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禁じられた小夜曲 10

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


とうとう10話です。


よろしくお願いします!



なぜカルロを殺したのか!



彼は自分をエルフの国へと返す為に、あんなにも頑張ってくれたのに!とお父様にどれだけ話しても決してそこには答えてくれず、ただ『あの人間は禁忌を犯したからだ!』とそれだけ。


目の前で見た、彼の血まみれの姿が未だ目に焼きつき、アイシスは毎日自室のベットの上で泣き暮らしていた。



涙は、枯れはてることを知らないのだろうか?


どれだけ悲しみの海に溺れていても、止まることがなかった。




そんなアイシスを気にかけ、声をかけて外に連れ出そうとしてくれるのは彼女の許嫁である『エドワルド』。



ゆっくりでいい、時間がきっとその心の傷を癒してくれるだろう。



自分以外の者を愛したアイシスを、エドワルドは責めることも許嫁を解消することもなく、以前と変わらない優しさで包み込んでくれていた。


その惜しみ無く与えてくれる優しさが、アイシスには逆に辛い。


どれだけ彼の愛が大きく、その愛に自分は全く気づくこともなく過ごしていたことも、今その愛に応えられない自分がいることにも分かってしまったから。


異性としてではなく家族のような愛でも彼が良いのであれば、生涯を共に過ごしても良いのかもしれないと思い始めた頃。




その日、エドワルドは久しぶりに森へとアイシスを連れ出してくれていた。



『エド、この森に私が来たら、お父様にあなたが叱られるわ!』


『いいんだ。俺よりも、君が少しでも元気になることの方が大切なことだから』


『エド・・・・本当に、ありがとう』



私が人間界に行くきっかけになったその森の奥にある『望みの泉』、覗いたものが望むものをなんでも映し出すその泉に私は大切な友を見せて、と願いをかけた。



『ジル!よかった!とても元気そうだわ』



泉には、城の中で慌ただしく駆け回る、少しあの頃よりも大人びた様子のジルが見える。



『これは・・・・・ッ!?』



喜びに顔を綻ばせていたアイシスだったが、ジルが慌ただしい理由がわかっていくと顔色が青く変わっていく。


泉の中で、全身が紫色の文様の痣の出来たカルロの兄・サーベルや他の兄弟達、そして国王もその現・妃達が全身から血を流しながら倒れ、その命を落としていた。



『ど、どうしてっ!?』


『・・・・あれは、死の呪い』


『!?』



エルフにしか使うことを許されないと、何万年も前から伝わってきた闇の古代魔法。


その魔法をかけた者にしか解呪の魔法がかけられず、寿命の短い他の生き物ではかけた本人が死んでしまうと生涯その呪いから解き放たれることができないから、というのが大きな理由だった。


そう、この呪いはその血が呪われる。


かけられた本人だけではなく、その血が直接繋がる家族や子孫にまで長く続いてしまう恐ろしい呪いだった。



『なんてことを・・・・お父様!!』


『アイシスっ!』



エドワルドが止めるのも聞かず、アイシスは急いでエルフの王である父・マグワールの元へと駆けていく。


罰を受けるべきは、彼らではない。



『お父様っ!!』


『なんだ?アイシス』



マグワールはエルフの里の奥にある、神殿の中にいた。


その横には母である『ミネラ』もいる。



『罰は私が受ける!言いつけを破って、望みの泉で人間界を見たわ!なぜカルロの家族にまで、死の呪いをかけたのっ!?』


『アイシスっ!!』


『・・・・・なるほど、アレを見たのか』



大きなため息を吐きながら、マグワールがアイシスへと向き直った。



『当然の報いだ!あの人間の男は禁忌を犯したのだから』


『禁忌って、彼はすでにその命を失う罰を受けたわ!これ以上、彼から何を奪うというの!?』



国王・妃・そしてその直系の王子達が亡くなったことで、国は混乱しこれからさらに乱れていくだろう。


カルロが生まれ育ち、愛した国がこのままでは滅びに向かってしまう!



『あの男は、私からお前を奪った!』



マグワールは、顔を伏せ何かを堪えるようにその両手を強く握りしめて震わせる。



『そんなのは私達エルフからすれば、たかだか一瞬のことじゃない!お父様は彼のこれから生きるはずだった一生を奪ったのよっ!!』


『あの男は!!お前が生きるはずだった未来を奪ったのだっ!!あの男のせいで、お前はもう不老不死ではないっ!!!』


『・・・・・えっ?』



アイシスにそれだけを強く叫び、マグワールはその場からマントを翻して立ち去っていく。



『どういう、こと?』


『・・・・エルフと人間の異種族の者同士が交わる時、エルフの純潔さは失われ、その血に宿る不老不死の力を永遠に失うと言われているのよ』



マグワールの言葉に戸惑うアイシスの為に、その横に立つミネラが辛そうに顔を横へそらせながら語る。



私がもう、不老不死ではない?


だから父上は、あんなにもカルロに対して激しい怒りを抱いたというの?



『そんなの・・・・・!!』



大したことではないと叫ぼうとしたアイシスは、突然立っていられないほどの眩暈に襲われてその場に倒れた。



『アイシスっ!!』



すぐにミネラが側に駆け寄り、里の回復に特化した魔法を扱える者達を呼ぶよう近くのエルフ達に呼びかける。



『私はあの男のことを、永遠に許しはしないっ!!』






その夜、エルフの里の空に瞬く星がいくつも流れていき、アイシスは自分の腹の中で生きる新しい生命の誕生を知った。


人間の血の混じったその命がエルフの里で生まれることをマグワールは決して許さず、かといって愛する娘の血を引く同じエルフの子を殺すことをアイシスとミネラも許さず、その結果ーーーーーーアイシスはエルフと契約を結んでいて、信頼のある緑の魔女の元でその子を産むこととなった。




『・・・・・お世話に、なるわ』


『これからよろしくね、アイシス』




こうして、2人の友情は生まれてくる子どもを通し強く結ばれる。


妊娠中も出産後も緑の魔女と愛する子どもと、そして森の精霊達と暮らす静かで穏やかな暮らしはとても平和で幸せなものだった。


子どもがもう少し大きく育ったら、子どもを緑の魔女に預けて自身はエルフの里に帰る、それが父・マグワールとの約束だ。


だが、カルロに日に日に似てくる、愛する子どもに呪いの証である痣が刻まれ、それが年月とともに全身に広がっていく様を見ていく中で、アイシスはある決断をする。



『あなたの残りの寿命を、子孫にあげたいですって?』



不老不死が無くなった私だが、それでもあと何百年かは寿命があるらしくその残された年月を家族とともにエルフの里で生きることになっていた。



だがーーーーーー。



『死の呪いは、かけられた本人の血族は一気にではなく徐々にその呪いが広がり死ぬわ。その寿命は人間にして10年』


『!?』


『でも、この子が私のせいでたった10年でその命を落とすなんて、私は絶対に嫌っ!!』



子どもを産んでから初めて、親としての気持ちがよくわかった。


親からすれば、子どもが幸せになってくれれば自分のことなど二の次なのだ。



『・・・・・あなたの残りの寿命を子孫に渡すといっても、呪いの力の強さで生きても25年ほど。子どもを産んでその呪いを引き継がせて自身の呪いが少し弱まったとしても、30年ほとで死んでしまうのよ?』


『構わないわ!!』



子ども達が少しでも長生きしてくれるのならば、自分の命など全然惜しくない。


カルロと出会い、愛し愛されたあの時間があればそれだけで自分は十分幸せだった。



『・・・・エルフの王に、私が殺されるわね』


『お父様には、私が病気で死んだとでも伝えてちょうだい。もう不老不死ではない身だけど、私達エルフは精神体でもこの世に存在できるから大丈夫よ』


『・・・・精神体になって、子ども達をずっと見守るつもりね?』


『それが、子ども達にできる一番のことだと思うから』



その後、アイシスの願い通りに彼女の寿命を呪いに組み込む魔法をかけ、彼女はその肉体を瞬時に失った。



『ありがとう!』



そして現れるのは、その体が透けている彼女の精神体。



『サーラ、ママは?』


『ママはここにいますよ?』


『サーラのうそつき!ママここにいないよ?』


『いいえ、ここにいるんですよ』



彼女の姿を見ることができない息子を、彼女の代わりにサーラがその腕で抱きしめる。


アイシスも、もう触れることはできないその息子の側にそっと笑顔で寄り添った。





カルロとアイシスの息子は大人になると『クヴァーレ』の街に行き、そこで恋に落ちて家族を作る。


そして子どもが生まれその子が大きくなるにつれて全身の痣は広がり、彼は家族に看取られながら若い命を散らした。



その子どもも、そしてその子どももーーーーそこから何世代も呪いは続く。


アイシスの姿を見れる魔力の強いものもいれば、全く見れない魔力の弱いものもいた。


呪いをなぜ自分が受けなくてはならないのかと、その理由からアイシスを責め親を責め、絶望のままにその命を自ら絶ったものも。


呪いに対し、どんな受け止め方をしていても最後はみな血を吐きながら死んでいくその姿に、何度もアイシスは嘆き悲しみ涙を流すが、それでも暖かい瞳で彼女は子孫を見守り続けた。




そしてついに、ルークの母親である『アナスタシア』にまでその呪いは引き継がれる。

ようやく、今の時代に近づいてきました!


たった一度でも心から愛せる人ができるというのは、とても幸せなことなんじゃないかと思ってます

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