モブ女子、イライラしました!
読んで頂き、ありがとうございます!!
アルベルト王子のターンですが、あの人が割り込んできてます。
負けないで!王子!!
俺の名前は、
アルフレド・ルカ・ド・オーギュスト。
もうすぐ創立1000年となる、我が国アルカンダル王国の第39代目国王である
アレキサンダー・ルカ・ド・オーギュストを父に持ち、そして優しく穏やかで母性溢れる美しい姿が女神ナーサディアの再来とまで言わしめた、マーサ・ルナ・デ・オーギュストを母に持って生まれてきた。
厳しくも優しい父と、笑顔あふれる美しい母と過ごす日々は、本当に幸せだった。
日々の中で何不自由することなく、願うことはすべてが満たされていた。
自分が女神に願って叶わないことは何もない、とあの頃は本気でそう信じていたんだ。
そして、俺のそばでいつもつき従い、何をするにも必要な手助けをしてくれた、
使用人のバーチ=ジェロ。
バーチは体が大きく無表情で無口だが、父上と母上がそばにいない時はいつだって俺のそばいて、どんな無茶なことでも俺の為にと動いてくれていた。
俺はバーチに全幅の信頼を置いていたし、大好きだった。
そして骨格からしても大きく力強い体と、常に冷静沈着な強い心を持つバーチに理想の男性としても憧れていた。
普段は政務で忙しい父と母よりも、一緒にいる時間が長いのはバーチの方だ。
だからこそ、普段は何も欲しがらないバーチの願いならなんだって叶えてやりたかった。
とんなことだって叶えられる王になるんだ!と、本気で心からそう思っていたんだ。
バーチが俺と母上を、オーギュスト家を、
あの日裏切るまではーーーーーーーー。
「おい!!聞いているのかっ?!」
「・・・・すみません」
どうしよう、全く聞いてませんでした。
「お前はこの場所が、なんなのか知らないのかっ?!なぜ平民のお前が、ここにいる!?門番はどうしたっ?!」
どこにもいませんでした。
「ここは王族が祈りを捧げる為の、神聖な場所なんだ。お前のような平民が簡単に入れるところじゃない!!」
言われなくとも、重々わかっておりますとも。
私はただの平民のモブ、町民Aでございます。
「・・・・すみません。道に迷い、あまりにキレイな神殿の為に思わず入ってしまいました」
『ローズ』がオープニングでアルベルトに対して話していたのは、確かこんな内容だったと思う。
「なら、さっさとこの場を出ることだな!
王都なら、神殿を出て左の道を進めば着く。今日はこの俺に免じて、不法侵入の件は見逃してやる!ありがたく思え!」
あら??
以外と親切なんですね。
「・・・・ありがとうございます」
とりあえず、これ以上彼を怒らせないよう、静かに神殿を出ようとアルベルトの横を通ろうとすると、片腕をすっと掴まれた。
「・・・・何か??」
さっさと出ろ!!と追い出そうとしていた人が何急に引き止めてんですか?
つかんだのは、もちろんアルベルト王子だ。
なぜか顔を背けたまま、目も合わそうとしていない。
ツンデレか??
「ーーーーーさっき、お前が女神ナーサディア像の前で祈っていたのは、騎士団長のジークフリートだったな」
「はい」
「お前はあいつの、血縁者か何かか??」
「いいえ」
「ならば恋人か婚約者か?」
「・・・・ッ!いいえ」
おっと危ない、危ない。
ついつい、はい!!と、違かろうとが希望として叫んでしまいそうになってしまった!!
「ならば、なぜあいつのことを祈っていた?」
「?!」
先ほどまで目をそらしていたアルベルト王子が、こちらに向き合い、ようやく彼の青い瞳と目があった。
あと、なぜかアルベルト王子がつかんでいる腕の部分がチリチリと、何やら少し違和感がある。
他者自動回復機能が王子に働きかけているせいだろうか?
「血縁者や婚約者でなければ、その人のより幸せを願うのは、そんなにダメなことでしょうか?」
これも、『ローズ』がゲームのオープニングの続きで、アルベルト王子に話していた言葉。
うろ覚えだけど、だいたいこんな感じだったはずだ。
よしっ!!うろ覚えのローズっぽいセリフで、なんとかこの場をのりきろう!
「ただ好きで大切だからってことは、理由にはなりませんか?」
そう、これも『ローズ』のーーーーーーー。
「はっ!!それこそ、偽善だな。実際に自分の身が危険になれば、お前はジークフリートよりも自分を選ぶ!ジークフリートが他のやつと幸せになれば、嫉妬で幸せなど願えなくなる!!」
おぉ〜〜!悪役みたいないい笑顔ですね。
「ジークフリートがお前を裏切らない保証はどこにもない。人はみないつか裏切る。どれだけ長く信頼して一緒にいようともだ!表面と裏の顔は違い、自分のことを守るため、利益のために平気で相手を利用するッ!!!」
「・・・・・・」
このセリフもゲームで聞き覚えがある。
レオを信じ、祈りを捧げたローズに対して、アルフレドがなぜ信じられる?と話すのだ。
『ローズ』は、そんなことはないと。
人はみなどんな人でも優しい部分があり、みんなで信じて助け合っていけばとんなことも乗り越えられるんです!
みたいな内容で、アルベルトにレオやみなと変わらぬ優しさで接していた。
さすがは、心のキレイな『ローズ』!!
暖かい人達のいる平和な村の中で、愛し愛されて育ち、みんなにその優しさを分け与えてあげられる純粋無垢な女の子。
みんながそんな優しいローズをいつしか好きになり、愛した。
もちろん、ジークフリート様も。
そのローズとジークフリート様が2人で寄り添う、ゲームで何度も見た光景が頭に鮮明に蘇る。
「・・・・・・」
ーーーーーーーーだめだ。イライラする。
「・・・・・それが、何よ」
「ッ!!」
ごめんなさい、ジークフリート様。
私はやっぱりローズのようにはなれません。
「そうよ!その通りよ!」
「??!!」
腕をつかんだままのアルベルトに向かって、強い目線を向けて向き直る。
不敬罪?そんなこと、知ったことか!!
こちとら地球産の日本育ちで、身分とか全く関係ない環境で30年間育ってきた記憶の方が今は強いんじゃいッ!!!
「ーーーーー私も自分が可愛いし、嫉妬だってする!!けどそれの何が悪いのよ!!」
「!!??」
ジークフリート様に、できる限り生きて欲しい。それは私の勝手な望み。
ジークフリート様自身は、短い人生だろうが気にしないかもしれない。
この目の前の王子様を守ってその命を使う方が、誇りや名誉だと、意味のある死を望んでいるかもしれない。
それでも、彼の幸せの為に行動するのは私の勝手であり自由だ。
「自分の幸せを考えられない人が、人の幸せを考えられるわけないじゃない!!」
「?!」
「私が彼を好きなのが自由なように、彼が生涯のパートナーとして、誰を選ぶかは彼の自由よ!!でも、選ばれた人を羨んだって当然じゃない!!私は彼が好きなんだから!!!」
好きなのよ!!
クローディアになる前からずっと、いや今の方がもっともっと大好きなの!!
気づけば、王子様の胸元に掴みかかりながら感情のままに本気で叫んでいた。
少し前はそうではなかった。
ローズはプレイヤーである自分の分身で、ローズと幸せになることが嬉しく、記憶の中の2人のやり取りも微笑ましく見守れたのに。
今は、ローズと団長が実際に会ってしまうことを考えるだけで、いつだって自分の心はこんなにも簡単に嵐が巻き起こる。
「彼が私を利用して裏切る??そんなの彼の自由じゃない!!」
「!!??」
むしろ、私をどれだけ利用してもいいから、自分のこれからの幸せの為に生きて欲しい。
でもーーーーーー。
「でも、ジークフリート様を傷つける人がいるなら・・・・話は別よ」
「ッ!?」
感情のままに叫んでいたのをやめ、私の声がさっきよりも低く静かなものになり、先ほどよりも強い眼差しで王子を見据えると、アルベルトの表情にもより強い緊張が走る。
「あの人を傷つけ、殺そうとする人がいるなら、私は絶対に容赦しない。私に強い力が無かろうが、絶対にそいつを許さない!!」
「・・・・ッ!!??」
その時、知らぬ間に涙が勝手に出ていて止まらなくなっていたが、そんなことは気にもならない。
頭に浮かぶのは、何十,何百回と繰り返されたジークフリート様の死の場面。
女性向けのゲームだし、かなり表現は抑えられていたけど、血だらけの時もあった。
ゲームの中では死ぬシーンを見ても、リセットしてまた彼には会いに行けた。
失敗しても、どんなに悲しくても、また明日頑張ろうと仕切り直しができた。。
でも、ここは現実ーーーーーーー失ったら、もう二度と会えはしない。
「許さない。誰だろうと」
それが目の前の、あなたであろうと!
「絶対に、許さないッ!!!」
「・・・・・ッ!!」
燃え盛る、炎のようだと思った。
彼女のまっすぐな強い瞳に射抜かれた時、全身が炎に包まれて一気に焼かれているかのような気持ちだった。
体の奥にある芯の部分が、彼女の炎に焼かれて熱をもつ。
全てがどうでもいいと、冷たく冷えきった心に彼女の業火はあまりに強すぎてーーーー。
「ゆる・・・さ、な・・・・ッ」
「!!??」
次の瞬間、突然意識を失った彼女がそのまま自分の方へと倒れこんできた。
思わず抱きとめてしまうと、何年ぶりかに感じた人の温もりに俺の体はすぐさま強い緊張感に覆われる。
「・・・・な、なんなんだっ!?くそっ、ただの平民のくせに、王子であるこの俺に掴みかかるなどっ!!おい!!聞いているのかッ?!」
「・・・・・」
耳元でいくら叫んでも、彼女が起きる気配はない。
まさか死んだのかと一瞬肝が冷えたが、重なりあっている胸から規則正しい音がゆっくりと聞こえて、ホッと息を吐いた。
「・・・・ただの平民のくせに。本当に、なんなんだ、お前は」
『あの日』から、他人とは距離を置き、必要とあらば仮面の笑顔をかぶるものの、こうして人の温もりに直接全身が触れるなど本当に久しぶりだ。
王室の義務である定期的に開催される貴族達とのダンスパーティーは、適当な距離を保って踊れるものしか絶対に引き受けなかった。
何を考えているのか分からない、見知らぬ他人と体をくっつけて踊るなど虫酸が走る!!
しかも、彼女らはただの娘達ではない。
背後に大きな、もしかしたら王家に仇なすかもしれない者達がいるかもしれない女達なのだ。
万が一、そばにいた女がそいつらの間者だったとしたら、俺はすぐさま死ぬだろう。
信用してはいけない。
こころを許して開いてはいけない。
あんなにも母上を愛しておられた父上だって、
バーチのせいで今も母上が生死を彷徨っているというのに、国のためにと裏切り者かもしれない大臣の勧め通り第二夫人を受け入れた。
まだ母上は生きているのに!!
あの女が、バーチを差し向けた黒幕の1人に違いないのに!!
大事なものに裏切られるのも、大事なものを失う絶望を味わうのも、もうたくさんだ!!
それなのにーーーーーーー!
「・・・・くそッ、なんで、なんでお前はこんなにも、温かいんだ」
心の底から憎んで、何度も殺したいと何年も憎悪の感情を向けていたバーチのことを。
それ以前のバーチとの思い出を、バーチと母上との幸せだった暖かな日々を。
人を疑うことなく心から信じきって安心しきっていた、無知で愚かな自分を。
思い出して、
しまったじゃないかーーーーーーー。
「・・・・・クスクス。そろそろ、僕のモノにそれ以上触り続けるのは、止めて頂けませんか?」
「!!??」
聞き覚えのある声にハッと顔をあげた瞬間、目の前から彼女の姿と温もりが消えさった。
「フフ・・・・もうじゅうぶん恩恵はもらったようですし、返してくださいね♪」
「お、お前はッ!??ルーク、ルーク=サクリファイスッ!!」
彼とこうして会って直接話すのは数年ぶりだ。
そう、あの普段滅多なことでは魔法院から出てこず、他人とは決して深く関わろうとはしない、
あのルーク=サクリファイスが、消えた彼女を横抱きにしながら少し離れた場所で静かに佇んでいる。
室内のいたるところから光が差し込む、神聖なナーサディア神殿の中にあって、深い紺色のローブに全身が包まれたその姿は、逆に異質なものとして映え、そのローブの中で垣間見れる人間離れした美しさも強く際立った。
「クスクスクス・・・ただの魔導士ごときの名前を、王子自らに覚えて頂けるなんて、光栄に存じます」
ルークは彼女を腕に抱えたまま、軽く頭を下げる。
「でも・・・すぐに忘れてくださいね♪」
「!!??」
そして、そのまま王子に向かってニッコリと美しく妖しい微笑みを浮かべると、2人の姿は一瞬にして音も立てずにその場から消え去った。
「・・・・・・・」
2人が消えたあとも、アルベルトはしばらくの間、彼女が消えた腕の中を見つめ続けた。
「・・・・・ジークフリートに、あのルーク=サクリファイスまで」
ただの、平民のはずなのに。
「・・・・・変な、女だな。お前は」
つぶやいたアルベルトの顔は、笑ってるような泣きそうなようなーーーーーーとても、複雑な顔をしていた。
アルベルト王子とクローディアのやりとりも、二転三転して難産になりました。最初はクローディアがローズのような感じで話しているのを書き続けていたら、どんどん動かなくなり
これは大変!と、それをやめたら大爆発!!
ローズみたいになんかできるかぁーーーー!!と、本音を吐いてくれました。




