モブ女子、ここにいる意味
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
ここ最近、仕事に追われて更新が遅れてしまいがちですが、そのたびに読んでくれている人がいることがとても励みになってます!
涙がようやく落ち着き、それはそれは色んな水分でひどい顔になってるのをからかわれて怒るくらいには心に余裕ができた頃、今の自分と他の人の状況をルークから聞くことができた。
私がウンディーネ様に触れたことで、本来の意識を取り戻した彼女がルークとジークフリート様を激しい戦いの最中、水のバリアーで包み込み神殿に移動させたということ。
アナスタシアさんと銀の騎士が深追いしてくることはなく、黒い魔女の命令でそのまま引き返したらしいこと。
ルーク達が神殿についた際、私の肉体は闇の魔力にあてられて意識を失っていたと。
そんでもって、私を助ける為になんとジークフリート様が自分が行くと言って中々譲らなかったそうだが、闇の魔力どころか元々魔力の少ないジークフリート様では逆に危ないと、闇の魔力に対する知識も抵抗力も元々強いルークが行くことになったこと。
この話を聞いた時は、つい目頭が熱くようやくおさまった涙がまた出そうになってしまった。
と、ここできれいに終われせればよかったのに、あまりに嬉しくて鼻の下を伸ばして本気で萌えるあまりその光景を妄想して奇声をあげてたら、ルークに小声でぼそっと『気持ち悪い』と言われてすぐさま正気に戻った。
うん、やっぱり萌えてる姿は人に見せるもんじゃないですね。
そして、私はウンディーネ様の内側に封印されていた、ある人の心に同調しその過去を追体験のような形で心が闇の魔力にとらわれていたこと。
「その、ある人って・・・・もしかして」
「そう、君の予測通りフェイという少女だよ。そろそろ、こっちにでてきたらどうかな?」
「!?」
ルークは呼びかけると同時にその人へと視線を向けたので、私も自然とそちらへと目線を向けた。
この空間自体が真っ黒なのだが、その中でさらに黒い部分が浮き上がりそこから長い黒髪のまさに貞○のような少女がのっそりと現れる。
着ている服まで黒ということで、暗闇にいきなり青白い顔だけが浮かんだかのように見えたその姿に、ホラーが大嫌いな私は悲鳴をあげて腰を抜かした。
『・・・・・・・もう正気にもどったんだ。つまらない』
ぼそぼそと、フェイさんは表情のない能面のような顔で口元だけが笑う。
女性にしては低めの声だ。
「つ、つまらないって、本気で死ぬかと思ったのに!!」
今思い出しただけでも、全身が恐怖に震えてしまう。
『そんなの、全然大したことない。あんたは一瞬だけど、私はそれが日常で毎日だった』
「!!??」
瞬きのない、大きな黒目がじっと私を強い眼差しで見つめる。
『血を見ない日はなく、私を見た人は石を投げ殺しに来る。だから私も殺してやった。何がいけない?この世は弱肉強食、それが真実で全てだ』
彼女の口元だけがどこまでも笑みになるその顔に、なぜかすごく狂気を感じた。
そして、その少女の姿が言葉を発するたびに姿を消し、別の場所で現れてはまた消える。
『殺さなければ、殺される』
『それならば、殺られる前に壊せ』
『私をこんなにした、世界が憎い』
『何も知らないで、のうのうと生きる奴らにも味あわせてやりたい』
『なぜ私だけがこんな運命を!?』
『女神が憎い!』
『全てが、憎い!!』
「で、でも、あなたは世界を壊さなかった。それをできる力をもちながら、あなたは自分を止めたのはどうして?」
『・・・・・・』
「ヒイィィッ!!」
その言葉に反応した少女が、無言で私を見る。
ノー瞬きでガン見は、本当に怖いのでやめてください。
『・・・・・ある日、まだ幼い少女が親の敵だと、私をちいさなナイフで背後から刺しました』
「!?」
ギロリとこちらを見たままの少女が消えないまま、別のところから同じ姿をした少女がその口調と表情を変えて現れた。
『私の幸せを返せ、とその少女は泣き叫びながらすぐさま私の手にかかり、命を失いました』
『それはこっちの台詞だ!!私だってやりたくて殺したわけじゃない!!』
『似たようなことを、他にもたくさん言われ続けてきたのに、なぜかその少女の言葉だけが私の中に残りました』
2人の少女がお互いを見つめながら、交互に口を開いていく。
『私にこんな運命を与えたのは世界だ!なのに、なぜ私が恨まれ憎まれ続けなければいけない!?』
『憎まれ憎みながら生き続けることに、私はもう疲れたんです』
「・・・・・それで、ウンディーネ様にお願いしたんですか?」
落ち着いてる方のフェイさんが、静かに頷く。
『私は死ぬことを選びましたが、ウンディーネ様がそれをお許しになりませんでした。散々人の命を奪ってきた人間が、その命を簡単に手放してはいけないと。最後までもがき苦しみながら生きなさいと。それでも、ほとんど正気を失いかけてる私には生きることが怖くて仕方がありませんでした』
『何度も死のうとはした!』
『何十何百本の剣に全身を突き刺されても』
『炎に焼かれても』
『毒を飲んでも』
『何をしても・・・・私は死ねませんでした』
気づけば、2人の少女はどちらも泣いていた。
『もう、自分が壊れるのを待つしかないと覚悟を決めた時、ようやくウンディーネ様が私を封印してくれました』
「その後、そのウンディーネ様でも、君の影響を受けておかしくなっていったんだね?」
ルークからの質問に、再び少女が静かに頷く。
『私はただ、静かに眠りたいんです』
『もう血を見るのは飽きた』
「!?」
ウンディーネ様が彼女を封印し続けることにはもう限界が来ている。
かといって、封印がなければ彼女達は再び現世でその手を血で染めることになり、憎しみと悲しみの連鎖はどんどん生まれてしまうだろう。
なぜ彼女にそんな運命を女神が強いたのかはその真意を含めて全然分からないが、今は目の前の彼女達が心から安らかに眠れることが何よりだ。
「・・・・・ルーク、彼女を私の中に封印することはできたりする?」
『!?』
「君なら、そう言うと思ってた」
『お前、何をっ!?』
「だって、私がここにくることになった意味が、それしか思いつかないんです」
物事には、必ずそれが起こるべく意味がある。
私がウンディーネ様の解放を頼まれたのはルークの意思だが、フェイさんの話を聞きながら彼女が世界の悪になったことにも、ウンディーネ様に封印され何百年後に私が彼女に会ったことにも、大きな意味があるようにしか思えない。
ゲームや漫画でいえば全部がフラグというか付箋のような気がして、どれだけ少ない知識で考えても答えがそれしか見つからなかった。
封印されるべき私と、封印ができるルークがここに揃っているのも出来すぎている。
『そんなことをしたら、あなたの意識が!』
「私には不思議な回復機能がついていて、それは私以外には大きな力を発揮するから、多分大丈夫です。今度こそ、ゆっくり眠れると思いますよ?ただ、私が死んだらどうなるかは分からないですけどね」
今思えば、その為のチート機能なのかもしれない。
「封印される中であなたの魂が彼女の中に溶け込んだ場合、彼女の死があなたの死にも繋がるかもしれません。これは、あなたにとっても大きな賭けにはなりますが・・・・・どうしますか?」
『・・・・・・・・』
『・・・・・・・・』
少女は互いにその目を見つめ合いながら、意思の確認をしているように見えた。
しばらく沈黙が続いた後、ようやく少女が口を開く。
『あなたの中で、眠らせて欲しい』と。
今回は正直、色々悩みました。
自分の身内で事故で亡くなった人がいて、それでもなぜ神様は命を奪ったんだろうと憎しみの心を抱いていた頃がありました。
でも結果、その事故があるから今の自分も環境もあるんだと後から頭で分かるんですが、気持ちが追いつくまでには時間がかかるものですよね。




