へ飛んで帰るよ」


「なに?」



てっきりまた怒り出すかと思ったのに、ラファエル王子はむしろ悲しそうに笑いながらそう答えた。



「ぼくの母上は今、城にはいない。いやそれどころかアルカンダル王国にすらいないんだ」


「・・・・・・・死んだのか?」



ラファエル王子の言葉に驚き、憎しみや妬みの感情が消え戸惑った様子のランディ王子がぼそっと小声でつぶやく。



ぼくのように?という問いが、声に出さなくともその表情が伝えている。


その問いに、ラファエル王子は静かに首を横に振って応えた。



「ぼくの母上は、彼女と血の繋がりがないぼくの兄上を亡き者にしようとした罪で、国王である父上からこの国を永久追放されたんだ。だから、今どこにいて何をしているのか、そもそも生きているのか死んでいるのかすらもぼくには分からない」



「!?」



「会いに行けるなら、もちろんすぐにだって会いたい。この国にとっては大きな罪を負った犯罪者になるのかもしれないけど、ぼくにとってはこの世でたった1人の大切な母上なんだ!でも、この国をまだ1人で自由に出ることの出来ないぼくには、母上を探しに行ける力がまだ何もない」




彼は、アルカンダル王国の正統な血を引く王子。



たとえ次期王位継承者としての権利をアレキサンダー王によって剥奪された後だとしても、他国で彼の身に何か起こった時、それは彼だけの問題では済まなくなる。


ただ国を訪れるにしても、『王子』が訪問するのであればそれは国を代表してのことなど、理由がそこになければ自由に行き来することも容易にできることではなかった。


一般の民であるクローディアが、自分の意思で自由きままに色んな国を自分の足で動けるのに比べて、身体も心もなんて不自由なことか。



「君の母上が亡くなっていることは、君の国を調べている時に聞いたよ」


「・・・・・はっ!何が、聞いたよだ?」




ランディ王子の声が震える。




「それで、自分も今は母親がそばにいないから、ぼくの気持ちが分かるとでも言いたいのか!!ふざけるなっ!!!」


「!?」



大きな声で叫んだランディ王子の両手が、ラファエル王子の胸元を力強く掴んで一気に彼へと詰め寄った。




「お前はそれでも、これまでずっと母親に愛されてきたんだろう!!いつだって母親がそばにいて、甘えて、何度も抱きしめてもらってきたんじゃないかっ!!!ぼくは実の母親に避けられ、怯えられ・・・・・その手に抱かれたことなんて一度もなかった!!!抱かれないまま、ぼくのせいで死んだんだっ!!」




ランディ王子の目からは、涙が溢れていく。




「お前の母親は生きてる!!その足で、行こうと思えば今すぐにだって会いに行けるじゃないかっ!!!会いに行っても、受け入れて、もらえるじゃないか・・・・・ぼくは、ぼくはお前とは違う!!お前になんか、ぼくの気持ちが分かるわけがないっ!!!」


「分かんないよっ!!!」


「!?」



ラファエル王子も涙を流しながら、ランディ王子の胸ぐらを叫ぶと同時に勢いよく掴んだ。



「母上がこの国を出る直前、ぼくを避けて口を聞いてくれなかった。ほんの数時間のことなのに、それだけでもものすごく悲しかった!母上がいなくなってからは、頭ではわかってるのに寂しくてどうしようもなくて。そこにいないのに、母上がいた時の記憶が何をしてても勝手に何度も蘇って、毎日が辛くて悲しくて仕方がなかった!!それなのに、もっと辛い君の気持ちが、ぼくに分かるわけがないじゃないかっ!!」




城の中はどこへ行っても何を見ても、いつも隣にいてくれた母上の声と姿が自然と思い出され、朝起きてその姿がないことが当たり前にならなきゃいけないのに、無意識に探してる自分に気がついてその度に毎朝落ち込んでいた。


それでも、そんな姿を誰かに見せるわけにはいかなかった。


もしかしたら、こんな風に気持ちを言葉に出すのは、母上がいなくなってからは初めてのことかもしれない。



「君もぼくも別の人間で、違う環境で生きてきたんだ!!分かるわけがない!!でも、王子とかそんなの関係なく、友達としてぼくは君を知りたいんだ。君とこれから仲良くなりたいって思ったら、それは行けないことなのっ?!」


「・・・・・友達?お前とは、会ったばかりじゃないか」



グランハット王国にだって、化け物のぼくと

友になろうなんて思うやつは1人もいなかった。



「会ったばかりじゃダメなの?ぼくも友達いないから、分からないんだ」


「ぼくが・・・・・怖くないのか?」



ラファエル王子の胸元をつかんでいたランディ王子の手が緩む。



「なんで?全然怖くなんてないよ。君には、すごい魔法使いになれる才能があるんでしょ?」


「!?」



ラファエル王子の手もランディ王子の胸元から外され、涙を流しながらニッコリと眩しい笑顔で微笑んだ。



「魔法がまだまだ珍しいなら、そうじゃない国に君がしていけばいいじゃない!君は王子だ。民を守るために、国を動かせる力が君にはある。その君が魔力を持って生まれたことには、絶対に何か大きな意味があるんだよ!」



「・・・・・大きな、意味?」



「うん!人の持つ力や壁は、どんなものにもちゃんと理由があるから備わってるんだって。それがプラスのものではなくても、どんなに大変で苦しいことでも、そこから何かを得るためにそれがあるんだってぼくもエリ・・・せ、先生達から教えてもらったんだ!」




ラファエル王子の顔が、ある人の姿を鮮明に思い出しぽっと赤く染まる。


今の彼が誰のことを想っているかなんて、その顔を見ればすぐに分かった。




『ラファエル様、確かに周りからの期待は重苦しいものですが、それに応えられる人物だからこそその期待もそこにあるのです。


それでも、どの道を選ぶのかを決めるのはあなた自身ですわ。今はただ自分を強く持って周りに流されず、己を鍛えてくれるのだと周りの力を感謝して上手く使えばよろしいのですよ』




「・・・・・きっと、それだけの壁を乗り換えられるぐらい、ランディ王子が強い心を持っているんだね!」


「ふ、ふん!!そうだぞ!ぼくは凄いんだ!し、仕方がないから、お前と友達になってやってもいいぞ!」


「本当っ!?嬉しい!!やったぁ〜〜!!」


「!?」



喜びのあまりに興奮したラファエル王子がランディ王子に勢いよく抱きつき、またもや2人は地面の上にそのまま倒れこんだ。



「お、おいっ!!毎回いきなり飛び込んでくるなっ!!」


「ご、ごめん!嬉しくて、つい・・・・お、重いよね?すぐにどくから!」



すぐにラファエル王子がランディ王子の体の上から立ち上がるが、座り込んだままのランディ王子はなぜかそれ以上起き上がって来ない。



「どうしたの?」



「ふ、フンっ!!お前のせいで、体が痛くて起き上がれないじゃないか!」



「えっ?!ど、どうしよう!?」



「ほら!」



「?」



首を傾げたラファエル王子に向けて、ランディ王子が片方の腕をまっすぐに伸ばす。




「お前のせいなんだから、お前がぼくを起こせ!」


「・・・・・・う、うん!!」




ランディ王子の手をしっかり握りしめると、ラファエル王子はニッコリと笑って彼を自分の方へと引っ張りあげた。


ようやく起き上がったランディ王子は、すぐさまその手を離して彼に背を向けて体の埃を払う。



「全く!お前のせいで、ぼくの洋服が泥だらけじゃないか!!」



ラファエル王子はその顔が見えなかったようだが、少し離れたところにいたクローディアからはその横顔がしっかり見えた。


泣いたことも含めて色々な恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらも、その顔は小さな笑みを浮かべている。




「ーーーーーーなっ、なにぼくを見ながら笑ってるんだ!?このブスっ!!!!」



「・・・・・・しまった、バレた」



うっかり、そのあまりに可愛らしい姿に萌えじゃなくて、耐えきれなくて笑いをこぼした姿をバッチリとランディ王子に見られてしまった。


今にも頭から噴火しそうなランディ王子が、顔をわなわなさせながら全身を怒りに震わせている。



「ちょ、ちょっと!レディであるクローディアさんに何てことを言うの!!」



言われた私よりも、すぐさま彼の隣にいたラファエル王子が怒り出す。



「うるさい!!何がレディだ!!こいつはブスで十分だ!!ブスブスどブスっ!!」


「ランディ!女性には優しくしなきゃダメだよ!!」


「いたッ!!」



ランディ王子の頭に、ラファエル王子の美しい拳が飛ぶ。



「な、何するんだラファエルッ!!」


「これからはぼくも、君に遠慮しないことにしたから」


「そ、そんなのお前は最初からなかったじゃないか!おい!ぼくにもお前をなぐらせろ!!」


「ははっ!いやだよ〜〜!!」




美少女、いや正しくは美少年と悪ガキのイチャイチャにしか見えなくなり、私はこっそりと気配を消しながら仲良くケンカする2人を涙しながら温かく見つめる。



「・・・・・・・・・うん、尊い!!」



いつもは王子として、凛とした姿を崩さないラファエル王子が普通の少年のようにはしゃぎながら声をあげて笑い、どこか斜めから人を見ていたひねくれ者のランディ王子が、怒りながらも年相応の子どもとして自分を出していた。



これから2人は、きっと良い友達になるだろう。




新友からーーーーーー心友へ。





私も早くエリザベスとイザベルに会いに行きたい!と心をそわそわさせながら、まだまだ仲良くケンカを続ける2人をくすぐったい気持ちになりながら眺める。





そしてそんな3人を、離れたところでその身を隠した黒い影が笑みを浮かべながら見つめていた。

親友にも色んな意味の字がある聞いたことを思い出し、使わせていただきました。


新友、真友、心友など。


同じ言葉なのに当てはめる感じが違うだけで、ニュアンスが変わるのが日本語の面白くてすごいところですよね!

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