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モブ女子、今自分にできること

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


自分自身もすぐに忘れがちですが、『当たり前』の大切さに気づけることはすごいことだと思います

ツボを運んだおかげで、クローディアはその村の色んな人たちと話すことができた。



火山の噴火は『山の神様の怒り』と昔から言われ、豊穣のお祭りや神呼びの儀式にきちんと捧げ物をするようになってからその噴火は起こっておらず、村は平和に過ごせていたのだと。


豊穣の儀式ではその年に取れた作物の一部を、神呼びの儀式では山から流れてくる澄んだ湧き水をそれぞれ供物と送る。


火山の中にある祭壇の前には大きな鍋のような鉄の平たい器がおいてあり、その中にツボで汲んできた水を入れるのだ。


鍋は、給食を作る調理室で見たことがある大鍋の倍ぐらいと言ったら分かりやすいだろうか?


火山の内部は道が一応作られているとはいえかなり長い坂道で熱く、炎には耐性があるこの体もかなり重たいツボを持ちながらの重労働に汗をびっしょりかいていた。



『主よ、魔法で楽に運んだらどうなのだ?』



頭の中には、悪魔の囁きーーーーーじゃなくて、神様の呼びかけが響く。



「ありがとう、ボルケーノ。でも、それじゃダメなんだ」



先ほど村の人から聞いた話の続きで、この神呼びの儀式が始まったのは、村の作物が天気等の影響で不作となり作物の実りが大変に少なく、このままでは村の人間がみな餓死してしまうと考えた当時の村の村長が始まりとのことだった。


彼は神と崇める山に登り、何度も何度も村を助けてくれるようお願いした。


時には数少ない作物を捧げ、貴重な水を捧げ、山までの往復をその足がボロボロになるほどに通い願ったその姿に心をうたれた山の神が、村の作物や水源を豊かにして村を救ったという伝説が始まりだという。




だからこそ水は自分の足で運び、その姿こそを山の神に見せなければなんの意味がないのだ。


私がその話をボルケーノに伝えると、なるほど!と大きく頷いた。



『それでは、古の魔導師はどうしたのだ?』



「さぁ。さっきの巫女様と・・・・よいしょ!仲良くお話でも、してるんじゃないですかっと!」




往復を始めて5回目。


ようやく半分だ。



この村の人達は暖かく、ツボを運ぶ私にパンやらお菓子やら果実やらと色んなものをくれるのだ。


荷物が重くなるのが困るからと、その場で食べながら行く為に気づけばお腹がパンパンになっている。


ついでに、時には山の神様にどうぞよろしくお願いしますと、拝まれもした。



この村の人達にとって山の神が住むとされる火山はとても神聖なものらしく、その巫女に選ばれることはとても名誉なことらしい。


毎年1人、その年の15歳の若い娘が山の神の神託とやらで選ばれる。


中には私がその巫女だと勘違いしているご老人がおり、何度否定しても伝わらない為に最後は諦めて巫女っぽく振舞ってその場を早々に離れた。




だが、さっきの巫女様を見る限り、誰も彼もがその役割を喜んでやるわけではないようだ。


いくら昔から続いている伝統だろうとも、そこに込められた本当の意味を理解していなければ、彼女のように嫌々やるだろうしそこには何の思いもこもらないだろう。


たとえになるかはわからないが、なりたい夢がありそこへの具体的な目標があって真剣に受験をするのと、何もなくてただやりなさいと言われたからやる受験とではその意味が大きく違う。



私は、後者だった。


成り行き任せの行き当たりばったり。



考えてみれば、前世では毎日を淡々と仕事と家の往復の中でゲームや漫画が心の癒しで、日々の小さな幸せに心を踊らせて満足していた。


でも、思いっきりやりたいことをやりきることもなく、何かに心の底から挑戦することも成し遂げたこともなかったように思う。


諦めて逃げて何もしないまま、私の『森山雫』としての人生は突然終わってしまった。


だからこそ、今は目の前の目的の為にできることには全力で向かいたい。



「よし、次で7回目だ!残りあと3回!!」



気合を入れ直し、腕を空に向かって大きく伸ばしてからツボを持ち上げる。


腕も足もかなり重くなっていたが、後は気力で勝負だ!






その頃、古の魔導師はというとーーーーーー。



「ねぇねぇ、魔導師様!私と村のほとりにある泉を見に行きませんか?時間によって色が変わる、とても不思議な泉なんです!」


「フフ・・・・豊穣の準備とやらはいいのかな?」


「あんなのは他の人に任せればいいんです!私は本番で嫌でもやるんだから、準備ぐらい他の人にやってもらわなきゃ!」


「なるほど・・・・ね」



信じられる?こんな美形の人、この辺一帯の村でなんか滅多にお目にかからないわ!


あぁ、もう!


この魔導師様の前では村一番のいい男と言われていたローレンなんか、一瞬で頭の中から消え去ってしまった!


この知的で品のある美しい人こそが、きっと私の王子様に違いない!!


だって、さっきからあんなにもステキな笑顔で私に向かって笑いかけて下ってくれてるんだから。



私『エリス』はずっとこんな小さな村で生まれ育って、さえない村の男の中から結婚相手を選んでその人と家の為に尽くして世話をしなきゃいない、お母さんと同じ人生を歩むことが嫌で嫌で仕方がなかった。


お母さんもお父さんも、女とは家庭でこうあるべきだって伝統だとか古臭いことばっかりだし、大きな街みたいに楽しいことも何もない。


しかも、その伝統の巫女になんてわけのわからない神託だからと勝手に選ばれて本当にうんざりしていたのだ。


毎日が同じことの繰り返しでつまらなくて飽き飽きしていたところに現れたのが、あのどこにでもいそうな女とともに現れたこの魔導師様。


私の前にキラキラした光が彼が現れた時に確かにわたしの視界に映り、心は一瞬にして奪われてしまった。



「あ、あの、あなた様のお名前は・・・・」


「君は、平和な村に生まれてよかったね♪」


「!?」



私に向かってニッコリと眩しい笑顔を向けると、そのまま魔導師様はくるりと体の向きを変えて部屋をすぐに出て行く。


私はその笑顔に腰が抜け床にそのまま崩れ落ちると、まだ名前も知らない王子様の小さくなっていく背中をうっとりと見つめていた。







そして、巫女の家を出たルークがまっすぐに向かった火山へと繋がる道の途中ーーーーーー。



暑い日差しの中で大きなツボを汗だくで運んでいた少女が、ルークの視界の中で地面に倒れた。



「・・・・・・お疲れ様でした」



声を静かにかけた後、彼女の体をそっと抱きかかえながらルークは『神水』のある井戸へと歩いて行く。




10往復を無事に終えたのだろう。


ルークの腕の中で眠ったように意識を失っているクローディアは、とても満足そうに笑っていた。

誰にでも優しくはしないのが、ルークです。


彼はゲームでも親密度が上がりにくく、友達になるのにも時間と手間がかかるものの、一度信頼関係がしっかり築ければ恋愛へは発展しやすいという設定が最初ありました

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