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ガラクタピエロと裸足の人魚姫  作者: 刺草イウ
第二章 『ガラクタピエロと猛毒赤ずきん』 
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第4話 お家には帰しませんからね

 黒板につらつらと文字が書き込まれていくにつれて、僕の気分は風船のように萎んでいく。

 どうやら環境委員一同は、実行委員と共同して文化祭の準備を率先して行うらしい。異議ありどころか猛反対だこんなの。旧校舎の片付けもだし、その後のガーデニングもほとんど環境委員の仕事だった。なのに文化祭まで首を突っ込むとは、いくらなんでもしゃしゃり過ぎである。

 受験勉強で頭がいっぱいで、クラスの出し物すら面倒だと思っていたのにとんだ仕打ちだ。


「ほーい。じゃあいつもの学年毎にグループ分けでいーい?」

「委員長ちょっといいですか?」

「なにノッキー?」

「文化祭の準備って具体的に何をするんですか?


 ノッキー呼びはこの際目を瞑るとして、珍しく委員長らしいことをしている平山ひらやまなつきに質問を投げる。本当はこの話し合いの不毛さについて物申したいところだけど、先生がずっと腕組みをしている手前とても言える雰囲気じゃない。

 僕達が生徒である以上、先生方の決めたことに従うしかないんだけど、受験のこととか考えていないのかな……。


「具体的には体育館入り口と昇降口の装飾」

「春に仕上げたガーデニングが保護者からも好評でな。秋の花をメインにした飾り付けをして欲しいそうだ」


 平山の説明を補足する先生。前は手っ取り早く終わらせたいみたいな態度だったのに、今はニコニコのウキウキだ。よっぽど褒められたらしい。


「今の時期だとコスモス?」

「そ。ちょうど学校の近くに咲いてるしね」

「でも装飾のために取るのか? 結構な数にならないか?」


「そこも職員会議で議題に上がった。大きい植木鉢に生花を土ごと移して入り口前に並べる。扉は折り紙で作った造花で飾るんだ」


 平山の代わりに先生が答える。先生が返してしまうと僕がタメ口を効いてるみたいで印象が悪い。ここは生徒の自主性を重んじて、委員長平山に任せてほしい。


「なるほど……」


 先生に軽く頭を下げて正面に向き直る。

 それなら時間もそれほど取られない……のか? 造花なんて作ったことないぞ僕。とはいえコスモスなら鮮やかな仕上がりになって装飾にはぴったりだ。


「楠君、なんだか楽しそうだね」

「そうかな? まあ、ガーデニングも思ったより楽しかったし」

 春にガーデニングを経験して以来、僕は花に興味を持った。勉強の合間時間に花言葉や花の名前を調べて少し詳しくなったのだ。自分にこんな一面があったなんて、部活に明け暮れていた頃は思いもしなかった。


「私も楽しみなんだ」

「七海さんも花が好きなの? それとも文化祭とかイベントが好きだったり?」


 イベントが好きなようには見えないけど、七海さんは意外なところがあるからなぁ。運動苦手なようで運動神経良いし。


「ううん、花は好きだけどイベントは苦手。でもこれが環境委員でやる最後のお仕事だから」


 七海さんは明るい調子で話すが、どこか寂しそうにも感じ取れた。これが中学校生活の最後でもないし、悲しむ必要はないんだけど、七海さんにとって環境委員会は何か特別な思い入れがあるようだ。


「はいそこイチャイチャしなーい」

「これっぽっちもしてないですよ委員長」

「ねえ楠君、仮にも話し合い中なんだから、もう少し畏まった態度で接したら?」

「え!? 七海さん!?」


 一瞬にして七海さんの態度が急変。話し合いにもっと真面目に参加しろってことなのだろうか。いくらなんでも七海さんは環境委員が好き過ぎる……後輩達にバトンタッチした後も普通に参加してそうだ。


 ******


 生花を運ぶのは文化祭が近づいてからにすることになり、今日は扉の装飾に使う造花を作ることになった。

「はい。こんな感じ」

「「「……」」」


 最初に平山が折り方を見ながら折ってみせたが、案の定『がんばりましょう』とスタンプを押したくなる出来だった。


「ほら拍手は? 委員長が後輩のためにやってみせたんだぞ〜?」

「うわぁ……」


 苦笑を浮かべながら拍手する後輩達。


「ちょっと、『うわぁ……』じゃないでしょ。ノッキー拍手は?」

「僕後輩じゃないんだけど」

「ねえ遊んでないで作ろうよ」

 いつの間に折り始めていたのか、七海さんはすでに一輪作り終えていた。見本として雑誌に載っていても違和感ない素晴らしい出来だ。


「すごいな七海さん。僕も頑張らないと」

「そうだね楠君は頑張らないとね」


 言って七海さんは僕に折り紙を手渡す。


 あれ? 僕だけやたら多くない? 両手で受け取る量なんだけど……ていうか帯付きの束で渡された。まさかこれ全部僕にってわけじゃないよね?


「えーっと、ここに折り目をつけたら次は……」

「楠君、もたもたしてたら文化祭に間に合わないよ?」

「ご、ごめん。でも思いの外難しくてさ」

「平山さんとお喋りしてサボってるからだよ」

「おーい。あたしはサボってないぞー」


 教卓で一生懸命折っている平山にも聞こえていたようで、全く覇気のない文句が飛んでくる。

 今回は珍しく平山の言う通りだが、これまでの行いのせいで全く説得力がない。なるほど、これは普段の印象ってのがいかに大事かよくわかる。内申点ってのもきっとこういう所からなんだろうな。


「平山はともかく僕はずっと真面目にやってたよ」

「じゃあ綺麗に手早く作れるね」

「う、うぅ……」


 七海さんがとてもこわい。


「それ全部折るまでお家には帰しませんからね」


 少し時代遅れの先生みたいなことをおっしゃる……。

 委員会活動中に七海さんの前でふざけるのはやめておこう。もう何回もないけど。

 

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