モブ女子、手にした宝と受けた傷跡
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ルトラヴァイス編の最後となります
ーーーーありがとうございます
最後にそう言葉が頭の中で響き、気絶していたはずのシオンさんの肉体が目を開け微笑んでこちらを見ていた。
「・・・・とう、さん」
ルークは泣くわけでも叫ぶわけでもなく、小さくそれだけを呟いて燃え盛る炎に包まれたシオンさんとルトラヴァイスの街を静かに見ている。
そして黒い魔女は、『やるじゃないか、決着は闇の神殿の前で待っていてあげるよ♪』とだけ伝え、炎の中であの狂ったような高笑いをしながら消えていった。
ルトラヴァイスの街はさらに激しい炎で燃え上がり、そこでかつて暮らしていた人達の悲鳴が空とクローディアの耳に響く。
「・・・・ごめんなさい。何もできなくて、ごめんなさい!」
そのたくさんの悲鳴に思わず足が地面に崩れ落ち、泣きながらクローディアが何度も謝り続けるが、そんな彼女の両目をボルケーノの赤い色をした大きな手が優しく塞いだ。
『悲しむな、我が主よ。そなたはやるべきことを成し遂げたのだ。炎によって浄化された魂はみな、喜んで天へと向かっている』
「!?」
ボルケーノによって塞がれ暗くなった視界には、たくさんの丸い大小様々な光が天に昇っていく様子が見えた。
あれが『魂』なんだろうか?
そして長い時間燃え続けた街は元の更地へと姿を変え、シオンさんがいた場所には銅で作られた本体に真ん中は琥珀だろうか?光る石がはめ込まれ、その石を中心に草花をイメージしたデザインがされた『大地の腕輪』が落ちていた。
「シオンさん、ありがとう」
大地の腕輪を拾いあげ、それを胸に抱えながらシオンさんとその家族、街の人達が少しでも安らかに眠れますようにと手を合わせて祈り、ルークの元へと戻る。
「・・・・・ルーク、大丈夫?」
ずっと黙り込んだままのルークの顔を覗き込むと、彼と目があった瞬間に私の方へと彼の体が倒れこんだ。
「る、ルークっ!?」
彼の体は信じられないほどに熱く、意識をそのまま失った彼の息遣いも荒く苦しそうにその息を漏らす。
『これは・・・・黒い魔女に毒を盛られたな』
「!?」
その体をよく見てみると、小さな黒いトゲがいくつかルークの体に突き刺さっている。
『とにかく、カチャン・ドールへと戻るのが先決だ。あそこならこれの解毒剤もあろう』
「わ、分かった!」
倒れたルークはボルケーノが抱えて運び、そのままカチャン・ドールへと繋がる魔方陣へと急いだ。
「ふぇっふえっふえっ!おぉ!!ついに大地の腕輪まで!!さすがじゃのう!ほれ、約束の太陽の鍵じゃ!」
ヴァレンティーナは満面の笑みで私から大地の腕輪を受け取り、高揚した様子でその腕輪に頰をすり寄せ喜んでいた。
「ありがとうございます!あの、それよりもルークが毒にやられてて!解毒剤はここにありませんかっ!?」
ボルケーノの大きな体はカチャン・ドールの店内には入らない為、今ルークは私の背中でぐったりとしている。
その背中に伝わる体温も全身がとても熱い。
首元に置かれた彼の口元から聞こえる息遣いも、先ほどよりさらに苦しそうだった。
「ふぇっふえっふえっ!なんじゃ、ルーク=サクリファイスともあろうものが珍しいの。ちなみに、毒をやった相手は誰じゃ?』
ヴァレンティーナがルークの様子を見ようと店頭から移動し、こちらへと杖をつきながら向かって来る。
「・・・・黒い、魔女です」
「なんとっ!!」
その瞬間、ヴァレンティーナの目がカッと見開いた。
「長い間どの時代においても裏でひっそりと暗躍し、表舞台には中々出てこないあ奴とやり合うたのか。それはちとやっかいじゃな」
ヴァレンティーナの顔から笑顔が消え、真剣な様子でルークの顔や体に手を当て様子を伺う。
「して、体に毒を与えたものは?」
「こ、これです!」
クローディアはポケットからハンカチに包まれたままの黒いトゲを、背中のルークを落とさないよう気をつけながら片手でヴァレンティーナに渡す。
「これは・・・・・ヴェレポワ!」
「ヴェレポワ?」
「闇の世界に住むと言われておる、最強の毒ヘビの名じゃ。このトゲはそやつの歯じゃな」
「!?」
「わしの店にその解毒剤があったかどうか・・・・あったとしても、高くつくぞえ?」
「どれだけ高かろうが構いません!どうか、彼を助けて下さい!!」
頭を何度も必死に下げる私の姿に、ヴァレンティーナが大きくため息をつき、とにかく隣の部屋のベットにルークを寝かせるように伝えた。
「ふぇっふえっふえっ!まずは薬を探す間、この部屋の掃除でもしてもらおうかの?」
「は、はい!!喜んで!!」
どこかの居酒屋みたいな返事になってしまったが、今の彼を助けられるなら何でもさせて頂きます!
部屋の掃除なら、普段やっている店の掃除である程度は慣れている。
「・・・・・・・」
慣れている、はずだったのに。
ちりや埃にまみれたその部屋はあちこちに見たこともない虫が生息し、私はその姿を見るたびに危うく失神するか、この部屋を火事にしかねない勢いで炎の呪文を唱えていた。
「ふぇっふえっふえっ!なんじゃ、だらしない!」
「いや、だらしないって、それはこの部屋のことですよねっ?!」
ヴァレンティーナが私に笑いながら声をかけるが、悪いのは絶対に私ではないはずだ!
しかも貴重な道具ばかりだという割には、それが全て埃に埋もれていてゴミなのかの区別が全くつかない。
「ヴァレンティーナさん!薬はありました?」
「おぉ、これじゃ!」
「やった!!」
「いや違った、こっちかの?」
「・・・・・・・・」
「いやいやいや、こっちだったか?」
「・・・・ヴァーレンティーナさ〜〜ん??」
「す、すまん!!これじゃ!これ!!ちゃんとした本物じゃから、年寄りの胸ぐらをつかむでない!!」
ぜぇはぁと息苦しそうに呼吸をしながら、怯えた表情のヴァレンティーナの手から金色に光る液体が入ったガラスの小瓶を受け取ると、クローディアはすぐさまルークの元に向かう。
「お、おい!!薬の前に、水を飲ませるんじゃぞーーー!!」
「分かりました!ありがとうございます、ヴァレンティーナさん!!」
さっきの般若のような顔はどこへやら、笑顔になったクローディアは水とコップを持ちながらルークが待つ寝室へと軽い足取りで入っていった。
「ふぇっふえっふえっ!ほんに不思議な娘じゃ」
先ほど彼女に説明した『ヴェレポワ』の毒。
あれは本来、即効性でその体に突き刺されば短時間で人の命など簡単に奪える代物だった。
その毒を受けて、ここまで生きていることがまず何より奇跡のようなもの。
しかも、その毒の進行も彼が命を落とさないよう何かにせき止められていてとても遅かった。
まるで、常に回復魔法をかけ続けられているかのような状態だ。
不可思議な魔力のオーラを放つあの娘のせいだとはすぐに分かったが、こんなことは人の何倍も長生きしてきたヴァレンティーナにとっても初めてのこと。
現に少しの間彼女と一緒にいた自分も、長いこと苦しめられていた腰の痛みが嘘のように無くなってしまった。
「しかし、黒い魔女か・・・・・今が何代目かは知らぬが、借りは返さねばなるまいな」
ふぇっふえっふえっ!と、いつもの笑い声をあげながらヴァレンティーナは店の奥へと入っていく。
そして棚の上に置かれていた1人の男性の絵が描かれた小さな絵画を見つめると、その絵画を額縁ごと胸にそっと抱きしめた。
クローディアの自動回復機能は体力回復が主で、特殊な毒や呪いはそこからひどくなるのを抑えることはできますが完治はできません。
という、一応の設定があります。




