モブ女子、ついにお茶会の日が来ました!
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
ようやく実現した、あの時話してた3人のお茶会です♪
王宮での色々な出来事を、その事実だけを後から知らされた私はとりあえずアルフレド王子の命を直接狙う人達が皆王様によって断罪され、王都から追放されたことに心から安心した。
それと同時に、アルフレド王子の専属護衛がバーチを中心に王様とアルフレド自身の意思でもって精鋭部隊が10人ほど選抜され、ジークフリート様は晴れてお役御免となり、1人無双の危険からは遠ざけられることが分かり、もうしわけないがそちらの方がより心がほっとしてしまった。
とりあえず、王子関連の死亡フラグを折るという目標は達成です!
そして、それを聞いているのは今目の前で静かに入れられたばかりのお茶を、これまた繊細なデザインで白い陶器に紫の花が描かれた、オシャレなアンティークなティーカップで飲んでいるエリザベスとその隣のグレイさんから。
はい、このメンツを言えば今何をしているのかすぐにお分かりかと思いますが、あの約束のお茶会がついに実現しました!!
しかも、まさかの王宮にあるエリザベスの自室で!
きらびやかなシャンデリアに、見るからに高そうなアンティーク調の家具達と大変礼儀正しく背筋をピンと伸ばされて立つメイドさん達に囲まれて、落ち着いてお茶なんか飲めるわけがない!
ひでじい、カムバック!!
王都の高級カフェも十分緊張したけど、本物のセレブ部屋は庶民にはレベルが高すぎます!
え?マナー教室で王妃の部屋に散々いただろうって?
あの時は地獄の特訓に意識が向けられて何とも思わなかった色々なことが、今一気に押し寄せてくるんです。
こんな緊張に今にも吐きそうな状態でリラックスなんてできるわけがない。
そんでもって、私が緊張感を解けない理由が実はもう1つ。
「クロエ!カップは片手でこう持ちますのよ?親指・人差し指・中指を中心に、ティーカップの取っ手には指を通さないでつまむようにですわ」
「えぇっ!?こ、こんな不安定な状態で持つのっ?!」
「クロエ!持ちにくいからと言って、両手を添えて持つのはマナー違反ですわ!それは冷めているということを表しますのよ?」
「こ、こんなに熱いのにっ!?」
「クロエ!お砂糖やミルクを入れた時は、スプーンはカップに触れないように混ぜるんですわ!かちゃかちゃ音を立てるなど、淑女にあるまじき行動ですっ!」
「わ、私は淑女じゃなくてモブの一般人です〜〜っ!」
「クロエっ!!」
「ひいぃっ!ま、まだ何かあるのっ?!」
「スプーンを動かす時は縦にですわ!くるくるかき混ぜるなんて・・・・言語道断ですわよ?」
「は、はいぃぃっ!!」
カタカタカタカタ、とクローディアの全身が目の前の鬼コーチの威圧感バリバリの笑顔で震え上がる。
ちなみに言語道断うんぬんは、もちろん私の耳元にそっとだ。
ぴしぃっ!!と、目に見えないムチが降りおろされている気分です。
前世の時なんか、家でお茶を飲む時はあぐらで全身の力をだらっと抜ききったリラックスモード100%で、熱々の抹茶ラテやチャイティーにココア、カフェオレなどを大きなマグカップを両手で持ちながら飲んでいたのに。
お嬢様は飲み物1つ飲む為だけに、こんなにも全身の神経と筋肉を使っていたのか!
カップを持ってる指先なんて、慣れなさすぎてプルプル震えて今にも右腕がつりそうです。
もし割って弁償なんてことになったら、うちの店が潰れるから絶対にこの指は死んでも離せないけども!
「ーーーーーー大丈夫か?」
「は、はい・・・・」
左側にはどこまでもうつくしく優雅にお茶をお飲みになるエリザベスが、右側にはさすがというくらいマナーをさらっとクリアーして静かに、そしてスマートに入れられたお茶を飲むグレイさんがいる。
何でこんなアウェイな私が、ステキな2人に挟まれて高級なティーカップで高級なお茶を飲んでいるのか疑問で仕方がない。
いや、何度も提案したんですよ?
この間のパーティーに懲りて、私抜きでやった方がスマートで品のある楽しいお茶会になるんじゃないかと。
そしたらーーーーーー。
『グレイ様と2人きりなんてとんでもないですわ!!緊張で取り乱す姿など、あの方に見せるのはわたくしの矜持が許しません!!』
あんなに大勢の貴族様の前で、あんなに堂々と完璧で華麗なダンスを披露した方が何を今さらと伝えたんだけど。
『貴族の方々とあの方を一緒にしないでちょうだいっ!!」
と、それはそれは顔中を可愛く真っ赤にしたエリザベスが是が非でも譲らなかった。
おかげで私が緊張でガチガチの刑になっている。
その傍らで、2人は専門家並みのお茶の知識を披露し合いながら熱い議論をとても楽しそうに交わしていた。
「まぁ!それはわたくし、存じあげませんでしたわ!」
「ーーーーーいや俺の方こそ、知らないことばかりでありがたい」
初めこそ緊張に強張った表情をしていたエリザベスだが、話が弾むにつれてどんどんイキイキとした笑顔に変わり、楽しい会話からの興奮と憧れの人との貴重な時間に頰も赤く染まっていく。
年齢よりもはるかに大人びた強さと凛とした美しさを誰もが感じるエリザベスが、ただ1人の可愛い少女としての笑顔を綻ばせる。
その顔を横で見ているだけで、クローディアは心がほんわかと温かくなるのを感じた。
「本日のお茶菓子である、クッキーでございます」
2人の話がだいぶ盛り上がってからようやく一息ついた頃を見計らって、エリザベス付きのメイドさんがアンティークのお皿に入れて木の実やナッツが入ったクッキーを持ってきてくれた。
さすが!
すごいベストタイミング!!
「いやったぁ〜〜!!」
甘い物が体の中に入れば、緊張感による体と心の疲れが和らぐかもしれない!と、すぐさまお皿の中から一枚指でつまんで口の中に放り込む。
「おいしぃーーーーー!!」
味にコクがありながらもしつこくなく、いくらでも食べれそうな軽いサクサクした感触、そしてバターのおいしい風味が一気に口の中に広がり、思わず2枚・3枚と次々に手がお皿に伸びて止まらない。
「もう・・・クロエったら!」
「ーーーーーおい、少し落ち着け」
鬼のマナーコーチも、おやつの食べ方だけは仕方がないと目をつぶってくれたようで苦笑された。
いや、本当にコレやばいくらいにおいしい!
こんな高級クッキーなんて、前も今も食べたことなんてほとんどない。
夢中になって食べているとその横から世話焼きモードに入ったグレイさんが、食べカスのついた口元にため息をつきながら指やハンカチでそれを取り除く。
「ーーーーーこら、もっとゆっくり食べろ」
「ほ、ほんなこと、いわれてもっ!」
しまいには呆れ顔のグレイさんに顎を掴まれて、口元をゴシゴシ何度も本格的に拭かれ始めてしまった。
これでは本当に子どもだ。
おかしい。
これでも一応アラサーなのに、なんでこんなことになった?
「!?」
こんな姿を見たらエリザベスが何か誤解するんじゃないかと、慌ててそちらに目線を向けるが、エリザベスはそんなグレイさんにむしらポーーーーっとした様子で見惚れていた。
こ、恋する乙女の顔だ!!
その可愛い顔をぜひグレイさんに!と思うのだが、グレイさんは私の顔を拭くのに真剣。
「???」
一体なんなんだ、この光景は?
バンッ!!!
「エリザベスっ!!ここにクローディアがいると聞いたぞ!!」
「「「!!??」」」
そしてここで、この部屋にさらに登場人物が増える。
彼の目に映ったのは、クローディアの頰に手を添えながら至近距離に顔を近づけたグレイの姿。
「お、お、お前らは一体何をしてるんだーーーーーーっ!!!」
その光景に、顔を真っ赤にしたアルフレド王子の悲鳴が部屋中に響き渡った。
私も書きながらおかしいと思ったんですが。
ただお菓子をバリボリ食べだしたら自然とハンカチを片手に持ったグレイお母さんが隣に現れました。




