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モブ女子、日の出とともに

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


やっぱり彼女の最後をと思い、書かせていただきました!



愛する息子が、何度も扉を叩く。



私に会いたいと、声を聞きたいと泣きながら声をあげる。



いつもおとなしく、とても賢いラファエルは赤ん坊の頃から自分を困らせるようなことは少なく、本当に自慢のいい子であった。


わがままもほとんど言わず、どんなことにも受け入れていたはずの我が子が初めて心からの思いを叫ぶ。



私に会いたいと、声が・・・・聞きたいと。






「ーーーーーーーッ!」




アビゲイルは紅い唇を噛み締め、声が漏れないようにと押し殺した。


そして、扉を開ける為にと今にも動き出しそうな足を止める為に、手でドレス越しの足に爪を立てて堪える。



本当は愛する我が息子のラファエルに会いたかった。


力いっぱい抱きしめて、その温もりを全身で感じて覚えていたい。


その輝かしい姿を、この目にしっかりと焼き付けていきたかった。




「ーーーーーーーッ!!」




子どもは昔から嫌い。


それでも自分が女としての頂点にたどり着く為には必要なコマだから、王とも何度となく夜を共にし子どもをこの腹に宿した。


自分の身体しか武器を持たず、まだ少女と呼べる頃から男に自分を売り込み、取り入ることで欲しいものを得てきたこの身にとってそれ自体は大したことではない。


だが、妊娠をすれば女として誇りにして磨きあげていた体のラインは崩れて体調も思わしくなくなる。


出産など本当に死ぬかと思うほどの苦しみがいつまでも続く中で、なぜこんな思いをして生み出さねばならないのかも、何度も意識を失いかけながら思った。


こんなにも色んな犠牲を払う価値が、自分の野望のためのコマ以上にこの生き物に在るのかと。


だが、自分の腹を痛めて産み落とした子どもをこの手に抱いた時、その顔が自分の指を握りながら笑って自分の顔を見た時ーーーーーーーこの世の全ては、この子のものだと感じた。


自分のこれまでの闇の人生は全てこの命に会うためであり、この子が将来この国の王となるその為になら、自分はこれまで以上に何でもできると。




けれど、これまでの罪が全て王に露見し罪人として明日この国を追放される自分が、これからもこの光の国で生きていく愛する息子に黒いシミを1つたりとも残していくわけにはいかない。


明日で、このアルカンダル王国とも永久にお別れだ。


生まれた時からずっと自分に苦界しか与えてくれなかった世界の中で、それでもそこから掴もうとあがいてもがいてようやく手に入れた唯一の光がそなただ、ラファエル。



そなた以外、この国の未練は何1つない。








カタンーーーーーーー。




まだ朝日が昇る前の夜中、アビゲイルは物音をなるべく立てないよう静かに部屋を出ていく。


服はいつものような派手な色彩のものではなく、懐かしい焦げ茶のくすんだ庶民の服。


全ては底辺の泥の中からスタートしたことで、長い時間をかけた後でまたその底辺に戻るだけ。


あんなにも執着し、自分の身に纏っていた美しい華美なドレスに高価な宝石等は、全てラファエルのこれからの生活の為にと置いてきた。



そんな自分には数人の兵士が逃げ出さないようにと、見張りも兼ねてアルカンダル王国の少し離れた森の入り口までついてくる。



「そなた達、もうこの辺でよい」


「わ、分かりました!」



ここまで罪人の証としてずっとつけられていた手枷がようやく外され、アビゲイルはようやく腹の奥までいっぱいに息を吸い込んだ。



「・・・・・こんな穏やかな気持ちで風を感じたのは、いつぶりだったか」



そんなアビゲイルをその場に置いて、命をかけた魔法の約定があるものの、何かあってからでは大変と兵士達は急いでその場を離れて行く。



「皮肉よの・・・・いつかこの国を出たいと願っていたことが、まさかこんな形で叶うとは」



全てを失ってから、初めてこんな自由な気持ちになるとはーーーーーーー。




ガサッ!!!



「!?」



その時ーーーーーー近くの草むらから物音がしたかと思うと、そこから灰色の布を頭から深く被った人かげが自分に向かって突進して来る。



刺客っ!?



何者かも分からないその人物に体ごとぶつかられた時、身体に痛みが走ることを覚悟していたアビゲイルだったが、痛みどころか暖かい温もりが自分のお腹あたりを包み込んでいた。



「・・・・・・・だ、誰じゃっ!?」



その見覚えのある小柄な体型から、まさかっ!!という思いに心臓が早鐘を鳴らす。



「ごめんなさい、母上!どうしても最後に、あなたに一目お会いしたかったっ!」


「ら、ラファエルッ!!??」



灰色の布の下から現れたのは、輝く金髪の髪が風にたなびく愛しい我が子だった。


その服は王都の子ども達が着る一般的な服装に身を包み、顔は泥でわざと汚されている。



「な、なぜっ!?そなたがこんなところにっ!!ま、まさか1人でここまで来おったのかっ?!」



アビゲイルは我が子のあられもない姿に、どこかにケガはないかと慌てた様子で頭の先から全身に手で触れて確かめていく。



「いえ、本当は1人で来るつもりでしたが、城を出たところでバーチ殿に見つかり一緒に来て頂けました」


「・・・・・・・ッ!!」



わずかな葉音に反応して横を見ればそこには膝を立てて座り、深く頭を下げたバーチの姿が。



「罪人の見送りは罰を受ける。ラファエル、今すぐ王都へ帰るのじゃっ!!」



彼の姿に舌をうつと、アビゲイルはラファエルを体から引き剥がし背を向けてツカツカと急いで歩きだす。



ここからすぐに離れなければ!



こんなところをもし誰かに見つかったら、ラファエルに罪がっ!!



「待ってください!母上に話をしたらすぐにも帰ります!だから、だから少しだけぼくに時間をください!!」


「バカなっ!!何を話すことがある!?わらわはもうそなたの母ではない。王都に帰り、すぐに忘れるがよい!!」


「忘れませんっ!!あなたはこれからも、たった1人のぼくの母ですっ!!!」


「!?」



アビゲイルの足が、後ろを振り返ることなく止まる。


ラファエルもそれ以上アビゲイルとの距離を詰めることなく、その場から背を向けたままの彼女に向けて声を張り上げた。



「母上のおかげで、ぼくはこの世に生まれここまで育つことができました!その恩をぼくは一生忘れないっ!誰が何と言おうと、あなたはぼくにとって誰よりも大切な母上です!」



「・・・・・・ッ!!」



アビゲイルの体は、少しだけ震えていた。


それでも決して彼の方へは振り返らない。



「もっとぼくが大きくなって立派な大人になったら、母上を探して会いにいきます!絶対に会いに行きますからっ!!」


「・・・・・・わらわからの連絡はないぞ?」


「構いません!それでもぼくは、必ず母上を見つけ出します!」


「・・・・・・・王位継承の資格を失ったそなたには、もう何の価値もない。そなたの好き勝手に生きるがよい」


「!?」



それだけを小さく呟くとアビゲイルはその場を走り出し、愛する息子のそばから離れていく。



「はいっ!!これからは自分の意思で強くたくましく生きていきます!!母上のようにっ!!」


「・・・・・ッ!!」



うつむきながら走り去るアビゲイルの目からは涙がこぼれ、声をあげそうになるのを必死でこらえながらただひたすらに前に向かって足を動かす。




愛してる!


愛してる!


愛してるっ!!



世界中の誰を敵に回しても構わないほど、そなたを心から愛している。



いつか立派に成長したそなたと、もう一度相見えること。




それが新しいわらわの望みじゃ。




その為ならば、これから自分にたくさん降りかかるだろうどんな苦しみにも耐えてみせよう。









「母上・・・・どうかそれまで、お元気で」



気がつくと涙を流していたラファエルは、笑顔でもう姿の見えないアビゲイルの走って行った道をしばらくの間見つめる。



その顔はとても晴れやかで、太陽の光が当たったその顔はこれまで見たことがないほど眩しく輝いていた。

これからラファエルくんがどんな大人になるのか、楽しみです!

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