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モブ女子、銀の騎士

読んでいただき、ありがとうございます!


男女の力の差を大きく感じたのが中学生の頃でしたが、細身の男性にあっけなく腕相撲で負けたのがとてもショックでした。


銀の騎士が私達の方へゆっくり歩きながら近づいてくる。



「天才と言われた古の魔導師殿に、剣で戦うのは失礼だ。あなたの相手は別に用意している」


「!?」



その言葉とともに空間が歪み、銀の騎士の後ろから銀の髪の美しい少女が現れた。



「そんなっ?!」


「・・・・・ッ!?」



そこに現れた少女は、ルークにとても似た面ざしの表情がない人形のような顔と、何の光も灯さない虚ろな瞳でこちらを見つめている。



「あ、アナスタシアさん?!」


「・・・・・母さん」



そう、あのルークの記憶の中で見たシオンが一目で心を奪われた森の少女であり、見た目は若い頃の姿だがルークと血の繋がった母親だ。



「死んだ父親だけではなく母親もあなたにはぜひ会わせたいと、黒い魔女様の格別な配慮だ」


「これの、どこが配慮だとっ!!」



あまりのことに、拳を握りしめながら銀の騎士へ立ち向かおうとする私の腕をルークが強く掴む。



「・・・・・時間を稼ぐだけでいいから」


「!?」



ルークの紫の瞳が私の目を射抜く。


無理に勝とうと思うな、負けなければいいということだろう。


きっと、それだけあの銀の騎士は強いのだ。



「私より、ルークが!」


「・・・・・僕なら、大丈夫」



ニッコリと笑ったあと、掴んでいた私の腕を離したルークはアナスタシアの元へと向かっていく。



「!?」



嘘だ。


彼の言う『大丈夫』は絶対にそうじゃない。


父親であるシオンを前にした時よりも明確に、こんな自分でも分かるぐらい内心は動揺しているのが分かった。


それだけ、『彼女』の存在は彼にとってとても大きい。



「人の心配をしている余裕があるとは、私もずいぶんなめられたものだな」


「!?」



そうだ、戦況的に一番のピンチは私だ。


ルークは彼の心情を考えれば心配で仕方がないが、その実力だけを考えたらこれほど安心できるものはない。


それより問題なのは、ただの一般人モブである私が本来なら勇者が戦うであろう中ボスかラスボスクラスの強敵と闘わなければいけないというこの現実だ。


私は、ドラゴン兵から頂いた『太古の剣』を強く握りしめながら銀の騎士に向き直る。



「ふむ、いい目だ。まずは、お手並み拝見と行こうか?」


「なっ!?」



銀の騎士が持っていた剣を大地に向かってまっすぐ突き刺すと、その剣から黒い雲のような靄が広がり、その靄から緑色の皮膚色をしたガタイのいい『オーク』が数体現れた。


その手には大きな斧が握られている。



「さぁ、神に愛された娘の力量を私に見せて貰おう!」


「くっ!!」



私は『太古の剣』を握る手に力を込めた。







ルークの前に立つアナスタシアは何の言葉も話さず、静かにそこにいた。



「・・・・僕のことが、分かりますか?」


「ーーーーーー」


「この間は父さん、シオンに会いました。彼は僕ではなく、あなたに会いたかったでしょうが」


「ーーーーーー」


「・・・・・なるほど。今回は姿形だけがアナスタシアの、中身は空っぽということかな?」


「ーーーーーールーク」


「!?」


「あなたを殺したら、ルークに会わせてくれるって」


「!?」



アナスタシアの手から光が発せられ、ルークの元に光の剣が何本も襲いかかり、その場をすぐさま離れたルークに次から次へとその光の剣がルークを追いかける。



「ーーーー愛するルーク、今会いに行くわ」


「・・・・・母さんッ!」



彼女の目に今のルークは映らず、彼女が見ているのは『幼いルーク』だった。








その頃、クローディアがちょうど数体のオークを全て太古の剣で打ち倒しいてた。


素早さの高いドラゴン兵達と何十回と戦った後に、力がとても強く攻撃を受ければひとたまりがなくとも、その素早さは遅く動きが鈍いオーク相手に負けるわけがない。



「・・・・・はぁ、はぁ!」


「お見事!オーク相手では、弱すぎて勝負にもならなかったな。なるほど、我流とはいえずいぶん鍛えられたようだ」


「!?」


「私が直々にお相手をいたそう」


「・・・・・ぐっ!!」



銀の騎士が目にも止まらぬ早さで私に向かって剣を振り下ろし、なんとかその一撃を太古の剣で受けるもののその衝撃は凄まじかった。



重い!!


たった一撃なのに、その衝撃に骨が軋んで悲鳴をあげている。



「ほぉ、よくこらえたな。では、次に行くぞ?」


「!?」



ギリギリと私を剣ごと押していたものが放され、違う角度から素早く襲いかかり、その重く鋭い猛攻が私を追い詰める。


その攻撃を目で追いかけるのもやっとであり、魔法を仕掛けるスキなど一瞬もない。


それでも、銀の騎士からすれば部下に稽古でもつけているかのような余裕もあり、まるで相手になってないのがクローディアにも分かった。



「女の細腕とは思えぬ、いい腕だ。ここで殺してしまうのはもったいない」


「!?」



言葉とは裏腹に力強い攻撃がクローディアを襲い、その衝撃に体は一気に吹き飛ばされた。


ただ剣で攻撃を受けていただけなのに、彼の自分とは比べものにならない強さに体が怯え震える。


一撃一撃が、私を『殺さないように』繰り出されたものだということが分かるものの、それでもその鋭さと重みに恐怖が自然と沸き起こった。



「喜んでいい。敵の強さが分かって怖さを感じるのは、ある程度の強さがなければできないことだ」


「・・・・・ッ!!」




怖い。


それは、今まで感じたことがない怖さだ。


そんなクローディアに向かって銀の騎士が近づいてくる。



「見たところ本当に普通の娘だが、黒い魔女様は何をそんなに買っているのか」


「!?」



いや、怖がっている暇はない。


魔法がどこまで効くかは分からないが、剣で戦うよりかはダメージを与えられるはずだ。



「主が許す!!全てを燃やし尽くせ!!神の炎・・・・・アグニッ!!!」


「!?」



私の前に大きな炎が現れ、獅子の姿をしたその炎が銀の騎士を襲いかかる。



「なるほど、そういえばあなたも魔法使いでしたね」


「そんなっ?!」



だが、自分に向かってくる炎の獅子を銀の騎士がその手に持つ剣で斬りかかると、あの神炎である獅子がその剣に吸いこまれるようにして消えた。



「黒い魔女様から頂いたこの剣には、魔力吸収の能力がある。私を倒すのなら、剣での攻撃以外には不可能だ」


「・・・・・ッ!?」



本気で、どうしよう。


魔法がダメなら、私にはもう勝つ術がない。


ルークのおかげで最低限の剣技を鍛えてもらっていたとはいえ、そんな付け焼刃ではこの歴戦の猛者であるだろうこの男には決して敵わない。


こういう時、漫画やゲームの主人公であれば何かの能力の覚醒が起こって、この場の道が開かれるのだろうが、よほどのことがない限りモブにそんな奇跡は起こらない。



「残念ながら、あなたには黒い魔女様の元に行く資格すらないようだ」


「そ、そんな資格はいりません!!」



太古の剣をもう一度強く握りしめながら、クローディアは震える足を叱咤しながら必死に立ち向かう。



「女性を斬るには胸が痛むが、命令に背くわけにはいかないのでな」



そんな私に、銀の騎士が剣を構える。



「君に私怨はないが、ここで死んで頂く」


「!?」




神様!女神様!


どうか私に力を貸してくださいっ!!


実の母親と対峙しているかもしれないルークの元に早く行きたいのに、自分のことも守れないなんてっ!!




「ピイィーーーーーーッ!!!」




その時、私の耳に聞き覚えのある鳴き声が響く。




バサバサバサバサバサッ!!!




そして、勢いよく私と銀の騎士の間を大きな羽音とともに何かが通りすぎ、その何かは私の肩口へとその足を下ろした。



「・・・・・く、クロワッサリーっ!?」


「ピイィーーーーーッ!!!」



しかもそれは、目の周りに赤い痣のある『あの』クロワッサリー。


私に会えたことを喜んでくれているのか、クロワッサリーがその体を頬に何度もすり寄せていた。



彼が、この場にいるということはーーーーーー。




「お前の相手は、俺ではなかったのか?」


「!?」



私と銀の騎士の間に、黒いマントと鎧をきた男が炎の剣を構えながら立つ。



「近くにいるのは知っていたが、ずいぶん早かったな」


「・・・・彼がここを教えてくれたからな」


「ピイィーーーーーッ!!!」




私の肩に止まるクロワッサリーが、その声に応えるように鳴き声をあげた。



なんでここに彼がいるのか?



頭が混乱する中で、彼が私に向かって振り返った。



「遅くなってすまなかったな、クローディア」


「・・・・じ、ジークフリート様っ!!」



会いたくて会いたくて、でももうそれをしてはいけないと自分の中で決めていた大好きなその人が、目の前にいる。



何度も夢に見たその後ろ姿に、思わず涙が零れた。

ようやく、ヒーローが駆けつけました!


久しぶりに彼を登場させることができたのが、私も素直に嬉しいです!

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