モブ女子、罪と罰
ついに100話目を迎えることができました!!
ここまで続けて書いてこれたのも、読んでくださる皆さんがいるからです!!
本当にありがとうございます!
感想を頂けたことも、お気に入りに登録して頂けたことも、読んでくれただけでも感謝です!!
ありがとうございます!!
ある時、王都を歩いていた俺に1人の黒いローブを頭から被った魔導師が声をかけてきた。
『君の望みを叶えてあげようか?』
『!?』
その魔導師は、俺の前に2つの小瓶を渡す。
『ひとつは、命は奪わないけれど永遠の眠りに落ちる毒。もう一つは死んだ方がマシだというくらいに苦しむけれど生きることができる毒。どっちも、その後ゆっくりとその毒に侵されて死んでいく危険もある』
『・・・・・な、なぜこの俺に毒など』
『気まぐれかな♪それでも、君の持つその毒よりはマシだと思うよ?』
『!!??』
それだけを告げて、その魔導師は俺の前から姿を消した。
その魔導師が本当のことを言っている保証は何もない。
もしかしたら、同じように死をまねく毒かもしれない。
葛藤する俺に、『インズ』が現れ俺を焦らせた。
『何をモタモタしている。まさか、裏切るつもりか?』
『時を伺っていただけだ・・・・任務は遂行する』
『もし裏切れば、我らの手の中にいるお前の母親はどうなるかわからないぞ?』
『!!??』
そう、俺がアビゲイル様を裏切れない大きな理由がこれだった。
俺を女でひとつで産み育ててくれた、愛する母親はこいつらの監視下に置かれている。
俺の命はどうなろうとも構わない。
だが苦労ばかりかけてきた母親と、今自分の中で存在が大きくなっている王子と王妃の命を天秤にかけることが、俺にはどうしてもできなかった。
どちらの命も失いたくない。
その為に、俺はたった一つの可能性に賭けた。
王妃には眠りにつく毒を、王子には苦しむものの生ある毒を。
それぞれ飲み物に混ぜて、2人に飲ませた。
王妃は血を吐きながらその場に倒れ、王子は自分自身の苦しみと愛する母親の血を吐く姿に絶望し、絶叫しながらその場で倒れた。
その時の2人の姿は今でも鮮明に脳裏へと焼きつき、離れない。
『バーチ・・・・なぜ、だ?』
『!!??』
涙を流しながら自分への裏切りを責めるアルフレド王子の青い瞳に、バーチの目からも涙が流れた。
そして、俺はその日を境にアヴァロニア城から姿を消す。
アビゲイルの意識が倒れた王子と王妃に向かっている間に、母親を助け出し2人で他国に移動してその身を隠した。
その地で信頼できる力のあるものとの繋がりができた為に母親のことを託したあと、毒を含んだものの今もなお生きていると聞いていた王子と王妃のことが気になって、王都の近くで身を潜めその様子を伺っていたその時ーーーーーー再び出会った魔導師に俺は何かの魔法をかけられた。
『悪いけど、今回は君の願いは叶えられないや。君には王子を殺してもらうよ?』
「そのまま意識が遠くなり、気づくと俺の体はアルフレド王子に襲いかかっていました。その後はアルフレド王子からお聞きかと思います」
「・・・・・・・ッ!?」
バーチが全てを話し終えた時、玉座の間に強い緊張感が走る。
中でもアビゲイルの顔色は真っ青になり、その美しい顔には冷や汗が溢れていた。
あぁ、これでわらわは終わりじゃ。
ここまで築いてきた全てが終わる。
あらゆるものを投げ捨ててここまでやってきた全てのものが、無に帰す。
「・・・・・ッ」
ちらっと隣に目線を向ければ、そこには同じように青い顔をした愛する我が子が。
母親が陰で行った悪事を知り、その身はショックに震えていた。
ラファエル、アレキサンダー王の血を正しく引く次期王位継承者の1人であるそなただけは、わらわが命に代えても守る。
ガタンッ!!
その時、決死の覚悟で隠し持っていた短剣を手にもちアビゲイルが襲いかかったのは、第一王子であるアルフレド。
彼がいなくなればアレキサンダー王の血を引く王子は、我が子である『ラファエル』だけ。
「死ねッ!アルフレド王子ッ!!」
「!!??」
アルフレド王子の前に、その命を守る為にすぐさまその身を投げ出すのはバーチ。
そしてそのバーチごと彼を守る為にジークフリートが素早く駆けつけ、さらにどこに潜んでいたのか炎の鳥のマーズが突然現れて炎の壁を彼らの前に出して覆う。
「・・・・・・ッ!!!」
だが、アビゲイルの動きを止めたのは、なぜその場に入り込めたのか誰もが不思議に思うほど以外な存在。
その小さな体を震えながら必死に広げて立ち塞がったーーーーーー彼女の愛する者。
「・・・・ら、ラファエルッ!!」
「なりません、母上!!これ以上罪を大きくしてはっ!!」
「そこを今すぐどくのじゃっ!!この男がいなければ、次期王位はそなたのモノ!!」
「いいえ、絶対にどきません!!母上、ぼくは王になりたいわけじゃない!!この国の王になるのは、ここにおわす兄上です!!」
「!?」
この時まで、アルフレドは弟であるラファエルはずっとアビゲイルの操り人形であり、言いなりになることしかできないおとなしい人間なんだとばかり思っていた。
それなのに今目前にある『彼女』の炎の前で、自分達を守る為に立ち塞がった弟から発せられる声は、どこまでも強い意思に溢れている。
「兄上は、ぼくの命に賭けて殺させません!!もしそれでも母上が兄上やマーサ王妃に危害を加えると言うのなら・・・・・」
「ラ、ラファエルッ!!!」
ラファエル王子が、懐に隠し持っていた小ぶりのナイフを自らの首もとにあてる。
「その前にぼくがこの場で死にます!それなら、あなたの野望は絶対に叶わない!!」
「・・・・・ッ!!」
目の前の、愛する息子の命以上に大切なものなどアビゲイルにはない。
この子の為に全てを賭けてきたのだから。
カランッ!!
アビゲイルの手から、短剣が床に落ちる。
「!!??」
その瞬間、声を発しようとしたアレキサンダー王をその手に触れることで制し、ニッコリと微笑みかけたその女性はゆっくりと立ち上がると、アビゲイルとラファエルの間に立ちラファエルの待つナイフを下に降ろさせた。
「・・・・・ありがとうございます、ラファエル王子。アルフレドを守ってくれて。でも、その為にあなたの命を投げ打ってはいけないわ」
「ま、マーサ様」
そしてマーサ王妃は、振り返るとまだ体の震えるアビゲイルの手を取る。
「アビゲイル様。同じ息子を持つ身として、自分の子どもの為に動くその気持ちは痛いほどよくわかります。あなたから憎まれていることも、その為にバーチが送り込まれてきたことも全て知っていました」
「!!??」
「・・・・・し、知って、いたんですか?」
「は、母上ッ?!」
マーサ王妃の言葉に驚愕の表情を浮かべるのはアビゲイルとバーチに、そしてアルフレド王子。
「息子を思うが故に行った今回のことを、あなたを・・・・・わたしは許します」
「!?」
「は、母上ッ!なぜそんな女を許すのですかっ!?」
「アルフレド。母親というものは、子どもの為ならどんなこともでき、鬼にもなれるものです」
「・・・・・ッ!!」
にこりとアルフレドの方に一度笑顔を向けると、マーサはギュッとアビゲイルの手を握り強い眼差しを向ける。
「ふ、ふざけるなッ!!わらわを許すだとっ?!」
この女は、どこまでわらわを侮辱すれば気がすむのかっ!!
怒りに震えたアビゲイルがマーサへと憎しみの目を向け、その生意気な表情を崩そうと頬を打ち付ける為に手を振り上げたその時。
「ーーーーーーーそこまでじゃっ!!!」
アルカンダル王国39代目であるアレキサンダー王が、その声を大きく響かせた。
「いくら当事者であるマーサが許そうとも、王族であるマーサとアルフレドを殺そうと画策したその罪は重いっ!!アビゲイル、そなたには我が国からの永久追放を言い渡し、この国に二度とその足を踏み入れることは許さぬっ!!」
「!?」
「ち、父上ッ?!」
「そして、ラファエル王子からは永久に王位継承の権利を剥奪し、今後はアルフレド王子の臣下として我が国の為に尽くすこととするっ!!」
「そ、そんなっ!!!」
「・・・・・父上。いえ、陛下。格別な恩情を、ありがとうございます」
王からの言葉にアビゲイルはその場に泣きながら崩れ落ち、その前にいたラファエルは、父である王に向けて泣きながら膝をつき頭を下げる。
いくらこの国を遠ざけられようとも、二度と会うことが叶わなくとも。
これから先も母が生きていられるというのなら、ラファエルにとってこんなに嬉しいことはない。
もし死罪を母親が言い渡されたその時には、ともに死のうと思っていたのに、まさか母ともども生きる道を許されるとは。
「・・・・・・・・」
普段の温厚な雰囲気さが一切なくなり、厳しい顔つきでアビゲイル達を見ていた王の目が、その後ろで青くなってうつむいている大臣達への向く。
彼らがアビゲイルと組んでマーサとアルフレドを亡き者としたあと、ラファエルを傀儡の王子として即位させ、裏から自分達の都合の良いように国を動かそうとしていたことは、バーチから聞く以前からだいたい調べはついていた。
今回、この場に呼びつけたのは彼らのことも断罪するためだ。
「また、アビゲイルとともに国家に危害を加えようとした大臣他、この場にいる貴族のものたちの領土は全て没収し、我が国の最果ての地であるデアベルトへの移住を申しつける!!そこで一からやり直すが良いッ!!」
「へ、陛下!!ど、どうかお許しをっ!!」
「デアベルトはまだ未開の地で、モンスターも多く出る場所と聞きます!!どうか、どうか他の地にしてくださいませっ!!」
「デアベルト・・・・お、終わりだ」
王のその言葉にショックを受け、あるものは膝をついて絶望し、あるものはこの後に及んでまだ言い訳を始め、あるものは嘆き泣き崩れた。
「何を言おうとも、この決定は覆らぬ。アビゲイルと貴族達は明日の朝にこの国を出発するものとするっ!!以上だっ!!」
「・・・・・ッ!!!」
一際大きく王の声が辺りに響き渡り、その場にいた罪あるもの達は皆言葉を失なった。
その中でふらりと動き出したのは、それまで沈黙で事態を見守っていた魔導師・ルーク=サクリファイス。
「それでは・・・・今の王様からの命令を言霊として君達の命と繋げます。もしこの約定を破れば、自らの命がなくなるから死にたければ破ったらどうですか?」
ルークの言葉の途中から、アビゲイルと貴族達の腕に紫色の光の輪が現れる。
「ルーク様!!その約定について、お願いがございますっ!!」
声を上げたのは、涙がまだ流れたままのラファエル。
だが、その瞳には強い光が宿っていた。
「母上の約定に繋がる命は、母上自身ではなくぼくのものにしてください!」
「ラファエル!!お前は何をっ!?」
「母上はぼくの為なら命は惜しくないと、いつかその約定を破るかもしれない。でも、ぼくの命が約定に使われれば、それが破られた時に死ぬのは母上ではなくぼくです」
「フフ・・・・うん、そうなるね♪」
「母上。どうかぼくを愛しているのならば、約定通りこの地には戻らず、別の地でその命のある限り生きて、これからは母上自身の為の幸せを見つけてください」
これまでは自分を含めて色んなことを犠牲にして生きてきた母からこそ、これからはどうか少しでも安らげる日々を送ってほしい。
ラファエルは心からそれを願い、母であるアビゲイルに笑いかけた。
どれだけ罪があると分かっても、愛し育ててくれた大好きな母には違いない。
「ラ、ラファエル・・・・ッ!!」
その気持ちが少しでも届いたのか、アビゲイルは再び床に伏して今度は声を上げて大きく泣きだした。
その背を、マーサが優しく包み込む。
「分かった・・・・・君の言う通りの約定を、魔法にこめるね♪」
「ありがとうございます!!」
一応王にも目線を送り、その頷きを確認してからアビゲイルに向けて魔法をかける。
紫色の光がラファエルとアビゲイルを繋ぎ、そしてアビゲイルの手に黒い痣をつけるとその光は消えた。
「ーーーーーーそれぞれ、我が国で過ごす最後の夜を、大事に過ごすがよい」
いつもの穏やかな顔に戻ったアレキサンダー王は、1人1人の臣下とアビゲイルに顔を向ける。
窓から見える空はすっかり日が落ち、真っ暗な空には満天の美しい星が瞬いていた。
100話目を記念して、勝手にお祝いをしようかと。
番外編で、楽しく書いてみようと思ってます。
自己満足かもしれませんが、読んでもらえた際に少しでも楽しんで頂けたら幸いです!




