禁じられた小夜曲 4
今回もお読みいただき、ありがとうございます!
思ったよりこの章が長くなりそうで、現実の進展をお待ちの方には申し訳ないです。
なるべく急ぎ足で参ります!
それから何日後なのか、場面がまたきり変わった。
『いい加減、ここから出してよ!!』
『ダメだ!!お前は自分の立場がまだ分かってないのかっ!?』
先ほどの本棚の部屋で、アイシスさんとカルロ王子が激しく言い合いをしている。
いつものことなのか、従者のジルは止めようともせずに冷や汗をかきながら2人のやり取りに苦笑するばかり。
私も2人のケンカ?より、アイシスさんが身につけている青色のドレスの方に目がいってしまった。
元々可憐なアイシスさんには、フリルやリボンがふんだんに使われたドレスは可愛くて仕方がない!
色合いだけが深い青で、可愛すぎないのもまたいい!多分ジルの見立てだろうが、まさにグッジョブだ!!
『せっかく人間界にいるのに、この狭い部屋に毎日一日中いるなんてもう我慢できないわ!外に出して!』
『だーめーだ!!外に出たかったら、エルフの里への行き方でも思い出すんだな!』
『エルフの里を出たのも初めてなのに、帰り方を知るわけがないじゃない!!』
『それなら、ここで本でも読んでおとなしくしてることだ!』
『あ!ちょっと、カルロ!!待ちなさいったらっ!!』
顔を怒りで真っ赤にしたアイシスさんがさっさと部屋を出て行くカルロ王子を追いかけるが、追いつかれる前に部屋の扉が勢いよく閉まってしまった。
その後、なんどアイシスさんがドアを開けようとしても開かない。
『もういいわよ!!それなら、自力で外に出てやるんだから!!』
アイシスさんが呪文を唱えて、光の衝撃波をドアに向けて放つがドアはそれでもなんの反応もない。
『ど、どういうこと?』
そして、頭をかしげたままのアイシスさんがドアにもう一度近づくと、天井から大量の水がバケツをひっくり返しかのように一気に降ってきた。
『キャーーーっ!!!』
『・・・・・・だ、大丈夫ですか!?アイシス様!すみません、カルロ様があなたの為にと色々魔法のトラップを仕掛けたみたいで!おケガはありませんか!?』
ドアの向こうから聞こえるのは、従者のジル。
カルロ王子はなんとウンディーネ様の加護を受けているそうで、水の魔法が得意らしい。
そのせいで海の中でも長く息が続いたり、泳ぎが早かったりとするらしく、なるほど色々な謎が解けた。
『ま、負けないわ!!』
気づけば、先ほど浴びた水が大きな包帯のような形になって、青色の布でアイシスさんが顔以外がミイラのようにぐるぐる巻きになって床に倒れている。
次の日からもーーーーーーー。
ある時は部屋にある窓から外へ出ようとしたアイシスさんに魔法のトラップが発動し、天井から伸びた鎖に足を捕らわれてあわや宙吊り状態になったり。
ある時は脱走を企てた途端床に突然池が現れてそこへと落ち、その水がゼリーのように固まって腰から下がはまって身動きが取らなくなったり。
ある時は、大きなカエルのモンスターが呼び出されて部屋の門番として居座り、逃げようとするそぶりを見せれば即そのヌルヌルの舌で捕まるという、精神的にもあまりよろしくないこともあったりと、脱出の攻防が日々行われていた。
『もう!女の子に対して、なんてひどい意地悪男なの!?こうなったら・・・・奥の手を使ってやるわ!』
可愛い顔が不敵に笑い、アイシスが目をつぶって呪文を唱え始めた。
ここで場面はカルロ王子達のいる、別の部屋へと移動する。
そこは城の廊下で、2人は今アイシスのいるカルロ王子の私室へと向かって歩いた。
『どうだ?今日のあいつは大人しくしているか?』
『はい!本日はとても静かになされていて、先ほど部屋の覗き戸から中を確認させて頂きましたら、分厚い本を真剣な様子で見ておられました!』
『そうか。ようやくエルフの里へ繋がる手がかりを手に入れたからな!もう少し詳しく分かれば、すぐにも出発できるだろう』
『・・・・きっと、喜ばれますね、アイシス様』
『どうだかな。あまり帰りたい!とはなっていないし、それよりも人間界を案内しろ!とでも言うかも知れないぞ?』
『そうかもしれないですね!好奇心の塊のような方ですから』
コンコン!
ジルがアイシスさんのいる部屋をノックしてから扉を開けると、そこにはジルの話通りに何冊も本をテーブルにおいて、その中の一冊をじっくりと読んでいるアイシスが。
2人に気がつくと、アイシスはニコリと笑ってからまた本へとその視線を戻す。
『・・・・・おかしい』
『え?何がですか?』
その様子にカルロ王子だけが訝しみ、ある魔法を唱えると、そこにいたはずのアイシスの姿が消える。
『き、消えた?!』
『アホがっ!!これはあいつの光の魔法だ!ちっ!すぐに探しに行くぞ!!』
『は、はい!!』
『あいつは自分が人間界にとってどんな存在なのか、全然分かってないっ!!』
『兵を出しますか?』
『いや、他の人間がどんな欲を出してあいつを傷つけるか分からないからな。俺たちだけで探すぞ!』
『ぼ、ぼく達だけでっ!?』
『もちろん、2人ではないさ』
『え?』
カルロ王子達はなぜか城の屋上にあたる見張り台までくると、その一番高台に上がる。
『か、カルロ様!!ご存知の通り、ぼ、ぼくは少し高いところが苦手でして・・・・』
『いいから少し黙っていろ!』
『は、はい!!』
そこでカルロ王子は目をつむり、心を落ち着かせてからその言葉を風に乗せて紡いだ。
『・・・・・アクア・ヴァイ・ワーティルヴァハトゥーン!我を守護し水の神よ!我が友、アイシスの行方を追ってくれ!』
その呪文が放たれると、あんなにも晴れていた空の一部だけ、この王都の空の上だけが暗雲に包まれ次第に雨が降ってくる。
お天気雨のような感じだろうか?
『・・・・・・いたぞ!!王都の裏通りだ!』
『えぇっ!?もう!?ちょ、ちょっとカルロ様!待ってくださーーーい!!』
『あのアホが・・・・無事でいてくれよ!』
カルロ王子はものすごい速さで城を駆け抜けていき、その後ろからジルが城の廊下を走るな!!と怒鳴る城の重鎮の方々に謝りながら駆け抜けていく。
その途中、廊下の向こうから一組の男女が現れ、この時ばかりはカルロも足を止めて頭を静かに下げた。
『なんだカルロ、そんなに急ぎ足で騒がしいな!!』
『・・・・申し訳ありません、サーベル兄上。なにぶん急用で急いでいたものですから』
サーベルと呼ばれたその男は髪の色だけはカルロに似た、顔つきはキツネのように細くつり上がった目にニヤリと意地の悪そうな笑みを浮かべている。
『フン!そんなに急ぎ足で向かうような大切なところが、まさかついにお前のような愚弟にもできたのか?』
蛇が獲物を睨みつけるような、そんな卑しい笑みを浮かべたサーベルが頭を下げたままのカルロを上から見下しながら話しかける。
『すみませんが・・・・先を急ぎますので、失礼します』
カルロはそのまま背を向けると、また城の出口へと急ぎ足で駆けていく。
『ご、ご御前をし、失礼します!!』
その後ろにいたジルもサーベルに深く頭を下げてから、カルロ王子の後に続くように慌てて走り抜けていった。
『フン!!この俺様と目も合わそうとしないとは、つまらんな!!行くぞ、カーラ!』
『・・・・・はい』
不機嫌そうに顔を歪めたサーベルの後ろから、淡い水色のドレスを着た『清楚』という言葉がどこまでも似合う、色素が全体的に薄く白い肌とプラチナ・ブロンドの髪を持つ美しい女性が静かについていく。
その、どこか儚げな雰囲気のある女性は本当にほんの一瞬の一度だけ、カルロ王子が駆けていった廊下の先に目線を送り、すぐにまた顔を俯かせながらサーベルの後をついていった。
カエルの舌に捕まるのが一番嫌かな〜と個人的に考えながら、書いてました。
カルロはその罠を日頃から楽しそうに考えていて、小さい頃は主にジルがその犠牲者でした。




