モブ女子、約束を果たす為に
今回も読んでいただき、感謝です!!
自然界では、やっぱり生命の母体である水は最強ではないかなと個人的には思ってます。
ウンディーネ様は水を司る神。
イヴァーナ様と属性は似ているものの、水は生命の源であり大地に繋がるものだということもあってそのパワーは絶大、イヴァーナ様のさらに上をいくとのことだった。
鎖で全身を縛られたウンディーネ様は、イヴァーナ様やボルケーノとは違って司祭のような服を身に纏っている。
私達がウンディーネ様のいるフロアーに足を踏み入れると、その青い瞳が静かに開かれた。
『・・・・カルロ、ここには何人たりとも通してはならないと、命令したはずですが?』
その声はとても落ち着いていて、耳に心地よい響きを持つもののピリピリと空気がはりつめ彼女の怒りが込められているのが、声からでも伝わる。
「申し訳ごありません!ですが、ウンディーネ様この者達は!」
『言い訳は無用です。わたくしは解放など望んでいない、それなのに我が神聖な神殿にその足を勝手に踏み入れるだけではなく、神殿をことごとく破壊するとは』
「う、ウンディーネ様っ!!お待ちください!!」
『万死に値します。今すぐに死になさい!』
「ひいぃぃぃッ!!!」
目を覚ました途端に静かに怒りを爆発させているウンディーネ様は、こちらに有無を言わさずにいきなり魔法を唱え、私達に強大な水の龍が襲いかかってる。
理知的な方だと思ってたのに、めちゃくちゃ激情型でした!!
神殿をあんなに壊したら、そりゃあ怒りますよね!!
とにかく守りの壁を張らないと!!と魔法を唱えようとした私の前に、炎の神が立ちふさがる。
『我に任せよ』
「ボルケーノっ!!」
『なんですって?ボルケーノ!?』
ウンディーネ様がその名に反応した時には、水の龍と同じ大きさの炎の龍が出現し、水の龍に襲いかかったと思うとお互いの体が激しくぶつかり合い、どちらもが相打ちとなって消え去った。
『カルロ・・・・なんとも厄介なモノを、我が神殿に入れてくれましたね。それでは我が神殿を壊したのは、あなたですねボルケーノ』
ウンディーネ様の美しい顔が嫌悪に歪む。
もしかしてこの2人、ものすごく仲が悪いんだろうか?
『はっはっはっはっ!!久しぶりだのう、ウンディーネ!!我はそなたに会いたかったぞ!!』
『わたくしは会いたくなど・・・・そもそも、その顔も見るのも嫌だというのに!なぜ、封印されたはずのお前が人間とともに我が神殿へくるのですか!?』
『それは、我を封印から解放してくれた我が主がここへ来ることを望んだからだ。つれないことをいうなウンディーネ、我とそなたの中ではないか!』
なんだろう?ボルケーノは結構ウンディーネ様のことを気に入ってる感じだ。
一方的にウンディーネ様が嫌っているだけ?
いや、そもそもカルロさんが話していたような、闇の影がウンディーネ様にはまだ見られないのだけど。
『・・・・わたくしは、野蛮で粗暴なお前の顔を二度と見ない為に封じさせたのです。まさか、おめおめとまたわたくしの前に現れるとは』
「!?!?」
その瞬間、ウンディーネ様の顔が変わる。
身体をどす黒いオーラが包み込み、顔つきが邪悪なものへと一気に変化した。
『ならば今度こそ、わたくしがその息の根をとめてあげましょう』
ニッコリと笑ったウンディーネ様の周りには、水の龍とボルケーノに負けないほどの水の巨漢の戦士が現れ、ボルケーノへと一気に襲いかかる。
『いいだろう。久々に思いっきりやり合おうではないかっ!!』
それに対し、ボルケーノも嬉しそうに筋肉に力を入れて迎え撃つ。
すぐそばで激しい戦いになるが、その力は拮抗しているのか決着はすぐにつきそうもない。
『どうぞ、好きなだけ終わりのない戦いを。ですがこれ以上、この神殿を破壊することは許しません!』
そして、ウンディーネ様の目がくわっ!と見開いたと思うと、ボルケーノとその水の龍・騎士を魔法で神殿の外にまで一気に飛ばして転移させた。
『これで、邪魔な者はいなくなりましたね』
「・・・・す、すごい」
あっという間にあのボルケーノがその場から追い出され、神殿の外での激しい力のぶつかり合いの音と衝撃が神殿の内部にまで伝わってくる。
『あの龍と戦士には、相手の魔力を吸収し自らの力になるよう特別に呪をかけました。戦いの大好きなあの野蛮な魔人には、望み通り好きなだけ戦わせてあげましょう』
「!?」
あのボルケーノが、こんなにもあっさり場外離脱をさせられるなんて。
きっとボルケーノには『追い出された』認識はなく、意気揚々に思いっきり心を躍らせて戦っているに違いない。
『あとは・・・・不法侵入者の人間だけですね?』
「あ、あのっ!」
ウンディーネ様の瞳が妖しく光り、私以外の者に向かって笑いかける。
『カルロに、バルバロス、それにエルフの姫君は邪魔をしないでくださいね。あなた達と争う気はありませんから』
「う、ウンディーネ様っ!!」
『お願いします!話を聞いてください!!』
「キャン!キャン!キャンッ!!」
ウンディーネ様に名を呼ばれた2人と一匹は私から引き離され、水の壁にその動きを阻まれる。
ウンディーネ様の前に立つのは、確かに不法侵入者たる私だけになった。
『ボルケーノの加護を受けしお嬢さん、人間の体のほとんどは何でできているかって・・・ご存知かしら?』
「!?」
ウンディーネ様は未だに太い鉄の鎖で縛られたまま。
こちらへ近づいてきてるわけでは決してないのに、恐怖がこちらへとジリジリと迫ってきているような、緊張感と圧迫感を感じた。
逃げようにもすでに周りは水の壁が張ってあり、水でできた透明な円柱状の入れ物に入っている状態である。
「・・・・・・・水分、です」
成人ならば、体内の約60%が水分だ。
『そうよ、よくできました。その水を司るのがこのわたくし。人間の体内の水を増やすことも減らすことも、自由自在だわ。あなたはどんな終わりがご希望かしら?体内の水を増やしに増やして爆発してみたい?それとも、干からびて干物みたいになる方がいいかしら?少しずつ蒸発させていったとしたら・・・・・どの辺りまで正気が保てるかしらね?』
私の死に方を愉しそうに考えるウンディーネ様の顔に、よく知るあの魔女の狂った笑顔が重なる。
きっと頭の良さは元々で怒らせたら一番怖いタイプなんだろうけど、この残酷な笑みや相手を限界まで苦しませてから死なせるような残虐性は、その身に封印したという黒い魔女の影響に違いない。
「・・・・ど、とれも、お断りします!!」
『こんな簡単なことも決められないなんて、ボルケーノの主様とやらは彼と同じで頭が弱いのかしら?それならば、わたくしが決めてあげましょう』
「!?」
ウンディーネ様がニコッと笑うと、足元から大量の水が一気に噴き出し私の身体を空中へと持ち上げる。
天井の水までもう1メートルもなく、さらに水は徐々に増え続けていた。
「う、ウンディーネ様!わ、私はあなたを・・・うぷっ!」
泳ぎがあまり得意でない私は、溺れないように息継ぎをするので精一杯。
それでもすぐに水が迫ってきて、それももうすぐ限界だった。
『クローディアちゃんっ!!』
何か魔法をと頭の中で必死に考えるのだが、生命の危機に頭が回らずただひたすらに空気を求めて顔を水の外へと出していく。
水の壁の向こうで、なんとか私の元へ行こうとカルロさんやアイシスさんが魔法でぶち破ろうとしているが、強固な壁にビクともしていない。
本来幽体であるはずのアイシスさんの身体ですらも、その水の壁は進むのを拒んで防いでいた。
『水の中で息ができないなんて、人の身体とは不便なものね。さぁ、あとどのくらい保つのかしら?』
「・・・・・・ッ!?」
水がどんどん口の中に入ってくる為、言葉もろくに話せない私にできることは1つだけ。
彼女を呼ぶことだけに心を集中して、強くその名を呼ぶ。
お願いします!!
どうか、助けて下さい!!
ーーーーーー様っ!!!
「・・・・・・・・」
そして、ついに私の入っている透明な円柱の中が全て水で満たされた。
『なんともあっけないこと。もう少し、苦しませてからの方が良かったかし・・・・そ、これはッ!?』
驚愕の表情を浮かべたウンディーネの瞳の先では、円柱の水が下からピシピシッ!と音を立てながら早いスピードで一気に凍っていく。
円柱の水全てが凍りついた後、今度は誰も触れてないはずのその氷柱に下から鋭いヒビが入り、あっという間にその氷柱は崩れていった。
『氷、ということは・・・・まさか、あなたまでこの娘の為に動くというの?』
『フン!ウンディーネ様ともあろう方が、ずいぶんと悪い顔をしているじゃないか!』
『イヴァーナ!!』
ぎりっと、唇を強く噛み締めたウンディーネの前には、全身が水で濡れたクローディアを両手で抱きかかえたまま空中に浮かぶ、氷の化身のイヴァーナがいた。
「・・・・・イヴァーナ、さま」
『あぁ、気がついたか?』
イヴァーナの腕の中にいたクローディアが目を覚まし、飲んだ水をゴホゴホと吐き出す。
「ありがとう、ございます!ゴホゴホッ!」
『礼には及ばん。むしろ、もっと早く呼んでくれても良かったくらいだ。あいつが相手ならな』
イヴァーナが見下ろす先にいるウンディーネの表情がより凶悪なものへと変わるのと比例して、彼女を包み込む黒いオーラが濃くなっていた。
『・・・・・なるほど。厄介なことになっているな。私がウンディーネを引きつけておくから、お前はその間にあいつに近づけ』
「は、はい!」
さすがはイヴァーナ様。
全部を説明しなくとも、だいたいのことは状況を見ただけで分かってくれたらしい。
『だが、クローディア』
「はい?」
『覚悟しておけ。今のあいつは私の時よりはるかにひどい。お前の身体や心にかかる負担は、お前の想像を軽く超えるだろう』
「!?」
以前、イヴァーナ様の身体に触れた時に全身針に刺されたかのような激痛に襲われた。
今回はそれ以上の痛みや苦しみが襲うだろうと、それでもやるのか?とそのまっすぐな目が問いかけていた。
ちらっと、上空から私達を見つめるカルロさんとアイシスさんを見つめると、2人ともホッとした様子で何か声に出して叫んでいるが、残念ながらこちらには声が届かない。
『たとえどんなことがあろうとも、君はウンディーネ様の封印を解くことを第一に動くこと』
今私がこの場にいるのは、ウンディーネ様を助ける為。
その為に、ルークとジークフリート様は強敵と戦うことを引き受けて私をここに送り出してくれた。
もしかしたら、今もあの地で激しく戦っているのかもしれない。
『あなたにはあなたにしかできないことがあるんだから、その時に全力で頑張ればいいのよ』
少し前に、アイシスさんに言われた言葉が蘇る。
そうだ。
きっとこれが私にしかできないことだ。
「・・・・・・大丈夫です。ルークとの、約束ですから」
ここが、私の頑張るところ。
『分かった。クローディア、心を強く持て。いつだって光はお前とともにある。それを忘れるな』
「はい!!」
私の目に迷いが無くなったのを見届けてから、イヴァーナ様は地上へと降りていき、私を地面へと立たせた。
そして自分は鎖で縛られたままのウンディーネ様へと近寄っていく。
『そういえば、こうして直接あなたとやり合ったことは今までなかったな。その鎖は解かなくて大丈夫か?』
『仕方がありません。わたくしを止められる者が、他にいなかったのですから。それよりもイヴァーナ、人間ごっこはもういいのですか?』
『・・・・・なんだと?』
『神ともあろう者が人間のフリをしてともに暮らすなど、なんと愚かなことでしょう。人間が死んだことでようやく目が覚めて、逆に良かったのではないですか?』
『・・・・・なるほど。あいつによく似ていて、今のあなたはこうして話しているだけで虫唾が走る!!』
ウンディーネに向かって叫ぶとともにイヴァーナの両手から青白く光る球体が現れ、その光が地面に潜ると、ウンディーネのいる足元から氷の氷柱が襲いかかりその身体を氷で包み込む。
魔法を唱えながらもその目は冷静で、そばにいたクローディアに『行け!』と目で合図を送った。
その合図とともに、クローディアはウンディーネの背後に回るべく全力で走って向かっていく。
『たかが人間に、わたくしを解放できるわけがない。無駄なことはおやめなさい、イヴァーナ』
『その人間に、私もボルケーノも助けられたのだっ!!あなただって、人間の為に今その身に黒い魔力を受け入れたのだろう!!』
氷と水。
同属性であるが実力は水のウンディーネの方が上なのか、どんなに氷の魔法をぶつけてもそれを水が瞬時に溶かしてしまい、ウンディーネに大きなダメージが与えられない。
それでも激しい攻撃にウンディーネの意識がこちらへ向けばそれでいいのだと、イヴァーナは彼女への攻撃を続ける。
『この身に宿る破壊の魔力を人間が受け入れれば、弱く小さな心などひとたまりも無いというのに。愚かな人間よ、自らの浅はかな行動にその身を滅ぼしなさい!!』
『クローディアッ!!』
「!!??」
私の動きを見えなくともしっかりと感じていたウンディーネ様が、背後に走り寄ってきた私に水のナイフをその手足に向けていくつも放つ。
水のナイフが腕や太ももにグサリと刺さり、全身の痛みで悲鳴をあげながらも私は鎖ごとウンディーネ様の身体を両手で包み込んだ。
『これは、まさかっ!?』
「約束、果たすから・・・・・ね」
私が言葉としてまともに出せたのはそこまで。
ウンディーネ様の身体に触れた途端、私の身体には先ほどのナイフが何十本と全身に刺さったかのような痛みが襲い、私は絶叫しながらその場に倒れこんだ。
『クローディア!!』
『クローディアちゃんっ!!』
「おい、しっかりしろっ!!」
「キャン!!キャン!!」
意識が今にも飛びそうになる中で、うっすらとした視界に水の壁から抜け出たアイシスさんとカルロさん、バルバロスがこちらへ駆けてくるのが見える。
イヴァーナ様も、とても焦った顔でこちらに向かっていた。
最後に映ったのは、縛っていた鎖が全て地面に落ちて自由になったウンディーネ様。
彼女が先ほどまでとは全然違う、穏やかな目の奥にはどこまでも深い優しさを感じ、『良かった』とそれだけを心に思って私は意識を失った。
ウンディーネ様がボルケーノを嫌っているのは水と火の関係といいますか、ボルケーノはむしろ彼女が好きで昔はよく押しの一手で追いかけていたんですが、逆にそれで余計に嫌われてしまったような所もあります。
という設定があります。




