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モブ女子、本当の強さとは

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


今回のお話の前に感想をもらったおかげで、自分の中で色んなことに気づけました!


感じたことを発信してもらえること、感謝です!

その人の存在に、全身の細胞が喜びに震えていた。



「前回より強くなっていることを願うよ」


「・・・・・俺はいつだって、全力で戦うだけだ!」



そんなことを考えている場合じゃないと頭では分かっているのに、目の前の彼の姿や声に心臓が勝手に高鳴ってしまう。



「クローディア」


「!?」



彼の優しい目が、何も言わなくても語っていた。


お前の行くべきところへ行け、と。



「・・・・・ありがとう、ございます!」



彼に頭を下げ、ジークフリート様もそれに頷くのを見届けてから、私はルークの元へ向かって走っていく。



「いいのか?彼女を行かせてしまって」


「・・・・・構わないさ。お前と戦った後で、ゆっくり彼女とは話せる」


「ほぉ?これが最後の逢瀬かもしれないぞ?」


「彼女に向かって剣を振るったお前を、俺は許さない」


「・・・・・なるほど、この間よりもいい目だ。彼女はお前を怒らせるのには必要な存在のようだ」


「ふざけるなっ!!!」



ジークフリートが地を蹴って銀の騎士に向かったのを合図に、2人の激しい剣のぶつかり合いがスタートする。


それは、クローディアに向かって振るっていた何十倍もの早さと力強さだった。



「ようやく、楽しめそうだ!」


「はぁっ!!!!」



銀の鉄仮面で表情は見えないものの銀の騎士の声は喜びに溢れ、その剣速はさらに早く重さを増していく。


2人のほぼ互角といった戦いを遠目で見ながら、クローディアは魔法の打ち合いでこちらも両者一歩も引かない戦いを繰り広げる、ルークとアナスタシアの元へと向かったが、その手前の辺りで突然透明な壁に足止めをされた。



「・・・・か、壁?!なんでっ?!」



握った手で強くドンドンとその壁を叩いてみても何の変化もない。


それが誰の仕業かなんて、考えなくともすぐに分かる。


アナスタシアとの戦いの中、目線だけをクローディアに向けたルークは口の動きだけで彼女へのメッセージを静かに告げた。



「・・・・・」




や・く・そ・く




「!?」




『たとえどんなことがあろうとも、君はウンディーネ様の封印を解くことを第一に動くこと』




それは、今回の旅の前に彼と約束したこと。


どんなことがあろうとも、つまりルークの身に何があってもだ。



『・・・・ルークなら大丈夫よ。ウンディーネ様のところへは私が案内するわ』


「あ、アイシスさん!?」



気がつけば、透明の透き通った体をしたアイシスさんが私の隣で彼らの戦いを見守りながら呟く。


彼女からすれば、どちらも愛しい子どものようなもの。


だからこそ、その顔が不安で強張っているのがクローディアにも感じられた。


本当は彼女こそがこの場から離れたくはないだろうに、私が心配しないようにと笑顔でいてくれている。


彼女のその顔に胸を締め付けられながら、私は『約束』を果たす為に覚悟を決めてマーズを呼び出した。


炎の鳥に乗ってその場を離れる彼女に、2人の男が目線だけでその背を見送る。


そしてすぐさま気持ちを切り替えると、目の前の敵に向かってよりまっすぐな目をしながら、次なる攻撃を相手に繰り出していった。








『・・・・・このまま、まっすぐ西へ向かってちょうだい!』



「はい!!」



2つの激しい戦いを後にして、私はアイシスさんとマーズに乗りながらウンディーネ様の封印されているという闇の神殿へと急いだ。



『ねぇ、クローディアちゃん』


「は、はい!なんですか?」



マーズの背の上で、と言ってもアイシスさんはマーズの上に事実上乗ってはないのだけれど、彼女がいつもとは少し違う低めのトーンで私に話しかける。



『・・・・・さっきに限らずだけど、どうしてあなたはボルケーノ様達を呼ばないの?』



「!?」



『自分の力だけではどうしようもない時に、他の人の力を借りることは決して悪いことではないわ。ボルケーノ様だって力を借りていいと許しているのでしょう?』



「・・・・は、はい」



『強敵を前に自分の力だけで限界まで頑張ろうとすることは悪いことではないけれど、一歩間違えればそれはただの無謀なことでしかないのよ?』



「!?」



普段の無邪気さが消えた、大人の女性としてのアイシスさんがそこにはいた。



『あなたのその子どものように無知で愚かな無謀さの為に迷惑がかかるのは、巻き込まれるその周りの人達だわ。今回も彼が偶然そばにいたから良かったものの、もしいなければあなたは銀の騎士に確実に殺されてた。まさか、頑張れば気合と努力で本気であの騎士に勝てるとでも思ってたの?』



「・・・・・・っ!?」



アイシスさんの厳しい眼差しに、私は言葉を飲み込む。



思っていたのかも、しれない。


ルークは死なない程度に最低限の力を身につけさせてくれただけなのに、その力も彼が力を貸してくれたからことなのに、まるで自分の力だけで強くなったような気になってた。


銀の騎士からすれば、こんな自分など赤子の手を捻るようにきっと簡単だったに違いないはずなのに。


頼っていいと、むしろ黙って突っ走るなとあれだけ言われていたのに、私はその意味が全然分かってなかった。


自分のことをモブだ何だといいながら、自分の力を過信して、素直に周りへ助けも求めず勝手に暴走しているだけだった。


頑張ればなんとかなるんじゃないかと、いつだって『何か』に期待しているくせに、周りの人にはその手を伸ばさない。


そんなの『頑張る自分』に、ただ酔っているだけだ。




「・・・・・ごめんな、さい」



『謝るのは、私にではないわ。それに謝って自分を責めることでもないの。自分への責めは、その問題から逃げていることと同じことよ?』



「!?」



今まさにアイシスさんの言葉通りに落ち込み、自分を責めようとしていたことに気づき、急いで流れそうになった涙をゴシゴシと拭い取り、鼻を勢いよくすすって両頬を叩いて気合を入れ直す。



『そう、あなたがすべき事はやってしまったことを後悔するんじゃなくて、変わる為の努力をみんなで一緒にやることよ。もっとみんなを信じて、頼ってあげて。あなたが周りを助けたいように、みんなもあなたを助けたいの』



「・・・・・・・はい!」



きっとまだ、アイシスさんの言われた言葉の意味を全部は分かっていないのかもしれないけど、1人で突っ走るのだけはもうやめようと決めた。


私は全然弱くて、何もできない。


でも、だからこそ色んな人達と力が借り合えるのだと。



ローズがあんなにもみんなから愛されたのは、きっとみんなを心から信じて頼っていたから。


自分が弱いと分かってて、だからこそ素直に助けを求めていたからだ。



「アイシスさん!ハッキリと伝えてくれて、本当にありがとうございます!!」



今は2人を信じる!


その上で、私がやるべきことをやりきる!


力が足りなければ、お願いして借りさせてもらう!



『そうよ。これまであなたは十分頑張ってきたんだから、1人きりで頑張るのは・・・・もう卒業しないとね?』



「!?」



『たくさん頑張ってきたから、今のあなたとみんながいるのよ。それをどうか忘れないで』



「・・・・・アイシスさん」



拭ったはずの涙がまた流れたが、それはきっと私の中にいた『森山 雫』が泣いたのだ。


その言葉を聞いた時、心の奥がじわりと熱くなり溢れそうになるものを、なんとか堪えて飲み込む。


泣くのは今やるべきことが終わってからだ。



「ありがとうございます!!」



お礼を言わなきゃいけない人は、たくさんいるのだから。







闇の神殿は元々、水の神であるウンディーネ様を祀る神殿の1つであったらしいが、ウンディーネ様が封印されその加護を受けなくなった神殿とその周りには次第にモンスターが住み着き、そう呼ばれるようになったとのことだった。


確かに、マーズに連れてきてもらった神殿へと続く道のりは薄暗い森に囲まれ、その森の道も長いこと誰も使っていなかったせいか草木が無造作に生い茂り、道であっただろう名残はほとんど消えてしまっている。


その道の真っ只中である現在では、クローディアは森に住み着くモンスター達に囲まれていた。



「悪いけど手加減している余裕はないから、命が惜しかったらとっとと自分から逃げ出してね!!主が求む、全てを凍てつかせろ!!真なる氷、フィンブル・ヘイル!!!」



「「「 !?!? 」」」



氷の魔法を周囲のモンスターに向かって一気に解き放ちながら、私は神殿への道を全速力で急ぐ。


のんびりしている暇はどこにもない。



約束を叶えて、早くあの場へと戻らなければ!!




『この道をまっすぐよ!』



「はい!!」



森を抜けると、あちこち破壊された跡が見える白い大理石風の古い神殿が見えてきた。


その重々しい入り口には鍵穴がついており、その穴へとルークから預かっていた太陽の鍵をさす。


ガチャリ、という大きめの音とともに開錠されこちらも大理石風の重めの扉を開くと、その中は真っ暗の暗闇の世界が広がっていた。



その中で金色の何かが6つ、キラリと光る。



そして、クローディアが一歩その神殿の内部に足を踏み入れた途端、辺りの松明に一斉に火が灯され、その6つの金色の正体が目の前に現れた。




「「「 ガルルルルルルッ!!!! 」」」




「!?」



金色の鋭い瞳が6つに、全身を覆う黒い毛並みに鋭い牙を持つ頭が3つ。


その大きさはクローディアが知る獅子の何十倍もの立派過ぎる体格を誇り、牙をむき出しにしながら目の前の獲物によだれを垂らして睨みつけるその顔は、獰猛さに溢れていた。



「け、ケルベロスッ!?!?」



本当にその名かどうかは分からなかったが、自分の中でその姿は前世で色んなゲームに出てきたあの伝説のモンスターにしか見えない。



『地獄の番犬、ケルベロス』



ギリシャ神話の中で、ケルベロスは冥府の入り口を守護する番犬である。


色んな描かれ方があるが、普通は『三つの頭を持つ犬』というのがケルベロスの一般像。


目の前のケルベロス風の魔獣はその足を大きな柱に鋼鉄の鎖で繋がれており、私達へ襲いかかろうと何度も足を前に運ぼうとしては鎖にその行動を止められている。




『・・・・クローディアちゃん、もうわかってるわね?』



「はい!ボルケーノ、お願い!力を貸して!!」



見るからに強敵であり、その力と魔力の強さに体中が震えている。


そうだ、怖さをごまかすな。


相手の強さを感じたら、まずは素直にそれを認めてしまえ!




ゴオォォォッ!!!!



クローディアの言葉とともに神殿の広間中にある松明が激しく燃え上がり、その大きな炎が空中に集まると大柄の人の形を取る。




『はぁーーーーーーーはっはっはっはっ!!!』




辺りに大きく響き渡るのは、重低音の笑い声。



『ようやく、我を呼んだな・・・・主よ。待ちくたびれたぞ?』



「ごめんなさい!ウンディーネ様を助ける為に、どうか一緒に戦ってっ!!」



大きく燃え上がる全身の炎を、一際勢いよく燃やしながら炎の神『ボルケーノ』はその逞しい胸をさらにはった堂々した姿で現れ、そしてこれ以上はない喜びを笑みに変え魔獣へと向き直る。



『ーーーーー承知した!!』



その光景に、アイシスはニッコリと微笑んだ。


頑張り過ぎてる時は周りが見えなくなり、周りも同じかそれ以上に頑張っていることを忘れてしまうんですよね。


自分の非力さや足りなさを認めて、その上で素直に人の力を借りられるということは、最強の力だと思います。


本当にありがとうございます!

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