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禁じられた小夜曲 9

読んでいただき、本当に感謝です!!


サーラ様は一体おいくつなんですかね?


4人の魔女はみな長生きです。

サーラと名乗った、アルカンダルの魔女はエルフの里へと繋がる方法を知っていることを私たちに話し、その道を明日の朝に開いてくれることになった。



『今日1日は、ゆっくり過ごしたらいいわ』


『・・・・・いいの?』


『えぇ、後悔のないようにね』



ジルも森の入り口から魔法で移動させてくれたサーラは、アイシスとカルロ・ジルの3人を森の近くにある『クヴァーレ』の街へと飛ばしてくれた。


そう、イザベルが働いていたあの華やかで賑やかな街だ。


念の為にとアイシスの見た目がエルフと分からないよう、サーラ様が魔法で栗色の髪と目、そして耳も人間のものに見えるようにと姿を変える魔法をかけてくれている。



思いきり人間の街で楽しむことができる!そのことにアイシスは大はしゃぎで、2人を街のあちこちへと引っ張りまわした。


あらゆる美味しい匂いのする店に次から次へと入っては味わい、街の娘と同じ洋服屋さんに入ってはありとあらゆる服にその身を包んで楽しむ。



『おい!そんなに一気に食べたら、ブタになるぞっ!!』


『あ、アイシス様!!どうか落ち着いて下さい!!』


『だって今日が最後なのよ!!少しくらい体が重くなったって、全然構わないわ!あら、これもかなりおいしそう♪』


『お!嬢ちゃん!見る目があるじゃないか!そいつはぁ、この店自慢の肉団子だ!頰がとろけ落ちるぞ〜〜!』


『うぅぅ〜〜!!おいしーーーーいっ!!』


『・・・・・本当にうまい!!』


『た、確かに、これはおいしいです!』



夜は街の酒場で、お酒を初めて飲んだアイシスが店のど真ん中でいい気持ちになって歌い出し、その声に魅了された客達が次々と彼女の周りに集まって歌い、そして気づけばともに踊りだす。


その踊りのステップはみんなバラバラの適当なものだが、旅の演奏家が奏でる音に合わせて身体を自由に思いきり動かして楽しむ。


私から見たらそれはまるでミュージカルのワンシーンようで、どんどん大きくなるその人の輪と声の壮大さに心が勝手にワクワクしてしまった。


そしてその後、3人は街の宿に泊まる為にそれぞれの部屋へと入る。



男女分かれての二部屋を取ったのだが、最後は3人で過ごそうと提案するカルロに、ジルは今夜は2人でお過ごし下さいと突然カルロ王子に提案し、その同じタイミングでアイシスが2人の部屋へとやってきた。


アイシスは元の銀髪にエルフの耳を持った、本来の姿に戻っている。



『・・・・・あ、アイシスっ!?』


『お待ちしておりました、アイシス様。ぼくは隣で休みますから、どうぞお二人でこの部屋をお使いください』


『ジル!?お前、酔っているからといって、何バカなことを言って!』


『カルロ様、ぼくは正気です』


『!?』



確かに、ジルの顔に酒の酔いは全く感じられない。


ニッコリ笑ったままのジルが、ありがとうと頭を下げるアイシスにも笑いかけて静かに部屋を出て行く。





扉が閉まると、部屋には一気に静寂が訪れた。


王都よりも人工的な光が少ないその森の中では、今にも落ちてきそうな満天の星空が広がっている。



『・・・・・星が、キレイね』


『!?』



白いナイトドレスを着たアイシスの、その服の隙間から見える白磁の様な肌がカルロには眩しい。


久々に強いお酒を飲んだこともあって、体はまだまだ熱かった。


なるべく彼女を見ない様に気をつけていても、本能が彼女を勝手に意識してしまう。




『エルフの里からも・・・・星は見えるのか?』


『うん、この空と同じくらいとてもキレイよ』


『そうか』



カルロが自分の体を冷やそうと、冷たい飲み物を取りに部屋を出ようと歩きだしたその時、服の裾をアイシスがキュッとつかむ。



『・・・・・どうした?』


『明日の朝、私はエルフの里に戻るわ』


『そうだな』



その顔を見たら行くな!とまた引き止めてしまいそうで、カルロは彼女の顔を見ない様に少し赤くなった顔を無理やり背けた。



『今日が、あなたと過ごせる最後の時間よ』


『・・・・・そうだな』


『これが最後だから、最後に私の願いをあなたに叶えて欲しいの』


『・・・・・お前が憧れていた人間の世界でともに過ごすことなら、たくさんこの街の人と楽しく過ごしたじゃないか。誰もお前のことをエルフとは気づかず、お前を新しい友として温かく受け入れていた』


『うん、本当に楽しい時間だった!』


『なら、もう願うことは何もないだろう?』


『!?』



カルロからの答えに顔を歪めたアイシスは、決して自分に振り返ろうとしないカルロの背中に手を伸ばし、その体を華奢な腕で抱きしめる。




『・・・・・今夜だけ、あなたのお嫁さんにして!!』


『お前っ!』


『エルフの里に帰ったら、私は幼い頃から伴侶にと決められていたエドワルドと結婚することになる。でも、私が好きなのはあなたなの!お願い!今夜だけでいいから、私に愛した人のお嫁さんにならせてっ!!』


『!?』




彼女の涙ながらの叫びに、色んな想いからの葛藤にしばらく動けずにいたカルロはーーーーーー最後はその想いに応えた。


彼女のこぼす涙を唇ですくい取り、その唇に熱い思いをぶつけると、今度はもう苦しいと彼女は彼を拒まない。



『ありがとうカルロ・・・・大好き』


『!?』



女神の微笑みを浮かべた彼女をベッドへと抱え、その上に優しく横たわらせる。



『・・・・一生分愛してやるから、覚悟しておけよ?』


『!?』



来ていたシャツを乱暴に脱ぎ捨て、見るのは初めてではない彼の引き締まったその肉体と、お酒の為か火照りつつも野生の肉食動物を思わすその鋭く熱さを感じるその眼差しに、アイシスの心臓が大きく跳ねた。


その後2人の身体がゆっくりと重なり、それ以上見るのは、と私はその場から静かに離れる。




『・・・・・今夜だけは、きっと私が世界で一番幸せなお嫁さんね』


『アホッ!この俺の嫁なんだ、今夜からずっとだろうが!』



頭に響いてきた恋人達の最後の逢瀬は、明日の今生の別れなど忘れてしまいそうなくらい心から幸せそうだった。







そして、ついにアイシスが『エルフの里』へと帰る朝がやってきた。



サーラ様はエルフの里への道を森の奥にある泉の前で開く。


泉の前にいるサーラ様の隣にアイシスが立ち、その少し離れたところでカルロとジルが彼女を優しい笑みで見守っていた。


ジルの目には、すでに涙が流れておりカルロにまだ泣くのは早いぞ!とからかわれている。



『・・・・・覚悟は、いいですね?』


『はい、お願いします』



迷いのない彼女の笑顔を確認すると、サーラが胸の前で手を組み、呪文を静かに唱え始めた。


少しすると暗い雲が空を覆って強い風が吹き、泉の水がその風にのって小さな竜巻が泉の中に巻き起こる。


その後、空間が大きく歪みその中から眩しい光が溢れた。



『我らが森の王よ!あなた方の至宝を今、お返しいたします!』



サーラ様の声が強く辺りに響き渡り、その光は人の形へと変えていく。



『あれは・・・・お父様っ!!!』



輝く光の中から現れたのは、同じ黄金の光を放つ長い金の髪を持ち、龍の形を象った杖をその手に持った威厳溢れるエルフの王、マグオート=アストラガルス。


伝説のエルフの王が人間の世界にその姿を現わすのは、彼がその命を神に授かってから何万年以来初めてのことだった。


彼の出現とともに、暗い雲には激しい雷が鳴り始める。


人間からしてみれば、神と等しいその誇り高き種族の王は堂々とその光の中から現れ、その手に持つドラゴンの杖を空に向かって勢いよく振り上げた。



『行けない!!エルフの王よっ!!』


『お父様っ!!!』



サーラ様とアイシスさんの強い悲鳴があがりその場所へと急いで向かうが、マグオートの激しい怒りは止まらない。



『よくも我が愛する娘をっ!!貴様はその血が繋がる一族もろとも、呪い殺されるがいいっ!!!!』



ドカーーーーーーーンッ!!!



大きな雷が山に落ちる激しい音とともに、マグオートが振り上げた杖から何十何百という光の剣がカルロの身体を一気に突き刺した。



『・・・・・・ガハァッ!!』


『か、カルロ様ッ!!』


『いやぁぁぁーーーーー!!!カルローーーーーッ!!!!』



全身から血を流し、大量に口からも血を吐いたカルロはその場に仰向けにゆっくりその体が倒れ、その目には自分に向かって駆け寄ってくるジルに緑の魔女。


そしてその向こう側、エルフの王のすぐ側で光の透明なバリアに覆われた彼女が見えた。


そのバリアに向かって自分の名前を泣き叫びながら、拳を叩きつけている。


そんな彼女とともに、エルフの王はその強い光に包まれてその姿を消していった。


自分に対して、心の底から憎しみと怒りを全身全霊で刻みつけながら。




許してくれ、エルフの王よ。


誰に憎まれ恨まれようとも、俺は彼女を愛したことを後悔していないんだ。


殺されるのは構まわない。


それだけのことを、俺はしたのだから。


それでも、できることなら最後にこの目に映る彼女の顔は笑顔がよかったな。




『カルロ様・・・・・カルロっ!!どうして君は、最後までそんなにいい笑顔をしてるんだ?君を守って死ぬのが俺の役目で、俺のただ一つの願いだったのに!!』



幼い頃からの兄弟同然であり、喜びも苦しみも分かち合い支え合った無二の親友でもあったジルベルトが、止まらない涙をいつまでも流し続けながらその最後を看取る。





カルロは、口元に満足そうな笑みを浮かべながらーーーーーーその命は終わりを告げた。




そんな彼の手足だけでなく、その全身には紫の文様のような痣が浮かんでおり、そのことに緑の魔女だけが気づいていた。

この物語の男子はみんな死相が出てるんだろうか?と、書き終わってからふと思いました。


いや、死なせたくて死なせているわけでは決してないんですが。女は強し!なだけですね。

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