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モブ女子、魂の願い

読んでいただき、ありがとうございます!!


ルークVS黒い魔女の、魔導師対決です

気づけば、ここにいる全員が魔法使いですね



『そう、数年前にこの街は戦争に巻き込まれて滅んだ♪君の父親であるこの男も、その時に死んだ』



「!?」


「・・・・・・・」



黒の魔女の言う通り、街は火の海に包まれ逃げ惑う人々はみな女子ども関係なく虐殺された。


戦を仕掛けてきたのは、海を挟んだ先にある隣の王国で、まだこの頃は今のような平和条約も結ばれておらず、豊かな領土を狙われて何度か戦を仕掛けられていたのだ。


その戦火の最中で、シオンは自分たち母子をその命を犠牲にして逃がし、自分は襲いかかる敵兵士からの盾となり自分たちの目の前で命を落とした。


あの時の母親の悲痛な叫びは、今も頭の中で忘れずに残っている。


シオンだけではなく、この街に住む者のほとんどがあの戦のせいで命を落とした。



『それまでおとなしくしていたはずの隣の国が、なんでいきなりあの時になって戦争を仕掛けてきたと思う?』


「!?」



ペロリと、黒い魔女が唇を舐めてニヤリと笑う。




「・・・・・・まさか、君のせいだとでも言うつもり?」


『そうだと、言ったら?』


「・・・・・・ッ」


「ルークッ!!」



いつもの余裕のある感じではなく、怒りに我を忘れたルークは無言のままどこまでも冷たい笑み浮かべて黒い魔女へと激しい攻撃魔法を仕掛ける。


そのルークとともに紫の大蛇も黒い魔女へと襲いかかるが、それに対抗するように黒い大蛇を出現させると蛇同士がその体を喰らい合う。


炎には炎で、氷には氷、そして闇には闇で、黒い魔女はルークとの戦いを遊んでいるかのようにその攻撃方法をそっくりそのまま返した。



「・・・・・君は、人のモノマネしかできないのかな?」


『まさか!君の魔法があまりに素晴らしいから、これでも敬意を評してるのさ!僕以外で闇の魔法を使いこなす魔導師は初めて見たからね!』


「フフ・・・・油断してると、危ないよ?」


『!?』



気づけば黒い魔女の足元にはいつの間にか呪文のサークルが仕掛けられ、その印が光り出すとともにそこから黒い鎧をきた女戦士が4人現れ、黒い魔女の体を手に持つ漆黒と銀色の槍で四方から突き刺す。



『こ、古代呪文の、戦乙女!すごい!』



体を串刺しにされ、その身から血を流し口から血を吐きながらも黒い魔女はケラケラと歓びに笑う。



「ルークッ!!そいつの体は!!」


「知ってる・・・・いい加減、実態を表したらどうかな?臆病者の魔導師さん♪」


『悪いけど、楽しみは最後までとっておく主義なんだ。それよりも、大地の腕輪はいいのかな〜?』


「!?」



串刺しにされた黒い魔女の姿が消え、シオンさんの隣に傷のない新たな体の黒い魔女がその首に大きな鎌の刃を突きつけて笑う。



『彼を殺さない限り、永遠に大地の腕輪は手に入らず闇の神殿には入れない。でも、彼を殺せば手に入る♪迷うことなんて、何にもないよね〜〜?』



「・・・・・ッ!!」




黒い魔女は、ルークに父親殺しをその手でさせたいのだ。


そうしてルークの心を傷つけ、魂を引き裂く。


それが黒い魔女のやり方だ。


体が死んでるかなんて、そんなことは関係ない。


現に彼は目の前で生きて、死んだ当時より少し前の姿でルークの前に現れた。


その彼の心臓を壊すなど、彼をその手で殺すのと同じこと。




シオンさんを見た時、ルークがいつになく様子がおかしかったことを思い出す。


ルークはどんな思いでシオンさんに話しかけ、その後ろから彼を見つめていたのか。


街に着いてからも、ルークは黙り込んだままこの街をただ静かに見つめていた。


どんな思いで、かつて暮らしていたこの街を、その時に関わっていただろう街の人達をその瞳で見つめていたのか。


そして、シオンさんとその家族を前にしたのだろう。


かつての自分と兄弟の様に育ったジェーン達を前に、ルークは私に彼らと遊ぶ様に伝えた。


本当に遊びたかったのはルークだったはずなのに。


いや、それが辛いからこそ、なるべく関わらない様に彼らから距離を置いたのかもしれない。


今どれだけ元気で笑っていてもすぐ土に還る死んでいる存在だと分かっていたからこそルークは、何も言わずに1人でその気持ちを抱え込んだのだ。




「・・・・・・・」




私の前には、紺のローブのルークの後ろ姿が映る。


そして、その前には黒い魔女に大鎌を突きつけられたシオンさんが。


彼が今どんな顔でいるのか、私からは何も見えない。



私は、どうしたらいい?



今ボルケーノやイヴァーナ様を呼んだところで、シオンさんが助かるわけじゃない。


黒い魔女を倒すにも、本体がここになければ何の意味もない。



なら、どうしたらーーーーーーーッ!!





ーーーーしてください。





「!?」



その時、私の心に誰かが語りかける。




ーーーーどうか、あなたの手で殺してください。




それは、目の前で意識を失っているはずのシオンさんの声だった。




ーーーー俺を殺して、息子を、ルークを助けてやってください。大丈夫です。俺もこの街も、元の正しい形に戻るだけだ。あの魔導師に在るべき形を歪められた、この姿こそがこの世にあってはならない異形なのです。




「・・・・・ッ!!」



ルークや黒い魔女には、この声は聞こえていないようだった。


2人は激しくも静かな戦いを、その鋭い目線のみで行っている。




ーーーーーーーあなたにとっても、それは辛い選択だとは分かっています。それでも愛する息子にどうか、親殺しの苦しみだけは与えないでやって下さい。




「!?」



一歩、足を前に進めた私の視界に、それまで後ろ姿しか見えなかったルークの横顔が映る。


その瞳から本当に一瞬、涙が一筋だけ流れた。




「・・・・・・・・」




その涙に、私の心は決まった。




『それで主は良いのだな?』




語りかけてくるのは、ボルケーノ。


その声に小さく頷くと、承知した、とそこに対する返事が聞こえた。


そして、私の瞳からも涙がとめどなく溢れ始め、覚悟を決めた私の唇から呪文が紡がれる。




「・・・・・・・主が許す。この地にある全てを燃やし尽くせ。神の炎、アグニ!!!」


「クローディアっ?!」


『なにっ?!』




呪文の言葉とともに、私の足元からは大きな炎が沸き起こった。




『我が主の願い、叶えよう』




その炎とともに現れたボルケーノの両手から大量の炎が生まれ、シオンさんと黒の魔女の幻影とともに、『ルトラヴァイス』の街全部をその激しい神の炎でもって一気に包み込んだ。



本音を中々見せないルークの心の一部が、見せられたらいいかなと思いつつ、それを出すには乗り越えないといけないものがまだまだあります

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