禁じられた小夜曲 3
今回も読んでいただき、感謝です!
人間界にいよいよ、エルフが降りてきました!
アイシスさんが城に連れて行かれてからすぐ、場面は新しい場所へと移った。
次の場所は薄暗い中で、大きくデザインも豪華で立派なベットのある部屋の中。
窓からは絶景の海が見渡せる。
そのベットの中でアイシスさんが穏やかな寝息をたてて寝ていた。
そしてその部屋の中で、先ほどジルと呼ばれた従者がカーテンを開けて太陽の光を部屋の中に入れる。
外は快晴で、とてもいい天気だった。
『ん・・・・ここ、は?』
『よかった!ようやくお目覚めですね、お嬢様!』
『あなた・・・誰?』
『わたくしめは、カイマール王国の現国王・クライヴ陛下のご子息であられる、第3皇子カルロ様に仕えるジルベルトと申します。ジルとお呼びください』
ジルは胸の前で手を下ろし、丁寧に貴婦人へとするようなお辞儀をしながら挨拶をした。
『えっと・・・・つまり、ジルでいいのかしら?』
『はい』
アイシスさんの頭の上に大きなクエッションマークが見える。
多分、ジル以外はすでに覚えてないだろう。
カイマール王国ということは、私のいたアルカンダル王国とは別の国ということだ。
ゲームの中では自国のことだけで、他国の乗っていた地図などはなかったし、アルフレド王子のルート辺りなら名前くらいはもしかしたら登場したかもしれないが、あいにくそこはノータッチ。
メモ帳もペンも持っていない今は、必死に目の前にある情報を脳のシワに刻むこむしかない。
ちなみに、記憶力が試される系のテストは大の苦手だった。
『わたしはアイシスよ!よろしくね、ジル!あなたが私を助けてくれたの?』
頭を抱える私の横で、現場はさらに動いていく。
『いえ、あなた様を助けたのは・・・・』
『お前を助けたのは俺だ』
『か、カルロ様!』
『!?』
え!?いつの間に部屋にいたの、王子様!?
私も全然気配に気づかなかった!
『あなたが助けてくれたのね!ありがとう!』
アイシスさんはそんなツッコミもなく満面の笑みでもって、カルロ王子に向き合う。
いやーーー本当に、同性の女子から見ても眩しいくらいの美少女です!
ほら、従者のジルなんて頰を赤くして見惚れているじゃありませんか!
あれが正しい男子の反応ですよ!
『それより、なぜお前はあんなところにいたんだ?海上に顔を出した時、他に船は見当たらなかったし、俺たちがいなければお前は確実に死んでいた。あのタイミングのよさがそもそも怪しい』
ずずいっとベットにその身を乗り上げながら、カルロ王子はアイシスさんに詰め寄る。
この王子も言わずもがな、かなり端正な顔だ。
どちらかというと、頭がよさげな知的な雰囲気の理系イケメン。
美形同士、会話の内容を無視すれば恋愛漫画のワンシーンの様だ。
『お、王子!女性にそのような!』
従者のジルももちろんその姿に大慌て。
『・・・・分からないわ。泉を見てたら突然誰かに背中を押されて、気づいたら海の中で大タコさんに捕まってしまってたんだもの』
『は?』
『離して!ってお願いしたんだけど大タコさんたら、君が気に入ったからお嫁さんになってくれ!って、足を離してくれなくて。いや大タコさんにしたらアレは手なのかしら?』
うーーーーん、と大タコの足が手なのかどうかを真剣に悩み始めたアイシスさんを前に、カルロの目がしばし点となる。
その後、大きな大きなため息をついたあとようやくカルロ王子が口を開く。
『いいか!一般的にタコのオスは8本ある足のうちの1本は生殖器になんだ!それは右から三番目の足!分かるか?お前があともう少し遅かったらなぁ・・・・ッ!?』
『すごいわ!あなた物知りなのね!』
そしたらイカさんはどうなのかしら?とか言いながら、キラキラした目で見つめ返すアイシスさんに、カルロ王子は口がポカーンとしてしまった。
いや、私も知らなかったよそんなこと。
あれ?
そしたらタコの足の料理って、知らずうちにソレを食べてたかもしれないってことですかっ!?
今すぐ教えて!ウィキ○ディア先生!!
『・・・・・おい、ジル。このアホな女はフリなのか?』
『いや、僕にはとてもそうは見えないんですが』
どうやら、アイシスをどこかの国の間者と疑っているらしい。
いや間者ならあんな間抜けな登場はさすがにしないだろう。
もし本当に間者なら、この海に落ちた従者とグルじゃなければ王子の言う通りあのタイミングで出会うことは不可能だ。
『なら、普通の女がなんであんな海のど真ん中で大タコに捕まるなんて機会が訪れるんだ?!』
『わからないですよ!ほら、空から女の子がごくたまに落ちてくることもありますから!』
『おい、なんだそのごくたまにって!?』
ちなみに一応これ、カルロ王子とジルのヒソヒソ話です。
うんうん、よく分かっているじゃないか!ジル君!
そう!ごくごくたまに、空から女の子は夢とロマンとともに落ちてくるのだよ!
その間も、アイシスさんはその時のことを楽しそうに話し続ける。
『わたし、あんな大きなタコさんは初めて見たわ!』
『・・・・普通はお目にかからないだろうな』
『ーーーの里の近くに海はないけど大きな湖があって、その中で小さなタコさんやイカさんにはあったことがあったんだけど』
『おい女!!今なんて言ったっ!?』
『え?』
カルロ王子が、突然アイシスの会話の中に出てきたある単語に大きく反応し、顔を驚愕に歪ませる。
『いや、その前にジル!!今すぐ部屋中のカーテンを閉めて、ドアに鍵をかけろ!』
『は、はい!かしこまりました!』
『???』
ジルの素早い対応によりカーテンが完全に閉められドアの鍵も閉められると、少し暗がりの部屋にジルがテーブルにあったランプに火をつけて灯をともす。
『まぁ!人間の世界ではリュクノースの実を灯に使わずに、火を使うのね!』
『・・・・・お前、どこからあの海に落ちたんだ?』
『だから、森よ?』
『それは分かってる!俺が聞いているのは、どこの森なんだ!?』
『どこのってエルフの里よ?』
『え、エルフ!?』
『・・・・・・お、お前!さらっと歴史的重要な事実をこんなところで言うんじゃないっ!!』
『え?』
『つ、つまり、お前はそのエルフだっていうのかっ!?』
『えぇ、わたしはエルフのアイシスよ?』
バンッ!!!
『ーーーーーーーーッ!!!』
突然、カルロ王子が壁に両手を勢いよくつき、声にならない声をあげる。
『か、カルロ様!気をしっかり持って!』
『わ、分かっている!だが、今伝説の中にしかいなかったあのエルフが目の前にいるんだぞ!い、いや、偽物ということもじゅうぶん考えられる!』
『ちょっと、痛いわ!耳を引っ張らないでちょうだい!』
カルロ王子はアイシスのとんがった耳を、真顔で左右にグイグイと力の限り引っ張っていた。
『うーーーーーん、エルフとしての証明といっても、学問的には見た目の特徴と永遠の命を持つということ、後は古代呪文を扱えるということが主だが、それを実際にどう証明しろというのか』
『痛いったら!!離して!!』
『!?』
その時、アイシスの両手から眩い光が溢れ、カルロ王子を壁に向かって吹き飛ばす。
『か、カルロ様っ!?大丈夫ですか!!』
光の魔法をその身を持って感じたカルロ王子が、またしても口をポカン開けたまま目が点となり、そんな王子を青い顔をしたジルがケガはないかと慌てて駆け寄っていた。
『・・・・・失われたはずの、光の魔法』
『ご、ごめんなさい!耳は特に痛みに敏感なものだから』
『・・・・・白い肌に、人間のものとは違う長く尖った耳』
『か、カルロ様?』
『・・・・お前、歳はいくつだ?』
『ひゃ、115歳だけど』
『115歳!?』
『・・・・それに加えて、不老不死!』
『あら、別に老化はゆっくりなだけで、ちゃんと見た目は変化するわよ?それに』
『ちょ、ちょっと待て!!ジル!!今すぐに紙とペン!!』
『は、はいっ!!!』
その後、エルフの世界についてカルロ王子は少年のように顔をワクワクさせてアイシスの話に耳を傾け、夢中になってそのペンを走らせて書き綴る。
そして人間の世界ではまだエルフの世界は伝説として語り継がれているだけで、誰もその場所が本当にあることを確認したものはいないこと。
エルフ自体の存在も神や精霊と同様にその名ぐらいしか人々には知れ渡っておらず、その存在はとても希少で格別なことなのだとカルロ王子は熱く語ったのだが、アイシスにはほとんど伝わっていなかった。
『じゃあ、私って珍しいのね!』
そう、彼女の認識はこんなもんだ。
『おい、珍しいどころか・・・・っ』
『それより、私初めて人間界に来たの!この世界のことをもっと教えてちょうだい!』
彼女からしたら、この人間界がまさに夢に見た世界そのものなのだ。
ベットから飛び出すと部屋にある様々なものに興味を示し、エルフの世界との違いをさらっと話すものだから、それを聞き逃すまい!とカルロ王子はメモに必死だ。
そういうことは王子ならば従者のジルに任せそうなものだが、こんな大事なことを他人に任せられるか!と一応申し出たジルを般若の顔で一括していた。
この部屋はよく見ると本棚がとても多く、その本の中で一番多いものがありとあらゆる魔法書と、魔法生物について。
そして魔力の強い魔物や幻想的な生き物について、その中にはエルフについての本も多くあり、かなり読み込んであるようでその本には折り曲げられたページや挟んである栞の数が多く見られた。
アイシスさんとカルロ王子の会話は、陽がどっぷりと暮れて辺りが真っ暗になるまで盛り上がり続ける。
何かの大きな歯車が今、ゆっくりと動き出していた。
空からでなく、海の中から女の子が!!になってますね。




