モブ女子、私の光
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
光があるから闇もあるのだけど、やっぱり光は救いに感じます。
目を開けても閉じても、紅が消えない。
それどころか、新しく目に焼き付いた血に高揚している自分まで感じられて、心がどんどん堕ちていく。
人に会えば自分の知らぬ間に相手が死に、この手が血に染まる。
そんなことを何度も何度も繰り返される中で、私の心は疲弊しすでに限界を迎えていた。
大切な人が、自分のせいで死んでいく。
それを止められない自分のことが許せないのに、どうしても止められない。
そして、気がつけば私の身体は見覚えのある王都へと移動していた。
この後の展開など、これまでのことを考えれば簡単なこと。
この地には私の家族も友人も、自分の命よりも大事なあの人もいるのだ。
先ほどから、私の全身が血に塗れた姿に王都の人々が逃げ惑い離れていく。
そうだ、私から逃げてくれれば殺さなくてすむ。
お願いだから、私にこれ以上誰も殺させないで。
「クロエっ!!」
「クロエちゃん!!」
「!!??」
お願いだから、もうやめて。
私に向かって駆けよってくる愛する両親に向かって、笑みを浮かべた私が容赦のない攻撃魔法を唱える。
「母さん!!クロエ!!なぜ、こんなことをっ!!」
「・・・クロエちゃん、どうして?」
もう誰も、私の近くに来ないで。
負傷した両親からの責めるような、信じられないものを見るその目に耐えきれなくて私はその場を走って逃げる。
その間にも、私のせいで命を落とす人がどんどん地面に倒れていく。
その中にはアルフレド王子やエリザベス、イザベルにグレイさんの姿もあり、もう何度絶望に声をあげたか分からない。
そんな私の前に、ついに彼が現れてしまった。
「クローディア!お前その血はどうしたんだっ?!」
「じ、ジークフリート・・・・さまっ」
彼は私の血まみれの姿を見ても怯えたりはせず、ただただ私のことが本気で考え心配だからというその一心で近づいてくる。
お願い!!
こっちに来ないで!!
もはや私の叫びは音にもならず、最愛の人を前に私は彼を傷つける為の魔法を放つ。
「クローディア!お前に一体、何があったんだ!?」
「・・・・・みんな、死んでしまえばいい」
私の異変に気がつきつつも、逃げずに近づいてくるジークフリート様に頭が再び痛くなる。
いけない!!
このままじゃ、私はあなたを!!
いつの間にか私の手には、鋭い刃のついた本格的な剣が握られていた。
そんな、どうして・・・ッ!?
クローディアの脳裏に、血にまみれて倒れたレオの姿が浮かぶ。
そうだ。
彼を刺し殺したのはーーーーーーこの私。
「クローディアッ!!」
嫌だ!!
彼を私が殺すなんて、そんなことは絶対に嫌っ!!
さらに頭痛はどんどん痛みを増し、視界がぼやけていく。
私でない私が、これから溢れる新しい血への悦びに口の端をつりあげた。
剣を握るこの両手は自ら意思を持つかのごとく、そこに向かって迷わず向っていく。
嫌だっ!!!
ジークフリート様っ!!!
「クローディア!!」
剣を大きく振り上げては、何度もジークフリート様に向かって振り下ろす。
やめてっ!!!!
口ではそう叫ぶのに顔は笑い、次の瞬間には激しい魔法を彼に向かって撃ち放つ。
「・・・・・ッ!?」
私を傷つけまいとして攻撃できないジークフリート様が、攻撃魔法をまともに喰らってふきとんだ。
「足りない。もっと、血が見たいの」
地面に倒れこんだジークフリート様の元へ歩いて行くと、私はその身体へと突き刺す為に剣を大きく振り上げる。
「ジーク・・・・・フリート、さま」
紅い涙を流したクローディアの目線が、ジークフリートと合う。
彼の目は正しく自分を見ていた。
こんな状態の自分のことですら、まっすぐに。
「・・・・・・ッ!」
『クローディア、心を強く持て。いつだって光はお前とともにある。それを忘れるな』
そうだ、あなたは私の光。
大丈夫。
あなたを決して、死なせない。
「クローディア!!お前、何をっ!?」
「・・・・・そんなに血が欲しいなら、今すぐくれてやるっ!!」
全身の力を剣を持つ両手に込めて、剣をそこに向けて力の限り振り下ろす。
「うけとれェェェーーーーーーーーッ!!!」
クローディアの剣は彼女の腹を突き破り、その剣をすぐさま引き抜いたその身体からは大量の鮮血が噴き出した。
地面にそのまま仰向けで倒れこむ中で、見慣れた景色と空が闇に染まっていくのが見える。
死ぬんだろうか?
前世で死んだ時の記憶もないし、どんな感じかはわからないけど、私の光を守って死ねたなら良かった。
「・・・・・バカだね、本当に君は」
「へ?」
聞き覚えのあるその声は、銀色の光を放ちながら私の前に現れる。
「君なら絶対にこうなるだろうとわかっていたけど、本当に君はバカだ」
人の命をかけた一大覚悟にたいして、これはひどすぎるんじゃないだろうか?
「しかも、闇の魔力をもろに全部受け止めてまさかの同調までして死ぬなんて、大バカなんじゃないの?」
「!?」
「それで守れたから何?そんなことに1人で酔ってるなんて・・・・・バカすぎで笑っちゃうよね♪」
「ルークのバカ!!そこまで言わなくたっていいじゃないッ!!」
あまりの苛立ちに、がばっ!!と勢いよく起き上がった私がその銀の光に向かって勢いよくつかみかかる。
「・・・・・フフ♪目が覚めた?クローディア」
「あれ?」
私がその胸ぐらを掴んでいるのは確かにルークがいつも頭から被っている紺のローブで、目の前で大変にキレイな顔でニコニコと私に笑いかけているのは、間違いなくあのルーク=サクリファイスだった。
「私・・・・死んだはずじゃ?」
剣で刺したはずの傷も、全身の血もその跡も、錆びたあの匂いがどこにもない。
「幻だよ」
「えっ?」
「全部、幻だったんだ」
「・・・・・・まぼろし」
何度も自分の手を見ては、そこに紅い液体もどれだけ拭っても取れなかった赤黒い跡もないことを確認していく。
「そう、だから大丈夫。君のこの手は少しも赤くはないし・・・・誰の命も、この手で奪ってはいない」
「!?」
ルークが私の両手を自分の両手で優しく包み込み、ギュッと力をそこに込める。
「君の大切な人は、誰も失ってはいないよ」
ルークの言葉に、私の頭に目の前で死ぬ光景を見たレオやアルフレド、エリザベスやグレイさんにイザベル、私が傷を負わせた両親に、そしてジークフリート様の姿が映る。
「・・・・・よかっ、た!グス!本当に、本当に、よかったよぉ〜〜〜!!」
私の目から鼻から涙といろんなものが溢れて、私はルークに手を握られながらその場に泣き崩れた。
「あぁぁぁぁっ〜〜〜〜!!!」
みんなが生きていることがただただ嬉しくて、子どものように全身で空に向かって声を上げる。
その彼女を優しい微笑みで見つめるルークの2人を、床につくのではないかと思うぐらい長い黒髪をした、黒い瞳の少女が少し離れた場所から静かに見ていた。
私はホラーを見ると夢に見たりして引きずるので、とても苦手です。
なのに短大の友人はホラー好きな子が何人もいて、そこを楽しめる感覚だけは理解が全くできなかったです。




