モブ女子、力の使い方
今回もお読みいただき、ありがとうございます!
鳥戦争の続きです!
花を摘みにきただけなのに、かなり大事になってしまいました。
自然界の弱肉強食の世界において、どちらが可哀想とかいうことはない。
ライオンに狙われたシマウマを助ければ、ライオンの家族が飢え死にしてしまうからだ。
前世でまだ自分が幼い頃。
蜘蛛の巣に捕まった蝶を助けたことがあったが、もしかしたらその蜘蛛の巣の蜘蛛はお母さんでお腹にいる子どもの為に栄養が必要なのかもそれない。
何日も食べ物にありつけず、ようやくかかった獲物だったのかもしれない。
蝶の方だって、もしかしたらサナギから羽化したばかりで今さっき大空を飛び立ったばかりの瞬間だったのかもしれない。
学校で自然界の流れを習ってからそんなことを考えて、自分のした行動が正しいのか間違ってたのかとても悩んだことがあった。
今もそう。自分のたった1つの行動から、鳥のモンスター戦争が勃発するなど考えてもいなかった。
ルークは、そこまで考えてから行動することを私に伝えようとしてくれたのだろうか?
「ピイィーーーーッ!!」
「・・・・・ごめん!そうだね!今は君たちを助けるって決めたんだから、そこに全力でやりきるよ!!」
肩口のクロワッサリーに注意されて、目の前のトルティーガに群れに集中する。
「主が求む、全てを凍てつかせろ!!真なる氷、フィンブル・ヘイル!!!」
いくつもの氷の壁を作り出して後ろのクロワッサリー達の補佐をするとともに、氷の大量の矢をトルティーガに向けて一斉に放つ。
「ピギャァーーーーーッ!!!」
そして、その矢に当たったトルティーガが次々と氷漬けになって海へと落ちていく。
その矢から逃れたトルティーガが次々と私へと襲いかかり、そこへ群れになったクロワッサリーが迎え撃つ。
さらに、そのクロワッサリーの大群すらもすり抜けたトルティーガとは接近戦となり、魔法で作り出した氷の剣で彼らのくちばしと応戦していた。
ルークから甘いと言われそうだが、その剣の刃の部分は丸みをおび、斬るというよりも叩きつけるような感じだ。
なるべくなら軽傷で戦線離脱をしてもらいたい。
「くっ!!これじゃ、キリがない!!」
数は減ってきているが追加で増えることもあって、あまり戦況は変わっていなかった。
肩口のクロワッサリーもかなり活躍しているがそのたびに傷を負っては戻ってくる。
私のそばにいれば傷が回復することに早々に気づいた賢い彼は、敵と戦いながらも上手く私の元へと戻っては傷を癒してまた戦いの場へと戻っていた。
『我が主よ、なぜ我の力を求めんのだ?』
「!?」
その時、頭に鳴り響いたのは力強く低い声。
「ボルケーノっ!!!」
私の側に現れた炎の神は、その自慢の筋肉を惜しげもなく見せつけるようにして胸を張りながらニヤリと不敵な笑みを浮かべている。
その力を、借りてもいいのだろうか?
『遠慮することはない。我の力も、そなたの力だ』
「!?」
ボルケーノの言葉にスッと近くで空に浮いているルークの方を見ると、彼は変わらずニコニコと笑っていた。
ボルケーノの力を使うか使わないかも自分で決めろと、そういうことか。
それならば、私はーーーーーー。
「ボルケーノ!!あなたを力を貸してっ!!トルティーガをこの地から追いはらいたいの!!」
使えるものは、なんでも使う!!
『承知した。我が主の願い、叶えよう!』
ボルケーノの顔が喜びからさらに横へと唇が笑みに広がり、両手を大きく広げ拳に思いきり力を込めて握りしめる。
すると大きな炎がそこから燃え上り、私のいる場所から前の空にいるトルティーガとクロワッサリーの全てを一気に炎で包み込んだ。
「・・・・・・す、すごいっ!!」
その炎の中で、トルティーガのみが触れた炎で羽根が燃え始め海へと落下していく。
だがよく見てみれば、その立派で大きな羽にその炎による傷はない。
『あれは幻炎だ。だが、多少本物の炎も混ざっておるゆえ痛みは感じるやもしれぬがな』
「ボルケーノ・・・・ありがとう!」
どうやら、彼らを必要以上に傷つけたくはないという私の気持ちまでこの神様は何を言わなくてもくんでくれたようだ。
新たに増援で来たトルティーガも炎で落ちていく仲間の姿に恐れをなして逃げていき、クロワッサリー達の大勝利となった。
トルティーガから解放されたクロワッサリー達が次々と喜びに空を勢いよく旋回し始め、私の周りをぐるぐると飛び始める。
「ピイィーーーーーーッ!」
「!?」
私の肩口にいるクロワッサリーも大きな声で鳴いたかと思うと、私の頬にその体をすり寄せ喜びを表していた。
その羽根をくすぐったい気持ちで撫でながら、私は両手を広げると大空に向かって力の限り大声で叫ぶ。
「いよっしゃぁーーーーー!!勝ったぞぉぉぉーーーーーーーっ!!!」
「「ピイィーーーーーーッ!!!」」
私の声を合図に、クロワッサリーの鳴き声があちこちで聞こえ始め、最後には歌のように空に向かってその大音響がこだましていた。
その様子を少し離れたところで浮いていたルークは、いつもとは少し違う笑みを浮かべて見つめている。
彼の周りにも、クロワッサリーは喜びの声をあげながら旋回していた。
彼が戦の中で傷ついたクロワッサリーを静かに癒していたのを知るのは彼らだけである。
その空の大音響は、はるか地上にある王都にまで鳴り響いていた。
「だ、団長!!何やら、上空にいるクロワッサリーの大群がこの騒ぎの原因のようです!今は繁殖期の為に、必要以上に気が立っているのが理由と思われます!」
「・・・・そうか、ご苦労だったな」
「は、はい!失礼しますっ!!」
騎士院から少し離れたところにある、王都中を見渡せる見張り台の塔の上にて空をじっとまっすぐな眼差しで眺めているのは、騎士院団長のジークフリート。
彼の目線の先には、上空にて黒い点のようにかなり小さく見えるクロワッサリーが大勢空をぐるぐると旋回している。
仲間意識の強い彼らが団体で移動することは珍しいことではないが、なぜか今日はその光景に胸騒ぎを覚えていた。
あのパーティー以来、姿を見ることが全くできていない彼女のことを思って、落ち着かない日々が続いているせいだろうか?
騎士院にお弁当を届けてくれたイザベル殿に彼女のことを聞いても、用事があって遠くへとお使いに行っているとしか教えてくれず、今どこにいるのかも行方が分からない。
魔法院の長であるルーク=サクリファイスも、同じ頃から私用で姿が見えないと聞き胸騒ぎは強くなる一方だ。
もしや、2人は今一緒にいるのでは?と。
それだけのことなのに、胸の奥が痛んで仕方がない。
彼女の安否を心配する気持ちとともに、何やらその奥で黒くて醜い気持ちが俺の心をかき乱す。
クローディア、お前は今どこで何をしているんだ?
会えない時期など前はよくあったしその時はなんとも思わなかったはずなのに、今はざわざわと心の嵐が止まらない。
ジークフリートは唇を強く噛み締めると、見張り台から降りて早足でアルカンダル王国の中心へと向かう。
この後、アヴェロニア城に来るようにとアレキサンダー王様から呼ばれているのだ。
今は自分のやるべきことに集中しよう。
「・・・・・・ッ!!」
そう決断すると、ジークフリートは腰にあるボルケーノ様から譲り受けた炎の剣を鞘の上から力強く握りしめてから、まっすぐさらにスピードをあげて前へと進んだ。
こっそり、地上の様子も入れてしまいました。
会えない時間が色々育ててくれればいいんですが。




