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禁じられた小夜曲 6

今回も読んでいただき、感謝です!


前書きを書く際にいつも何を書くかを悩みます。

本文のネタバレままずいだろうし、かといって関係ない内容を書くのもだし。


とりあえず、今回の話を書く際には自分のあっけなく撃沈した初恋を思い出してました。

先日の事件から目に見えて、アイシスさんの様子はおかしくなった。



ぼーーーーっとしていたかと思うと慌てふためき、満面の笑みを浮かべていたかと思えば、ムスッと不機嫌な顔になって拗ねた態度になる。


そんな彼女に対してイライラしていたのは、この人だけだった。



『おい!今度は何が気に入らないんだ!お前がどうしても人間の世界を知りたいというから、俺がわざわざ時間を作ってこうして教えてやってるんだぞ?!』


『べ、別にあなたじゃなくても、ジルでも私は全然構わないわ!!』



ぷいっ!!と目の前のカルロ王子から思いっきり顔を背けたアイシスさんの顔を覗き込んで見れば、その頰は赤く染まっている。



『なら勝手にしろ!!ジル!俺は自分の仕事に戻る!!』


『か、カルロ様!?』



眉間にシワを寄せたままのカルロ王子は、強い勢いで扉を開きそのまま部屋を出て行ってしまった。



『アイシス様、本当に僕でよろしいのですか?』


『・・・・・・ッ!』



ジルは彼女の態度の理由をを分かっているようで、優しい笑顔で語りかける。



『ジル・・・・・どうしよう!?私病気になってしまったわ!!』



振り返ったアイシスは、真っ青な顔をして最近の自分に起こった異変についてジルに話し始めた。



『何日か前から、私の目がおかしくなってしまったの!だってあのカルロが、キラキラ輝いて見えるのよっ?!』


『・・・・・おや?それはビックリですね』



ビックリ、といいながらもジルの顔は笑顔そのもの。


いや、それを聞きながら私までニヤニヤし始めてしまう。



『そ、それに耳もおかしいの!カルロの声が、すごく遠くにいるのに聞こえてきて、聞きたくもないのに耳に入ってくるし!!でもそれはカルロだけなのよ?』


『そうですか。他にも変わったところはあるんですか?』


『あとは・・・・彼がそばにいると、心がうるさいぐらいに鳴り出して、顔がものすごく熱くなるの!一緒にいるのが嫌なわけじゃなくて、なんだかとても落ち着かないのよ!』


『ハハッ、おっと失礼!なるほど、それは重症ですね』


『エルフの里では病気なんて一度もかかったことがなかったのに、環境が変わったことで私・・・・すごい病にかかってしまったのかもしれないわ!!』



ジルは必死に笑いをこらえているが、片手で塞いだ口元からすでに声がもれて体が小さく震えていた。


そんなジルの様子を気にもしないアイシスさんは、自分の体に起こったらしい原因不明の病気に対して真っ青な顔になりながらどうしよう!?と本気で怯えている。



『ちなみに、その心臓が痛かったり顔が熱くなったりするのは今もですか?』


『え?』


『僕といる時も、顔は熱くドキドキしてますか?』



ニッコリと、ジルは嬉しそうな笑顔でアイシスさんに尋ねる。



『・・・・・そうね、今は熱くもないし心も静かだわ。どうして私、カルロがそばにいる時だけこんなに体のあちこちがおかしくなるのかしら?』


『その病の名を、僕は知ってると思いますよ』



はい!私も知ってます!



『本当!?この病気は一体なんなの?ちゃんと治るのよね?』


『それはどうでしょう?いつ治るかどうかは、誰にも分からないですからね』


『そんな・・・・!!』


『それが、恋の病ですから』


『?!』



そう、アイシスさんはカルロ王子に対して、生まれて初めての恋をし始めていたのだ。



『こ、これが・・・・恋なの?』



それは、彼女がずっと憧れていたもの。



『はい。それが恋ですよ、アイシス様。あなたのように心のキレイな方がカルロ様を好いてくださったこと、彼の友としてとても嬉しいです』


『私が・・・・カルロに、恋?』



恋心を自覚してからのアイシスさんは、その日からまるでピンクのオーラが周りに見えるかのように喜びと幸せに満ち溢れていた。



『この間まで不機嫌だったかと思えば、今度は気持ち悪いぐらいにニヤニヤしやがって・・・・何か変なものでも食べたのか?』


『別に〜〜♪それよりも、さっきの続きを教えて!』



真剣な様子で人間の世界について、その知識を教えてくれるカルロ王子を熱い眼差しで見つめている。


きっと、今の彼女は見える世界の全てが輝いて見えているに違いない。


自分のうん十年前な初恋を思い出してみても、何をしていてもハッピーでスキップしながら、その相手とのデートやほんの些細なやりとりを妄想しながらにやけていたものだ。


実際には、自分から声すらかけられなかったが。




だが、その幸せな世界にほんの一粒の黒いシミが落ちる。



『・・・・また、あの人のことを見てる』



好きな人のことばかり見ていれば、だんだんとその人の好きなことや意識しているものが見えてきたりする。


カルロ王子をずっと見ていたアイシスさんも、カルロ王子が時々誰かに向けて一心にその視線を送っていることに気づいたのだ。


それはカルロ王子の兄、サーベルの隣に控えていたあの清楚で可憐な雰囲気の『カーラ』と呼ばれた女性。


カルロ王子がその女性を見る顔はアイシスさんが見たことがないほど切なく、見ているこちらが苦しくなるほど複雑なものいるだった。


そして女性がカルロ王子の方へ向くのと同じタイミングでその視線を逸らし、彼女のことなど全く気にしていないようにそっぽを向く。


その後は女性からカルロ王子へ同じような視線が送られていて、その2人の姿を窓から見るたびにアイシスさんの胸もまた強く痛み、幸せな笑顔は一瞬で苦痛に暗く沈んだ。



『ジル・・・・これは一体何なの?』


『アイシス様?』



部屋の中で、いつものようにジルとお茶の時間を過ごしていたアイシスさんが暗い顔をしながら言葉を出す。



『恋は楽しく幸せなものなんでしょう?なのに、何でこんなに苦しいの?なんでこんなに・・・・心がぐちゃぐちゃになりそうなの?』



あの2人の眼差しが普通のものではないということは、さすがの自分にも分かってしまった。


いつだって距離はとても離れていて、触れるどころか声をかけ合うことも視線すらも交わらないのに、2人が強く繋がっているような気がしてならない。


私の方が距離は近いし毎日のように会って話してるのに、あの2人の空気の濃さを思うだけで心が悲鳴をあげる。



やめて!!


あの人をそんな目で見ないで!!


彼を見ないで!!




『・・・・・・ッ!』


『いいえ、それも間違いなく恋でございますよ。アイシス様』



ジルは優しい笑みを浮かべたまま、アイシスに涙を拭うようにとハンカチをそっと差し出した。


知らぬ間に涙が流れていたらしい。



『カーラは、カルロ様が心から愛したただ1人の女性でした』



ジルは新しいお茶を2人分用意すると、昔話をしましょうかとアイシスさんに語り始めた。



『僕とカルロ様は、庶民の裏街道で育ったんです。カルロ様の母親は城のメイドで、カルロ様を身籠ったことを知ったその女性は事の大きさに恐れ慄き、こっそりと城を抜け出して裏街道へとその身を隠し、カルロ様を産み育てました。その後カルロ様が物心つく前に母親は病気で亡くなり、カルロ様の母親と親友だった僕の母がカルロ様を僕と一緒に育てる中で国王がついにカルロ様を見つけ出してしまい、城へと連れ戻されたんです』



なるほど。


裏街道育ちならば、あのとんでもない喧嘩の強さと口の悪さも頷ける気がする。



『その裏街道で、僕らの女神だったのがカーラでした。カーラはどんな者にも優しく皆から愛されていた女性ですが、彼女と心を通じて愛し合ったのは彼女を側で守り続けていたカルロ様だったんです』


『!?』


『国王の命令で城に戻されることを承諾する条件として、僕とカーラを一緒に連れて行くことを告げ、国王はその条件を飲みましたが、それが悲劇の始まりでした』


『・・・・・悲劇?』



それは今彼女が誰の隣にいるのかを思えば、自ずと予想ができる。



『国王の第一子である、サーベル王子がカーラ様を気に入ってしまったのです。彼は、一度気にいったものは必ず手にしないと気が済まない方でした』


『で、でも・・・・2人は深く愛し合っていたのでしょう?』


『はい、それはもうとても深く愛し合っておられました。けれど、どうしても彼女を諦めきれないサーベル様が国王様にまでカーラ様のことで泣きつき、国王様はカーラ様へどうしたいのかを選べと直接問いかけられました』


『そんなの、選ぶ必要もないじゃない!答えはひとつだけだわ!!』


『・・・・カーラ様は、サーベル様を選ばれたのです』


『そんな、どうしてっ!?』


『わかりません。けれどもそれ以来、カルロ様の心には大きな傷ができ、新しい誰かを愛することなど考えられないと、その時からずっと前に進めずにいるのです』


『・・・・カルロ』



きっと何か事情があったのだろう。


彼女のカルロ王子にに向ける眼差しからは、何も知らない他人が見ても愛情が強く感じられた。


サーベル様とやらに向けてその愛情を彼女から感じることは全くなく、ただ人形のようにそばにいるだけ。



そして、カルロ王子もーーーーーーー。




『・・・・2人は、結ばれないの?』


『サーベル様とカーラ様は婚約なさいましたから、それは不可能ですね』


『!?』



2人の過去を聞いた後にも関わらず、2人が結ばれることはないと聞いて心のどこかで喜んでいる自分はなんて心が醜いのかしら。


私だって、彼女が彼の心にいる限り、決して彼と結ばれることなんてないのに。



『・・・・アイシス様』


『ごめんなさい!私、なんてことを!』


『いいんですよ。恋をしていれば、それは当然の気持ちです。汚くも醜くもありません』


『ジル!』



アイシスさんはその後、ジルの前でひとしきり泣いてスッキリした顔になってから新しいお茶を一気に飲み干した。



『大事なことを話してくれて、ありがとう』



飲み終えたアイシスさんは目の周りは赤いものの、いつもの笑顔に戻る。






ちょうどその頃、ついにカルロ王子が知り合いのツテでよくやく繋がったアルカンダル王国の古い学者から、エルフの里への明確な手がかりをつかんでいた。


過去の過去までやってしまうといい加減キリがないので、ジルさんに説明していただきました!


恋は楽しいよりも、苦しかったりする方が時には多かったりするものですよね

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