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禁じられた小夜曲 1

今回もお読みいただき、ありがとうございます!


ここから新しい話のスタートです!



そこは、不思議な空間だった。



私が目を覚ました時ーーーーーー。



視界に映った白い幹と枝の森に囲まれたそこは、その中にある湖がエメラルドの光を放ち、樹々の根元には色とりどりの花々とその花には青や紫の光を放つ蝶々が群がる幻想的な場所だった。


樹々にはそれぞれ林檎に似た金色の実がなっており、太陽の光にその実も輝きを放ちどこもかしこもキラキラと光って目が眩しい。


そして、その森には金色と銀色の長い髪を持つ美しいエルフが訪れて来ては水を汲み、花を摘み、そしてその輝く実を取っていく。



ここは、エルフの里?



とんがった耳を持つエルフの娘たちはニコニコと穏やかな笑顔を見せながら、森を出て自分たちの住まいのある村の方へと向かってかけていった。


彼女達に、私の姿は見えてない。


その中で見覚えのある銀色の髪の少女が紫の光を放つ、銀色の花弁を持つ大変キレイな花を摘んでいた。



あれは、アイシスさん?



アイシスさんは水色の布に金色の花柄刺繍がびっしりと編まれ、神秘的な雰囲気のデザインの服を纏っている姿はこの景色もあいまって、海外の有名な絵画を見ているような気分になる。



『アイシスー!帰りますよ〜〜!』


『はーーーい!』



アイシスは同じ髪色の、大人っぽい雰囲気をした美人に呼ばれてその場を離れて行く。


私は彼女の後をついて行くことにした。


彼女は『何か』を見せたくて、私をここに連れてきたのだと思うから。





アイシスさん達が向かった『エルフの里』は、私がゲーム『リベラトゥール』の世界で見た景色そのものであった。


村の中央には人間界ではおよそ見たこともないくらいの太く大きな大木が植わっており、その枝は村を覆うぐらいの広さでもって横に伸び、その枝葉には極彩色の羽を持つ鳥がたくさんその羽を休めて止まっている。


彼らの家はその周りに生えている、白い幹の木の中であった。


村の中には、幻想上の生き物と言われているペガサスやツノを持つユニコーンもおり、男女の美しいエルフ達とともに暮らしている。



アイシスさんはその中でも、一番奥にあるひときわ大きな木に繋がる木の階段をつたってその中へと入っていった。


私もその後を追いかけていく。



『アイシス、またお前は村の外れにある森に行っていたのか?!』



アイシスさんに声をかけているのは、地につくほどの長い金色の髪を持ち、緑のローブを羽織った荘厳な雰囲気溢れるエルフの王ーーーーマグオート=アストラガルス。


その表情はいついかなる時も眉間にシワがよった険しさを崩さず、見るものを威圧する力に溢れた緑の瞳を持つ。


彼もまた、ゲームに出てきたエルフの王そのものだった。



『お姉様と一緒に花を摘んでいただけよ、お父様!』


『嘘をつくなアイシス!お前はまたあの森の奥にある、望みの泉を見ていたのだろうっ!!』


『い、泉は少しだけしか見てないわ!』



アイシスさんの顔がギクリと明らかに焦っている。


思ったことがすぐに顔へと出る、とても素直なタイプらしい。



『それに、泉から人間界を覗き見することの何がいけないの?』


『お前は何もわかっていないのだ!!人間などという野蛮な生き物を、我らエルフの高貴な瞳に映すことがすでに愚かなことなのだ!!』


『愚かって、人間の中にも優しい人はいるはずよ?』


『いいや!人間はみな中身は同じ欲望の塊だ!その醜く貪欲な欲望を叶えるためにこれまで戦ばかりおこして森を焼いて血を流し、神が与えたこの大地を汚すことしかしてないではないか!!』


『そ、それは・・・・!』


『とにかく、お前があの森へ行くことは固く禁ずる!!分かったな!!』


『!?』



頭の血管が切れそうなほど怒りを露わにしたエルフの王は、大きな声でアイシスさんに怒鳴るとその部屋をすぐさま出て行く。


残されたアイシスさんは、目に涙を浮かべながら自分の部屋へと戻り、ベットの上へうつむきの姿勢で倒れこんだ。



『お父様のバカっ!!エルフにだって好戦的な人はいるじゃない!!それに彼らは限りある命だからこそ失敗もするし、だからこそ一生懸命に生きる姿がとても輝いてるのに!お父様は一部の戦のことばかり気にして、何も見てないんだわ!』



アイシスは涙を流しつつ、そのまま寝てしまう。





そしてクローディアの目に映る場面が、テレビ画面のように切り替わった。


そこは、先ほどのエルフ王ーーーーマグオートのいる部屋。


未だ怒りに震えるマグオートを、その妻であろう優しい雰囲気の銀髪のエルフが宥めている。



『あなた、そこまでアイシスを叱らなくとも。ただの好奇心から見ているだけですわ』


『・・・・・あいつは何も知らんのだ!!』



マグオートの顔が苦悩に歪む。



『それは仕方がないですわ。アイシスは何も教えられてないのですもの。それでも、その理由を教えることはことわりに反しますの?』


『そうだ。それを知ることが許されるのは、エルフの長とその伴侶のみ。だがアイシスは、昔から人間に興味を持ちすぎる』


『大丈夫ですわ、きっと神様があの子を守ってくださいます』


『・・・・・あぁ』



辛そうに表情を曇らせるマグオートを、女性がその両手で頭ごとその胸に包み込む。


もちろん、こんな場面はゲームではない。


人間のことを忌み嫌っていたのは同じだが、それはマグオートの言う通り【野蛮で下等な生き物だから】という理由で話していたと思う。





さらに場面は切り替わり、先ほどのアイシスの部屋へと戻った。


アイシスは、木で出来た丸いテーブルの上にいる蝶の羽を持つ小さな細身の少女の姿をした妖精に話しかけていた。



『ねぇ、エリーは人間を見たことがある?』


『人間?まぁ、かなり遠くからならあるけど。なぁに、アイシスったら人間のことにまだ興味を持ってたの?』


『そうよ!人間はその命が短いからこそ、その身が焼けるような熱い恋をするって聞いたわ!私も恋というものがしてみたいの!すてきなものなんでしょう?』



アイシスの顔が興奮に頰を染める。



『はぁ・・・・あなた達エルフには、人間にはない永遠の命があるじゃない?恋だって、別に人間じゃなくてもできるわよ?』


『でも、私は人より長く生きていても恋を知らないわ。それがどういうものなのかも分からない。人間の女の子達は、生まれてまもなくてもあんなに恋というものでとても楽しそうにしていたのに』



アイシスさんは、ガラスのない木のふちのついた窓に肘をついて大きなため息をついた。



『そしたら、あなたの許嫁のエドアルドは?彼と恋をすればいいじゃない!』


『エドのことは好きだけど、人間の女の子達が言うようなドキドキとか、彼のことを考えて苦しいとかそんな想いじゃないわ。彼はお父様やお母様といる時のような安心感だけ。私はこの心が熱く燃える恋がしてみたいの!』


『全く・・・・恋なんて、そんなにいいものじゃないわよ?』


『あら?人を深く愛するからこその恋でしょ?すてきなことじゃない?』



まだ見ぬ恋に憧れ、恋に恋をする少女がそこにはいた。


泉から毎日人間界を覗いていた少女は、恋をする人間の少女に自分を重ねてそのトキメキを楽しんでいた。


確かに、永遠の命を持ち死なぬ体のエルフは年を重ねた者ほど冷静沈着で感情を表には出さない。


恋をする少女など、エルフの里においてどこを見ても中々見つけられなかった。



『・・・・・アイシス、いるのか?』


『エド!どうしたの?』


『いや、もし森に行くなら次は俺にも声をかけてくれ』


『あら?エドも泉が見たいの?それなら早く言ってくれれば良かったのに!』


『・・・・・あぁ』


『あーーあ、恋に憧れる割には色々鈍いのよね〜〜アイシスは』



短い金髪とスラリとした長身を持つ、このクールビューティーなイケメンがアイシスの許嫁の『エドワルド』だろう。



いや普通にメチャクチャかっこいいですよ?


むしろ、なぜこれでときめかない?



自身も含めて、周りがエルフの超絶美形だらけだとその感覚もマヒしてしまうんだろうが?


確かに、そんな恋愛感覚マヒ状態の彼女に『恋』とはかなりの難題なのかもしれない。


だからこそ、そんな彼の熱い眼差しはアイシスへとまっすぐ注がれているが、アイシスはそこに込められた思いの意味には全く気づいていなかった。




そして、窓の外にはその『エドワルド』と『アイシス』を見つめる激しい眼差しが。


金色の緩やかなウェーブがかかり、豊満な肉体をその体のラインを見せるように白い布で包みこんだ切れ長の瞳を持つ妖艶な美しさの女性がそこで静かに佇んでいる。


立派な恋の泥沼がすぐ側にあるのに、アイシスだけがそのことに気づいていなかった。




え?何これ?


すいません、私はこれからエルフ族における昼ドラを見させられるんですか?



本当に昼ドラなのかは分からないが、1人のエルフの少女の物語がこうして私の目の前で始まった。

最初はじっくり書くつもりのなかった、アイシスさんの過去話ですが、やっぱり大事なところですし深く書くことにしました。


どうぞ、よろしくお願いします!

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