モブ女子、続・一緒に狩りに行こうぜ!
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
ゲームで転職する時に魔法使いは体力が低いのが嫌で、最初は苦手なジョブでした
ルークの体調が回復したことをヴァレンティーナに伝えると、私達は身支度を終えたらすぐに出発することになった。
太陽の鍵を無事にゲットして体力も回復し、必要な道具も店で揃えてダンジョン前の準備はバッチリだ!
「・・・・ヴァレンティーナ、色々と世話になりました」
「ふぇっふえっふえっ!なんじゃ、もう行くのかえ?もう少しゆっくりしていってもよかろうに」
ヴァレンティーナのこの笑い方にも、ずいぶん慣れてしまった。
「フフ・・・・あまり長居すると、お代が跳ね上がりそうですから」
「えっ!?お金取るの!?」
「ふぇっふえっふえっ!当たり前じゃ!こっちは商売じゃからな!」
ヴァレンティーナが提示した金額に私は一瞬目が点になり、その金額をあっさりと支払ってしまうルークに開いた口がしばらく塞がらない。
「いつまで変な顔してるの?」
「・・・・・・」
カチャンダールの店から出て、ローバーンの街を歩きながらも私は目が点&開いたままの口はそのままに、フラフラの足取りでルークの後ろをついていく。
その姿にいい加減飽きたのか、ルークが笑顔の仮面はそのままで声をかけてきた。
いやいや、ルークさん!!
ラストダンジョン前の街だって、もう少し良心的な金額でしたよ?
この店は高級ホテルのスィートルームか何かですか?
ゆったりと寛いだ覚えは何一つありませんが。
いや、その前にルークがさらりと全額支払ってたけど普通ここは折半ですよね?
「・・・・・・ルークさん。あの、分割でお願いできますか?」
私のお給料の何分の1かを返済にあてるとして、一体何年分かかることやら。
ゲームなら、んじゃいっちょ戦って稼いでくるわ!!って戦闘で敵から金と道具が手に入るけど、現実の戦闘でモンスターは人間のお金なんか持ってない。
貴重な道具も滅多に落とさない。
ゴールドなんとかみたいな、いかにもお金ありそうな都合のいいモンスターはリアルではどこにもまだ存在していなかった。
「・・・・・いいよ。金額が高いのは、僕が飲んだ薬代が主だしね」
「な、なんですとっ!?」
「それよりも、僕その薬を飲んだ覚えが全然ないんだけど。誰が、どうやって飲ませてくれたのかなぁ?」
「!?」
ルークのキレイな顔がずずいっと、一気に至近距離にせまってくる。
どうやってって、この楽しそうな顔は全部わかってて言っているんじゃなかろうか?
いくらその命を救うための医療的な行動とはいえ、く、く、口なんとかでなんて、目の前の本人に向かって言えるわけがない!!
「く、口の中に薬と水を入れたら、ちゃんと自分で飲んでました!!」
「・・・・・フーーーーーーン、そう?でもあの薬、相当苦いから後味残ったでしょ?」
「そうそう!辛い生玉ねぎを食べた後みたいな後味がずっと残って・・・・ッ!?」
「おかしいね?君も薬を飲んでるなんて♪」
ニコニコニッコリ♪
ルークの意地の悪そうな、通常運転の笑顔。
その笑顔に戻ってくれと、倒れて目を覚まさない彼に告げたのは自分だが、やっぱりもう少し弱らせておけばよかったかもしれない。
しかもーーーーーーー。
「ぎゃぁぁぁーーーーーーーーッ!!!」
キャーーー!とか、可愛らしい悲鳴を上げられないのはもうキャラ的に許してほしい。
なにせ、全速力で走って逃げる私の後ろからは全身が黄金に光る、身長2メートルほどの小型のドラゴン?恐竜?を足して2で割ったようなモンスターが追いかけてきている。
今回は以外と小さいじゃないかって?
ところがどっこい!!
あ、この言葉久々に使ったわ!
じゃなくて、そいつらの足がメチャクチャ早いんです!
しかも気づきましたか?そいつら、ってことは一匹じゃありません!!
3匹のモンスターを相手に、もちろん私一人で戦ってます!!
ほら、よくダンジョン前にいる鎧とか剣を身につけたドラゴン兵的なあいつらですよ!
なんで3体1なのかって、お察しの通り全部あいつの仕業です!!
「フフ・・・・返さなくてもいいとは、言ってないよね?」
「!?」
「全額、身体で返してね?」
と至近距離で、それはそれはステキな笑顔で言い放った後ーーーーーー。
金になるモンスターが近くにいないのならば召喚すればいいんだよって、極々辺境にいるらしい彼らを魔方陣から無理やり呼び出し、彼らの光る尻尾を斬るべく私が奮闘中でございます!!
何でも、裏ならかなりの高額で引き取ってくれるらしい。
尻尾は再生するからってトカゲみたいにわざと置いていくわけではないらしく、強いものに従う習性の彼らには実力行使で奪わなければゲットが決して出来ない。
そんでもって彼らの輝く鱗には魔法が効かずダメージを全く与えられないとのことで、トルティーガ戦で使用した氷の剣の再登場です!!
先ほど足が早いとはいったけれど、トルティーガやクロワッサリー達に比べればそこまで早くはない。
彼らの高速旋回に比べればその攻撃を目で追えるが、残念ながら一般人のなんの訓練もしていない私の体がついていかないのだ。
空の戦いの時はそのスピードをマーズが補ってくれたが、今は森や岩のある足のついた地上戦。
その為、ただいまの戦況はひたすら逃げて避けて防いでの防戦一色だった。
「フフ・・・・逃げてるだけじゃ、勝てないよ?」
「分かってるっ!!」
必死に逃げている私の上空では、楽しそうにルークが時折心のこもらない応援をしながら観戦している。
もう今度は初めから彼の手助けなど期待しない。
この事態を嬉々として作った本人を前に腹の底が煮えくりかえる思いだが、ルークの言う通り、持久戦に持ち込んだところで不利になるのは体力が明らかに低い、ジョブは一応『魔法使い』に当たるだろう私。
『魔法使い』のように守りと体力の低いジョブは盾となってくれる『勇者』か『戦士』辺りがいなければ、その本来の真価を発揮するのはとても難しい。
しかも複数が相手だなんて、自ら死にに行くようなものだ。
すいません、この世界はどこへ行ったら『戦士』に転職できますか?
「グガァァァーーーー!!!」
「!?」
3匹のドラゴン兵が、私を囲みながら勝利への歓喜の為か空に向かって吠えあげる。
一対一ならまだしも、同時に3匹相手は本気で辛い!!
「ハァ、ハァッ!!3匹を、どうやって一気に相手にしろっていうのよ!!」
こうして迷っている間にも、3匹は3方向からじりじりと剣を構えてこちらへ近づいてくる。
クローディア=シャーロット、こんな何の変哲もない普通のフィールドでただいまかなりのピンチを迎えております!!
何でRPGゲームのように、ターン制じゃないんですかっ!?
いや、ターン制なら私が一気に3ターン攻撃されてあっという間に終わるか。
せめて、1ターン制ならーーーーーーッ!!
「あ!これ、私が一気に相手にしなきゃいいんじゃ・・・・・!?」
突然降ってきたある閃きにしたがってすぐさま行動にうつし、私は3匹の間を縫って細い岩山の間に出来た道への中へと駆け抜ける。
その先は思った通りの行き止まりで、私を追いかけてきたドラゴン兵達が列になって私近づいてきていた。
まさに『背水の陣』。
でも、これならようやく一対一で戦える!!
「初心者戦士でも、偏りきった知識だけは豊富なゲーマーの底力をなめんじゃねぇーーーーーーッ!!!」
「グガァァァーーーー!!」
はい。半分以上、やけくそです。
閃いたとは言っても、昔何かの漫画かアニメで複数相手に戦えないキャラが背水の陣を経て敵を倒したのを思い出しただけのパクリです。
その動きだけならまだなんとか目で追える彼らなら、後はスキを見てその頭部や腹部に氷の剣で薙ぎ払い岩壁へと叩きつけるのみ。
「キラキラキラキラしやがってっ!!いい加減、目が痛いんだよッ!!!」
ひどい、八つ当たりです。
ドカッ!!
「グギャァァァーーーーーッ!!??」
「!!??」
その重い体を薙ぎ払える腕力がいつの間に身についたのかは知らないが、火事場の馬鹿力なのだと無理やり自分を納得させる。
「あんたも戦士なら!!一対一でかかってこいっ!!!」
バキッ!!!
「グガァァァーーーーーッ!!??」
「よし、2匹目っ!!!」
ゲームの中で、モンスター1匹にたいしてよく3・4人組の勇者が寄ってたかって散々ボコボコにしてたくせに、ひどい言い草である。
以前やったことのあるゲームの中で行った
レベル99×勇者4人組 VS ラスボス
では、反撃らしい反撃もろくに出来ないままただただ一方的に痛めつけられるラスボスリンチの光景に、思わず同情すら覚えたものだった。
でも今は、正真正銘の一対一!!
最後のドラゴン兵は私の思わぬ反撃に勢いを潜めて距離を保ち、剣を構えながらも警戒して様子を見ている。
先ほどまでは勢いで何とか出来た私も、さすがにうかつには突っ込めなかった。
「・・・・・・・ッ!」
「グルルルルルッ!」
私とドラゴン兵の金の瞳が、じっと真剣に見つめ合う。
「あーーーあ、せっかく魔法も使えるのに、宝の持ち腐れだね♪」
「ルーク!!今は黙っててっ!!!」
今少しでも気を抜いたら、私は死ぬ!!!
「フフ・・・・魔法って、攻撃魔法しかないのかな〜〜?」
「!!??」
「グギャァァァーーーーーッ!!!」
ルークの言葉にハッとした私を見て、意識が外に向いたことを好機と見たドラゴン兵が勢いよく襲いかかってくる。
そしてその刃が私の体に向かって牙を向いたその時、私の剣を持たない方の手の甲に氷の盾が現れその攻撃を防いだ。
「!!??」
「そうよ!!魔法は、直接攻撃だけじゃないっ!!」
そして、ドラゴン兵の真下から魔法で出した下から伸びた氷塊でその足元を固めて動きを止める。
「グギャァッ!?」
「スキあり!!!」
その氷から必死に逃れようとドラゴン兵が暴れ出し混乱している背後から、氷の剣を一気に振り下ろし叩きつける!!
ドカァーーーーーンッ!!!
「グギャァァァーーーーーーーーッ!!!」
「よっしゃあーーーーーーッ!!!」
空一面に響き渡るドラゴン兵の悲鳴とともに3匹目のドラゴン兵が地面へ勢いよく倒れ、その横で私は空に浮かぶルークに向かってびしっ!!とVサインで立って笑顔で見上げた。
「まぁ、ギリギリ・・・・かな?次はもっと、スムーズに倒してね?」
「へ?」
次って?
「グギャァァァーーーーー!!」
「グガァァァーーーーーー!!」
「!!??」
みなさん、私の目がついにおかしくなってしまったんでしょうか?
岩山の向こうにある草原から、何十というドラゴン兵が一斉にこちらへ向かってくるのがみえるんですが???
「・・・・・る、ルークさん?」
「それじゃ、あとはよろしくね〜〜♪」
「!!??」
真っ青な顔で顔をヒクヒクと引きつらせた私に、それはそれは悪い笑顔でニッコリと私に笑いかけたルークがひらひらと手を振ると、さらに空高くへあっさり飛んでいってしまった。
「・・・・・る、る」
自分に向かって迫り来る大量ドラゴン兵の光景に、私の全身が震えあがる。
「ルークの、悪魔ぁぁぁーーーーーー!!!!」
私の大絶叫とともに、突然の大爆発に巻き込まれた辺り一面が大きな衝撃とともに吹き飛び、大きな炎が嵐とともに巻き起こった。
「フフ・・・・がんばって♪」
舞台がRPGからなぜか一人無双へと変え、知恵と力を駆使してドラゴン兵をバッタバッタとどんどん倒していく彼女のまさに悪鬼のような顔をした姿に、ルークは心から楽しそうに見守る。
ドラゴン兵の足にはその動きを遅くする為の魔法がかけられているが、クローディアが戦う中でレベルを上げてより早く動けるようになるたびに、その魔力を少しずつ弱めて本来のドラゴン兵の強さへと戻していた。
守られるヒロインとは程遠い主人公ですね。
いっそのこと、英雄エンドでも目指してみますかね?




