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モブ女子、蘇った街

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


いよいよ、最後のレアアイテムに向かいます!



「・・・・ルトラヴァイスが復活した?」


「ふぇっふえっふえっ!そうじゃ!あの滅んだ筈の街が、ある日を境に滅ぶ前の姿そのままで復活したのじゃ!」


「!?」


「ルーク?」



最後のレアアイテム『大地の腕輪』の在り処をヴァレンティーナが話した際、あのルークがいつになく焦った顔を見せた。


『ルトラヴァイス』という街はもう何年も前に戦争で滅んで今は更地であったはずなのに、その付近を通りかかった何も知らない旅人がその街の話をしたことで判明したという。


滅んだ建物が蘇り、死んだ者が蘇った街。



「わしの言葉が信じられぬなら、ほれ、自分の目で直接見てくるがよい!」


「!?」


「ちょっと待っ・・・・!!」



私が言葉を言い終わる前に、いつものように足元の魔方陣が光り私達は別の場所へと飛ばされた。






『ルトラヴァイス』



まさか、その名の街を記憶の中以外でまた訪れることになるとは。



「ク・・・・ルーク!大丈夫?!」



目が覚めると、いつもなら逆の立場で声をかけていた彼女が顔を心配げに歪めながら何度も声をかけてくる。



「良かった!中々起きないから」



ぼくの無事を確認して、ほっとした様子で息を吐いた彼女を見て不思議な感覚になった。


しかも、まさか誰かと一緒にあの地へ行くことになるとは。



「・・・・・行こうか」


「ちょ、ちょっとルーク!?」



誰が、何の目的であの地を蘇らせたのか。


知るべきはそこだ。





光る魔方陣の光が消え、豊かな木々に覆われた山々に囲まれたその道をクローディアとルークが歩いていると、目の前に倒れた人影が映る。



「・・・・た、大変っ!?」



クローディアが急いで駆けつけて、すぐ命に別状がないことが彼女の安心した顔を見て分かった。



「・・・・・ッ!?」



そして、その人影の顔を見てルークの心に衝撃が走る。


その『男』の顔には見覚えがあったから。


だがその男は現在、この世にいないはずの人間だった。






「・・・・ルーク?」



ルークの様子が、またおかしい。


今も黙り込んだまま何の反応もない。


きっと『ルトラヴァイス』は、彼の過去に大きく関係するところなのかもしれない。


彼のルートの流れだけでも知っていれば、彼の気持ちを知った上で動けるのに。



「・・・・・ん、こ、ここは?」


「!?」



私の他者自動回復機能が久々にちゃんと発動したのか、生き倒れていた男性は体力が回復したようでようやく目を覚ました。


明るめの茶色の髪に、焦げ茶色の瞳。


ルークのような華のある美形と並ぶと地味に映るが、親しみやすそうな爽やかなイケメンです!



「君が、助けてくれたのか?」


「あ、いや、私はそばにいただけで、何もしてないです」



それは事実です。



「いや、それでも体が全然軽いんだ。ありがとう!」


「い、いえ、本当に何もしてなくてですね!」



丁寧に頭を下げてお礼を言う男性に、私も戸惑ってしまう。


ちなみに立ち上がったら中々背も高く、細身だがつくべき筋肉がしっかりついてる感じ?



「故郷へ里帰りの途中だったんだが、途中モンスターに襲われて必死で戦いつつ逃げていたら、情けないことに疲れて倒れてしまっていたらしい。君たちも急いでいるだろうに、申し訳なかった」


ほら見て、この穏やかな笑みを浮かべつつ落ち着いた雰囲気もあるこの男前な男性を。


とうとうこの世界は、モブにまでイケメンが出てくるようになってしまったらしい。



「そうだったんですね。あの・・・・」


「失礼ですが、故郷はこの先にあるルトラヴァイスですか?」


「!?」




珍しく、ルークが私の会話を遮って入ってきた。


いつもなら、成り行きを静かに見守っていることが多いのに何かこの人にあるんだろうか?



「そうなんだ!嫁がもうすぐ赤ちゃんを産むから、これからは故郷で一緒に暮らそうということになって、俺だけ一足早く準備も兼ねて来たんだが途中道を間違えてしまって」



顔を恥ずかしさで赤くしながら面目ないと頭をかきつつ、その男性は喜びにあふれた様子で話す。


この甘々な空気が漂う感じは、新婚さんだろうか?



「・・・・・そうですか。僕たちもちょうど、ルトラヴァイスに用があって向かってる途中なのでご一緒してもいいですか?」


「もちろんだ!ぜひ、俺の家にも寄って行ってくれ!君たちにはちゃんと礼がしたい」


「・・・・ありがとうございます♪」


「あ、ありがとうございます!」



こうして、爽やかな青年ーーーー名はシオンと名乗ったその男性と3人で、私達はルトラヴァイスへと向かうことになった。


その道中、こちらが聞いてなくても惚気とはだだ漏れるもののようで、シオンさんからはお嫁さんであるアナスタシアさんのことばかり聞かされている。


まぁ、聞いているのは私だけで、いつもの調子に戻ったルークは少し離れた後ろでニコニコと我関せずでマイペースに歩いていた。



「アナスタシアは本当にいい女なんだ!控えめであまり自分の気持ちを話したがらないんだが、優しく相手のことばかり考えて動いてるやつで、はしゃぐことは少ないんだが時々見せるわずかな笑顔がまた一段と可愛くてな!」


「・・・・・そ、そうなんですね」


「最初は相当な人見知りでまともに話してもらえるようになるまでかなり苦労したんだが、少しずつ心を開いてくれる感じがまたたまらなく可愛いんだ!」


「は、はぁ」



しまった、惚気が止まらない。


きっとルトラヴァイスへ向かう途中も、ずっとお嫁さんのことばかり考えていたに違いない。


ただ、気になるのはこの人の口ぶりからするとルトラヴァイスが以前滅んだということが全く感じられないのだ。


もしかしたら滅ぶ前に街を出て、滅んだことを知らずに戻ってきたんだろうか?



そのことをシオンさんへと話す前にルークの方へ顔だけ振り返ると、彼も分かっていたのだろう、ニッコリ笑ったまま人差し指だけを立てて口元に黙ってあてた。



それはまだ秘密で。



無言でその合図に頷き、シオンさんとの会話に戻る。



オレンジの屋根と白い壁の家が立ち並ぶルトラヴァイスの街は、もうすぐそこだった。



海沿いにあるその街は、遠くからどこを見ても橙の似た色の屋根の家が集まっていて、そういえば前世でも似たような街が世界にあったように思う。


写真でしか見たことのないその風景に、とても似ていた。


何年も前に滅び、つい最近まで更地だったとは思えないぐらいとても立派な街並みだ。



「ルトラヴァイスが見えてきた!本当にあそこは何年たっても変わらないな。ルトラヴァイスは海の幸が豊富なんだ。ぜひ、それを使った料理を食べて行ってくれ!母さんの作る料理は、そこいらの料理人のものより腕は確かでうまいんだ!」


「ありがとうございます!すごく楽しみです!」



懐かしい故郷の姿に、シオンさんは興奮気味で話し始める。


その一方で、あいつにも早く見せたいな、と今は離れているお嫁さんを思って少し寂しそうな顔も見せていた。


そしていよいよルトラヴァイスの街の中に入ると、道を行き交う人の活気がもの凄かった。


道なりにずらりと並ぶ、海で獲れた海の幸やその飲食店に貝殻等を使った装飾品を扱う店に人が次々と集まり、先へ進むのも一苦労なほど賑わっている。



「さぁ、今朝獲れたばかりの新鮮な魚だよーーー!!!」


「今流行りの、赤珊瑚を使ったネックレスはどうだい?プレゼントに最適だよ!」


「そこのお嬢さん、お一ついかが?」


「・・・・だ、大丈夫です!」


「あら、いやだ!!シオンの坊ちゃんじゃないか!!帰ってきたのかいっ!?」


「あぁ、ただいま!ファルナおばさん!」


「ちょっとみんな!!シオンだよ!!シオンが帰ってきたよ!!」


「!?」



恰幅のいい、ファルナおばさんと呼ばれた女性の一言でそこら中の人がこちらに振り返り、シオンの元へと勢いよく詰め寄る。



「本当にシオンだ!おかえりなさい!」


「いつ帰ってきたの?!」


「そばにいる人は、もしかしてお嫁さんかい?!」


「帰って来るなら、連絡をしてくれれば歓迎の祭りでも開いたのに!」


「よく帰ってきたなぁ〜おかえりシオン!」



街の人気者なのか、シオンさんは老若男女問わず詰めかけられ、その1人1人に優しく穏やかに接していく。


若い女性の中には、彼を好きだというのが一目で分かるぐらい頰を赤くして喜んでいる子もおり、うっかり誤解されて足を思い切り踏みつけられてしまった。



くっ!ひどい冤罪だ。



ひとしきりもみくちゃにされ、なんとか誤解も解けて街の人達から解放された頃には、部外者である私までなぜかぐったりしてしていた。


ルークはといえば、さっきのもみくちゃ騒動の際も1人で少し離れた屋根の上に避難しており、今もフードをいつもより深めにかぶってその表情を隠している。


口元はいつものように笑っているが、やっぱりいつもとは様子が少し違うようにも感じた。



「街のみんながすまなかった。大丈夫かい?」


「・・・・は、はい。一応」


「この先の家が俺の家だから、ゆっくり休んでいってくれ!」


「は、はい」



先ほどのお店が集まっていた住宅街の並びから少し外れたその奥まったところが、シオンさんの実家だということだった。


シオンさんの指差した方向に小ぶりだが他の家と同様に、オレンジの屋根に白い壁をした鉢植えや壁にも草花に溢れた温もりのある家が見えて来る。



「シオンにいちゃーーーーーんッ!!」


「!?」


「この声はまさか・・・・」



その声は1つだけではなく、だんだんと大きくなりその正体が勢いよくシオンへと飛びかかる。



「シオン兄ちゃん!!おかえりなさーーーい!!」


「兄ちゃん、ぼく兄ちゃんの為にたくさん魚釣ってきたんだよ!!」


「兄ちゃ〜〜ん!会えなくて寂しかったよ〜〜!!」


「・・・・・・」


「カルロ、エラ、ケイリー!それにお前は・・・・まだ生まれたばっかりだった、ジェーンか?」



シオンの足元に、小学生の高学年くらいのシオンをそのまま幼くしたようなカルロと呼ばれた少年に、気の強そうなエラと呼ばれた長い髪を1つに結んだ少女、そして小学生の低学年くらいの一番ワンワン泣いているケイリーと呼ばれた少年。


そして、少し離れたところでそんな兄弟たちを見つめている、唇を噛み締めた幼稚園児ぐらいの髪を高いところで左右結ったツインテールのつるっとしたおでこが可愛らしい女の子。


彼女が持つには大きなボールを胸元で抱きしめながら、唇を噛み締めて複雑な顔をしてシオンさんを見つめている。


彼女にも穏やかに笑いかけると、シオンさんはその腕を大きく広げた。



「おいで、ジェーン」


「・・・・に、にいちゃーーーーーん!!」



その胸に向かって、耐えきれなくなった少女が涙を目いっぱいに溜め、持っていたボールを落としながら駆け寄って力いっぱいに抱きつく。


そんな4人の兄弟たちを大きな腕でしっかりと抱きしめながら、シオンさんの目も涙ぐんでいた。


その姿を見ているだけで、こちらもついついもらい泣きをしてしまう。



一応前世で妹は1人いたが、果たして何年か会わなかったぐらいでこんな感動の再会をお互いできていたかというと、かなり怪しい。


『久しぶり』『元気だった?』くらいのあっさりした会話で、すんなり終わってしまいそうだ。




その後、家の玄関前でシオンさんの面影が分かるキリッとした顔つきの女性が私たちを暖かく出迎えてくれた。


出会い頭にシオンさんを殴りつけたのにはビックリしたけれど、ぼそっと『無事ならもっとマメに連絡しなさい』と彼女が呟いたのが聞こえてほんわかした気持ちになる。


それが聞こえたのだろう、シオンさんも心から嬉しそうな笑顔を見せていた。





この平和を絵に描いたような街がかつて滅んだ街とは、とてもまだ実感が湧かない。


街の人達もシオンさんの家族も、みな笑顔が眩しく生き生きとしている。


この人達が実はもう死んでる人かもしれないなど、こうして実際に接していても分からない。


だって、とても暖かいのだ。




「ねぇねぇ、おねえちゃんはにいちゃんのおよめさん?」


「えっ!?それは違うよ!!」



スカートの裾をくいっと引っ張られたと思うと、足元には大きな可愛い瞳をくりっとさせた幼い少女が目をキラキラさせて見上げてくる。



か、可愛いっ!!



「そしたら、おともだち?」


「そ、そんなかんじかなぁ?」


「それならじぇーんとあそんで!!」


「えっ!?」



喜びに頰を高揚させたジェーンがクローディアの手をつかみ、外へと引っ張り出す。



「じぇーん、ぼーるあそびがすきなの!ぼーるであそぼ!!」


「ちょ、ちょっと待って!」


「ジェーンずるいぞ!ぼくもお姉ちゃんと遊びたい!」


「えっ?!」



ジェーンとケイリーから左右に腕を引っ張られながらチラッと顔だけを振り返ると、ルークはその様子に笑顔で手を振り、シオンさんは両手を合わせてすまない!と頭を下げていた。


食事や諸々の支度の間、子どもたちと遊んでいていいのならば思いっきりさせてもらいますか!


保育士魂が唸り、私は汗だくになりながら子どもたちと全力で遊んだ。


気づけばカルロやエラも途中から加わり、手加減ができないくらい本気で遊びたおす。




彼らの笑顔はどこまでも眩しく輝いていて、とてもこれが偽物や死者のものとは思えなかった。


実は滅んだこと自体が間違いで、こっちが現実なんじゃないだろうか?


この街を知らない私でもそう思うのだ。



もし、この街で生まれ育った人がそれを知ったら果たしてどんな思いを抱くのか。





この街に一体何が起こったのか、この時はまだ何も分からなかった。

子ども達のパワーは本当に、ものすごいなと関わるたびに感じます!


そして与えてるつもりが、こちらがもらってばかりのことが多いんですよね

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